時計に関する随筆シリーズ L

「2004年バーゼル&S.I.H.H.ジュネーヴ特集雑誌を斬る!?」
〜いやぁー、こちらが斬られたぁかな?〜



2004年6月、一年ぶりに日本へ一時帰国した。
折りしも2004年バーゼル&SIHH発表モデルが雑誌各誌で大賑わいの時期だ。世にいる時計評論家、モノマガジン担当者にとってみればまさに書入れ時(実際には一段落した後であろうが)。読む側にしても、やはり速報のWEBを見るよりはじっくりと楽しめる印刷物の本の方がより満喫できる、と思うのは筆者だけか?

恒例となったそうした雑誌の買い込みを行い、合計20冊以上を抱えて再度、異国への帰路に立った。
実際のスイス時計展示場へ簡単には行けない一般好事家にとってはこうした雑誌を見るのが唯一の楽しみであり、これも大きな年中行事?の一つである。

今回はそうした誌上で垣間見た気になるモデルと各誌への私見を述べてみる。

(今年発表の気になるBEST-5 モデル)
各メゾンともに年々、高級化路線、高額化路線をひた走りに邁進しているようだ。その新しいデザインに感嘆はすれど、中々手の届く範囲にはないので、高見の見物を決め込むしかない。また腕時計ルネサンス全盛期の現在では、そのメゾン数、モデル数も年々膨れ上がり、雑誌特集でも簡単には収まりきらない苦悩があろう。それでは特集を別冊にして効率化を図ろう、とするのは分かるが個人的には、やはり雑誌本体に特集記事は組み込んで欲しい。安易?に別冊化すると保管上も、閲覧上も効率が悪い。筆者は別冊化を「禁じ手」と評して好まない。

さて、まずは「俺ならどれを選ぶ」というノリで自分なりの新作時計ベスト5をPICK-UPしてみた。

NO.1 'タグホイヤー・モナコV4' コンセプトウォッチ:
何と言っても度肝を抜かれたのがこのV4。昨年のF.MULLERクレージーアワーと並ぶIMPACTであるが、その中身の機械の凄さと発想の斬新さには、ただただ感嘆・唖然とするのみ。今の段階で欲しいとは思わないが、何と言っても従来の機械式の発想を軽く超越した新しいメカによる快作・挑戦であろう。ローターがエンジンのピストンのように上下運動で動き、輪列がベルトドライブ14本にとって代わられるという、ごくごく普通の人では考えつかないアイデアである。現代の工作技術ととんでもない発想がコラボレーとしたダントツに迫力ある時計だぁー。こうした奇想天外な発想を眼前にすると「ちょい枯れオヤジ」は本当に枯れそうだ。。。今後暫く、斯様な新メカへの挑戦、従来の延長線上には有り得ない時計が、まるでモーターショウにおけるコンセプトカーのように登場してくるかも知れない。大規模メゾンと中小メゾンの方向性がますます異なってくる可能性を予感させる。ところで、このドライブベルトは絶対伸びてしまうはずだが、その対策はどうするのであろう?いっそのことLANGEのようにチェーン引きにしたらどうであろうか。


NO.2 'PANERAI RADIOMIR 8-DAYS' と 'BLACKSEAL':
RADIOMIRファンとしてははずせない。
2重式の文字盤と裏スケ手巻きが気分である。特に8-DAYSは名門JLCのムーヴメント搭載ときた。従来のZENITHムーヴ亡き後、いよいよ本命ムーヴの直球勝負でさらにパワーアップしたのは好ましい。裏スケにあるパワリザ表示も好ましい。しかし、8-DAYSはSS製でも85万円超と、本家JLC同様に値段が高すぎる。また、復刻VERSIONを誇るのであれば、文字盤上の9時数字の表示が無いのは拍子抜けだ。いずれにしても、LUMINOR1950文字盤にある手書きのようなふにゃふにゃ数字表示が、やっとカチッリしたパネライ数字に戻った点には安堵する。ボナーティさんよ、頼むから女性用でも良いからもっと小さいRADIOMIRをだしてくれぃ!実用としては45mm径はやっぱりデカ過ぎる!!!

