UNIVERSAL GENEVE  ユニヴァーサル(ユニバーサル)・ジュネーヴ

UNIVERSAL GENEVE "WHITE SHADOW AUTOMATIC CAL.2-67"
 (Case designed by Gérald Genta)




1894年に創業したユニヴァーサル・ジュネーヴ(以下、ユニヴァーサル)。
1944年に発表された”トリコンパックス”が超有名であるが、筆者にとっての目玉はマイクロ・ローター搭載モデル以外には有り得ない。

(温故知新〜マイクロローターの魅力〜)

時計は文字盤のデザインと同様に、中身のムーヴメントも重要である。最近流行りの「見せるムーヴ」、裏スケルトン仕様は個人的には嗜好にあっているので嬉しい。そして、ムーヴメントは全部が見えると更に良い。つまり、自動巻きの場合、常にその半分を隠すローターは鑑賞上、邪魔である。手巻きでは実用面で不便な場合もある。そうした両方の都合の良いところを採用したマイクロローター方式に非常に魅かれている。



(『現行品に傑作品なし』〜)

しかしながら、現代においてマイクロローターを搭載するブランドは殆ど、無い。あるとすれば雲上モデルに限定され、それもPATEK(Cal.240)、 CHOPARD、LANGE&SÖHNE、 GLASHÜTTE ORIGINAL の超絶ブランド4社しか思い浮かばない。もっと手頃な価格帯で無いものか探すと、例えばドイツあたりの無名ブランドでロンダ社製ムーヴ搭載のモデルも無いことは無いが、ニッチ商品となりどうも自分の嗜好には合わない。更に色々調べてゆくと最終的にはやはりアンティーク。ロンダ、ビューレンとあるが、一番機械として美しいのはこのユニヴァーサルであろう。「名品こそはアンティークにあり」、「現行品に傑作品なし」。ユニヴァーサルに巡り合えた今となっては、まさしくそうした格言?は真実なり、と実感している。

歴史的にはマイクロローターは比較的に新しい発明のようだ。文献によれば、1954年にビューレン社がCAL.1000で特許取得(ムーヴ厚4.5mm)。その翌年にはユニヴァーサル社がその名も”マイクローター(MICROTOR)”としてCAL.215を発表。以来、自動巻き薄型競争が激化。1966年にユニヴァーサルのCAL.2-66が2.5mm厚を実現し、ほぼ完成の域、薄さ競争に区切りが付けられたのだ。因みに、現代におけるCHOPARDの名作LUC1.96は3.3mm厚であるが、それでも十二分に薄いと感じる。初めてこのホワイトシャドウWHITE SHADOWを手にした時は、これが自動巻きであるとは俄かに信じ難かった。約40年も前にこのようなムーヴメントが確立されたとは、ただただ人間の英知と技術に心底敬服するのみである。



(CAL.2−67との対面〜)

さて、そうこうして何とか入手したこのマイクロローター搭載モデルは1960年代半ばの製造と思われる。モデル名はホワイトシャドウWHITE SHADOW、2針デイト表示付き。今までてっきりCAL.2-66搭載と思っていたが、実はCAL.2-67であることが今回判明した。因みにCAL.2-66も2針式だが、デイト表示は無い。2針デイト付きでCAL.1-67もあるが、2-67との違いは不明である。

25石、2姿勢補正、19,800vph(5.5振動/秒)、日常生活用防水。ポールルーター系のCAL.69には"MICROTOR"の刻印がムーヴ上にはあるが、左の通りCAL.2-67にはその刻印は無い。天輪もCAL.69と比較すると一回り小さい。この小ささで5.5振動/秒、というのも珍しい気がする。
ケースバックは右下写真のように、ネジ込み式のフラットなタイプ。この時計を手に入れてから中身のムーヴを見たくて仕方なかったが、自分では開ける術もなく、マイクロローター搭載と分かっていながら、どこか煮え切れない思いをしてきた。そして遂にその誘惑に負け、この程市内の時計店で思い切って裏蓋開封をお願いしたのである。




(まさに端正な「美麗ムーヴメント」にうっとり〜)

現在、海外の中東某都市にいる身としては、そして滞在する地における時計環境を考えると、かかる名品を地場の怪しい時計店に委ねることは可也の勇気と躊躇が交錯する。既に裏蓋の一部には相応の傷もあるが、更に致命的な傷が付けられるのではないか、ムーヴ自体を傷つけられるのではないかといった不安と、一方ではマイクロローターを是非確認したいという欲求が葛藤する。まさに清水の舞台から飛び降りる覚悟で、目星をを付けていた修理店兼部品卸店に持ち込んだのである。

こちらの希望を事細かに伝えるが、十分伝わっているかは甚だ疑問。と、そのパキスタン人の時計修理師はその場でいともあっけなく裏蓋を開けた。そして遂に夢叶い、そのムーヴにご対面である。その感動と嬉しい驚きは今でも新鮮に覚えている。期待通りに美しいムーヴメントだ。素人目にはムーヴ自体に錆びも傷も殆ど無く、まるで新品のような輝きである。とても30年以上昔の機械とは思えない。金色のマイクロローター、円周状に彫り込まれたコート・ド・ジュネーヴ、25石の人工ルビーが輝いている。スケルトン仕様ではないのに中身はこのように装飾も手抜きがない。これぞ真正高級時計の証。良い時計としての在り方、ではなかろうか。恐らく60年代当時の売価は7〜8万円程度と推測する。1970年代初に買ったSEIKO5クロノグラフが\16,800と記憶している。当時の7〜8万円とは今で言う20〜30万円位であろうか。確かに高級品ではあるが今のPATEKやLANGE程ではあるまい。至極、「リーズナブルな高級品」であったと思われる。


