筆者にはどうしてもかつての東独、というイメージが残るせいか、
ライン河一体のドイツ都市とは全く風情が異なる印象が強い。
良い意味で街全体がのんびり、ゆったりとしており、複雑な歴史の重さ感じる古都である。
(↑上写真: 2004年9月24日18:34 ゼンパーオーパー前の広場にて撮影。1/150 F7.0 ISO200 FinePix410)
(いざ、ドイツ時計の聖地、ドレスデンDresdenへ!) 2004年9月某日深夜2時。 アフリカ、エリトリア首都アスマラAsmara起点のルフトハンザに乗り込む。約6時間のフライトでフランクフルトには早朝到着。早速、そそくさと国内線に乗り継ぐ。目指すは旧、東ドイツに位置するバロック宮廷の古都、ドレスデンだ。 (⇒右写真:「君主の行列」Der Furstenzug。101m続く、マイセンMeissen陶磁器タイル約27,000枚による歴代ザクセン王の壁画は奇跡的に戦火を逃れた。壮観の一語!) 16〜17世紀をピークとして、バロック文化は北はハンブルグから、ベルリン、ライプチヒ、マイセン、ドレスデン、そしてプラハ、ウィーンへと続くベルト地帯一帯にその繁栄と栄光を極めた。特にドレスデンは当時のザクセン王国が中心となり「北のフィレンツエ」と称せされる程、芸術と文化の隆盛を極めた。そんな芸術、経済、文化、工業の中心都市がことごとく第二次大戦後は東ドイツに吸収されてしまった。 ドレスデンはザクセンSachsen州の中心的な宮廷都市であり、今日に至るドイツ時計文化の基礎がこの地で発祥、発展したと言って間違いはなかろう。まぁ、城下町というところだね。勿論、ドイツ時計の大きな発展は、彼の偉人アドルフ・ランゲAdolph Langeがドレスデンから時計産業の中心をグラスヒュッテGlashütteに築いた1845年以降に加速化する。しかし、それ以前からアドルフも欧州やドレスデンにて時計修行を行っていたように、このドレスデンという場所抜きにしては、現在のグラスヒュッテも有り得なかったのだ。そういう想いを込めて、そしてスイス時計聖地とは別の発見を期待して、今回も独り、ドレスデン空港に降り立った(勝手な理屈をつけているが、我ながら本当に酔狂な「時計オヤジ」だ・・・)。 (ドレスデン・クローチェ国際空港へ到着!) まだ新装間もないようなガラス張りビルのドレスデン・クローチェ空港。Baggage Claimを出ると、いきなり”Glashütte Original”と”Lange&Söhne”の2大ブランド看板が出迎えてくれる。どちらも、「こちらが本家、本流!」と言わんばかりに勝負しています、みたいな火花をのっけからバチバチ散らしている。こちらも自然と興奮?して、何故かわくわく、ドキドキしてくるではないか。 (↓下写真:まるで、Swatch-GroupとRichemont-Groupの代理戦争のような、ドでかい看板を記念撮影。 言わずと知れた、『パノ・レトログラフvsランゲ1』の構図。この両者採用のBig-Dateの元祖がドレスデンのオペラ場にあるのだ⇒後述、ゼンパーオーパー参照。)ランゲ1にパノリザーブをぶつけないで、真打ちのコンプリケーション・パノ・レトログラフで勝負に来たところがGlashütte Originalのやる気と本気を感じてしまうのだ・・・ (今回のドレスデン訪問の「課題」について〜) 「時計オヤジ」は普通の観光旅行者ではない。その名の通り、時計をテーマにわざわざ足を運んだのである。よって、その目的も自ずと偏ったものになるのは道理というもの。7月のミュンヘン・クロノスイス訪問から更に突っ込んで?