時計に関する随筆シリーズ (34)

「2005年バーゼル&S.I.H.H.ジュネーヴ特集記事に
”創意工夫”は見られたか?」



(昨今の腕時計雑誌事情とは〜)

2005年5月。
各誌とも一斉に時計特集記事をリリースし始める。

例年のことながら5〜6月でほぼ主要雑誌の特集記事が出揃ったようだ。
昨年と比べるとこの一年で男性雑誌に新刊が多くなったことに気がつく。狙い目は30〜40歳層以上のお洒落オヤジ世代。

老舗『Men'sEx』は昨今、『LEON』に大きく触発されている。キーワードは『控えめリッチ』。これでLEONに全面対決を迫る。一方、元祖『ちょい枯れオヤジ、ちょい不良(ワル)オヤジ』の権化たるLEONは、益々悪乗りして?その過激なコピーテクには、最近歯止めが効かない。それを追随するのがMEN'S EX始めとする各誌であり、新刊世代である。そうした状況が時計紹介誌、ファション系雑誌の潮流である(と、勝手に決め付けている)。これに影響を受けまいと、保守本流の時計誌として一線を画すのが『TIME SCENE』であり『ESQUIRE日本版』であり、そしてややくだけるが『時計Begin』であろう。

別の表現をすれば、バブル時期の再来を狙う?破天荒な『LEON』を世界文化社グループたる『Men'sEx』と『時計Begin』の2誌が挟み打つ。そして正面からは『TIME SCENE』が、LEON後方からは『ESQUIRE日本版』が完全包囲網を敷く構図、というところが時計オヤジの位置付けだ。かくもLEONがもたらしたIMPACT、衝撃は誌面構成においても、そしえその独特なコピー、キャッチフレーズの命名方法にしてもインパクトは絶大であるのだ。


(本年度の『秀作時計』を時計オヤジなりに選定すると〜)

さてさて、今年の新作時計にはあまりに『醜悪なデザイン』が多過ぎた。
このWEB では個別モデルの批判を目的としないので実名の指摘は良しとしない。しかし、そうしたモデルを評価、賞賛する記事の何と多いこと。仕事柄・職業柄とは言え、ライターの真なる気持ちを慮(おもんばか)ると察して余りある。ライターが時計好きであればある程、さぞ楽しくもアリ、辛いこの時期であろう。

では、何が醜悪なデザインであるのか。時計オヤジの基準は以下の通り:

1) トゥールビヨンの大乱発。いつかはこの時代が来るとは思っていたが、新興ブランド、新ブランドまでがいきなりトゥールビヨンで勝負してくるとは最早、隔世の感あり。歴史の無いブランド、トゥールビヨンの安売りはお断りだ。

2) で、あるからか堂かは分からぬが、迎え撃つ老舗も実力時計師もダブル&クワトロ・トゥールビヨンを作ってどーするのであろうか?共振ムーヴを作るのは、ノーマルテンプのFPJだけで充分である。合金技術が限りなく進歩した昨今では、慣性モーメントが大きくなるマルチ・トゥールビヨン搭載のムーヴも可能となったようだ。しかし、果たしてそこまで実践する意義が本当にあろうか。車のV10、V12気筒エンジンではないのである。そんな機械を多積化、並行搭載して何が良いのか???更に言えば、そもそもトゥールビヨンの精度表示、比較検証は業界のタブーでもある。どこかの雑誌でトゥールビヨンの精度比較を行って頂きたいが、斯様な勇気のある特集はどの雑誌も組めないのが悲しいかな現実である。勿論、精度以外にトゥールビヨンへのオマージュは絶大だ。しかし、どの雑誌も特集も、精度精度と謳っている。であれば、精度特集で真っ向勝負したらどうだろう。。。ヒジョーに興味ある特集となろうが、やはり無理だろうなぁ。多分、COSCには負けるであろう、と時計オヤジは推測するのだ。BRIO 7月号(81ページ)によれば、グルーベル・フォーシーGREUBEL FORSEYはトゥールビヨンの精度公表を行ったそうだ。変化がおきるのはどの世界も大手メゾンからではない。時計界のホリエモンたるグルーベル・フォーシーは要注目である。

3)汚いデザインの多針式時計が多すぎる。老舗B社も相変わらず。文字盤、ケース、全体の雰囲気全てが醜悪な時計あまた数え切れず・・・。淘汰される前提の新興ブランド?も数多く見えるのは『時計オヤジ』の考えすぎか?

