随筆シリーズ(94)

『Glashutte Original/Senator Sixties Panorama Dateの考察』





Glashutte Original(以下、GO)、個人的には可也好きなブランドである。
『時計オヤジ』が愛用するのは手巻きPano Reserve
こちらのレポートは別途行うが、今回は2010年の新作Sixties Panorama Date。
60年代のGUB意匠について好みは分かれるが、この文字盤の加工具合は可也良い。
Pano Reserveの露払いとして、まずはこの最新モデルを論評する。(2011/6/18)



(GO渾身の作品は『引き算の美学』から生まれた〜)

その出自からして、とかくランゲと比較される宿命を負うGO。
2004年にグラスヒュッテの本社工房を訪問したから、という訳ではないが『時計オヤジ』はGOのファンでもある。
そのマニュファクチュールとしての力の入れ様、気合の入り方は真剣そのもの。
出来ればいつか、もう一度GO本社と最新時計博物館を訪問したいと願っている。

このモデルは昨年2010年のバーゼルモデル。
云わば出来立てホヤホヤのモデル。
42mm径ケースに薄いベゼル幅で、文字盤面積が目一杯広げられ、周辺状に段差(=落ち込み)を持たせた古典を主張する文字盤。この出来栄えは往年のオメガをも連想させ、すこぶる上質・上品な仕上がりだ。分針INDEXまで届く、先端が曲げられた長針といい、クラシックのツボの押さえ方はSixtiesと命名するだけあって見事。

一見して分かる特徴が、
@ Big-Dateこと、Panora Dateが中央に鎮座すること
A 60年代のGUBの雰囲気を残す、12-3-6-9数字をも持つこと

しかし、もう一つ最大の特徴は直ぐには理解できまい。
そのINDEXの加工内容がこのモデル最大の目玉、といっても過言でない(⇒後述)。
唯一の注文は、パノラマデイトの『書体』にある。
このゴシック数字は何とかならんものだろうか。せめて、INDEXのGUB書体に連動させるとか(視認性悪いだろうけど)、もっと他の書体にすべきであろう。ゴシック数字では余りにも文字盤のデザイン・雰囲気にそぐわない。ここだけが孤立している。Big-Date表示が好みであるが故に、どうしてもこの点だけが解せないし、再考を望むところである。








(←左写真: このBar Indexに注目〜)

GUB時代の復刻数字書体の是非はさておき、目玉はBAR INDEX処理。
ダイヤモンドカットで彫り込んだというINDEX(=Hour Marker)は
植字方式の逆発想で誠にユニーク。
云わばマイナスの発想とでも言うべき見事な仕上げは、
現代において他に類を見ない方式。
文字盤を彫り込んで、そこに金ペイント(?)を施す。
植字方式でも、単純ペイント方式でもない、直接文字盤に刻印する方式は、
現代においては知る限り、このGOモデルしか存在しない。

まさに、『引き算の美学』がここに開花している。












(⇒右写真: Cal.39-47は凡庸だが丁寧な仕上げ〜)



Cal.39は自動巻きで勿論、GOのオリジナル、自社製キャリバー。
その仕上げや精度には何等不安は無いのであるが、審美性・醍醐味という観点からは訴求する要素が低い。これは正直、残念な点。
恐らくコスト観点からこの廉価版Cal.39を搭載したのであろうが、せめて18KPGケースには、チラネジ付きのダブルバレルcal.100とか、ダブルスワンネック式偏心ローターの自動巻きCal.90や、手巻きならCal.65を搭載すべきであろう。Cal.39では少々物足らないのが実感だ。
チラネジもシャトンビスも見られないキャリバーというのは、GOの他の機械が可也のレベルにあるだけ、少々悔やまれる。

もう一点、裏面のグラスバック面積が異様にデカイ。
キャリバーの直径を考えれば、外周目一杯まで広げたグラス化というのは、少々やり過ぎではあるまいか。これはSixtiesに共通した意匠ではあるのだが、キャリバーで見栄えがしないだけに、通常のグラスバック方式の方が似合っているように思えてならない。





(SSクロノでも文字盤のIndexは同様のダイヤモンドカット方式が採用〜)

コチラは以前に発売されているCal.39ライン搭載のクロノ。
文字盤Indexは同様に、ダイヤモンドカット仕様である。
丸型ケースとクッションケース。どちらもノスタルジー満載。『時計オヤジ』であれば両モデル共に黒文字盤モデルを選択する。
このデイト無し、横並びクロノ2眼というのが普遍のデザインでもあり、視認性からも非常に宜しい。

GOはランゲとの競合、張り合いから可也意識した商品開発を行ってきたが、ここに来て、ようやく両者の立ち居地が課今見えてきた気がする。
ランゲは、1994年以降の再生ランゲを標榜した古典路線。古典であるが、ランゲ1に代表されるように新たな独創的デザインを見事に昇華させている。
方やGOはGUB時代回顧とセネタークロノメーターに見られるグラスヒュッテ伝統の古典意匠の2つを両輪とする路線。

今回のSixtiesはまさにGUB時代オマージュモデルであるのが、そうであればPanorama Dateの書体工夫など、もう一歩突っ込んだ完成度を求めたい。中身の機械は素晴らしい。残るはデザイン陣の踏ん張りにかかっているのがGOの現在と考えるのである。
(2011/6/18) 373200





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