D.DORNBLÜTH(DORNBLUETH) & SOHN  ドーンブリュート(ドルンブルート、ドルンブリュート) & ゾーン

D.DORNBLÜTH (DORNBLUETH) & SOHN REF.CAL.99.1 DR(2)ST.F 



ドイツ製時計に最近、魅かれている。

きっかけはこの夏に大英博物館で見たLANGE & SÖHNEの1885年製懐中時計だ(=左写真)。スイス製の時計とは根本的に異なるその存在感と雰囲気。意匠も独特だ。特に3/4プレート、ネジ留め式シャトンに代表される、通称『グラスヒュッテGlashütte仕様』には、知るほどにその魅力に眩惑されて行く毎日であった。

(Dornblüthとの出会い〜そして、いざドイツ時計聖地訪問へ〜)
現在市販される代表的なグラスヒュッテ・ブランドは、ランゲ&ゾーネA.LANGE & SÖHNEやグラスヒュッテ・オリジナルGLASHÜTTE ORIGINALであり、それはそれで極めて素晴らしい出来映えである。が、筆者が求める路線とは少々異なる。現在のメゾンは、どうしても「伝統+最新技術」の融合をブランド銘に反映せざるを得ない。伝統技術に加えて『プラスα』を如何に付加出来得るかがその時計の個性確立の勝負となる。それはドイツ製のみならず、どのブランドにおいても同様である。しかし、本当に『プラスα』は必要であろうか。伝統技術、伝統的な意匠の継承を現代の最新技術で磨きをかけることで、その『プラスα』を表現できないものであろうか。そうした取り組みは、決して過去のデザインに安住する、とばかりは言えないであろう。伝統意匠の最新技術におけるリバイバル、というのは筆者の理解では、十分に『プラスα』として評価足り得る。もう一歩突っ込んで言えば、いや後退と捉えられても結構だが、仮に伝統技法の継承だけを今日に表現することであれ、それは十分に存在意義がある時計と考える。何故なら、時計とは単なる時間計測機器を越えた、人間の叡智と文化が結晶された工芸品であり、その製造に係わる作業の伝承こそが『工芸品の一部』でもあると考えるからだ。そんな折、一目見て衝撃的に感動したのがこのドーンブリュート&ゾーン(以下、Dornblüth。ドーンブルート、ドルンブリュートとも)である。


(小工房の月産10本?には驚く〜)

Dornblüthを初めて知ったのは今年の『時計Begin』夏号Scoopにおいて。少々遅きに失した感はあるが、そのムーヴ仕上げの綺麗さを見た瞬間、イチコロとなる。上述、大英博物館のLANGEスタイルの時計が、それも新品で現代において入手可能であることだけでも感動を覚える。とは言え、一般の人には中々知る術も少ないのがこのブランドである。理由はその生産数量の少なさにある。何せ、本格的な手作り、家内製手工業を頑なに守り抜いているドイツ地方都市Kalbe(=旧東ドイツにある筋金入った田舎です)の自宅工房から出荷されるのだ。その数、月産、僅か5〜10本以内という。そして現在ではBACK-ORDERの為、6ヶ月待ちの状態らしい。原則、一部のドイツ国内を除き小売展開は一切せず、WEBによる受注生産のみを受け付けている。今日日、こんな受注方式を取る時計会社(工房!?)は世界広しと言えども何社あろうか。これだけでも驚くと共に、写真で見た「頑固オヤジ」の顔が目に浮かぶ。



(実物を見ないでオーダーするのは邪道?〜)

しかし、時計の実際の顔も質感も知ること無しに、それも初めて聞くブランドである。WEBだけで発注するのは正直、可也、勇気が要る。価格も決して安くはない。余談だが、雑誌などでは、しきりにこれは買いだ、とか挙句の果てには、どうしてこんなに安いのかと直接、Dornblüthご本人に質問しているケースも見られるが、一体、皆さん時計に対する価格意識が麻痺している気がしてならない。Euro2500が安いかどうかは主観的な判断によるが、筆者には決して賛同出来ぬレベルである。個人的には、Dornblüthに限らず、一般に時計業界全体がインフレ気味の価格設定路線にあると日頃、痛感しているが如何なものか。