そんな中、筆者の選ぶ今年の秀逸時計とは以下の7本(順不同):

1) クラシック・ブレゲ・トラディション: 
   懐中時計のイメージで再現した両面スケルトン、手巻でケース径37mmに納めたというのが凄い。本当に37mmだろうか?更にその意匠は、まんま懐中時計。よくぞ作りました。ハイエック会長の遺産(御存命だが)とも言うべき渾身の作品が227万円(18KYG)というのはマジメな価格設定ではなかろうか。

2) クロノスイス・デジターDigiteur: 
   Cartierのタンク・ア・ギシェと勝負になるが、こちらが数段上。手巻キャリバーFEF130搭載の古典的意匠裏スケ。面長のフレアケースも素晴らしい造形美を誇る。予価105万円というのはタンク・ア・ギシェ(343万円)と比較しても破格の安さ!?で、デジターに軍配が。ジャンピング・デジタルとでも言えそうなこのデザイン。シックである。オーナーのゲルト・リュティガー・ラングG.R.Lang氏のしてやったり顔が眼に浮かぶ。しかし、『時計オヤジ』はアナログ針がやはり好み。買いたいが買えない理由はそれ。

3) ボーム&メルシー・クラシマ エグゼクティブ レトロクロノグラフ: 
   いいですね、ケース径39mm。105万円也。こうした古典的二つ目クロノは。加えて18KRG製で桃金、裏スケときたら文句の付けよう無し。でもこのムーヴはどうもETAっぽいけど、誰もムーヴに言及してくれない。記事の詰めが甘いな〜、と思ったらMen'sExがETA7753と指摘。やっぱりね。でもちょっとがっかり。

4) F.P.JOURNE クロノメーター・スヴラン:
   裏スケ、18KRG製の独創ムーヴに、アイクポッドのような針を持つシンプル・パワーリザーブが潔い。ケース径40mmは少々大き目。ZENITHのEliteシリーズにも似た雰囲気がある。トラッドな顔が良い。但し、F.P.Journeのロゴがデカ過ぎる。バランス悪し。18KRGで231万円。

5) FM・角型手巻 ロングアイランド・ジャンピングアワー・トゥールビヨン:
   これも顔が良い。デザイン最優先のトゥールビヨンと言ってしまうと、重みが薄れるが、そこがFMたる所以。フランクらしいジャンピングアワーでは初のトゥールビヨンである。こと、『色気』においてはフランクの右に出る時計は無い。文字盤の美しさは業界で1、2を争うお手本である。◎のFMであること間違いなし。お値段は1575万円也。ワンルームマンションが買えます。本来なら対象外の価格だがデザイン面で当選。クレージーアワーではない。Men'sEX 7月号152ページ参照。裏スケの彫金と個性あるブリッジ形状も美しい。

6) AUDEMARS PIGUET Royal Oak Automatic ロイヤル・オーク・オートマティック(⇒右写真):
   裏スケから見える22K製ローターに彫金されたAP紋章付きのCAL.3120が素晴らしい。あなた、ローターに金無垢は要らないですと!?そんな度量の狭い論評はなさるな。彫金の美しさ、金の持つ質感を楽しむのも一興。ケース径39oの拡大サイズとなってのリメイクであるが、18KRG製の黒文字盤に革ベルトモデル(241.5万円也)は最高にセクシー・・・。古典だが斬新、トラッドだが最新。温故知新の筆頭モデル。時計オヤジの一押しモデルである。LEON8月号234ページからの特集写真をご覧あれ。両持ち式のジャイロマックステンプにはしびれる〜。実物はサイズ以上にデカイ。覚悟あれ!!!