NO.3 GUCCI 丸型G-ラウンド
クォーツ製で日付と曜日カレンダー付き。秒針無しだが、デザインがGUCCIらしくてシャープな個性を発揮している。パンチングが施された黒レザーベルトと黒文字盤が良く似合う。全体的に黒とシルバーのGUCCI的モノトーンで構成され、時計屋ブランドには少ない、さすがデザイナーブランドらしい良い味を出している。(詳しくは時計レポートを)

NO.4 CARTIER トノーLM/SM・2針式クラシカル ウォッチ:
カルティエにしか出来ない'30年代風のクラシカルケースが素晴らしい。湾曲したガラス、シンプルなブレゲ針。こうした懐古調デザインを堂々とリメイクできる度胸と経営判断がカルティエの真骨頂。おまけにムーヴもJLCの手巻き搭載。隅から隅まで抜け目が無い、流石にカルティエ。別作タンク・シノワーズも素晴らしい。時計専門ブランドではないが、CARTIERだけは特別の風格がある。(マスコミの「よいしょ」にこちらも洗脳されたか?)

NO.5 GÉRALD GENTA 「オクト」コレクションシリーズ:
ケースのデザイン、文字盤のオクト(8角形)デザインといい、絶妙なるデザインワークが映える。白黒のモノトーン配色や、赤黒の組合せも非凡さが溢れている。四角形と八角形の組合せから、大きなデザインを生み出す手腕はさすが!

(次点)LOCKMAN金時計、SEIKOスプリングドライブ自動巻き&クレドール手巻き蒔絵、Fredique Constantハイビートマニュファクチュール、BREGUETクイーン・オブ・ネイプルズ(これは美しい、文句無い傑作品だ!)、同じくBREGUET初自動巻きトゥールビヨン・レギュレーター、CARTIERタンク・シノワーズ、LONGINESコンクェストクラシック、CITIZENエコドライブ新チャレンジタイマー(通称ツノクロノ復活のCAL.E210)など。





さて、毎年愛読してる雑誌について今年の寸評を:

