時計に関する随筆シリーズ (82)

『2010年、新作モデル・ベスト3』
〜昨年に続き、『時計オヤジ』の気になる新作時計3本について〜





2010年新作で一番の注目モデルは『ランゲ1・デイマティック』に他ならない。
センターローター搭載の自動巻きとしては、美しさの次元が違う。
数ある現行品の中でも世界一美しい。
その理由は独創性溢れるローター形状と脱進機周り、そして偏執狂のごとく拘るシャトンビス留め方式にある。
このムーヴメント開発によって、A.ランゲ&ゾーネは他社製品に2〜3歩、また差を付けてしまった。
この時計には久々に感動するのだが、表より裏面の魅力が際立つランゲ渾身のモデルだ。(2010/7/16)




(ランゲ1・デイマティック〜この時計は買いたい気にさせられる魅力が満載。
                        唯一の欠点はパワリザ表示が無くなった事だ〜)

基本的にランゲは全てのモデルで間違いはない。
特にランゲ1は同社のアイコン的モデルであり、それに今回初めて自動巻きが搭載された。ケース径39.5mmはギリギリセーフだろう。

何が素晴らしいと言って、冒頭の写真にもある新開発ムーヴを見れば一目瞭然。芸術的な境地にも達したセンターローターの美しさ。特に中心から2本づつ左右に伸びる、波打つアームの造形美には見事にヤラレタ。このデザイン力は並ではない。次元が違う。従来のローターデザインの常識を完全に打破している。流石、ランゲ、であると納得。

最近、シチズンから新自動巻き搭載の機械式時計(The Citizen)が発表されたが、こちらのローターデザインは可也、醜い(⇒率直な個人的感想)。このランゲのローターをじっくりお手本にして、是非とも今後の改良に結び付けて欲しいものだ。


ランゲ自慢の偏執的なまでに『これでもか連続』の微小青ネジによるシャトンネジ留め処理といい、旧PATEKのように新開発のマスロット6つ付きのテンワといい、3/4プレートで輪列が見えない弱点を補うに余りある仕上げの良さである。加えて、全体的にもこの上ない気品が漂う。

しかし、そうしたムーヴメントとは対照的に、端整過ぎる顔立ち故に、表の文字盤は『相変わらず』、少々迫力に欠ける。
特に手巻きモデルではパワーリザーブのインジケーター針であったが、このモデルではレトログラード式の曜日表示針に変わってしまった。残念ながら、これだけは許し難い。どうしてこのモデルでもパワリザ表示にしなかったのであろうか。
曜日表示なぞ無くても不自由は何一つもない。それよりも遥かに実用的なパワリザ表示の方が、躍動感に満ちて、如何にも機械式の特徴を感じさせるデザイン&機能にも成り得たのに残念至極。これは数少ない弱点ながら、結構、致命的かも知れない。今、『時計オヤジ』が動けないのはこれが理由。

一方、時計部分を右側に移動させたのは見識あるデザインと言える。
左手首に時計をはめる『時計オヤジ』には、Yシャツの袖口から最も見易い位置となり好都合。
これは大きな改良点になる。 但し、曜日表示にしたことだけは、クドイが失敗である。この点だけが何とも惜しい・・・。
それにしても『時計オヤジ』が久々に欲しい、と思わせてくれる逸品には間違いない。
これで黒文字盤のギョシェモデルでも出てきたら、本当に恐ろしい行動に出てしまいそうで自分が怖い・・・。
























(↑上写真: ブレゲTraditionプラチナケース、ref.7047pt/11/9zu〜)


トゥールビヨン搭載、チェーンフュゼ方式による動力伝達システムを持つこのモデルが今年はプラチナケースに納まった(↑上写真、左側)
個人的には
イエローゴールド(↑上写真右側)かピンクゴールドが好みだが、この超絶モデルには脱帽。

デザイン的にはブレゲの古典に範を求めつつ、更にオマージュを加えて最新の工作機械と金属素材から織り成されるこのモデル。よくぞ41mm径に収めたものだ。

ランゲ1とは別の意味からも『時計オヤジ』は心底、賞賛したい。
現行モデルの中でも最高峰と崇拝するのがこのモデルだ。
但し、仮に実際に手にするチャンスがあっても、そのメインテナンス・コストと期間を考えれば、おいそれとは手にしてはいけないモデル。いやいや、欲しくとも『時計オヤジ』には、価格的にも現実的にも手が届かないモデルである。

憧れのモデルだが禁断のモデルでもある。
禁断ゆえに、憧れは加速度的に増殖する。
何を言っても溜息で終わる、究極の時計であるのだ。









(”TANK LOUIS CARTIER XL”は、プチ・コンプリの様相を呈する〜)