とにもかくにも、正式に発注しないことには始まらない。一方で、納期半年後というのも我慢し難い。種々交渉の結果、直接ドイツ国内においての引取を条件に(=それ以外にもまだあるが内緒)、9月末にケルンKöln/Cologneで、Dornblüthさんから直接、受け取ることにしていた。しかし、直前で日程が合わず、結局、ドイツ時計の聖地ドレスデンDresdenにて引渡しを受けることになった。

(いざ、Dornblüth実物と聖地ドレスデンにて感動のご対面!〜)

Dornblüthのモデルには、3針タイプと、パワーリザーブ付き4針の2種類ある。筆者の今回の選択はシンプルな3針黒文字盤、CAL.99.0(2)革ベルトタイプだ。

Dornblüthはその工房をKalbeという町に構えるが、何故かWEBを通じてのE-MAILは全て、Kalbeから遠く離れたこのDresdenにいるフルーストFüerstさんが担当されている。聞けば半年前から、この仕事を始めたそうで、自宅で交信をしている由。但し、彼女は英語が不得手であり、中々E-MAILではこちらの意思が伝わらない(これでよく受発注業務が務まるものだが、あくまでドイツ語圏内に照準を合わせているのであろうか?大味というか、少々不思議な対応である)。こちらも片言のドイツ語を交えてのE-MAILで応対、そして電話連絡も脈々と続き、ようやく当日を迎えたのだ。写真左は、次男坊で英語が多少はマシなPhilippe君(17歳)を通訳係兼ボディガード?として連れて来たフルーストさんと、HILTON DRESDENロビーでの面談風景。


(いきなり新型モデルを見せられ、動揺する「時計オヤジ」〜)

右写真ご参照。
左側の黒ベルトモデルが発注していたCAL.99.0(2)であるが、何とフルーストさんは秒針ダイアル径を3o大型化した新モデルも持って来てくれた(=右側、茶色ベルト)。新文字盤の噂はかねがね聞いていたが、どうやらこの8月に新型を生産し始め、現在までに文字盤の色違い合計で5本が完成したと言う。これがその1本で、まだ誰にもデリバリーしていない、まさに初物、初公開!とのこと。『さあ、あなたはどちらを選びますか』、ときたもんだ。因みに新型はEuro450UPになる。キッチリ商売していますね、Dornblüthさん!正直、高すぎるよ、この値上げ設定は!

こちらとしてはDornblüthの実物を初めて手にしただけでも感動しているのに、その上、新旧モデルより2者択一を突然、迫られるのであるから更に当惑・混乱してしまう。結局、色々悩んだ結果、右の新型を選んだ。新型は裏面ムーヴメントのシャトン位置からは分からないが、秒針位置をやや上に移動したことで、ムーヴ自体にも手が加えられている。その調整も全て終わり、今回のデリバリーに至ったそうだ。色々悩んだのにはワケがある。筆者は、手放しでこの意匠変更には必ずしも満足していないが詳しくは後述する。



(近々、パワーリザーブモデルCAL.99.2も新型発表へ〜)


最新情報としては、CAL.99.2のパワリザに近々、DATEが付加されるそうだ。6時位置に日付窓が付くそうである。あと数週間もすればWEBにもUPされるらしいが、のんびり?としたDornblüthのこと、『3A』の精神で期待したい。(3A=あせらず、あてにせず、あきらめず・・・)しかし、もし6時位置にデイト表示が付けば、まるでIWCのCAL.5000を積んだ7日巻きのPORTUGIESER現行品と更に意匠はそっくりになるね。

因みに右写真は、DornblüthのCAL.99.2が参考にしたと思われるLANGE&SOHNEの1942年製CAL.48パワーリザーブモデルである(=”GLASHÜTTE ORIGINAL”本社工場にある展示コーナーにて撮影)。



(そのダイアル、文字盤から見てみよう〜)

結論から言って、この時計は90%MOVEMENT-ORIENTEDな時計。残り10%が文字盤、ケース等に向けられている。いや、MOVEMENT以外にまで完璧を求める余力は無いのではあるまいか。ケース径41.8mmは流石に大きい。3針タイプであれば、シンプルさゆえに殊更、その全体のデザインが目立つ。が、今ひとつどこかバランスがとれていない、というのが率直な文字盤に対する印象である。なぜだろう。

