時計に関する随筆シリーズ M

「ちょい枯れ倫敦オヤジ」の大英博物館探訪記
〜The British Museum's Collection of Clocks and Watches〜

(注意)2008年末まで時計コーナー44号室は改装・閉鎖中で見学不可
(↓追記参照)



旅行記E倫敦探訪(序章) の通り、2004年7月に倫敦の大英博物館を訪問した。

宿泊先HOLBORNのホテルから徒歩5分の近さにある大英博物館(以下、博物館)は毎日10時オープン。入場料無料、と言うのが潔い。世界中から集めたり、色々な経緯で入手したその膨大なるコレクション故に、世界から来る観光客に還元しようとしているのであろうか。さて、意外に知られていないものに時計のコレクションがある。上階にあるEUROPE44号室は欧州時計コレクション部屋である。時計と言っても懐中時計とCLOCK(置き時計、掛時計、大型グランドファザーCLOCK)が中心で、腕時計は1本もないのでそのつもりで。
(左写真=イオニア式44本の列柱が並ぶ迫力の正面玄関を望む。海外のお供は今回も、GMT付きのLuminor Marina 44mm PAM00088。開園45分前からスタンバッている「朝方興奮オヤジ」。)






(ADRIAN ILBERTコレクションが展示品のベース〜)

この博物館の蒐集品は、右写真にある時計研究家でありコレクターでもあるAdrian Ilbert (1888-1956)の16〜20世紀中心のコレクションが1958年に大英博物館に寄贈されたものである。A.Ilbertのコレクションの内訳とは:
掛時計&CLOCK(207個)、日本の時計(70個)、アンティーク(968個)、近代時計(62個)、ムーヴメントのみ(741個)、日本の腕時計(7個)、である。
この内、博物館蔵となっているのは:
掛時計&CLOCK(46個)、懐中時計(238個)、ムーヴメント(84個)である。

重力(錘)を動力とした振り子式テンプ、からくり時計、ゼンマイテンプの変遷、マリンクロノメーター、脱進機の変遷など、時計の構造・歴史を学ぶにはもってこいの展示室でもある。「時計オヤジ」は結局、倫敦滞在中に2回もこの44号展示室を訪問した。それでも飽きない、足りない。それ程、見応え十分なIlbertコレクションだ。Geneveの超高級なPATEK博物館 とはまた趣が異なるが、こちらも超ド級の展示品の数々である。
尚、この博物館の時計責任者はDAVID THOMPSON。この秋には博物館所蔵の時計を解説した、その名も"CLOCKS"が同氏著により博物館より出版される予定(予価£19.99)。



(脱進機の変遷〜)

Escapementの変遷が分かりやすく、各脱進機の模型が当時の懐中時計と共に展示されている。その変遷の区分けは以下の通り。それぞれのsectionに超傑作品・歴史的な懐中時計が鎮座しているのだから、こちらは圧倒されっ放しとなる。これをじっくり眺めるだけでも感動する。これだけの喜びを得ながら、上述の通り博物館は無料。何とも頭が下がる思いである。

1. THE STACKFREED
2. VERGE ESCAPEMENT WITH FUSEE
3. THE BALANCE SPRING
4. STRIKING MECHANISM
5. REPEATING STRIKING MECHANISM
6. CYLINDER ESCAPEMENT
7. DUPLEX ESCAPEMENT
8. KEYLESS WINDING
9. LEVER ESCAPEMENT I
10. LEVER ESCAPEMENT II
11. DETENT ESCAPEMNT
12. TEMPERATURE COMPENSATION



(←マリンクロノメーターの祖、ジョン・ハリソン〜)

様々な置き時計、グランドファーザーCLOCK、からくり時計も展示されており、途中で不意にからくり時計が鳴り始める幸運もあった。古いとは言え、全てが動く時計である。「化石」ではない。今でも血が通った「現役」展示品であるところも凄まじく驚く!

さて、英国時計史、いや世界の時計史で、はずせないのがフランスのブレゲBreguetと左写真の英国人ジョン・ハリソンJohn Harrison(1693-1776)であろう。ハリソンは18世紀の大航海時代にマリン・クロノメーター”H1"から始まり、"H5"までを開発。その精度競争により当時世界の技術水準を一気に引き上げた功績大、である。ハリソンのクロノメーターに興味ある方はグリニッジ天文台ROG(=Royal Observatory Greenwich)を見学することをお薦めする。こちらの展示品も高レベル。但し、ある程度の予備知識と英語力、天文知識が無いと満足行く理解は難しいかも?ROGには解説係りもフロアいたが、「テクタ」(=techinical term)がわからないと会話にならない可能性大である。


                      *  *  *  *  *  *


それでは、博物館の展示品を少々ご紹介する。














↑写真上、左より: ●ご存知、天才Abraham-Louis Breguet(1747-1823)の肖像。●Breguetによるマリン・クロノメーター。ゼンマイ式30時間パワーリザーブ、1813年製作。●大型グランドファーザーCLOCKの数々・・・圧倒される。






(←左写真)
French Marine Deck-Watch。
CA.1900、3/4-plate、カギ無し、クラブツース式。













(⇒右写真)
CO-AXIALの発明者、ご存知我らがGeorge Daniels博士のcomplicationも堂々と鎮座!!!














