時計に関する随筆シリーズ (76)

『2008年、BASEL観戦記A』

〜バーゼル会場編〜





バーゼル・ワールドは広い。
大雑把に言えば少々離れて時計館が2つ、独立したブルガリ館、そして宝飾館である。
折角の訪問だ、全部、隈なく見て回りたいが時計館だけでも広大。
最低でも丸二日は時間が欲しい『大人の遊園地』は、脚力・体力が求められる『消耗戦場』でもあるのだ・・・。




(主要メゾン時計館の正面玄関を抜けると、そこはいよいよバーゼル・ワールド♪〜)


待望の時計本館を入ると、そこは時計ファンにはたまらない異次元空間である。
まず視界に入るのが『一等地』の右側に陣取るPATEK館と左側に対峙するROLEX館だ。雑誌等でおなじみの光景なので違和感無く目にするのだが、その規模はかなりのもの。
←左写真でも見えるが、グルリと円形を描く小さなショウ・ウィンドウからは各シリーズ毎の2008年新作モデルやら、歴代の名作キャリバーが一同に展示されている。PATEKファンならずとも、ミニ博物館を呈したこのディスプレイには暫し釘付けとなる。

個人的に注目したのは新作アクアノート40mm径モデルのブレスレットとトノー型2針の手巻きゴンドーロ。特に前者は旧型アクアノート・ファンの『時計オヤジ』としては興味津々である。







(←左写真: PATEKに対抗するかのように陣取るROLEX〜)

この写真もおなじみの光景だろう。
今回、疑問に感じたのは、こうして見るとROLEX展示館は毎年、デザインが同じであるということ。IDが徹底されているのだろうが、各ブースともに、かなり本格的な作りである。丸で、毎年そこに存在するかのようだが、バーゼル会場は時計博の為だけにあるのではない。とすると、毎年、各ブースを建設しては取り壊す繰り返しなのだろうが、それにしてはこのROLEX館のように大理石(調?)で作られた壁や階段といい、それは見事な出来栄えなのだ。
今年のROLEX注目モデルは何といってもDEEP-SEAと青ベゼルのSUBMARINER(18K&SSのコンビ仕様)である。特にDEEP-SEAは3900mという実用域を遥かに超えた超絶潜水モデルであり、間違いなく会場の注目を浴びた1本である。






(←左写真: 正面通路を突き進むとそこは『ハイエック帝国』の世界が広がる〜)

会場のほぼ半分を占めるのがハイエック会長率いる”SWATCH館”である。
写真でも分かるように、SWATCHグループのヒエラルキー頂点に位置するブランドはブレゲ。グループの中核を担うのがオメガである。それを支えるのが、Longinesであり、Glashutte Originalである。この4大ブランドがSWATCHグループの牽引力であることが、展示スペースと配置から分かるのだが、多分、当たらずとも遠くはない分析だろう。
Longinesの力の入れようは可也のもの。価格的にはOMEGAの下に位置するマーケティング戦略だが、最近の新作モデルを見ても力の入れようが分かると言うもの。

脱線するが、個人的には今年2009年に発表されたLongines300m防水ダイバーの”STAR NAVIGATION”が素晴らしい。中身はETA2824/2だが自動巻きで16万円台、且つ青色文字盤に映える星座のモチーフが何ともいい雰囲気を醸し出している。裏蓋の七宝焼きメダルといい、イカ針の短針といい、デザイン面における『自由度・遊び度』が抜群の出来栄えだ。”ROLEXサブちゃん”も宜しいが、こうした軽いお遊び的要素を取り入れることが出来るのがSWATCHグループの強み、底力と言える。




(←左写真: 高級感一色のBREGUETのブース〜)

多分、ハイエック会長の一番のお気に入りがSWATCHファーストモデルとこのブレゲだと推測する。
アブラハム・ルイ・ブレゲ(1747-1823)は生誕250年を経過して、今も脈絡と受け継がれる『時計の原点』であるが、最近4〜5年におけるブレゲの進化(=正常化路線)には個人的に注目している。折りしも時代はブームとしての大型化が定着した時代でもあり、ブレゲもそのトレンドを上手く取り入れ、仕上げにおいても従来以上の進歩を感じるのだ。

ここで写真撮影をしていると、ブレゲのスタッフから突然、中止するように指示を受けた。原則、ブース内の写真撮影が禁止だからだ。ここで、”プレス特権”を利用し、プレスカードを提示することで”撮影継続許可”をもらったのだが、特に独立時計師や中小メゾンのブースではプレスであっても写真撮影禁止しているところもあるので要注意だ。



それにしてもブレゲは素晴らしい。
中でも複雑系のトゥールビヨン搭載モデルとクラシック・シリーズ系のシンプル・ウォッチの出来栄えはブレゲの真骨頂。
特にクラシック・シリーズは最近、ケース径のサイズアップを図り38〜40mmにまで拡大したが、全体のデザインバランスに破綻を来たさないところがブレゲの実力である。その理由はブレゲ針とギョシェ彫りにあると感じているが、詳細は後日『ブレゲ研究』(仮題)で論じることにする。




















←左写真: ブライトリングには特設巨大水槽がお目見え〜) 