18金PGにチョコレート色の文字盤という組み合わせだけで存在感が際立つ。
12時位置のデイト表示は3日分見えるのが好みではないが、手巻きというのがTANKらしくて宜しい。
6時位置の針はパワリザ表示であり、手巻き式にはピッタリの機能だ。

時計雑誌でも報ぜられるケースが殆ど無いが、このTANKにこそCARTIERの伝統と時代の潮流に乗ったデザインの底力を垣間見る。
既存のTANK LUOIS CARTIERのケースが少々小振りであるので、是非とも存在感ある大きさになっていることを願う。せめて、TANKソロ並か、一回り大きくなって欲しいものだ。
今年9月の発売が今から待ち遠しい。







(次点その1〜BEDAT&CO.からは新型のNo.8が抜群の出来栄え〜)


まるでCARTIERのバロンブルーのような洒脱なデザイン。
太く、独創性ある青色(焼き?)時針がコントラストにもなっている。
ルミノールのような竜頭ガードといい、ローマ数字の書体といい、過去の時計史に残る名作から『いいとこ取り』したようなデザインに見えなくもないが、全体の纏め方は見事に個性として輝いている。従来のNo.8より数段上を行くデザイン。成功である。

地味でシックな時計だが、ベダのデザイン陣はツボを抑えている。
数字のWでは、CARTIERを髣髴とさせるAUTOMATICの文字を数字の一部に組み込んでいるが、二番煎じ的デザインとは言え、中々上手い仕上がりだろう。ケース径36.5mmというのも、極めて常識的サイズであり、ユーザーの対象も常識人を狙っていることが読み取れる。

ベダは女性用モデルに傑作品が多いが、今回のNo.8は久々に纏まりあるバランスのとれたデザインだ。










(次点その2〜新型SS製サブマリーナ〜)

2010年BASELでようやく、新型サブ(SS)が発表となる。
新味性は少ない予想通りの内容だが、新型グリーンサブでは文字盤までグリーン(⇒右写真)となったのは誤算。これは少々やりすぎ、だろう。

新型であれば『黒文字盤』が絶対に良い。
特にセラミック製ベゼルは大のお気に入りで、もうこれだけで買う価値ありと思っちゃう程。
今後10年間はこのモデルが世界のダイバーズ・ウォッチを再びリードすることは間違いない。いわばダイバーズモデルとしてのベンチマーク、『業界標準器』として君臨するであろう。基本性能の高さに加えて、今回のセラクロム・ベゼルとグライドロック・クラスプの導入で更に死角はなくなった。

個人的には新型ケースの、特にラグ周りのボテっとした形状が好きになれぬが、ボリューム感を増した新型サブマリーナは間違いなく、全ブランドの現行モデルにおけるダイバーズの頂点に位置することは間違いない。

唯一の懸念点は価格。定価70万円を超えるのはいくらなんでも高すぎる。この手のSSモデルでは、せめて50〜60万円のレンジに抑えてもらわないとユーザーとしては辛いなぁ〜〜〜。

新型青文字盤モデル旧型グリーンサブはこちらを参照。





(次点その3はラジオミール手巻き42mm〜)


ラジオファンとしては、『贔屓当選』せざるを得まい。
新型キャリバーP.999でチラネジ+スワンネック付き(18金のみ)手巻きキャリバーというところがミソ(⇒右写真)。これでユニタス搭載手巻きBlack-sealの余命は決まったも同然。

新旧デザインが混在するキャリバーなのが、ちょいと引っかかるのが本音のところ。これも時代の潮流なのだろうけど、『時計オヤジ』はもう少々、伝統的な形状の受け板配置が好み。

表の文字盤は相変わらず、数字の9が存在しない。どうしていつもこうなるのであろうか。
理想はPAM00062であり、PAM00103であるのだが、12−3−6−9の数字を実現してくれないことが常に不満。

45mm径でもなく、40mm径でもない中途半端な42mmケース径も、やや好みから外れる。
あ〜、『時計オヤジ』にデザインさせてくれないかなぁ〜、と正直、少々フラストレーションが溜まるモデルではある。(2010/07/16) 309000









(『時計オヤジ』のバーゼル&S.I.H.H.関連記事はこちら〜)
@2008年BASEL観戦記〜バーゼル会場までの到着編はこちら
A2008年BASEL観戦記〜バーゼル会場編はこちら
B2008年BASEL観戦記〜気になる時計編はこちら
C2008年BASEL観戦記〜市内&宿泊番外編はこちら
D2008年BASEL観戦記〜気になる時計2 & 総括編はこちら


⇒『2004年バーゼル&SIHH特集雑誌を斬る』はこちら
⇒『2005年バーゼル特集記事に創意工夫は見られたか』はこちら
⇒『2009年新作モデルBEST3』はこちら



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