(←左写真: これがDornblüth新型 CAL.99.1DR(2)のちょい悪ブラック、新フェース。光の加減で濃紺にも見えるのが神秘的。)





(まずは意匠変更の秒ダイアル〜)

今回、秒ダイアル径を3mm大きくし、そしてそのデザインも変更したが、そのベースとなったのはLANGE&SÖHNEのマリーンクロノメーターにあると思われる(=写真、右側がそのLANGE&SÖHNEのマリーンクロノメーター)。Dornblüth時計の木箱もマリーンクロノメーターを模しているようであり、秒針ダイアルも同様の路線であると推測する。DornblüthのWEBによれば、デザインモチーフはB-Uhrn German Naval forcesとあるので間違いないだろう。しかし、個人的には旧型の意匠を相似拡大した方がさっぱり、あっさりしたデザインで好みである。新型の秒ダイアルはデザイン的に、少々バタバタしてうるさい。ユリスナルダンにも似ているね。







例えば左写真(=Dresdenにて撮影)はLANGE&SÖHNEの懐中時計文字盤であるが、こちらの秒針ダイアルの方がすっきりして、気分ではあるまいか。又はパワリザ付きのDornblüth製Cal.99.2の秒ダイアルを3針黒文字盤に流用しても似合うと思うが如何であろう。








一方、確かに、旧型の秒ダイアルは小さめで、若干バランスを欠く。しかし、この小さい秒ダイアルをそのまま全体的に、もう少し中央の時針側へ移動するだけでもこの問題は解決されるはずだ。PANERAI等はそうした配置で上手くバランスを保っている成功例だ(=右写真、PANERAI 44mm GMT⇒)。








(時分針のデザインに変更を〜)

もう一つ、こちらの方が改善を望みたい。それは針、ハンズのデザインである。現在のDornblüthの針は先端側がいわゆる、スペード型ではある。このデザインをDornblüthは"pear shaped steel hands"(洋ナシ型)と呼ぶが、スペード型の下部分は直線である。これが細すぎる為に、大きな文字盤全体とのバランスが崩れている。是非とも、直線形状ではなく、上記写真のLANGEのマリンクロノメーターにある針のように、やや湾曲した、ふくらみを持たせるSERPENT型にして欲しい(正確にはSERPENT=蛇状、のクネクネ型であるが、ここでの意は「波状」である)。その方が、より古典に沿った形状であり、また大きな文字盤全体とのバランスも改善するはずだ。小さな点ではあるが、大きな文字盤ではこうした針の意匠一つで、その与える印象は全く異なるのだ。フランクミュラー等もそうした針のデザインには細心の注意とデザインを払っているが、Dornblüthにも是非、改善を期待したいところ。(時計オヤジとしては、その内に直接、DornblüthさんにもREPORTするつもりであるが)

肝心の顔である文字盤に話を戻そう。黒色の発色が薄いと感じる。Matte-Blackは分かるがもう少し濃い黒の方が似合う。SEIKO SpringDriveのように、漆黒の黒の方が良かろう。ただ、利点もある。このMatte-Blackは光の当たり具合で濃紺にも見えるのが神秘的である。
INDEXにあるアラビア数字の白塗料のルミノバ夜光も薄く、針の白色ルミノバも同様で不均一の厚みが目視出来る。RAILWAY-INDEX部分も同様に白色が薄い。PANERAIと比べると、こうした仕上げの質感ではクラスが異なると感じる。が、安価な時計でも良く出来た文字盤は沢山あるのだから、積極的に文字盤メーカーと共に改良を重ねるべきであろう。このままではゼノバーゼル/ZENO-WATCH BASELやエベラールEberhard/Travelsetoloあたりにも負けそうだね!?


