時計に関する随筆シリーズ H

「スイス時計巡礼の旅〜PATEK PHILIPPE博物館探訪記」 
ジュネーヴ編(V) 



(大御所、パテック・フィリップ・ミュージアム PATEK PHILIPPE MUSEUM訪問!)

2002年12月。
ヴァシュロン博物館訪問を終え、次の大きな目玉であるパテック・フィリップ・ミュージアムことパテック博物館へと向かう。ジュネーヴ市内の南方に位置するプランパレ地区にある博物館へはタクシーで10分弱で到着した。
(左写真)パテック博物館の入り口。奥に見える階段を上ると受付に通じる。

パテック・フィリップは1839年創業。以来、165年もの長きにわたり一度たりとも生産を止めたことが無い唯一無二の真性マニュファクチュールである。どこかのブランドのようにごく最近「復興」しながら「機械式時計しか造りません」等と都合の良いことは言わない。正々堂々とクォーツ製ムーヴも搭載するパテックである。本物の懐はそこはかとなく深いのだ。



(160年間の歴史は重厚そのもの。その展示品に圧倒される〜)

受付で入場料を支払う。その後地下にあるロッカーBOXに荷物、コートを預ける。館内は写真撮影OKであるが、三脚使用は禁止である。筆者が観覧しているときは他に客もいなく贅沢にもほぼ独占状態。そして距離を置いて係員が必ず監視している。それはそうだろう、文字通り世界の宝の山であるのだ。まずはプロモーション・ビデオ・ルームで、10分ほどのイントロダクション映画を鑑賞。各ブースでも説明DVDビデオが流れており、嬉しいことにこのDVDは受付で販売されている。今回の旅で最高の土産の一つになった。  (右写真⇒)地上4階、地下1階の博物館の受付




(パテックファンならずとも、必見のコレクションの数々は心臓に悪い?〜)

聞けばこの博物館は2001年11月のオープンしたばかり。筆者はちょうどその一年後に訪問したことになる。このビルは以前はPATEKの組立工場でもあった。

←左写真は、移転前当時の工房、キャビノチェをそのままに保存したものである。今でもこの場所で展示品の修理が実際に行われているというから驚く。このブースは当然ガラスで隔離されているが外からも良く見える。運がよければ本物の時計師がPATEKを修復している光景をナマで観覧できるそうだ。




(右写真⇒)20世紀に生産された傑作品の数々。自社品とは言え、一度は市場にリリースされた商品が多いのだ。フィリップ・スターン氏の並々ならぬ執念であろう。良くぞここまで「集め戻した」ものだ、とその熱意と努力に心底敬服する。

筆者はホラー映画は苦手な方だが、こうしたPATEKの傑作品、マスターピースを鑑賞することも決して心臓には良いとは言えない。鼓動は高まるばかりだ。感動を通り越して、畏怖の念さえ抱いてしまう逸品の数々を前にただただ食い入るのみ。呆然唖然として立ち尽くすのみ、、、である。懐中時計、腕時計ともに展示品のデザインには古臭さは微塵も無い。逆に現行品のデザインのルーツが全てここにあるのが手に取るように分かるのだ。
こうした歴史的名品を眺めていると、「現行品には傑作品無し」とさえも思ってしまう。
鼓動が更に高まる。興奮も続く。本当に心臓には悪い場所かもしれない。






←左写真: 
オートマタ、またはオートマトンとも呼ばれる自動人形付き懐中時計。別売りDVDではモーゼ、と呼ばれる傑作オートマタの仕組みも見られるので必見である。










←左写真: 
銃口に小鳥が仕掛けられたオートマタ。何と17世紀!に作成されたという。勿論、修復されており現在でも動く!というのだからこれまた驚く。蒐集するのも修復するのもパテック・フィリップである。云わば、現代腕時計世界の頂点に君臨する技術が惜しみなく注がれる歴史的逸品だらけだ。そしてこの動きもDVDで自宅でもいつでも楽しめるから嬉しいではないか。展示ブースにも同様なDVDディスプレイがあり、そうした動作を観覧できるのは親切な配慮である。








←左写真: 
ワールドタイムの数々。パテック・フィリップの総師フィリップ・スターン氏が執念で世界中から蒐集した傑作品である。この内、1本でも手に入れられれば、などという思いをふと抱いてしまうが、現行品でさえ手が届かないのに大それた夢物語、である。それにしても美しい。腕時計とは腕時計に留まらないのだ。その枠を越えて、科学・天文学・美術・工芸・哲学・数学・・・人類の英知の結晶、でさえあることを痛感した。。。