今回のテーマは「ドイツ時計の本流に触れる旅」、といったら大袈裟であるが、Targetは以下の通り: 1)D.Dornblüth&Sohnの3針手巻き時計の引き取り 2)ドイツの独立時計師、Marco Lang工房(=Lang&Heyne)訪問 3)ツヴィンガー宮殿Zwingerにある、「数学・物理学サロン」見学 4)ゼンパーオーパーSemperoper(ゼンペル歌劇場)にある、「元祖・デジタル式Big-Date時計」の見学 5)エルベ川河畔、ドレスデンの歴史的な街並みを歩き、そのムード、雰囲気に浸ること、、、(少々、センチメンタルにね)。 ドレスデンから南へ40〜50キロほど離れた町である「今日のドイツ時計聖地、グラスヒュッテ訪問」は、日を改めて再度出直した。という訳で、「グラスヒュッテ探訪記」は次回に。因みに、グラス・ヒュッテ(⇒グラスシュッテの発音ではないみたい)とは「小さなガラスの家」という意味だそうだ(⇒LHルフトハンザのスチュワーデス談)。そういえば、クローチェ国際空港もガラス張りの建物だ。まさか、この名前に由来するのではあるまいが。 さて、 1)D.Dornblüth&Sohnの3針手巻き時計に関する考察はこちらを参照。 2)Lang&Heyne工房訪問記は別REPORTで後日披露予定。 (欧州有数の時計・自然科学博物館〜その名も荘厳に「数学・物理学サロン」) まずはツヴィンガー宮殿へ。 時計ファンであれば、このいかつい名前の「数学・物理学サロン」(= Mathematisch-Physikalischer Salon) に真っ先に入らねばなるまい。その前に、、、 どこでもそうであるが、名所旧跡を見学する為には予習無しではその魅力、理解も半減する。特に欧州の美術館巡りでは、圧倒的にキリスト教文化がベースにあるゆえ、クリスチャンにあらずとも、そこそこの知識を持ち合わせないと楽しくもないし、『へぇ〜素晴らしいねぇ』 だけで終わってしまう。それでも良いのだが、やはり折角、手間隙+オカネをかけて足を運ぶからには、少しはお勉強をした方が宜しかろう。スイス時計業界の発展もまさに当時のキリスト教事情と表裏一体の関係にあったことはご存知の通り。これが大英博物館やヴァチカン美術館であれば日本語CDガイドを聴きながら、フムフムと鑑賞も出来ようが、ここではそれも無理な話だ。 (ツヴィンガー宮殿Zwingerについて少々〜) という訳で、ツヴィンガー宮殿(⇒右写真。王冠型の屋根も美しい)について少々薀蓄を。 ツヴィンガー宮殿Zwingerとはバロックのプリンスとも呼ばれる当時のアウグスト強王AugustusT"The Strong"が建造したザクセン王国を象徴する宮殿。1709年〜1732年に建造されたバロック建築の傑作でもある。19世紀に北側一部が増築されたり、はたまた第二次大戦で壊滅的な破壊を経験したりで、その後、復興に時間がかかったものの、流石に東独政府(当時)も力を入れてかつての姿を取り戻した。とは言え、ドレスデンの街中にはまだまだ大戦の空襲で破壊された建物が瓦礫の中に埋もれていたりで、その光と影の傷跡も大きく、深く、今日にまで引きずっている。そして「数学・物理学サロン」で見る数々の科学機器、各種計測・天文機器、時計等も実は戦争を通じてその進歩・発達を見るのであった。気のせいか、アドルフ・ランゲAdolph Lange(1815-1875)や彼の師匠でもあり義父でもある宮廷時計師ガトカス(グゥートゥカス)Friedrich Gutkaes(1785-1845)のため息が聞こえてきそうな、、、。 (⇒右写真:その昔、ガトカスが住んでいた時計塔が空爆の瓦礫越しに見える) そのツヴィンガー宮殿には有名な4つのパビリオンがある。 