次に、下↓の写真にあるレギュレーター式マリンクロノメーターをご覧頂きたい。
フランスのLouis Berthod(1754-1813)によるもので、Chronoswiss社長のLANG氏が保有するのと同型に見える。最近、筆者が非常に興味を持ち始めたレギュレーター・ダイアルだ。見事な美しさを誇る。暫しの間、見とれる。参考までに、博物館の解説文を以下引用したい:


MARINE CHRONOMETER
By Louis Berthoud (1754-1813)
PARIS, ca.1797.

1-day spring drive movement, the fusee with Harrison's maintaining-power. Pivoted-detent escapement ; bi-metallic temperature compensated balance with blued-steel conical balance-spring. Signed on the movement "Par Louis Berthoud No.49".
White enamel dial with blued-steel hands.
The canister is of engine-turned silver with Paris hallmark for 1797 and maker's mark, within a lozenge, JLJ with a bird in flight. The silver canister fits within a weighted brass cradle gimballed in the mahogany box.

Formerly in the Ilbert Collection.
Presented by Gilbert Edger, Esq.,C.B.E., 1958.
M&LA CAI-1928
.


                      *  *  *  *  *  *


(ランゲ&ゾーネA.Lange&Söhneの懐中時計発見!!!)

最後に、今回の展示品で1、2を争うほど魅力的であったのが、ランゲ&ゾーネ1885年製懐中時計だ。その説明全文も以下の通り引用したい。3/4プレート、シャトン留め4箇所、SUNRAY-FINISH、チラネジ式テンプ等、現在まで脈略と受け継がれているグラスヒュッテ様式の伝統技術の美しさには感動しきりだ。どうやらこの傑作品を前にして、「時計オヤジ」の今後の方向性がまた一つ見えてきた気がする。
恐るべし、ドイツ時計業界。ドレスデンDresdenグラスヒュッテGlashütteの時計聖地に強く魅かれる思いがふつふつと湧いて来るのであった。
























GERMAN WATCH, CA.1885


3/4-plate movement with gilded-brass plates and turned pillars. Detachable going barrel with Geneva stop-work and resilient winding click. Sliding-pinion keyless winding and hand-setting.
'Club-tooth' lever escapement with gold escape wheel, gold lever and jewelled pallets. Gold dart and polished steel safety roller. Ruby impulse pin mounted in a steel block on the balance.
2-arm split bi-metalic compensation screws. Spiral blued steel balance spring with overcoil. Geared regulator mounted on the balance cock.

White enamel dial with Roman chapters and sunk subsidiary seconds. Blued steel hands.
Later silver case with glazed besel and back. Water and dust-resistant caps for the winding button and push piece.

Movement signed 'A Lange & Sohne Glashutte b/Dresden 16039' (Adolf Lange & Sohne in business ca,1868-1940) Ilbert Collection, 1958.(M&LA CAI-1135)



(参考文献)
「WATCH@GOGO NO.36」(ワールドフォトプレス社)
「HARRISON」(NATIONAL MARITIME MUSEUM刊)




(追記1〜まさか、この後9月にグラスヒュッテに足を踏み入れるとは・・・。『ドイツ時計聖地』訪問記を参照乞う。)

(追記2) 2007年4月、『時計オヤジ』はロンドンに居を構えることにした。週末に散歩がてら大英博物館を訪問したところ、ヨーロッパ・コーナーの44号室は来年末まで”CLOSED”となっていた。誠に残念と感じる一方、あの暗くて、破綻があちらこちらに出ていた古めかしい展示方法は確かに寿命が来ていたと納得。新装開店の期待を夢に、2008年末までこちらも負けずと『熟成』しようではないか。。。(2007/4/9)

(⇒右写真) 
44号室には斯様な張り紙が・・・。
少なくとも以前の展示室より遥かにパワーアップすることを
期待していますぞ、大英博物館殿!!!








(関連リンク)
2004年7月の大英博物館・旧時計コーナー訪問記はこちら
2004年7月のグリニッジ天文台訪問記はこちら
2008年の大英博物館・時計展示室休館の巻きはこちら
2008年のロンドン・ギルドホール時計師博物館訪問記はこちら
2012年4月の大英博物館・時計展示室(リノベーション後)再訪はこちら




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