SINN  ジン

SINN 356 FLIEGER SPEZIALEDITION
(Japan Limited Edition sold in 1996〜日本国内300本限定モデル) 



ドイツ製ブランドの登場だ。
SINNの正式名称は、SINN SPEZIALUHREN ZU FRANKEFURT AM MAIN。「ジン特殊時計会社」、という名前からもわかるように柔なブランド時計とは全く異なる。歴史的には、創業者ヘルムート・ジンと90年代に入りIWCから移籍したローター・シュミットの2人がSINNを支える2大推進力である。そのジン社が日本向けに1996年に発売した手巻き式の300本限定特別モデル。FLIEGERとはドイツ語でパイロットを意味する。

こうした限定モデルというのは実は少々怪しい。手を変え品を変え、様々な類似商品を出してくるのは世の常道。「Gショック」などはそれを逆手にとった戦略で成功したのは有名な話。SINNはまさか、とは思っていたが今年(2004年)ドイツの空港待合室で入手したルフトハンザ系通販カタログをパラパラめくっていたら、自動巻きの356FLIEGERがあるではないか。文字盤デザインは略、同じ。やっぱりなぁ〜、という思いを新たにした。「ジンよ、おまえもか・・・」





(『男の本懐』、クロノグラフは黒文字盤とシルバーケースのモノト−ンカラーに限る〜)


今までクロノグラフを紹介しなかったが、筆者の一番の好みは長らくクロノであった。思えば人生で最初に手にした腕時計も"SEIKO 5 SPORTSクロノグラフ"だ。90年代は仕事、プライベートでもクロノ中心。腕時計=クロノグラフ、という公式こそが「男の本懐」とも思っていた。

細かい理由付けは何とでも述べられようが、最大の魅力はやはりその「メカ」と「見た目の迫力」ではなかろうか。単純だが「カッコイイ」というのがSINNの一番の魅力だろう。ストップウォッチを頻繁に使う必要性は日常生活では無きに等しい。しかし、ストップウォッチ機能が付いていることだけで満足度は増す。こうしたメカに対する精神的な満足度こそが実はクロノグラフの人気を支えていると感じている。

筆者の嗜好は現在ではスタンダード、いわゆる3針のドレスタイプ中心である。クロノは主にOFF-DUTYの出番が多い。ON/OFFで時計の種類も思い切って使い分けているが、年齢と共にクロノ小ダイアルの目盛が見難くなった事情もある。勿論、このSINNやSPEEDMASTERはまだまだ問題ないのだが。真性「ちょい枯れオヤジ」となった今、しみじみ思うが、欲しい時計があれば多少の無理をしてでも若いうちから手に入れた方が良かろう。永久カレンダーなんぞは悲しいかな40代も半ばを超えると、細かい文字盤が見え難くなり邪魔臭い。また、時計好きであれば少なくとも2〜3本は所有しているだろう。毎日しない機械式の永久カレンダー程、止まった時の毎回の日付合わせが鬱陶しいものはない。とは言え、20歳代から金無垢やらROLEXのデイトナ、PATEKというのも危険な香りが漂う。常に自分の「身の丈に合った時計」であるべきを忘れぬことだ。勿論、それは時計に限ったことではないが。余談だが、年齢に関係なく最上のモノを身に着けるべきは「靴」のみであり、それは許される自分への最大の投資である。

ともあれ、愛用の1本から決してはずすことが出来ないのがクロノグラフである。メゾンがどんなに女性用クロノを開発しても筆者の好みではない。クロノはやはり「男子」が手にして一番似合う、というのが持論だ。



(抜群の視認性を誇る計算されつくした文字盤〜)

この356フリーガーの派生モデルはAUTOMATICとして現在でも発売されているが、今回のモデルは1996年に日本向け300本限定モデルで発売された手巻き式である。6振動/秒はゆったりしながらも甲高いムーヴメント音がいかにも機械式を実感させてくれる。手巻きというのも機械式の原点であり気持ちが良い。
一見するとゴチャゴチャした文字盤であるが、実際に使用すると実は非常にシンプルであり視認性は驚くほど高い。見易い。分・時間の積算ダイヤルも極めて分かり易い。時針のデザインも独創的で気に入っている。こうしたデザイン・基本性能・仕上げのレベルの高さがSINNの最大の人気の秘密であろう。まさにデザインも機能の一部、であることを実証するのがSINNである。(話はそれるが、BELL&ROSSがSINNと全体の雰囲気が酷似していると思うのは筆者だけであろうか・・・。)






