時計に関する随筆シリーズ (32)

『世界初のIWC直営BOUTIQUEをドバイに訪ねる』(2005年4月)
〜 @ドバイ、新バージュマン・センターBurJuman Centreにて 〜



(中東の『上海』?、ドバイの景気はバブルの真っ只中〜)

タイガーウッズアーニーエルス観戦記でも触れたドバイ。
中東のドバイは急成長している。ドバイとはUAE=アラブ首長国連邦の一つ。1971年建国のUAEには7つの首長国があり、ドバイはその一つである。

(←左写真: ドバイの象徴の一つ、エミレーツタワー(twin)ビルは300m級。ここの最上階のレストランでドバイの夜景を見ながらの食事は中々のオススメ。予約は絶対、窓際を!)

首長国、とは日本人には馴染みの薄い言葉だが、簡単に言えば『部族(準)国家』である。江戸時代で言えば『藩』、戦国時代の『豪族』というところか。アラブには、旧来いくつもの部族が独自に各地域の政治・経済を支配してきた。UAEの現在の首都は石油産油首長国のアブダビであるが、つい最近までドバイとアブダビは覇権を争い、UAEの首都は『暫定首都』扱いされてきた。中東を読むカギの一つが『部族社会の理解』にあるが、そちらは『時計オヤジ』著、『中東の民主化と部族社会の接点』(仮題)で詳述予定???

『首長国』には独自のシキタリ、法律が存在する。例えば、ドバイでは酒は飲めるが、隣町のシャルジャ首長国は厳格なイスラム戒律に基づく『禁酒国』である。但し、ドバイといえども観光客が酒を飲めるのは、許可を受けた『一部』ホテル内のみであり、酒が飲めないホテルもある。ついでに、述べるとUAEの人口は約350万人。その内、母国人であるUAE人は僅か約70万人。その4倍の人口はインドやパキスタンなどの外国人によって占められる『国際的なメトロポリタン』でもあるのだ。


(『貿易と観光』の街、ドバイ〜)

『中東と言えばエネルギー』であるが、その肝心のエネルギー資源がドバイには極めて乏しい。良く誤解されるが、このドバイでは殆ど石油は取れない。正確に言えば、現在の産出量は日産約15〜17万バレル。アブダビの同220万バレルと比較すれば1/10以下である。

ゆえに、将来の活路を『貿易』と『観光』に見出し、先手先手を打って成功しつつあるのがドバイなのだ。ドバイの首長はHHシェイク・マクゥトーム・ビン・ラシッド・アル・マクトゥーム。一度、地元の結婚披露宴でその姿を拝見したが、UAEの国防大臣も兼務する人徳・人気ともに抜群の賢人である。郵政民営化が国政の全てのように張り切っている、かの国の国家元首とはエライ違いだ。


(⇒右写真: 海沿いにあるHYATT REGENCYから撮影)

海上では連日、このように大規模な埋め立て工事が継続中。
専用船からは、写真のように大量の土砂が噴出されている。
そして信じ難い規模での、一大リゾート人工島が既に形を現している。今や、人工衛星からもその骨格が見える『パームアイランド』は第一、第二、第三プロジェクトまで進行中である。とにかく、そのスケールとスピードは桁違いである。

ドバイはまさしくバブル真っ只中。いよいよ度を越してきた近年の超交通渋滞。特に夕方、シェイクザイードのG.Hyatt前からシャルジャ方面。クリークを渡る橋とトンネルが絶対的に不足している。加えて家賃の高騰、賃金の上昇、物価インフレ、、、この先ドバイは一体どうなるのであろうか。







(『世界初』のIWC直営ブティックを訪問〜)

前置きが長くなったが、『ドバイ・オヤジ』ならぬ『時計オヤジ』の今回のお目当ては、2004年9月末にオープンした、世界初のIWC直営ブティック訪問である。場所は、ドバイ・クリークの左岸にある一大高級ショッピングモールの『新バージュマンセンター』。右岸ダウンタウンにある『シティーセンターCityCentre』と双璧のドバイ最大の買物天国ビルである。
その新バージュマンには、いくつかの時計専門ブティックが立ち並ぶ。今やドバイ随一の時計SPOT。時計好きならずとも魅力的な最新ショッピングモールである(ヴィトンもカルティエもこちらにある・・・)。



←左写真:
IWC直営店の外観。左隣にはボーム&メルシー直営店が併設されている。
直営店とは言えども、地元資本とのJ/Vである。地元のパートナーは、パネライの項目でも述べた通り、ドバイ最大のRETAILER、アハメッド セディキ&サンズAhmed Seddiqui&Sonsだ。セディキだけでこのモールに合計5店舗以上をブランド毎に持っている。OMEGA BOUTIQUEに代表されるように、今やBIG-MAISONにとって、ブランド毎のブティック展開が一つの潮流となりつつある。










(⇒写真右)
店内には3枚のポスターが飾られている。

右はご存知、IWCの頭脳たる技術部門最高責任者、クルト・クラウス氏の写真が。白黒の写真が中々ムードを出している。まるでアラーキーのような
黒●眼鏡が何ともよろしい。こういう写真を見るとすぐに真似したくなる『時計オヤジ』である。









(←左写真)
42.3mm径の7日巻きのポルトギーゼ・オートマティック5001は迫力満点。2000年の限定モデルの復刻である。

ペラトンシステム搭載のキャリバー5010はそのデカさに圧倒される。ローター形状は、まるで油田のやぐらポンプを連想させる。まさに中東の砂漠に似合うかのような巨大裏スケルトンに、小さめのチラネジ式テンプは少々、アンバランスか?