(ケース・デザインは中庸の中〜)

そのケースはPOLISHEDと艶消し(サテン)の組合せであるが、個人的には全てPOLISHED仕上げが高級感もあり嗜好に合う。ケースの作りは、可も無く不可も無く、SSの厚みも多くとってある訳でもなさそうだ。MINERVA ピタゴラス Cal.48のケースをグッと拡大したような感じだ。中庸の中、凡庸であると感じる。竜頭にはDornblüth銘が立体刻印されており、気分だ。LANGE & SÖHNEのと同じような意匠だが、出来映えは中々良い。


(アリゲーター製の革ベルトは中々よろしい。が、遊革と定革幅には改善を期待〜)
自然素材の革ベルトゆえ、個体差はあると思うが作りは非常に良い。艶消し、マットの茶色に白ステッチは高級感がある。大き目の竹符模様も美しい。竹符自体にも盛り上がりが十分にあり、かつ非常に柔らかい。装着感も極上。しなやかで素晴らしいの一語に尽きる。サイズ幅は22/18oであるので、美錠にかけての絞り込みは大きいが、この時計に関してはそれもアリと感じる。しかし、遊革と定革はベルトサイズに比して余りに細すぎる。最低でもあと1mmは太くすべきであろう。ルックスからも、その強度からも定革・遊革は少々頼りない。
美錠そのものは、艶消しSS製で安っぽい作りだが、もうここまでは手が回りませんと言う感じだ。Dornblüthブランド銘が美錠に彫りこまれているのが限界かな?

尚、革ベルトには数種類の色とサイズ(長さ)がある。サイズは以下の4種類:
Small - 10.5 X 7 cm
Normal - 11.5 X 8 cm
Long - 11.5 X 9 cm
Extra Long - 12.5 X 8.5 cm (あくまで参考に。発注の際には都度確認され度し。)

因みに筆者のサイズは Normal 11.5 x 8.0cm。16〜17cmの手首回りには問題ないが、時計自体が大きいだけにSMALLでも十分問題ないと思われる。一般的な人であれば短剣+長剣=18〜19cmが標準だろう。



(最大の売り物は、そのグラスヒュッテ・スタイルのムーヴメント〜)

懐中時計用のユニタス6498をベースとしているだけあって流石に大きい。ムーヴ径だけでも38mmはあろうかという特大サイズだ。その迫力は十二分である。グラスヒュッテ様式である3/4プレート、ネジ留めシャトン、ブルースチールネジ、ジュネーヴ・ストライプ、5振動/秒の大きなチラネジ式テンプ、スワンネック・・・ これだけでも十分に嬉しい仕上げだが、冒頭のLANGE懐中時計ムーヴ同様に丸穴車、角穴車がサンレイ装飾Sunray-Finishを施されて3/4プレート上に見えるのが特に気に入っている。現在のLANGEやGO(=グラスヒュッテ・オリジナル)の手巻きでは丸穴・角穴車が3/4プレートに乗っているタイプは、旧モデルにはあっても現行品では殆ど見かけない。強いて言えば、NOMOSシリーズや、ウィーン時計店で初対面したドレスデンDresden本拠地のラング&ハイネLang&Heyneに見られるが、こちらの工房探訪記は別途REPORTしたい。このラング&ハイネも更に別次元で別境地を歩む、凄く良く出来た時計である。

ジュネーヴ・ストライプ(⇒ドイツではジャーマン・ストライプとも呼ばれる)は本来、グラスヒュッテ様式では少数派である気がする。19世紀に製作された懐中時計の多くの3/4プレートは、フラットな受板にサンドブラストをかけてからGOLD-PLATEDを施し、磨き込まれた仕上げが多い。しかし、筆者はジュネーヴ・ストライプが好み故、諸手を上げて賛同する。その時計と自分の嗜好の波長が合うことは本当に嬉しい。尚、1864年にアドルフ・ランゲAdolf Langeが開発した3/4プレートについての利点については、ラング&ハイネのマルコ・ラングMarcoLangが詳しく語ってくれたので別途述べたい。


(シャトン留めビスは今や、グラスヒュッテ様式の証〜)

18金製のシャトンのビス留めも好きな意匠だ。LANGE&SÖHNEのように、シャトン当り3個のビスを多用するのは更に好ましい。見た目の派手さから言えば、シャトン・ビスは多いほど良いのである。また、昔のシャトン・リング形状は凸型も多いが、現在では部品工作上の効率面からもフラットタイプが主流である。それはそれで良し、としよう。(⇒クロノスイスのトゥールビヨンでは凸型シャトンリングを使用しているが、現代においては稀有な例である)
シャトンのビス留めは何もドイツ時計の専売特許ではない。スイス製時計でも、オメガを始めとして1900年前後には多用されてはいるが、果たしてそのORIGINはドイツから来たのかスイスで発明されたのか、筆者には定かではない。いずれにせよ現代のスイス製ムーヴメントにはシャトン・ビス留めはまず存在しない。

