2004年7月、10年ぶりのウィーン再訪である。 今回のウィーンでの課題は、最新の市内時計事情の観察と、もう一つ最大の関心事である「ウィーン美術史美術館」にあるブリューゲルBrueghelの絵画鑑賞である。特に、「バベルの塔」(The Tower of Babel)と「雪中の狩人」(The Hunter in the Snow)がお目当てだ。 「ちょい枯れオヤジ」は朝から動く。8時JUST、シェ-ンブルン宮殿に到着。愛用のOMEGA CONSTELLATIONと共に宮殿内を見学、宮廷を散策する。 シェ-ンブルン宮殿は市内南西5キロに位置する、ハプスブルグ家の夏の離宮。マリー・アントワネットが少女時代を送った部屋、6歳のモーツァルトが御前演奏をした鏡の間、ウィーン会議(1814〜15)の舞踏会『会議は踊る』で有名な大広間等が公開されている。 (↑左上写真:宮殿を背景にしたOMEGAコンステ) (ナシュマルクトの蚤の市〜) 一通りの見学を終え、次なる目的地、ウィーン市内最大の「蚤の市」へと移動する。ナシュマルクトNashmarktにあるこの蚤の市は、様様な中古品、食器、銀製品、グラス、ランプ、家具、調度品のみならず、レストラン、食肉、食品、生花まで売っている一つの区画と考えた方が良い。時間をかければかける程楽しそうで、アブナイ場所でもある。因みに、最新の現地情報を集めるにはホテルやタクシー運転手などに聞くのが一番。現地情報は最終的には現場で収集・確認するのが最良の方法である。 「時計オヤジ」としては、どうしても中古時計の露天を探し始める。こうした行動はもう本能的に出てしまうので慣れたもの。何となく雰囲気と匂いから時計の売り場を探し出す。結論から言えば、メンテもされていないジャンクが多い。売り手も刺青が入ったゴツイおっさんとか、地元でない外国人に対する視線も厳しい方々が多く見受けられた。因みにウィーン公用語はドイツ語であるゆえ、英語でも通用しない場面は多々ある。稀に時計ケースに入った品々にも出会うものの、正直なところ逸品に出会う可能性は低そうだ。また、値段も正札(あるものは)ベースではべらぼうに高い。価格は交渉次第、ということは常識であろうが、それにしてもスタート価格は高騰気味。それでもじっくり時間をかければ中々面白そうである。 ここでの筆者の買い物はアラビア式シャイ(Tea)グラスを乗せる銅製コースターセット。10ユーロ也。これ欲しかったモノなのだ。ナシュマルクトの蚤の市は毎週土曜日のみ開催。午前中、色々冷やかしつつ散策してここで昼食をとるのもよろしい。 (北方ルネサンスの巨匠を見学〜) さてここから次なる目的地である「ウィーン美術史美術館」まで徒歩20分。 ピーテル・ブリューゲルPieter Brueghel(1525?-1569)はフランドル派最大の画家で、農民を多く描いた為、「農民ブリューゲル」の愛称を持つ。しかし、本人は勿論「農民」ではなく、見識・教養豊かな才人であった。彼の絵はPOPな雰囲気たっぷりで、詳細を見れば見るほど楽しい。特に「バベルの塔」(=右写真)「雪中の狩人」「子供の遊戯」などは筆者お好みの傑作品である。 10年前は開園と同時に飛び込み、ブリューゲルの部屋を一人で独占できた記憶があるが、今回は夏休み中でもあり、そうは行かない。オスロ美術館のムンクの部屋と同じくらい観光客がひっきりなしであった。旅行中、こうした美術鑑賞も時計探索と共に手軽に出来る楽しみである。これが日本やアメリカではそうは簡単には行くまい。歴史と文化のトゥールビヨン、欧州ならではの醍醐味だ。 (ウィーン時計博物館UHRENMUSEUM訪問〜) さて、この美術館からまたもや徒歩で次なるポイントの時計博物館まで散歩する。旅行中は毎度ながら本当に良く歩く。その分、食事もワインも美味しい健康的な生活を送れることも快感だ。この時計博物館も10年ぶりの再訪だが、以前と全く変わっていない。4階建ての各フロアには螺旋(らせん)階段で上るが、各階のドアはカギがかけられている。