時計に関する随筆シリーズB

「ドイツ時計蚤の市訪問記」 



(4711の故郷、ドイツ・ケルンに潜入する〜)


2002年9月、ドイツのケルンで2年毎に開催される世界最大の映像機器展示会”フォトキナ”を訪問する機会があった。ケルン、と聞いて即座にイメージするのは”4711”(←写真左)。ケルンの水、と言われるあの香水である。筆者はコズメには興味も関心も薄いが、4711は別だ。日本ではそのまま「よんなないちいち」とも呼ぶフォーセブンイレブンは1792年にケルンで生まれ、既に200年以上の歴史を持ち、かのナポレオンも愛用したと言われる由緒正しい古典的な柑橘系のコロンである。因みにコロンという名称もこの街ケルン、からきているのだ。それと600年もかけて造られたゴシック様式の大聖堂。悲しいかなケルンについてはそれしか知識もなかったが、この地でまさかフォトキナが開催されているとは・・・。無知露呈、である。

実はカメラは個人的には大好きである。愛機は1973年に購入したオリンパスOM-1ブラックボディ28o広角付き。近年、露出計が壊れたのでメーカーに照会したところ、修理不能、部品も無いとの悲しい回答で、いつの日にか日本でどこかの修理屋さんにお願いしたいと思っている。今でもOM-1は35mmカメラの傑作品、と確信している。時計同様、何よりも自分の思い出が一緒に詰まっているから手放すことも出来ないのだ。カメラへの知識も希薄な筆者であるが、カメラ好きには聖地でもあろうケルン、フォトキナへの出張の機会を得た。長年勤めていると稀に「おいしい出張」もあるのだ。今年の9月もフォトキナ再訪を密かに、かつ大いに今から期待してしているのであるが。。。



(Sunday Afternoon。ホテル内にて偶然、蚤の市に遭遇する〜)

前置きが長くなったが、フォトキナ出張の為、2002年9月にデュッセルドルフDUSSELDORFのRADISSON-SASに宿泊した。チェックインしたのは日曜日だったので、することもなく何気なくロビーに降りたのが午後3時。1階ロビーフロアでぶらぶらしていると、何とホテルのボールルームで時計蚤の市が開催されていたのだ。なんという幸運。まるで超人ハルクのように、一挙にボルテージが上がる自分を感じるのであった。

以前、銀座のデパートで毎年2月頃開催される恒例の時計博に行った時と同じ興奮である。が、それ以来、こちらの知識・感性も数段磨きがかかった自分(と思っている)ゆえに、感動のボルテージは昔の比ではない。まず、いったん部屋に戻り、有り金・カードを持参して心して会場に走り戻ったのである。


蚤の市、とはいえ青空市場ではない。れっきとした5★ホテルにおける蚤の市である。よくよくポスターを確認すると、ドイツでは秋口に国内各都市で毎週のようにこうした時計即売会が開催されているらしい。とてつもなく羨ましい限りだ。入り口では早速、写真にあるPOLJOT(パリョート)のベルト無し本体売りコーナーがある。ゲゲェ〜、何ゆえ本体のみ?それも凄まじい数と種類である。筆者のボルテージは上がりっ放し。血管が切れるのではないか、と思えるほど既に興奮の極み。しかし冷静に考えれば、午後3時という時間帯であるが故、逸品はとうに勝負(販売)がついているはずであるが、そ〜んなことは問題ではない。会場にはざっと50〜60社が出展していた。時計のみならず、ベルトのみ、時計の純正箱のみ、とにかく色々あって飽きない、飽きない!仮に1店舗5分で駆け足?で見ても、1〜2時間で済む問題ではない。嬉しくもあり、悲しくもあり、とにかく初のチャンスでもあることから「必死」で食い入るように各店ブースを訪問した。




(逸品がゾロゾロの俄か『時計博覧会』〜)

流石、本場。欧州の歴史は凄い。
勿論、殆どがアンティークの部類ではあるが新しいブランドものもある。筆者は当日、パネライGMTをしていたが、逆にブースの人から売ってくれとも言われる始末。とにかく見ているだけでも楽しい。時間も午後3時過ぎであるので会場は混雑のピークも過ぎ、店によっては撤収の準備をするところも出始めた。こちらとしては焦る。それでも舐めるように各店舗を見回ったのであるが気が付いたことを下記すると。。。
● 当然ながらというべきか、現金決済中心。カードは難しい。
● 出展者は実店舗を持つ店が多い。
● ムーヴはすぐ見せてくれる。しかし中には店主がローターをいきなり素手(指)で触るなど、ちょっとなぁ〜、と思わせるラフな店もある。
● 価格は決して安くはないが、恐らく日本と比較すれば総じて低めである。値引き交渉も効くので会話を楽しむことはこれまた一興。勿論、ドイツでも英語可。
● ブランド的にはオメガ、ユニバーサル、ロンジン、ロレックス、ヴァシュロン、パテック等、そうそうたる老舗ブランド、それも1920年代から始まり、50〜60年代をボリュームゾーンとして、丸で時計博物館の様相である。何度も言うが本場欧州の懐の深さは素晴らしい。思い知らされたのだ。現代ブランドのデザインのルーツが全て見れる、と言っても過言ではない。





余談であるが、欧州へ行くときは「本物」で勝負するに限る。
時計に限らず、靴でも、鞄でも、服装でも本物でないと、はじき返される気がする。この点はアメリカともアジアとも全く異なる。欧州は基本的にクラスClass、階級社会に根差した伝統がある。若い人でも身の程をわきまえている。誰も彼もがLVのバックを買う訳ではない。自分のいるステージをわきまえているので、財力・身の丈にあった買い物、ファッションをするのである。

逆に言えば、装飾品、身なりから判断されるのも事実。よって、こちらも気を抜けず、「本物勝負」となる次第。ローマでもパリでも、こちらの思い過ごしかもしれないが、道行く人にも洗練されたスタイルを持つ人が多い。勿論、その人のセンスによるところ大、であるが、やはり社会全体の歴史・文化・伝統・個人主義等が滲み出てくるのではあるまいか。。。





(POLJOT購入に踏み切る!?)

(右写真⇒ 膨大な量のPOLJOT本体のみを販売!!!)

結局、出張費用として持参したスズメの涙程の資金で届く逸品もあるはずなく、最終的にはロシアンブランドであるPOLJOTのFM似ピンク文字盤トノー自動巻き3針 をケース単品で購入。ベルトは別の店でSEIKOの18mm黒カーフ革を数本入手した。こちらは1本5ユーロ也。POLJOTはETAを搭載した裏スケルトン。今でも非常に愛用しているPOLJOTは、こうした思い出が詰まった自分にとっての「逸品」となっている。雲上時計も勿論、素晴らしいが、こうした一期一会で巡り合える時計というのもまた一興、である。

ドイツ、スイスではこうしたイベントが溢れているのだ。ため息、吐息。欧州の裾野の広さを垣間見た瞬間であった。
イベント終了後、夕闇の中、デュッセルドルフ街中を散歩した。途中、時計屋に入り、KAUFMANNのクロコグレイン革ボルドー色18oをもう1本購入。9月下旬と言うのに既に肌寒い。ドイツの冬はもう間近であった。しかし、この蚤の市体験がこの先の、ジュネーヴ時計探索旅行、の魁(サキガケ)になるとはこの時は知る由も無かった。。。(スイス編へ続く)





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