店内ではIWCの全現行品が展示・販売されている。上はトゥールビヨン・ミスティークTourbillon Mystèreから、ポルトギーゼPortugueseシリーズ、ポートフィノPortofinoまで、ケース径42mmクラスの傑作品が所狭しと展示されているのは圧巻である。金無垢からSS素材まで、IWCずくしというのも中々おつなものだ。

IWCブティックの店員はインド人が多い。ドバイは圧倒的にインド人社会である。どこでも英語で会話が出来るのが非常に楽な点だ。このブティックは2〜3人も入れば一杯の広さ。店員と会話を楽しむ、モデルをじっくり見せてもらう、という特権がこちらにはある。遠慮は無用だ。トゥールビヨンは無理だとしても、それ以外のモデルであれば手にとって観察できる楽しみはブティックならでは。但し、店員の時計に関する知識は期待しない方がよろしい。例えば、上写真にあるクルト・クラウス氏について、とか、ペラトンシステムとは何ぞや、とか、”PROBUS SCAFUSIA”とは何ぞや、とかは聞いてはならないのだ。。。

IWCにはメンズモデルで貴石を使ったモデルは筆者の知る限りでは無い。
質実剛健な機能と無骨とも言えるデザインで勝負している。そんなIWCの専門ブティックは予想通り真っ向勝負、金無垢ケースに納められたトゥールビヨン・ミスティークと7日巻きポルトギーゼで正統派らしい展示を飾る。玄人受けする直営ブティック、裏を返せば味も素っ気も無い『時計屋さん』であると感じる。そもそもIWCは一般大衆受けするブランドではない。どちらかと言えばSINNにも通じるドイツ時計っぽい気骨あるブランドで、知る人ぞ知るIWCゆえに直営ブティック開業により、更に知名度を高めようとする思惑であろう。

                   
(このバージュマンにはIWC以外にも時計店が目白押しである〜)

このバージュマンセンターにはIWC以外にも合計7〜10店舗位の時計専門店が入っている。
オメガブティック、ダンヒルブティック、モンブランブティック、ルイヴィトン、PATEK、PIAGE、LANGE、GLASHUTTE、ハミルトン、ロンジン、JLC、GUCCI、PANERAI、ROLEX、CHOPARD、FPジュルヌ、アーノルド&サンズ、CARTIER専門店などなど、他にもまだまだある。『時計オヤジ』の知る限り、中東ではNO.1のブランド集積場であろう。値段は相応、それなりだ。一昔前の割安感は薄らいだ。これは世界的な兆候だろう。モデルによっては日本の方が安いかも知れないが、旅先での価格交渉もまた楽しいひと時だ





(←左写真) フランクミュラー専門店の”WATCHLAND”

左の店舗はその名も”WATCHLAND”。フランクミュラー、ECW、ピエールクンツの3ブランドが、まさにウォッチランドのように3箇所にスペースを分けて展示されている。そのモデル数はかなりの数にわたる。見るだけでも楽しい。こちらも遠慮なく訪問、見学させてもらった。










(⇒右写真) タグホイヤーTAG Heuerの専門店。

タグホイヤーの全商品が展示されている。
ガラス窓には、かつての名作キャリバーである、Cal.11が刷り込まれている。CAL.11とは世界初のマイクロローター搭載の自動巻き式クロノグラフキャリバーである。
右から左に読むアラビア語のロゴが何とも気分ではありませんか。








           *     *     *     *     *


最近の客層は、時代のブームに乗ってかロシア人、中央アジア人(スタン国系)、ヨーロッパ人、中国人が多いそうである。なるほど、ショッピングモールではロシア語や中国語が英語以上に聞こえて来る訳だ。10年以上昔には考えられなかった光景である。東西ドイツ統一、ソヴィエト崩壊以降、時代の変遷をしみじみと感じてしまう『時計オヤジ』である。

因みに、ドバイの3大ショッピングモールは、シティーセンターCity Centre、ワフィWafi Shopping Mall、そしてこのバージュマンである。ブランド好きはこの3箇所を押さえれば、7割方は満足できよう。残り3割は、その人の努力と発掘・発見にかかっている。

人種の坩堝(るつぼ)のドバイは、まさに時計ブランドの宝庫、でもあるのだ。(2005年5月1日)



(参考)
もしドバイに行く時は、アラビア語のサァッラァマリコム(こんにちは)、ワァリィコムサラーム(その返答)、マルハバ(こんにちは)、そしてシュクラン(ありがとう)とマァッサラーマ(さようなら)くらいは覚えて行きましょう。JL/EKの共同運航で、関空⇒ドバイ直行便で約11時間、ドバイ⇒関空は約9時間半(ジェット気流の関係で)。日本人はVISA不要。日中の最高気温は4月末で既に40℃。一度、訪問アレ。




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