7) ORIS・Choronorisクロノリス・クロノグラフ(⇒右写真):
   このオリス新作クロノも良い。こういう時計は大好きである。ミラノで遭遇したZODIACシードラゴンにも通じる味わいがある。オレンジの配色が見事なアクセントである。今年の色のキーワードはオレンジか?OMEGAシーマスター・プラネット・オーシャンの雰囲気にも似ているがこちらの方がクラシックである。パンチング・レザーストラップとメタルブレスが工具と共に革製ケースに納められているのがこれまた魅力的。多分、いつの日にか買ってしまう予感アリ。AP同様、気持ちグラグラの時計オヤジである。50m防水というのは物足りない。100mは欲しかった。19.95万円。TIME SCENE108ページの写真参照。




(次点) シャネルのセラッミク製地板を用いたトゥールビヨン(セラミック製の素材評価)、昨秋発表されたL.U.Cフルリエ(L.U.C9.96)は文字盤とHANDSのデザインが格別。流石、Chopard!ショパールは写真よりも実物を見るに限る。ハンブルグで見たモデルは竜頭に手巻き用の脱着式回転クランクレバーが付いていた。まるで昔の英国車エンジンスタートと同じ。素晴らしい・・・。



(やってしまった、メンクラとジェントリー ・・・)

敢えて言おう。
今年最大の『口あんぐり』はアシェット婦人画報社の『メンズクラブ6月号』と『ジェントリー7月号』である。ジェントリー108〜109ページの記事(⇒右写真)がそっくり上記2誌に掲載されている。これは流石にまずかろう。
このWEBの表題にある『工夫も独自性』もあったものではない。同一記事を載せるのは明らかにタブー。手抜き、である。自動車や時計の共通部品と、雑誌、書籍の記事内容は異なると筆者は考える。かくも簡単に『互換性』を持たせる『特集記事』というのはイタダケナイ。伝統あるメンクラ、新興紳士ブランドを標榜するDORSOこと、ジェントリーの名前が泣くではないか。この点だけは苦言を呈したい。



さて、毎年愛読してる雑誌について今年の寸評を:

★★★=満足です。頑張ってます。その調子。
★★=こんなもんかな。もうチョイ独自性を。
★=う〜ん、困ったなぁ。返却したいです。。。
☆x2=★

●ESQUIRE日本版 7月号(エスクアイヤ・マガジン・ジャパン刊):
  元祖、正統派は昨年より別冊化して特集を組む。堂々72ページの真面目な解説つき。
  極力、数多いモデルを紹介しようとする反作用として写真が小さくな迫力に欠ける。一方で相反する難題を一生懸命にこなそうとする努力は評価に値する。その解説、コピーのクダリはひたすらマジメ。真面目さゆえに単調。時計好きに真っ向勝負を挑むのがいいね。でも、来年はどーするの?★★☆


●LEON 8月号(主婦と生活社刊):
  ゼンマイオヤジは『オタク』で『お洒落』がキーワード。
  ジローラモが全面的にモデルで登場、今年もLEON流で勝負、ショーブ。
  マンネリをも超越した元祖、ちょい枯れオヤジのパワー全開。どの雑誌が真似しようとも他の追随を許さぬ高度なコピーテクは益々絶好調。写真もレイアウトも綺麗で楽しい。でもLEONが一番厚くて重い雑誌である。別冊にしないとこうなる、という例だが筆者はこちらが好み。独自性ある構成と唯我独尊の世界に★★★☆


●時計Begin Vol.40(世界文化社刊):
  今年は全モデルにケース径(mm)や素材等のデータを付けた。これは大変有り難い。カタログ化を図るのであればここまでやるのは正解。写真の大きさもメリハリがあり、エスクアイアより文字も大きく見易い。別冊106ページ数も納得である。分冊化3回目にしてかなり誌面デザインもこなれてきた。昨年より数段出来映えは宜しい。本体の『マニュファクチュールへの道』ではパネライ情報満載。『自社ムーヴメントの主張を見逃すな』も秀逸。流石、老舗の時計Begin。★★★☆


