随筆シリーズ(108)

『2011年9月、7年ぶりに見たグラスヒュッテ市街の変貌について』

(〜新旧市街地比較の巻〜)





前回の訪問が2004年であるから、丸7年ぶりの訪問だ。
これで通算3回目のグラスヒュッテ訪問となるが、この間、グラスヒュッテ街並みは大きく変貌した。
その理由は時計業界の活況によるものだが、前回訪問時の写真と比較しつつ、現在の街並みを振り返る。

(↑上写真: 市内中心部に位置するフェルディナント・アドルフ・ランゲの胸像を飾った記念碑。
1895年にA.ランゲの功績を称えて設立されたものだ。A.ランゲは18年間にわたりグラスヒュッテ町長も務めた。
A.ランゲなくしてグラスヒュッテ再興・復興は語れない。いわば、グラスヒュッテ名誉市民の筆頭格である。)
(2012/1/07) 408500



(7年ぶりに訪問したグラスヒュッテは大きく変貌していた〜)

今回のバルト海、タリン、サンクトペテルブルク、そしてザクセン地方訪問の最大の目玉は何と言ってもグラスヒュッテ再訪にある。一般の名所旧跡訪問も楽しいのだが、『時計オヤジ』にとって最大の楽しみとは時計に関連した場所、いわば業界関係の土地やメゾンの訪問にある。
2011年9月某日、ドレスデン市内のヒルトンホテルから車で飛ばすこと約1時間。あのグラスヒュッテ再訪が実現した。

※今や、Glashutteを名乗る時計ブランドは11にもなるそう・・・(⇒これ全て指摘できる方は凄いです)。
但し、Glashutte産を名乗る為には、”Valueの50%以上がGlashutte産(⇒ドイツではなくあくまでグラスヒュッテ産)であることが条件”だという。しかし、この”VALUE”の定義を巡って論争やら裁判沙汰まで発生しているのが現実で、やや混乱がありそう。

※因みに、Glashutteの11ブランドとは以下: 
  A.Lange & Sohne, Glashutte Original, Nomos, Union, Muhle, Wempe, Tutima, Moritz Grossmann, Sachsische Uhrentechnologie(SUG), Bruno Sohne, Hemess, である。


街並みが変貌した一つの理由は、恐らくこの街を通るエルベ河とその支流が2002年に大洪水を起こしたことにも関係があるだろう。このグラスヒュッテも大きな水害を被ったのだ。その爪跡は人々の記憶の中にも生々しく残っている。
今回は7年前の写真と比較しながら、その変貌振りを紹介したい。








(←左写真: 2004年のアルテンベルガー通り)

ご存知、ランゲ本社とGO本社が面するドイツ時計聖地の総本山。それがアルテンベルガー通り(シュトラッセ)である。
写真左手の白い大きな建物がランゲ本社工房。
通りの反対側には民家も立ち並ぶ普通の光景だ。













(↓下写真: 2011年にはこうなった〜)

Lange & Sohne前の家々があった場所は大きな公園と駐車場に生まれ変わった。
そして、時計バブル隆盛時代の恩恵をこのGlashutte時計業界も十分に享受した証のように、新参者入れて今やグラスヒュッテ産を名乗る時計ブランドは11にもなり、やや乱立気味・・・。
とは言え、人口4〜5千人の小さな街で約千人が時計業界に従事するといわれる。その中でもLangeとGOの2社だけでで800人。
この2大巨頭がこの街を、街の財政をも牽引する大きな役目を担っているのだ。まさに時計産業城下町としての稀有なる位置付けであろう。シュトットガルトの自動車産業、フランクフルトの金融業、マイセンの陶磁器、そしてグラスヒュッテの時計産業・・・。ドイツ国内でも数少ない『産業城下町』の姿ががここにある。

下写真を見ると公園の右側に向かってなだらかな斜面を描いているのが分かるだろう。これは明らかに2002年のエルベ川大洪水の被害を受けたここグラスヒュッテにおける治水対策の一環である。公園には”A.Lange&Sohne-Park”の冠名が付けられ、公園中心部にはA.ランゲの胸像が配置される。


































(←左写真: 2004年のNOMOS工房)

アルテンベルガー通りのはずれに昔はNOMOSがあった。
小さな小さな工房である。
ここで3/4プレートやらを、ミリングマシンで切削していたのだ。
詳細はこちらを参照のこと。














(⇒右写真: 2011年にはこうなった〜)

今では、WEMPEの工房に代わっている。
因みにWEMPEとNOMOSは密接な関係にあり、WEMPE製品をNOMOSが生産していることは有名な話。
そして、更に驚いたのはWEMPEはグラスヒュッテの丘の上のWEMPE天文台の横に、自社クロノメトリー組立工房も所有していたことだ。勿論、NOMOSとのコラボではあるが、WEMPEは結構、本気である・・・。

※WEMPE天文台は別途紹介する予定。















(←左写真: 当時は朽ち果てていたグラスヒュッテ駅舎〜)