Dornblüthでは、ユニタスをベース・エボーシュとしながらも、かなりのパーツを自製していることはご存知の通り。しかし、細かいことは置いておこう。何よりも、この御時世でこうした歴史的な意匠を、それも手作業中心で自宅工房で黙々と作り続ける姿勢と熱意に敬服せざるを得ない。こうしたムーヴメントに現代で、それも新品に出会える幸福をしみじみと実感する。


(この時計に絶対的な精度を求めてはいけない〜)

手巻きの感触は可也硬くて重い方だ。昔のボンボン時計、ゼンマイ式掛時計を思い出す。
ジーコ、ジーコと約60回の巻上げで一杯になる。パワーリザーブは実際の使用では丁度、48時間。丸2日でオシマイとなる。しかし毎日の巻上げを前提にすれば30回ほどの巻上げで済み、全く問題は無かろう。精度云々は、この時計に関しては興味が無いので計測もする気にもならない。現代のムーヴメントであれば、それもそれなりの信頼ブランド=ユニタスであれ、ETAであれ、そうしたムーヴに大きな狂いはあろうはずがない。時計に求める精度は人それぞれかも知れないが、仮に時計が一日1〜2分狂おうとも実生活上の影響は無きに等しい。影響があると思っているのは本人の思い込みに過ぎない。もうちょっと肩の力を抜いて気軽に構えたいね。それでも日差1分、1秒を最優先で追及する人であれば電波時計が、COSCが最良の選択である。

そもそも月間、僅か5本程度しか作れない『手工芸品』である。本当にこの時計に興味がある方のみ、ドイツ製時計に関心がある方のみが発注するべきであろう。自分なりの哲学とDornblüthに共通点、合致点が見出せる方のみにお薦めの時計である。申し訳ないが、この時計は万人向けでは無いのだから。


(シリアル・ナンバーは何とも不可解〜)

3/4プレート上には、これもドイツ伝統に則った手彫りによる装飾がある。Dornblüthのブランド名とシリアルNO.はRGプレートの上でYG色に輝いている。綺麗だ・・・。しかし、ここで重大な疑問が。冒頭で新旧2本のCAL.99.0(2)黒文字盤を並べたが、旧型のムーヴNO.は92。そして新型はNO.59である。
疑問点その1: どうして新旧モデルの番号で、新型が若い番号(=NO.59)であるのか。
疑問点その2: 今回購入した新型NO.59であるが、同じNO.59の旧型も存在するらしい。どうして?

前出、フルーストFüerstさんにもこの点を質問したが、『Dornblüthのやることはわかりません、シリアルNO.のルールは自分には理解できません』と、いとも簡単にあしらわれてしまった。この点は近々、Dornblüthさんご本人に確認したいと思っている。
(追記:この点は現在、Dornblüthさんと対応策を協議中。その結果は追って開示したい。2004/10/05)




(質素なPACKAGE、そのシンプルな箱はいいねェ〜)

左写真:なんともそっけない外箱は白いボール紙に切れ目を入れて折りたたんで、縫代は白テープで張り合わせてある。シンプル極まりない。
内箱は一応、木製であるがこれも簡素な箱だ。が、必要にして十分な作りだ。昨今、特にビッグ・メゾンによるPACKAGEは余りに大きく、大袈裟すぎる嫌いがあるが、コストはあくまで時計にかけて欲しいものだ。保証書もメモっ切れ一枚。ある意味、フランクミュラーにも似ているシンプルさが潔いではないか。因みにヒンジのネジ山は一方向ではなく、バラつきがあるが、閉じ具合はカッチリしており箱としての最低限の仕事はこなしている。満足。