1)アルテ・マイスター絵画館Gemäldegalerie Alte Meister 2)陶磁器コレクションPorzellansammlung 3)武具展示館Rüstkammer、そして 4)数学物理学サロンMathematisch-Physikalischer Salon、である。 (「サロン」での傑作品の数々にため息〜) 「数学・物理学サロン」とは16世紀から19世紀にかけての時計や自然科学的・学術的な機器を集めた専門博物館で、そのコレクションの起源は1560年に創設された美術品蒐集室に遡るという。最も重要な収蔵品としては1300年頃に作られた「アラビアの天球儀」、1560年代にドレスデン宮廷から注文された「感星運行時計」、そしてブレイズ・パスカルBlaise Pascalによる1650年頃の計算機、などがある。「パスカルの計算機」の横には日本製や中国製のそろばんも並んでいて面白い(下写真2枚)。 (←左側写真) 一番小さい方が1300年頃の「アラビアの天球儀」。大きい方が「感星運行時計」。 (⇒右写真) 「パスカルの計算機」。ガラスに光が反射してしまった。ちょっと良くわからないかな。 ドレスデンにはこの他にも宝物館”緑の丸天井”、彫刻コレクション、ノイエ・マイスター絵画館、メダル・コレクション、版画素描館、ザクセン民芸館、等など興味は尽きない。1〜2日では決して時間も足りないので効率的な計画が必要。 |
(2階の時計蒐集の部屋は意外とこじんまりしている〜) 「時計オヤジ」の注目はサロンの2階にある時計専門の蒐集部屋だ。日時計から始まり、天体時計、からくり時計、オートマトン、マリンクロノメーター、懐中時計、グランドファーザーCLOCK等など、超一級の展示品がのんびり、ゆったりと並んでいる。入場料は3ユーロ、ビデオ撮影料5ユーロも別途必要。数年前までは撮影禁止だったそうだ。ここにも自由化の波が、、、。 入口前ではいきなりLange&Söhne製のレギュレーターCLOCKが出迎えてくれる。一秒、一秒と運針する眺めはなかなか時代的。いいぞ、いいぞ、出だしからいい雰囲気だ。(左写真: 2階のサロンはこうした展示形態。全体の展示品総数は驚くほどではないが、いわば少数精鋭の逸品揃いである。) 「サロン」の雰囲気は、大英博物館と異なり、窓に囲まれたせいもあり明るく、ゆったりとして何故か懐かしさ、古き良き時代へのノスタルジーを感じる。尚、「サロン」の意味合いは、研究所、展示場というところだね・・・。 (←左写真)1563-68年に製作された天体時計Astrolabe。 製作者は、Eberhard Baldewein。高さ118cm、縦横各62.5cm。 7惑星の動きをそれぞれの文字盤!で示す。 一番上の天球は一日を23時間56分で一周する。 圧巻!!! (右写真⇒) 1630年製の骸骨時計。 ガイコツフリークの山田五郎氏が見たら感涙モノだろう。 (←左写真)1810年製。 懐中時計。センターセコンド、曜日、日にち計時ダイアル付き。 今見ても決して色あせることのないデザインだ。 (右写真⇒)1854年、パリにて製作された懐中時計。 12時位置にデジタル小窓表示の時間が、長い針は分針、そして小ダイアルは秒針。 これも現代で十分通用する見事なデザインではあるまいか。 まるでクロノスイス・デルフィスDelphisを彷彿とさせるデザインだ。 これはイイ!温故知新とはまさにこのことだ。 1854 Augustin Michel Henry Lepaute, Paris. (←左写真) 1860年、ロンドンにて製作されたイギリス海軍用マリンクロノメーター。 2時、10時位置に金色の紋章らしき装飾がある。 12時位置にあるこの秒針ダイアルも、ドーンブリュートDornblüth新型の秒ダイアルと同様なデザインである。