丸でごこかの建築現場の『資材置き場』みたい。
これが当時のグラスヒュッテ駅である。ボロボロでまさか、本当にここが駅として使われているとは日本的な感覚では想像も出来ないひどさであった。。。















(↓下写真: 2011年にはこうなった〜)

当時の駅舎は取り壊され、代わりにNOMOS本社工場が建設された。その隣りはバスターミナルとなり、その並びにはTUTIMAが新たに引っ越してきた。2011年8月のことらしい。NOMOSとTUTIMAの反対側には大きなGO本社工場がそびえ立つ。
































(市内中心部に位置する時計博物館〜)

←写真右側の建物が時計博物館。
歴代の名時計師を輩出してきた時計学校でもあったのだが、当時はさびれて半ば、廃墟も同然。

写真左側手前の赤い屋根の建物はNOMOS直営Boutique。
これは今でも現存するのだが、こんな辺鄙な場所で誰が時計を買うのだろうか?












(⇒右写真: 2011年にはこうなった〜)

Swatch Groupの肝いりで、2008年5月22日にオープンした時計博物館。屋根には昔あった塔も復活。
今回は丁度、Alfred Helwig(1886-1974)生誕125周年特別展示会開催中であり、じっくり(という時間も無かったけど・・・)見学することが出来た。
※因みに、博物館詳細はクロノス18号、134頁を参照のこと。

今回は、博物館スタッフによる特別ガイドを手配してもらったお陰で効率的に見学できた。出来れば1〜2時間程度は時間をかけて見たい。時計修復工房も見学できる。
こちらも詳細は別途レポート予定。










(懐かしのGO本社工場はそのままだが、周辺が大きく変貌した〜)





(←左写真)
2004年に工場見学した時の写真。
GO自体は何も変わっていないのだが、その周辺の建物やら、通りの光景が大きく変わった。

いわば、近代的なGOの本社ビルに周辺の街並みがようやく追いついてきた感じ。つまり、時計業界の活力がグラスヒュッテの街全体を底上げしている状況だ。まさに時計業界さまさま、時計あってのグラスヒュッテである。

因みに、人口2〜3千人ではドイツ国内においては『市』とは認められないが、グラスヒュッテの場合は例外的に認められている、と以前どこかの文献で読んだ記憶がある・・・。











(⇒右写真: 今回撮影したGO本社ビル〜)

今回のグラスヒュッテ訪問は次のような日程であった:
8:00 HILTONホテルを出発。
9:00 ランゲ本社到着。
9:00〜11:00 ランゲ本社工房を見学。
11:00〜11:30 GO本社ロビー見学。
11:30〜12:30 グラスヒュッテ市内散策。
            NOMOS直営ブティック、市内時計店訪問。
12:30〜14:00 グラスヒュッテ時計博物館見学。
14:30〜15:30 WEMPE天文台訪問(徒歩で丘に登る・・・)。
16:30 HILTON帰着。。。

結局、この日は昼食をとる時間もなく、ドレスデン市内に到着後、グラスヒュッテ再訪の興奮と余韻に浸りつつ、ドイツビールで熱いフランクフルトを楽しんだのであった。


※後記: ランゲ本社工房見学記、グラスヒュッテ時計博物館訪問記、WEMPE天文台訪問記、は別途作成中。
ヘビー級のレポートが続くだけに、正直、結構疲れるし時間もかかる。まぁ、元来このHPはあくまでも自分自身のデジタル日記なので、一般Audienceのことは原則、考えていません。のんびりやりますので悪しからず。
(2012/1/07 408500)



時計オヤジ』のドイツ時計世界の関連ページはこちら:

『ドイツ時計聖地、ドレスデンにて。数学・物理学サロン探訪記』はこちら。(2004年9月訪問)
『ドイツ時計聖地、ドレスデンにて。ゼンパーオーパーとBIG-DATE機構の因縁』はこちら
『ドイツ時計聖地、ドレスデンにて。ラング&ハイネ工房訪問記』はこちら
『現代のドイツ時計聖地、グラスヒュッテ散策記〜NOMOS突撃訪問記』はこちら。(2004年9月)
『グラスヒュッテ・オリジナル本社工場訪問記』(Part-1)はこちら。(2004年9月)
『グラスヒュッテ・オリジナル本社工場訪問記』(Part-2)はこちら。(2004年9月)

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『世界初のIWC直営BOUTIQUEをドバイに訪ねる』はこちら
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2011年8〜9月、ドイツ・北欧・バルト海旅行関連ページ:
⇒『コペンハーゲンで欧州最古の天文台に登る』はこちら
⇒『U995/U-Boat搭乗記@ドイツLaboe』はこちら
⇒『エストニアの首都タリン散策記』はこちら
⇒『マイセン磁器工場訪問記』はこちら
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⇒『2011年9月、ドレスデン市内で観た気になる時計達』はこちら
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