●BRIO 7月号(光文社刊): 
  今年も対談コーナーはない。少々寂しい。
  紹介するモデルはブリオ世代の為に厳選したもの。写真も綺麗、各モデルの解説も非常に凝っている。力作。
  量より質で勝負のBRIO。表紙の宮沢りえで、こちらの表情も緩む。★★☆
  来年は山田五郎、テリー伊藤、小倉智昭による『復活!』3大個性派・巨匠座談会というのはどうだろう。。。時計よりも楽しい特集になると思うのだが。


●ラピタ 6月号(小学館刊):
   『新作時計で行く非日常への旅』。こういうハズシもアリである。若干テーマと内容が空回りしているが、思い切った冒険魂は賞賛する。ラピタはこの調子で宜しい。★★


●TIME SCENE Vol.5 (徳間書店刊): 
  今や時計専門誌の筆頭格。品がある。出来ればもっと専門化して、ドイツ時計誌のような技術解説ページを増やしてはどうだろう。名畑政治氏は優良筆頭ライター。『オメガブック』を始めとして徳間書店ともお付き合いが長そうである。同氏が選ぶBEST5は『時計オヤジ』(筆者)と同じ路線。紹介するモデルの誌面割り、写真も独自性があって新鮮。外国ジャーナリストの寄稿が今回無いのは残念。春号は新モデル紹介、秋号は突っ込んだ記事が中心。次号Vol.6が今から既に待ち遠しい。ラング&ハイネの日本発売正式決定オメデトー。。。★★★


●MEN'S EX 7月号(世界文化社刊):
  LEON同様、別冊なし。本誌のみで勝負。写真、文字も大きく、モデルの選択も正解。御大、松山時計王監修?の影響か。一方、誌面構成もLEONに似てきているような。それでも『控えめリッチ』と『桃金』パワーがある。切り口も良いです。★★☆


● UOMO 7月号(集英社刊):
  新参者である。初期のLEONとMEN'S EXを足して2で割った感じだね。写真は大変綺麗だが、モデルのスタイルといいLEONに酷似。目的、TARGETとしている雑誌が見え見えの誌面構成。二匹目のドジョウ狙いはどの世界も難しいものである。編集長、出版社のPOLICYと力量が問われる今後の展開。暫し静観。★☆


●Gentry 7月号(アシェット婦人画報社刊):
  ジェントリーらしい落ち着いた誌面とモデル。
  但し、冒頭で述べた通り、メンズクラブと同じ記事を使う姿勢には減点。★☆


●腕時計王 Vol25(KKベストセラーズ刊):
  ごちゃごちゃした誌面が売り。質より量?か。基本用語集は復習にもよろしい。★★


●時計Begin責任編集・やっぱり欲しい100年ロレックス (世界文化社刊):
  『責任編集』のセリフに期待して注文したが、余りに初心者向け、余りにサワリだけで、見事空振りに終わる。もうちょい『ロレマグ』を見習って頂きたい。時計Beginにしては芯、骨が無い。Begin本誌の取材で精も根も尽き果ててしまったのだろうか。エアメール代金ともども返金してくれ〜い・・・★


(総括)
今年の御三家は、LEON、時計Begin、TIME SCENEだ。
この3誌は不動のクリーンナップとなりそうな予感。破天荒だが未だ新鮮なLEON、堅実やや遊び心ありの時計Begin、そして硬派一直線のTIME SCENEだが、Men'sExが時計Beginのバックアップも受けてこれに肉薄する。各誌とも更にもうワンステージ突き抜けて欲しい。
具体的にどこをどうすれば良いかですって?『時計オヤジ』を加えて頂ければご一緒に改革差し上げます。。。



最後に、昨年同様各誌のキャッチフレーズを以下順不同に:

どれがどの雑誌か判断付く貴兄はかなりビョーキです。                        (↓友情出演)

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