実際に時計を装着すると、このようになる。
なんだか、首だけ出している箱型サウナのようだね。車のダッシュボードに使われるクルミ材Walnutのような表側の素材である。
分かる人にはわかるであろうが、これは上述の通り、マリンクロノメーターの意匠を意識したものだ。こうやって実際に保管する気にはならないが、なかなか良いアイデア、コンセプトが滲み出てくるではないか。些細な点かも知れない、このようなこだわりを持つデザインは嬉しいし、共感する。箱だから何でも豪華にすれば良いと言う物ではない。フランクミュラーのカサブランカの箱が革製の旅行鞄をデザインしているように、製作者のこだわり、哲学を感じ取れることが所有者としての喜びであるのだ。



色々、苦言も述べた。しかし、それ以上に魅力も満載の時計である。こいつとは長い付き合いになりそうだ。既に日常生活でも使用しているので小さなキズも付き始めた。筆者にとってこのDornblüthは、決して自宅で愛でる時計ではない。日常の使用で、ふとした時に裏スケからグラスヒュッテ仕様を眺める。そうした一瞬の安堵と興奮が毎日でも似合う時計ではなかろうか。今後、もし上述した点が改良されれば、自分の時計も一緒に改良するなどして更に所有する喜びを満喫したいと思っている。

この世にはまだまだ斯くも楽しい時計がある。ドイツ時計German Watchからは当分、目が離せそうに無い。

(主要諸元) CAL.99.1 DR(2) ST.F.
ニッケルフリーSSケース(3ピース製)、ケース径41.8o、ケース厚約11mm、3ATM、文字盤マットブラック仕上げ、スーパールミノヴァ夜光塗料使用、無反射サファイアクリスタルガラス使用、裏スケルトン(無反射サファイアガラス)、18000VPH(5振動/秒)、手巻き、17石、チラネジ式テンプ(Nivarox-1)、18金RG.PLATED3/4-plate(手彫りロゴ)、テンプ受板(手彫り模様)、パワーリザーブ48時間前後(実測)、ルイジアナ・アリゲーター製革ベルト標準仕様(SSブレスも有る)。



(参考文献)
『時計Begin』VOL.36、37(世界文化社刊)



(追記)
(シリアルナンバーについて〜)
前述2つの疑問点について、Dornblüthさんと連絡を取っているが、どうやらこうした番号の混乱は、彫金師EngraverとDornblüthさんとの連絡違いに原因があるらしい。正直、そんな初歩的な間違いなんて有り得るの?と首をかしげてしまうが、家内製手工業の工房である。ここはおおらかに許そうではないか。基本的には文字盤の色違いがあるにせよ、同一モデル(Cal.99.0、Cal.99.2)の中ではムーヴメントのS/No.は連番であるらしい。
一方、今回の新型文字盤モデルは、いわばCal.99.0(改)となるので、S/No.は再度、No.1から開始するそうだ。因みに、この新型モデル品番は、冒頭のタイトルの通り”Kal.99.1DR(2)St./F”となる。
さて、筆者所有モデルのS/No.59は一体どうなるのか。それは、密かな楽しみとしてDornblüthさんと更に連絡を続けることにしている。(2004/10/9)

(文字盤上の”i/SA”表記について〜)
前々から気になっていたが、ドイツ製Glashütteオリジンの時計の文字盤には”i/SA”などの表記がある。皆さん、この意味をご存知であろうか。例えば、
1)A.Lange&Söhne, i/SA    Glashütte Original, i/SA
2)D.Dornblüth&Sohn, i/S.A.

ドイツには16の州があり、うち11州は旧西独に、5州が旧東独に存在している。”i/SA”というのは、いわば「メイド・イン・どこどこの州」、正確には"Land in xxx State"を意味する。”D.Dornblüth&Sohn, i/S.A”の存在する町Kalbeはザクセン・アンハルト州Sachsen-Anhaltにある。よって、”i/S.A.”という表記は正しい。ところが、ドレスデンやグラスヒュッテは別のザクセン州Sachsenにあるので、”i/Sa”が本来の表記である。しかしこれでは見栄えがしないので、”Sa”を大文字にして”i/SA”に変更したのである。(⇒i/SAにピリオド無し。ピリオド付きではザクセンSachsen州産とはならない。)
即ち、
1)の場合:i/SA=Land in Sachsen (本来はi/Saであるべき)、
2)の場合:i/S.A.=Land in Sachsen-Anhalt
を意味するのだ。些細な点であるが、こうした表記一つとっても色々と奥が深いものである。(2004/10/9)