(ベスト・オブ・クロノグラフモデルとは〜)


数あるクロノにおいて、何が良いかを決めることは不可能。基準次第でその選択肢も異なり、市場に存在する機種も多種多様である。しかし個人的には、”ベスト・オブ・クロノグラフブランド”として、BREITLING、OMEGA、そしてこのSINNを本格派クロノ3大ブランドとして推薦したい。ブランドを超えたNo.1モデルとしては PANERAIルミノールクロノ(PAM00072、生産完了) が嗜好的にはベストクロノだ。はじめに機能ありき。いずれもプロフェッショナル仕様にて、信頼性、実用性からくる究極のデザインは研ぎ澄まされている点で共通する。
特に初代PAM00072と、このSINNでは秒針目盛も1秒単位というのが共通する。1秒以下の計測を不能にするこの逆説的のようなデザインが視認性を高めるのだ。
BREITLINGは少々リッチで華美なクロノグラフ。
OMEGAはBREITLINGほど高級ではなく、実直で堅実、アポロのイメージが強い。適正価格も有難い。そしてこのSINNはいかにもプロ仕様、特殊部隊御用達の匂いがプンプン漂う玄人好み。ヤワな人には似合わない。BREITLINGやOMEGAのような知名度も無く、一般の人がすんなり買う対象にもまずならない。そもそも販売量・ルート共に限定される。本当に好きな人のみが、こだわり抜いた挙句に選択する硬派なクロノグラフ、それがSINNであろう。

購入から早12年が経過し、時針の夜光塗料も当初の白系色から黄色みを帯び、ひび割れも入ってきた。風防ガラスも細かいキズで一杯だ。経年変化により自然と風格ある良い顔になって来た。ベルトは黒レザー製が装着されていたが、入手後に純正のSSブレスに変更した。SS製ながら鈍いマットカラーのような銀色はまるでチタン製にも見える。「ずっしり」とした重みは130グラム。パネライのルミノールマリーナ40mmクラス(革ベルト)よりは重い。そしてブレスの「しっかり」とした造りも満足できる。ドイツ工業規格=DINによる品質管理水準を実感する。



(マッシブな存在感がSINNの魅力〜)


装着してもそのスキの無いデザインと硬派なイメージを楽しめる。この時計に限って言えば裏スケルトンも不要だ。文字盤だけで十二分に迫力があり、スクリューバックケースの方が信頼度も高い。PANERAIにも通じる貫禄、ムードもある。SS製ブレスベルトも質感が非常に高く、精密な造りだ。ブランドによってはブレスだけで10〜20万円超まであるが、このSINNの場合、確か2〜3万円位であったと記憶する。質実剛健な良質ベルト+適正価格、にもドイツブランドの良心を感じる。



防水機能は10気圧。しかし、ネジ込み式竜頭に手巻きというのは信頼性の面では疑問だ。毎日、ゼンマイ巻上げの為にネジ込み式の竜頭を開け閉めすることは、パッキンの劣化、ネジ自体の緩みにもつながる懸念が大きい。よって、もっぱら非防水、若しくは防滴レベルとして割り切っている。そう考えると同じネジ込み式竜頭でも最新のラジオミール8-DAYSのように、手巻きながら8日巻きパワーリザーブ搭載(JLC製)というのは実用面でも本当に凄い発明・技術と感心する。

ムーヴメントは信頼性が高い手巻きバルジュー7760。そろそろOVHを行い、リフレッシュさせたいところ。横から見ても迫力十分なボリュームだが、邪魔になる厚みでは決してない。機能優先が生み出したデザインというものは、どんな工業製品であっても美しいものだ。

通好み、硬派、時計マニアの証。
SINNをする男は信頼できる・・・、はずである。(2004/09/17)


(主要諸元)
手巻きクロノグラフ(Valjoux7760/17石)、SSケース、ケース径38mm、防水・耐圧10BAR、30分積算計、12時間積算計、秒針スモールセコンド、曜日(独語のみ)・日付つき、強化アクリルガラス風防、ねじ込式リューズ、プッシュボタン・ガード、ネジ込式SSケースバック、アンチショック、アンチマグネティック、標準レザーストラップ付き。

(2007/07/28 一部加筆修正&写真変更)



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