随筆シリーズ(107)

『2011年9月、ドレスデン市内で観た気になる時計達〜』
(ドレスデン再訪記Part-2)





今回、ドレスデンで遭遇した印象に残る時計達を記録する。
何と言っても旧東独の影響が色濃く残るのがGulashutte Original。
ドイツ語的に発音すれば、『グラスヒュッテ・オリギナール』。
未だに旧GUB時代の固体に数多く出会えるのがドレスデンの土地柄を表している。

(↑上写真:メダル付きのクッションケースに入った自動巻きは620ユーロでオリジナルBOX付き。
東独時代の消防士や警察官等への公務員に対する贈答品として記念メダルのセットで特注されたもの。
ベルト・美錠はチープな後付一般品であるが、ちょっと工夫すれば結構独創的な時計に仕立てられそう・・・。)
(2012/1/06) 408300





(宿泊ホテルのHILTON Dresdenの正面には、ランゲBoutiqueも構える絶好のロケーション〜)


何度も紹介しているが、ドレスデンでのお薦めホテルはHILTONである。右写真のようにドレスデン旧市街の観光スポットへは1分の距離。『君主の行列』も、聖フラウエン教会へも文字通り目と鼻の先にある。おまけにホテル2階にはドレスデンで唯一の日本人シェフによる日本食レストランも入っているのだから、もう文句は何も無い。勿論、部屋もリノベーションされた直後であり、快適性は保証されている。

そんなHILTON1階にはマイセン直営店や地元名産土産店、そしてお決まりの時計店も入っている。ここで目に付いたのがMUHLEである。価格的にはEPOS、HAMILTON、ORIS等と並ぶ廉価ブランドだが、以下の3針がキラリと輝くのでまずはMUHLEから紹介しよう・・・





* * *

(MUHLEの中3針モデル)

小振りな中3針。極めてシンプルだが、有りそうで中々無い時計である。
アプライドのアラビア数字INDEXは小体で雰囲気も十二分。ややランゲっぽいとでも言えば褒めすぎだが、このまま38mm径程度までサイズアップすればすごく良い感じになるだろう。中身はETA28系であり、ローター意匠や、独自のウッドペッカー式緩急針(=変形スワンネック)を搭載するなど工夫を凝らしていあるところが『独自性』を主張する。こうしたチューニングを加えないとグラスヒュッテ製を名乗れないのだから当然と言えば当然。
それにしても、この落ち着いた面構えは潔いではないか。無難とも言えるデザインであるが、こうした王道を行く文字盤が少なくなっている現実が少々悲しい。ラグ形状にも独自性が発揮されており、魅力的な1本と言える。
























(↓下写真):
MUHLE2本目のこちらはケース径40mm程度の秒針小ダイアル付きモデル。
一目見て分かる通り、秒ダイアルが小さすぎ、位置も中央に寄り過ぎてバランス悪い。機械が小さすぎる為、良くあるデザインであるが、これに我慢が出来る人、気にならない人であれば、まぁ、許せるかも。。。
グラスバック周辺のフラット加減とかは好感。

顧客層イメージとしては、
『長年の夢を叶え、ようやく休暇でドレスデンを訪問することが出来た堅実なる人生を歩んできた老夫婦向け・・・』、というところであろうか。こういうペア・ウォッチの買い方もアリである。






























(こちらはグラスヒュッテ産ではないが、何ともいい雰囲気のベルロス2本〜)


←左写真は共に42mm系のBR03シリーズ。
Bell&Rossは1991年の創設以来、自分にとってずっと気になる存在である。2005年に登場した46mm系のBRライン。デザイナーであるブルーノ・ベラミッシュ渾身のデザインがようやくここで開花した。SINNによる生産委託から開始したベルロスであるが、このコクピットからもぎ取って来た様なBRシリーズは存在感が抜群。フランクミュラーのトノーライン同様、この四角形デザインは時計業界に新機軸を打ち出した名作、と言えるだろう。
パネライのようなずんぐりむっくりした数字ロゴが何ともユーモラスでありながら、徹底的なスパルタンさ加減を維持する抜群の匙加減。
このベルロスは本当に良いデザインをしている。

※ベルロスBRシリーズについては後日、徹底レポートを予定中。。。










(欧州で唯一のランゲ直営Boutiqueがここにある〜)


実に意外である。
欧州はランゲの本拠地であるのだが、直営Boutiqueはこのドレスデンにしか存在しないのだ。パリやロンドン、ベルリンでさえ直営店は無いのである。何と言う割り切りようだ。逆に言えば、欧州での販路は各国老舗の小売店経由で注力する、ということであろうか。

そのBoutiqueがHILTON HOTELの正面に鎮座するのだから、『時計オヤジ』としては訪問しない訳には行かない。
オマケに、明日はグラスヒュッテのランゲ&ゾーネ工房を見学することにもなっている。その前の『予習』ではないのだが、まずはBoutiqueの様子を探偵することにする・・・。