ベルを押して中の係員に開けてもらうシキタリも10年前と同じである。 1階が受付と特別展示場、2階から17〜20世紀中世時代中心の各種CLOCK、3階も同様、4階は近代の腕時計や懐中時計を含む。こじんまりとした博物館であるが、歴史ある展示品は見応えがあり、貴重な逸品が揃っている。ドイツ時計のルーツは教会の塔時計にある。それが壁掛け時計、置き時計のCLOCKへと変遷する訳だが、そうした教会時計・CLOCK等の展示品も見応え十分であった。生憎、館内は写真撮影禁止であるが、地元ウィーンの珍しい時計・CLOCK各種に巡り合える観光ポイントとしても楽しめる。一般の観光客もチラホラいる「家庭的な博物館」である。(住所 UHRENMUSEUM: Schulhof 2, 1010 Wien) (目抜き通りの高級時計店事情〜) ウィーンの銀座通りとも言うべき、ケルントナーKarntnerStr.とグラーベンGarbenStr.の2本の大通りは歩行者天国であり、夜遅くまで国内外の観光客で賑わう。マレーシア系の女中(ベビーシッター)を連れた黒装束の女性と家族一行は間違いなくサウジアラビアからの旅行者だ。夏場はこれが結構目に付くウィーンである。アラブマネー、サウジマネー健在也!また、東南アジア、特に中国、韓国旅行者も多い。言葉ですぐにわかる。日本人が一番少ない気がしたが、やはり不景気の影響であろうか。それとも8月のアテネ五輪に照準を合わせてまだ少ないのであろうか(筆者訪問は2004年7月時点)。 6〜7店ある有名店・高級店の中から今回、3店を訪問した。個人的には、ウィーンを代表する時計店としてはHABANとHÜBNERを推したい。HABANはどちらかというとWEMPEに近い重厚な雰囲気だ。HÜBNERは、何と言ってもオーナーであるChristian R.Hübner氏がとにかく時計マニアの情熱家。オタク的な話や逸品を見たいのであれば断然、HÜBNERである。今回は残念ながら閉店時間も近く、時間的な余裕がなかったが、各店とも日曜は休み。閉店時間は6時前後である。時計店だけでもじっくり見るのであれば丸一日は必要かも知れない。 (まずはVON KÖCK訪問〜) 最初にGrabenStrasseでHÜBNER傍にあるVON KÖCKを訪問。店長のS.OLIVERと話をしていたが、色々細かいことになるとどうも的確なコメントが帰って来ない。25歳でGoldsmith5年のキャリアがあるそうだが、時計については店長であるものの、今ひとつ会話が噛み合わない。そこへオーナーであるKÖCK氏自ら話しに加わってくれた。するとどうであろう、今までのあやふやな問答も氷解し、非常に具体的、かつ的確で楽しい会話が出来た。OLIVER君、もっと勉強してくれたまえ! KÖCKはOMEGAに力を入れている。ここで見たミュージアム・コレクションNO.4の'Petrograd 1915'(右写真)には非常にソソられた。ラジオミールを連想させる本格的な可動式LOOP-WIREといい、フランクの幻のケース”2851”のような細身のtonneau shapeといい、そして何よりもRGの上品な輝きと重みが素敵であった。文字盤の数字はともするとラーメンドンブリの模様にも似ているが(失礼!)、何とも魅惑な1本である。KÖCKには気さくに入れる雰囲気があり馴染みやすい店であった。 (大御所、HÜBNER訪問〜傑作品の数々にため息・・・) この店のオーナーC.R.Hübner氏(左写真)はとても明るく、話好き。時計の話し相手?がやって来たと知るや、頼んでもいないのに金庫から色々と時計を持って来てくれた。まずはユリスナルダンのソナタ。ミニッツリピーターの音色が何とも心地よい。18KYGの重みもずっしり。お値段もEuro36,500とこちらもずっしり!次にはユリスの問題作、「フリーク」を出してくる。初めて手にするフリークであり、じっくりと拝ませて頂いた。