(新文字盤に2種類のデザインが存在!〜)
先に、新しい秒針の文字盤デザインについて奔放に持論を述べた。ここで、Dornblüthさんより嬉しいニュースが届いた。何と新型の秒ダイアルは2種類用意されているそうだ。左がその写真である。少々、小さい写真で分かり難いかもしれないが、向かって左側が従来のデザインを大きくしたようなシンプルな文字盤。そして、右側が"DOUBLE-EDGE"タイプと称される、マリンクロノメーターを意匠した、筆者所有の黒文字盤と同型である。さすが、Dornblüthさんはしっかりとデザインのツボを押さえていらっしゃった。非常に安堵すると同時に、こちらの想いが通じたようで嬉しい。いよいよ新たな展開を見せる”D.Dornblüth&Sohn, i/S.A.”に俄然、注目するのである。しかし、これ以上、やたらと知名度もあがって欲しくない、という欲張りな気持ちも正直のところ持っているのだヨ。(2004/10/10)


          *     *     *     *     *


(愛しのDornblüth、早くもダウン!?〜)
入手してまだ2週間強、Dornblüthが早くも故障した。
突然、テンプの振り角が心なしか狭く感じる。よくよく見ると、バランス・スプリング(=ヒゲゼンマイ)の巻き間隔がバラバラになっているのが判る(左、写真)。また脱進機全体から聴こえる音も、チチチ・・・だけではなく、カシャカシャという金属音も加わる!?先に、日差云々について興味無し、と述べたが、一時間で5分は進む程になった。これはゆゆしき非常事態だ!まさかまさかのヒゲゼンマイであるが、これでまたまたDornblüthさんと要確認事項が増えてしまった。どうもDornblüthはヒゲゼンマイに致命的な問題が潜伏している気がしている。

この時計、手作りであることを差し引いても、この問題だけは少々見過ごせない。「時計オヤジ」としても初めて体験する不具合だ。う〜ん、F1マシンでもスタート直後にピットインするケースもあるのだから、そして、何と言ってもパーツから切削して作り出す手作り時計ゆえのある意味、「宿命」とも解釈は出来る。しかし、時計の心臓部のテンプ、それも目に見えて判るNIVAROX-1のヒゲで斯くもトラブル発生とは、ちょっといただけない、、、。
恐らくムーヴごと全交換になるのだろうが、原因が何ともわからないだけに不可解だ。もしDornblüthがこの先自作トゥールビヨンを目指すのであれば、その前にまだまだクリアすべき各種問題があると感じる。まぁ、色々あるけど、前述『3A精神』で行きましょう。(2004/10/14)




『時計オヤジ』のドイツ時計世界の関連ページ:


『ドイツ時計聖地、ドレスデンにて。数学・物理学サロン探訪記』はこちら
『ドイツ時計聖地、ドレスデンにて。ゼンパーオーパーとBIG-DATE機構の因縁』はこちら
『ドイツ時計聖地、ドレスデンにて。ラング&ハイネ工房訪問記』はこちら
『現代のドイツ時計聖地、グラスヒュッテ散策記〜NOMOS突撃訪問記』はこちら
『グラスヒュッテ・オリジナル本社工場訪問記』(Part-1)はこちら
『グラスヒュッテ・オリジナル本社工場訪問記』(Part-2)はこちら

『ドーンブリュート&ゾーン REF.CAL.99.1 DR(2)ST.F 』はこちら
『おかえり、ドーンブリュート!』はこちら
『エリー・スタグマイヤー・シュトラッセ12番地〜クロノスイス訪問記』はこちら
『ミュンヘンのサトラーにクラフツマンシップの真髄を見た』はこちら
『2002年9月、ドイツ時計蚤の市訪問記』はこちら
『2004年7月、最新ミュンヘン時計事情』はこちら
『2006年3月某日、デュッセルドルフ散策』はこちら

『SINN 356 FLIEGER』はこちら
『世界初のIWC直営BOUTIQUEをドバイに訪ねる』はこちら
『IWCの故郷、シャフハウゼン散策記』はこちら

⇒ 腕時計に戻る
(このWEB上の文章・写真等の無断転載はご遠慮下さい。)

TOPに戻る