←左写真: 
傑作品の数々、特にオートマタ、複雑時計の仕組みの解説は素晴らしい。また、手巻き機械の仕組みやら、キャリバー89の詳説など、全てナレーションは無し。文字通り観て楽しめるDVD。字幕は英語、仏語のみ。








     



(出来れば、時間には十分の余裕を持って訪問したい〜)

見学には時間がいくらあっても足りない。少なくとも半日、最低でも2〜3時間はじっくりと余裕を見て訪問したほうが良いであろう。後述、ラ・ショード・フォン時計博物館のコレクションの裾野の広さも素晴らしいが、このPATEK博物館の蒐集品のレベルの高さ、内容の濃さ、迫力には震撼さえするのだ。

ヴァシェロン本社博物館、そしてこのパテック博物館と、怒涛のような傑作品の数々に触れるにつけ、一体、「良い時計」とは何であろうか?という根源的な命題に真正面から直面せざるを得ない。果たしてそれはブランドによるものか?歴史?ムーヴメントの仕上げ?各自の思い入れ?デザイン?はたまた・・・?混沌とした価値観のカオスにどっぷりと漬かってゆく自分がいる。その果てには恐らく明快なる回答は無いであろうことも予感する。かかる大命題に対して、さほど簡単に回答などは得ることは出来ないのだ。しかし、その回答とは自分が創り上げることである。そして回答そのものも自分の成長、変化と共に、また時代や環境と共に移り変わるであろうということも並行して感じつつ、更に次なる目的地へと向かうのであった。

偉大なるパテック・フィリップ博物館に最敬礼、である。



(時計オヤジの関連WEB)
『2005年11月、再訪
『PATEK PHILIPPE MUSEUMこちら



追記1)上記は2002年12月の初訪問時のレポート。当時は館内での写真撮影はフリーであったが、2005年11月再訪時からは写真厳禁、となる。カイロ博物館のツタンカーメンも同様であるが、こうした傾向はどこも同じか。少々寂しい、残念である。(2007/2/18)





(時計オヤジの『2002年12月のスイス時計巡礼』関連のWEBはこちら)

⇒ 『極上時計を求めて〜ジュネーヴ編』はこちら・・・
⇒ 『ヴァシュロン博物館探訪記』はこちら・・・
⇒ 『パテック・フィリップ博物館探訪記』はこちら・・・
⇒ 『フランクミュラー、ウォッチランドWatchLand探訪記』はこちら・・・
⇒ 『ラ・ショード・フォンLa Chaux-de-Fond聖地探訪記(T)』はこちら・・・
⇒ 『ラ・ショード・フォンLa Chaux-de-Fond聖地探訪記(U)はこちら・・・




(時計オヤジの『2005年11月のジュネーヴ再訪〜』関連のWEBはこちら)

⇒ 『ジュネーヴ再訪、PART-1』はこちら・・・
⇒ 『ジュネーヴ再訪、PART-2』はこちら・・・
⇒ 『パテック・フィリップ・ミュージアムPATEK PHILIPPE MUSEUM再訪』はこちら・・・
⇒ 『再訪、新メゾン・ヴァシュロン・コンスタンタン』はこちら・・・
   ⇒ 『2002年12月、旧・ヴァシュロン本社博物館探訪記』はこちら・・・
⇒ 『2005年11月、ショパールChopard本社工場探訪記』はこちら・・・


(時計オヤジの
『2006年1月、Watch Valleyこと、厳寒のVallèe De Joux時計聖地巡礼の旅』関連のWEB等)

⇒ 『その1、ジュネーヴ到着編』はこちら
 ⇒ 『その2、ジュネーヴ買物編』はこちら
   ⇒ 『その3、ジュネーヴ気になるブレゲ編』はこちら
    ⇒ 『その4、新生ヴァシュロン・コンスタンタン工場訪問記』はこちら
     ⇒ 『その5、ウォッチランド再訪記』はこちら

       ⇒ 『その6、時計師ホテル滞在記』はこちら
        ⇒ 『その7、 AUDEMARS PIGUET & Co.博物館訪問記』 はこちら
         ⇒ 『その8、ヌーシャテル訪問記』はこちら
          ⇒ 『その9、オメガ博物館訪問記』はこちら

    最終章   ⇒ 『その10、旅の終着点、ラ・ショード・フォン再訪』はこちら



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