(⇒右写真)
ランゲBoutiwueのショウウィンドウには、A.ランゲ直筆ノートブックや様々な時計工具が展示されている。
中でもユニークなのは右写真のように、時計の組立て光景を映像で上手く再現している点だ。

写真にある時計師の手先がビデオで映し出されている。
何とも奇妙ではあるが、妙にリアリティがあって面白い仕掛けである。







* * *


まずランゲBoutiqueに入って、『興味ある時計は何?』、と聞かれてすかさず答えたのは『黒金時計』。
在庫にある黒金を見せて欲しい、とお願いして出してもらったのが『ランゲ1タイムゾーン』である。2005年に登場したランゲ1ファミリーの代表選手でもある。文字盤上にはコンプリ系らしく8本もの針がバランスよく配置されている。桃金(RG)にグレイの文字盤という組み合わせが実にスタイリッシュでお洒落。
しかし、どうだろう。表も裏もややゴチャゴチャした印象が拭えない、と言うのは正直な感想。
ランゲ1はまごうことなき名作ではあるのだが、針のデザインや、やや淡白な文字盤の仕上げ等が『時計オヤジ』の琴線にはダイレクトに響いてこないのだ・・・。
























* * *


そして次に見せて頂いたのが、ツァイトヴェルクの2011年新作、ストライキングタイムである。
ZEITWERKとは『時の機構』を意味する独語。初作は2009年発表だ。このStriking-Timeはケース径44.2mm。巨大。
15分毎に高い音を打ち、毎正時に低い音が響く。2つのゴングで鳴り物系を築き上げているが、個人的にはこの『時計オヤジ』のデザインといい、デジタル式というのが、今ひとつ。大きな時分表示窓は見事な出来栄えではあるのだが、それ以上に感じることは無い。超絶機構はシースルーバックからも見ての通りだが、だからと言って機会の美しさを素直に喜べる、という訳にも行かない。ここ数年で我々ユーザー側も食傷気味となり、本来与えるべく正統な評価が出来なくなっている(麻痺している)とでも言えるかも知れないが、この時計はランゲ本来のクラシックラインから見れば『逸脱』したキワモノ、というのが正直な感想である。

※『時計オヤジ』にとって、ZEITWERKで面白いモデルと言えば、この後のランゲ工房で見せてもらった『ルミノス』であるが、それは別途紹介する。。。



























(ランゲに対抗するGrashutte Originalからはマイセン文字盤を利用した”ダブルネーム”セネタ・マイセン2針が印象的〜)

対するGOからは、非常に魅力的なマイセンによる手書き文字盤が美しい。
2007年発表のこのモデル、ケース径42mm程度で少々大きめではあるが、
『蒼の双剣=マイセンマーク』が白いポーセリンに映える。GOとマイセンのダブルネームが何とも色っぽいではないか。表も裏もまさに手工芸品の域にある。

WGもあるが、このモデルのようにRGケースがより似合っている。裏面から見える機械はCal.100。チラネジ付きの8振動@秒の高速テンプがGOらしいのであるが、この機械は極めてまっとうな外観を誇るので、観る側に不思議な安堵感をも与えてくれる。ランゲの洋銀製(ジャーマンシルバー)プレートの鈍い輝きは素晴らしいが、そうでなくともこのGOのように丁寧な仕上げで十分に対抗出来るという一例だ。
一方、ローター形状はくり貫きが見事であり、Gマークレリーフも美しいのだが、何故かプレス打ち抜きっぽい平べったさを感じてしまう。欲を言えば38mm径くらいで表現すれば、一層引き締まった名作に仕上がるのではなかろうか。。。




























(⇒右写真)

このGUB時代の復刻モデルもいい味を出している。
パノラマデイト(Big-Date)表示もあるのだが、出来れば日付の書体はゴシックではなく、文字盤上のINDEX同様に、GUB当時のおどろおどろしい書体を使用した方が『気分』である。但し、判読性の観点からはクゥエスチョンとはなるがね・・・。






















(ドレスデン市内には時計ショップの他にも、ホテルロビーでの展示コーナーも面白い〜)

(⇒右写真)
滞在中のHILTONロビーで見た時計である。
古いTISSOT SEAMASTERであるが、パンチングベルトといい、Cラインの安定感あるケース形状といい、まるでオメガと瓜二つ。思わず見惚れてしまった。
こうした古典ながらも普遍的なデザインの時計、最近ではめっきりその生息数を減らしてしまった。まさに絶滅危機種の最右翼的な時計である。











(←左写真)
GUB時代のGlashutteである。
この復刻モデルは上述の通り、現在のGOの定番モデルともなっている。そのオリジナルがこちら。細くて長いBAR INDEXは文字盤に刻む形で加工されている。当時、SEIKOなどでも取り入れた手法であるが、現在ではGO以外には見られない。
シンプルな中3針であるが、独創性観点からも見事な造形美を誇る。