凄い機械だ! 続いて、Lang&Heyneというドイツ工房のブランドをお見せ頂く。これも中々素晴らしい!数年前よりBASELで発表されているLang&Heyneであるが、ドイツ時計マニア好みの仕様がテンコ盛りである。3/4プレート、ビス留めゴールドシャトン、チラネジ式テンプ、swan-neck緩急針、青焼きネジ使用、sunray-finish等、ヨダレが溢れ出そうな逸品。まさに、Grashütteの伝統仕様を忠実に再現している。それもそのはず、社名にもあるMarco Lang氏の父親Rolph Lang氏は、あのランゲ&ゾーネA.Lange&Sohneの主任時計師でもあるのだから当然か。また相棒のHeyne氏は同じくランゲ&ゾーネの時計学校の第一期生。これでGrashütteスタイルでなくてどーする、という血筋を持つブランドだ。ケースは金無垢でもあり、価格も1万ユーロをはるかに超える。それなりである。大英博物館で見たランゲ&ゾーネの1885年製懐中時計とまさにイメージは重なる。ムムム、、、欲しい、、、 因みに、Lang&Heyneと双壁と言われるのが、これまた家内製手工業を地で行く、ドイツの頑固一徹オヤジブランド、ドーンブリュート&ゾーンD.Dornblüth&Sohnであるが、こちらはまた別の機会に言及したい。(その前に9月1日発売の雑誌「時計Begin」が特集を組むらしいので、そちらも楽しみである・・・) さて、Hübner氏によれば、同店では時計製作まで自力で行うと言い、その技術力、アフターサービスを誇る。SHOW-WINDOWにある掛時計は、一見、SATTLER製と見間違うが、それは同店2階で働く技師が製作したとのことで、『サトラーよりもうちの方が品質は数段上だ!』とHübner氏は鼻高々であった。 下写真、左より: ●ユリスナルダン・ソナタ●Lang&Heyneの「フリードリヒ・アウグスト1世」●そのムーヴメントはひたすら美しいグラスヒュッテ仕様・・・ただただ、ため息。 |
(1967年創業のHABAN〜) ケルントナーKarntnerStr.とグラーベンGarbenStr.の交差する地下鉄駅の真上にそのHABANは重厚な店構えで道行く人々を圧倒する。この威圧感が時計好きにとっては逆に心地良い。 ウィーンではどの時計店でも通りに面したWINDOWにDISPLAYしているので、品定めはし易い。しかし、一歩店内に入ると、そこは商談の場、若しくは会話の場となる。店内に入る時は心して目的を持って入らないと、すごすごと引き返すことになりかねない。特段の興味が無ければウィンドウSHOPPINGに徹する方が賢明であろう。 それにしてもどうしてウィ−ンには、かくも多くの時計店があるのだろう。10年前と比較してもその数は軽く倍増している感覚を持つ。もっとも、それは過去10年間におけるスイス機械式時計業界の大躍進と連動しているのは分かるが、それにしても人口160万人のウィーンである。オーストリア全人口でさえ800万人程度。それが人口では10倍のドイツより3割!?も売上が多いらしい。IWCにおいては2001年の売上個数はアメリカと同じというから俄かには信じ難いのである(source:「BRIO」)。 観光客が可也多いのは分かるが、皆さんリッチな方が多いのであろう。何とも羨ましい限りの、摩訶不思議なウィーンである。芸術、美術都市でもあるウィーンは時計好きにとっても、充分堪能できる街並である。 上写真、左から: ●ご存知時、WEMPEはケルントナーKarntnerStrの中ほどにある。●WAGNER:ROLEX専門店だが、カルティエ等もdisplayされている。●Breguetのブティックもある。 (参考文献) 「BRIO」2004年1月号〜「時計はどこで買うべきか。ウィーン編」(光文社刊) ⇒ (腕時計MENUに戻る) |
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