今回の展示ブースで一番、刺激的であったのがこの水槽。
丸でミニ水族館を思わせるブライトリング館には驚きと拍手喝さいである。
空のイメージが強いブランドであるが、敢えて水槽勝負に出た理由は定かではないが、インパクトでは今回のブースNo.1である。

バーセルは基本的にはプロ同士の商談会場だ。
世界中から集まるバイヤーとの年に一度の真剣勝負の場でもある。よって、基本的に各ブースとも関係者以外の立ち入りはご法度。ブース周囲には代表モデルが展示されいるが、それはあくまでオマケ的な存在。基本は関係者によるブース内での商談が中心である。よって、一般見学客やユーザーはブース外見からそのトレンドを垣間見たり、新作をナマで拝顔するのが目的となるが、メゾン関係者と話す機会は中々無いのが実情である。

さて、上記ブランド以外にも元気の良いメゾンは沢山ある。ショパール、ゼニス、モバード、ユリス・ナルダン、エテルナ、ポルシェ・デザイン、エベル、コルム、タグホイヤー、ベダ&Co、グッチ、エルメス等等、日本では代理店の関係からかあまり目にしないメゾンも多いが、特にエテルナあたりの新型キャリバーには目を見張るものがある。気になるメゾン&モデルは次回に触れることとする。




(←クルエボ・イ・ソブリノスでは葉巻作りが〜)

ブランド的には全く関心が無いのだが、展示館の派手な黄色いデザインに惹かれて入ってみた。
するとそこでは艶かしい美女による葉巻作りの実演が行われているではないか。

成る程、キューバン・シガーこそ、このブランドには相応しい。それにしても奇抜な実演を行うもの。『時計オヤジ』も時計そっちのけで、暫し、手巻きシガー実演(若しくは美女のしぐさ?)に釘付けとなる。


クロノスイス展示館も中々の雰囲気であったが、こうしたブースまで特徴を表現してくるメゾンは可也”本気”である。








(← フレデリック・コンスタントではピーター・スタース社長自ら説明する〜)

FCも元気一杯だ。以前、2006年10月にプラ・レ・ワットの新工場訪問記でも述べたが、FCの勢いは増す一方だ。自家製キャリバーやトゥールビヨンまで完成させたネザーランド・パワーには目を見張るばかり。

この先も廉価モデルとマニュファクチュール路線の2本立てで、決して高額路線に走ることなく、適正中級モデルを開発してくれることを願うばかり。
社長自らトップセールスで牽引するこのメゾンは、兎にも角にも若さが命。
従業員もブランドも全てが若い。そして、恐らくその販売戦略にも工夫が考えられているはず。そうでないとここまでの躍進はちょっと考えにくいが、一方でこの4〜5年の時計バブル期が終焉を迎えた今、その実力が真に試される時期を迎えているのである。






(←FCのメイン技術者兼開発責任者のピムさんと再会する〜)

FCの前年(2007年)の年間生産本数は8万本に達したという。彼が入社した当時の5〜6年前には35,000本であったと言うから、この間、約2倍以上に拡大したことになる。背景には新工場がようやくフル稼働してきたことと、CNC工作機械のフル活用、若い優秀な技術陣、そして全世界における販売網が構築しつつ生販両輪が順調に噛み合って来たことを物語る。

ピムさんも同郷の”カリスマ社長夫妻”に心酔している様子がこちらにも伝わってくる。技術責任者としての大役を任されて見事にこなしている。その笑顔からも今の職場で実力を遺憾なく発揮している姿に、『時計オヤジ』も嬉しく感じる。頑張れ、若き時計師ピムさん!






(『ハイエック広場』で突如、シャンパン・パーティーが開催される〜)

午後4時前後だと記憶する。
上述ハイエック帝国の広場の天井から突如として銀色の垂れ幕が沢山下がってきた。
中央正面には特設バーカウンターが登場。そこで写真↓のようにポメリーのベビーシャンパンが配布され、会場は臨時シャンパン・パーティーへと変貌する。このPOPなるベビーシャンパンは本格的な味で、歩き疲れ果てた夕方にはもってこいのタイミング。勿論、無料で誰でも参加できる。日本人ツアー客らしき団体さんは遠巻きに『見学』しているが、『時計オヤジ』は真っ先に参加させて頂いた。こうしたサプライズと出会えるのもバーゼルの楽しさである。




















バーゼルの一日がようやく終わる午後6時。
会場正面の外の広場ではこのような臨時ジャズ演奏が繰り広げられる。
会場の内でも外でも、皆を楽しませようとする主催者の心配りが嬉しい限り。
こうした遊び心は我々、日本人に一番欠けている点である。
時計ジャーナリストの皆様には斯かる大衆余興に興じる暇などは皆無であろう。

午後6時と同時に一挙に大量の人々が会場から帰路に着く。
『時計オヤジ』もこのあと、ドイツ領にある田舎町へとチェックインするために今晩の『足』を必死で探すのだ・・・。(2008/10/12)

















To be continued 〜


(『時計オヤジ』のバーゼル参戦記シリーズはこちら〜)
@2008年BASEL観戦記〜バーゼル会場までの到着編はこちら
A2008年BASEL観戦記〜バーゼル会場編はこちら
B2008年BASEL観戦記〜気になる時計編はこちら
C2008年BASEL観戦記〜市内&宿泊番外編はこちら

D2008年BASEL観戦記〜気になる時計2 & 総括編はこちら

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