思わず財布の中身と相談してしまう1本。












(⇒右写真)

同じくGUB時代のGlashutte。1974年製。
ややクッションケースっぽい角型であるが、この落ち着き具合が宜しい。
まさにレトロな50〜60年代っぽさを表現している。
価格は390ユーロ。2012年1月4日現在でユーロは100円を切ってしまった。仮にこのレートを当てはめれば、非常に値打ち感がある対象ブツとなってしまうのだが・・・。










(現在、グラスヒュッテ産を名乗る11ブランドの一つがこちら〜)

ドレスデン市内で、とある時計店を訪問する。
ここで初めて見たブランドがHEMESS。平凡な中3針の自動巻き時計(↓下写真):
























ドーム型風防とか結構、レトロ感を表現している。
そして中身の機械を見てびっくり、何とMIYOTA製Cal.8215がベースである。そこにシャトンビス2個を加えたり、テンプ受けにエングレービング(彫金)を施したりして、それなりの味付けを行っている。青焼きネジっぽい仕上げも見える。
ここのショップオーナーとも電話を通じて色々話が出来たのだが、矢張りグラスヒュッテ産とは言え、独自色を出すことにもそれなりの経済効率と現実がある。GOのように自社生産率95%以上を謳うメゾンもあれば、ベースMIYOTAであったり、ベースETAであったり(NOMOSのように)、自社部品への組み替えをそれなりに行うことが手っ取り早い手段であることには間違いない。尤も、NOMOSの場合には可也の部分を『改造』しているので、殆ど独自キャリバーと言ってもよかろう・・・。
































(ドイツに来たらWEMPEを語らない訳には行くまい〜)

時計好きでWEMPEを知らない人はモグリだ。
WEMPEとはハンブルグが本拠地の宝飾・時計の老舗小売店であり、ドイツ国内は勿論、ロンドンのBond Street等にも出店を構える超一流チェーン店、と言ってよかろう。

今回、グラスヒュッテ訪問においてはランゲ工房と共に、WEMPEが再興したグラスヒュッテ天文台訪問も大きな目的である。そのレポートは追って紹介するが、まずはWEMPEで気になる時計を紹介しよう。


* * *

(↓下写真)
一見して非常に落ち着いた3針時計と感じられる。
念頭に置いたデザインは明らかにPATEK96シリーズだろう。定番中の定番デザインながらも、金色ブレスレットとの組み合わせがとっても上品。デイト表示窓の配置も全く自然で無理が無い。ドーフィン針もいい感じ。竜頭の処理も王道を行くデザインであり、要所要所で正統派時計としてのツボを押さえた教科書的なデザイン。
裏面にはこれから訪問する予定である『グラスヒュッテ天文台』レリーフが誇らしげに飾られている。
ブレスモデルもレザーストラップモデルも両方いける。
価格も10万円内外と手頃な時計。




























(⇒右写真、シックな黒文字盤のトノーケース)

そして、WEMPEと言えばNOMOSとのコラボシリーズの手巻きキャリバー搭載モデルが有名。そのトノーケースはフランクにも似て、落ち着いた風情を漂わせる。
秒針小ダイアルの位置もデザインも文句は無い。
文句(注文)をつけるとすれば、大胆すぎるローマ数字だろうか。逆に、これが良いという人も多かろう。この点は好みが分かれるところ。
このWEMPEマニュファクチュールがどこで行われているかも実は大きな興味である。『時計オヤジ』の推測では、NOMOS工房内にWEMPE専用ラインを設けているのではないか、という考えであるが、実はこの後で仰天する事実に遭遇するのである・・・。









(聖母教会フラウエンキルヒェ前の広場は憩いの場所である〜)

紹介してきた時計達はごく一部であるが、狭いドレスデン市内でもこのように幾つかの名作・名品に出会うことができる。
足を伸ばしたマイセンでも同様である。小まめに、根気良く『市場調査』を続けることが、そうした時計達に出会えるコツである。但し、相応の語学力と交渉力、コミュニケーション能力が試されるのは当然だが・・・。(2012/1/06) 408300












































2011年8-9月、ドイツ・北欧・バルト海旅行関連ページ:
⇒『コペンハーゲンで欧州最古の天文台に登る』はこちら
⇒『U995/U-Boat搭乗記@ドイツLaboe』はこちら
⇒『エストニアの首都タリン散策記』はこちら
⇒『マイセン磁器工場訪問記』はこちら
⇒『2011年9月、ドレスデン再訪記』はこちら
⇒『2011年9月、ドレスデン市内で観た気になる時計達』はこちら



⇒ (腕時計MENUに戻る)

※掲載の写真・文章等の全てのコンテンツの無断転載・無断複写は厳禁です
※特に金銭絡みの
オークション説明等へのリンク貼りは固くお断りします

TOPに戻る