Barraud & Lund, London, 1860 (ゼンパーオーパーのデジタル式時計も見事な出来映えだ〜) 右はゼンパーオーパーSemperoper(ゼンペル歌劇場)にある最古の5分式デジタル時計の精密なミニチュア模型である。かの宮廷時計師ガトカスFriedrich Gutkaesが作成した「世界初のデジタル式時計」と言えよう。中央に振り子が見えるが、現在の時計はクォーツ制御に代わったものの、その基本的構造はこの模型と同じである。水車のようなデジタル計時車が左右でそれぞれ回転する。詳しくは、ゼンパーオーパーSemperoper見学記の次回で述べる。 マリンクロノメーターや、懐中時計などの逸品も数々あり、期待通りに見応えがある。展示品の解説メモはドイツ語中心だが、一部に英語解説もあるので、何とか年代と、大まかな背景・特徴は分かるかも知れない。これから更に、インターナショナルに、解説文章の更なる英語化も充実させて頂きたいものだ。 俄か「ちょい枯れ独逸時計オヤジ」はドレスデンの重厚なる街並みやツヴィンガー宮殿Zwingerの雰囲気に完全に飲み込まれて行く。唯一、悔やまれるのは時間が無く、この数学・物理学サロン以外のパビリオン鑑賞が出来なったことだ。時計だけではない、その魅力が溢れんばかりのドレスデンには、まさしくドイツ時計の聖地たる風格が漂っていた。 (参考文献) 「WHEN TIME CAME HOME」 EDITION 2004/2005(A.Lange & Söhne) (一部写真&レイアウト変更)2007/8/19、2013/8/20 『時計オヤジ』のドイツ時計世界の関連ページ: 『ドイツ時計聖地、ドレスデンにて。数学・物理学サロン探訪記』はこちら。 『ドイツ時計聖地、ドレスデンにて。ゼンパーオーパーとBIG-DATE機構の因縁』はこちら。 『ドイツ時計聖地、ドレスデンにて。ラング&ハイネ工房訪問記』はこちら。 『現代のドイツ時計聖地、グラスヒュッテ散策記〜NOMOS突撃訪問記』はこちら。 『グラスヒュッテ・オリジナル本社工場訪問記』(Part-1)はこちら。 『グラスヒュッテ・オリジナル本社工場訪問記』(Part-2)はこちら。 『ドーンブリュート&ゾーン REF.CAL.99.1 DR(2)ST.F 』はこちら。 『おかえり、ドーンブリュート!』はこちら。 『エリー・スタグマイヤー・シュトラッセ12番地〜クロノスイス訪問記』はこちら。 『ミュンヘンのサトラーにクラフツマンシップの真髄を見た』はこちら。 『2002年9月、ドイツ時計蚤の市訪問記』はこちら。 『2004年7月、最新ミュンヘン時計事情』はこちら。 『2006年3月某日、デュッセルドルフ散策』はこちら。 『SINN 356 FLIEGER』はこちら。 『世界初のIWC直営BOUTIQUEをドバイに訪ねる』はこちら。 『IWCの故郷、シャフハウゼン散策記』はこちら。 2011年8-9月、ドイツ・北欧・バルト海旅行関連ページ: ⇒『コペンハーゲンで欧州最古の天文台に登る』はこちら。 ⇒『U995/U-Boat搭乗記@ドイツLaboe』はこちら。 ⇒『エストニアの首都タリン散策記』はこちら。 ⇒『マイセン磁器工場訪問記』はこちら。 ⇒『2011年9月、ドレスデン再訪記』はこちら。 ⇒『2011年9月、ドレスデン市内で観た気になる時計達』はこちら。 ⇒『2011年9月、7年ぶりに訪問した新旧グラスヒュッテ市街の比較』はこちら。 ⇒『Wempe天文台に見るドイツ・クロノメーター規格の将来』はこちら。 ⇒『A.ランゲ&ゾーネ本社工房訪問記』はこちら。 ⇒『ドイツ時計博物館グラスヒュッテ訪問記』はこちら。 ⇒ 腕時計MENUに戻る |
(このWEB上の文章・写真等の無断転載はご遠慮下さい。) |
TOPに戻る |