(Gérald Gentaによるケースデザイン〜)

ローターには7個のボールベアリングも装着され、両方向巻上げ式の回転も極めてスムース。文字盤はドレスタイプで、秒・分目盛は無い。細身のバトン型針も上品。日付は竜頭で早送りできない、この当時の一般的な仕様である。敢えて早送りする場合は、延々と時針を回転させるのみだ。筆者は割り切って、日付合わせは行わず、あくまで「2針時計」として使っている。風防はプラスティック。ケースは艶消しのSS製であり、ケースサイズは縦38mm、横35mmと小振りで手首への納まりも極上。このケースデザインは当時のOMEGAやSEIKOでも良く見ることが出来る。デザイナーはかのジェラルド・ジェンタと聞けば、なるほどと頷く次第。ラグとケースが一体化したデザインは平凡のようだが極めて非凡、独創的で秀逸である。因みに、ジェラルド・ジェンタによるデザインの時計としては、オーデマ・ピゲの名作ロイヤル・オークを筆頭に、コルム・コインウォッチ、オメガ・シーマスター/コンステレーション、ブルガリ・ブルガリブルガリ、セイコー・クレドール1st、パテック・ノーチラス、IWC・ダヴィンチ等、傑作品が目白押しである。




(裏蓋開封、修理必要!?〜)

さて、裏蓋を開けて判明したのは、
@ゴム製ガスケットの劣化
A写真でも見えるが、ケースと裏蓋の接合部にある錆びである。

その場でガスケット交換と錆び落としをお願いし、僅か10分程で作業完了。右がその時の分解写真。ムーヴメント写真だけを撮るつもりが思わぬ収穫!であった。因みに上記工賃の御代は部品代込みで僅か300円也!!!




(CAL.2−66発見!〜)


さてこの修理店にても、また新たな発見が一杯であった。
様々な中国製らしき安価な牛革ベルト(ダース売り)や見たこともない様々な時計部品を箱小売している卸売店である。しかし、その店員は時計に関する知識も薄い。革ベルトと言えば牛革しか知らない。クロコダイルの意味も知らない。そんな店員はマイクロローターを知るはずもあるまいと思ったが、何と「パーツ取り用」として左写真のCAL.2-66を在庫で4個も保管していたのだ。ブリッジにはコート装飾も無く、"2-66"、"R.WEIL"と刻印がある。恐らくRAYMOND-WEIL用に納入されたエボーシュであろう。売価は約\7,500であった。エボーシュのようなこのムーヴだけを見てもマイクロローターの素晴らしい出来ばえを感じる。思わぬ場所で、斯様な傑作ムーヴに出会えるとは、中々どうして侮れない店であった。















(←上左写真) 今回、作業を担当した経歴14年のパキスタン人技師。机の上は時計部品やら工具でぐちゃぐちゃ、、、。
(↑上中央写真) 恐ろしい数・色・種類の中国製時計革ベルト(@\300〜500)や、ファッション時計用と思われる部品箱が山積み。
(→上右写真) ルーペ、工具は安価なインド製と高級スイス・ベルジョン社製が混在。
        インド製で頭に巻きつけるタイプのルーペ(x2.5)を購入した。格安?の600円也。





さて、ムーヴの写真も撮れ、錆び落しもガスケット交換も完了し、思わぬ展開に大満足である。
このように素晴らしいムーヴこそ、出来れば裏スケルトンで毎日拝見したいものだ。日本の某有名店では裏蓋を特別仕様でスケルトンに変更するサービスもあるらしい(但し、持込品は対象外)。もし可能であればいつの日にか是非ともお願いしたいと切に願う次第である。我が愛しのマイクロローター”WHITE SHADOW”は少々リフレッシュした後で、また裏蓋をはめて「普通の生活」に戻るのであった。

とてつもなく素晴らしいムーヴを秘めた時計でありながら、極めて大人しい容姿である。現代のPATEK Ref.5120(=2針式カラトラバ、マイクロローター搭載Cal.240、裏スケルトン)にも通じる思想を感じる。

ユニバーサルのマイクロローター搭載自動巻き。脳ある鷹は爪を隠す。
「良い時計」とはまさにこういう時計を指すのである。(2004/06/27)


(参考文献)
@ウオッチアゴーゴーNO.37(P.123〜「マイクロローター大研究」/ワールドフォトプレス刊)
AウオッチアゴーゴーNO.30(P.24〜「GENEVA NEWS」/ワールドフォトプレス刊)
B世界の腕時計NO.51(P.150〜「キャリバー名作選」/ワールドフォトプレス刊)
Cエスクァイア日本版AUG.2002


(追記〜2009/01/10)

ユニバーサルのマイクローター搭載ムーヴの系譜にて以下、纏めてみる:

Cal.215(1955年) ⇒ Cal.215-1(日付あり) 18,000BPH/28石
↓             ⇒ Cal.215-1(日付なし)
↓               ⇒ Cal.215-97(日付なし) 18,000BPH

Cal.218(1957年) ⇒ Cal.1-69(1966年)、Cal.69(日付あり) 18,000BPH/28石
            ⇒ Cal.2-69(2針式) White-Shadow 19,800BPH/25石 パワーリザーブ48時間
                 ↓
               Cal.2-67(2針+日付あり) White-Shadow 25石 2-position




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