●ESQUIRE日本版(エスクアイヤ・マガジン・ジャパン刊):
  元祖、正統派も昨年度7月号から誌面構成に行き詰まりを感じていたような。モデルが増えすぎた為、写真も小さくなってきたのだが、今回はついに特集を別冊化して残念。本体P.273〜の記事は面白いが本来、時計紹介記事と一緒にあるべきだ。反面、昨年よりも余裕を感じるが、来年はやはり別冊は止めて本誌一本で勝負して欲しい。
●LEON & NIKITA(主婦と生活社刊):
  元祖?「ちょい枯れオヤジ」のパワー全開。堂々の118ページ特集は「ゼンマイオヤジ」の切り口も絶好調。今や王者の貫禄十分。LEONらしいというべきか、難しいメカ話も軽く流し、キャッチコピーが冴え渡る。時に、こじつけ、強引とも思えるコピー文章も毎度楽しいが、編集者のつらそうな追い込み作業の日々も目に浮かぶ。ゴクローさま。
  一方、NIKITA用の特集は少々分厚く、1900円も少々高い?果たして「艶女」(アデージョ)にこの内容がわかる?それとも内容よりもグラビア雑誌としてパラパラ見られれば良いのかも。後述、月刊誌”GRAZIA”や”Domani”に負けている???
●時計BEGIN(世界文化社刊):
  ビギンも昨年vol.32以来別冊化を図った。
  情報量は膨大である。別冊化は好みではないが、現在の本体の製本方法ではこれ以上厚みも加えられまい。各誌とも別冊になると、モデル紹介がメインとなり個性が乏しく、画一的になる。単なるカタログ本で終わってしまうのが残念。
●BRIO(光文社刊): 
  去年の「テリー伊藤vs山田五郎」対談は面白かった。
  その前年は対談はなかったが、2001年「菅野沖彦vs小倉智昭」、
  2000年も対談は無かったが岩城滉一・掛布雅之・中島渉の時計歴があった。
  今年は対談がない。予算不足であろうか。ただ「さすがですね編集長。その時計」は発想が秀逸。もっとやって欲しい。
●ラピタ(小学館刊):
  今年は一層の気合を入れたね。
  特に対談が良い。冒頭の東理夫のエッセイ、東儀秀樹vs小山裕久、栗崎賢一vs名畑政治の対談は愉快。こうした文章をもっと入れて欲しい。新作時計紹介は昔のエスカイヤ風。許せる。
●MEN'S EX(世界文化社刊):
  準別冊風の綴じ込みで来たところは昨年と異なり嬉しい。VOLUMEも増大。もう少し写真を小さくして、もっとモデルを増やしたり、松山巨匠のもう一歩突っ込んだ解説や他の人の解説も欲しい。後半の特別読物「時計のフランス史」は面白い。こうした記事がもっと欲しい。
●SevenSeas:
  サントス特集は歴史を知る上からも勉強になった。
  一味違った高級セレブの雑誌らしく、貪欲に新作モデルを量で追わず、ピンポイントで紹介している。文章がよい。笠木恵司・菅原茂・本間恵子各氏の研ぎ澄まされた文体が品格を生み出す。但し、雑誌本体の価格2千円をどう評価するか、だ。
●PEN(阪急コミュニケーションズ刊):
  「腕時計界をヒートさせる、6人の男」のインタビューがよい。こうした記事を新作写真同様に掲載して欲しい。つまり、時計各メゾンの戦略、方向性などをもっと各誌に望みたい。例えば、今年のフランク新作にWATCHLAMDを去ったらしいフランク本人はどのように関与したとか、誰も触れないのはなぜ?(⇒時計ビギンはふんわりとreportしてくれてますが)JLCムーヴのCartier、Paneraiへの供給の背景とか、もっとDEEPな情報がファンとしては知りたいのだ。
●monthly M:(ベルシステムズ21刊)
  誌面、写真とも読み易い。凝縮した特集はモデルの選択も素晴らしい。ただもうちょいP.106「目利きが見た新作時計」のインタビュー記事を拡充させて欲しかった。
●DORSO(NO.22)(アシェット婦人画報社刊):
  靴特集はとにかく圧巻。時計も凄いが、靴の世界も奥が深過ぎる!しかし、新作時計速報はまるでスーパーのチラシのような付録のみ。靴特集は◎、時計のチラシは×である。昨年は各メゾンのCEOクラスのコメントもあり、その戦略を含めて大いに興味引かれる内容であったが、今年は「名靴特集」に化けてしまったようだ。

(総括)
御三家は実力から見てやはり、ESQUIRE、LEON、時計Begin、だ。時計に例えれば、ESQUIRE(Rolex)、LEON(フランクミュラー)、時計Begin(PATEK PHILIPPE)というところか。この3誌を読めば潮流把握と知識深化は確実、かな。


●TIME SCENE: 「時計Begin」と双璧の専門書。硬派な文章と内容は日本随一?かも。益々パワーアップして欲しい本である。メゾン訪問記事も宜しいが、外国のライターの邦訳も日本人ライターの視点と情報源と全く異なり、新味に富んでいる。願わくば・・・それは来年まで様子をみて再考しようか。

(番外編)
●OMEGA BOOK(徳間書店刊): 1998年発刊の「伝説的」なオメガブック。今回、中古本であるが念願のGET!もう少し内容に厚みがあるかと思ったが、ちょっと肩透かし?を食らった感あり。シリーズモデル毎に歴代時計の全写真を揃えたりと、そろそろ改訂版を出してはいかがであろう。パネライSTYLEBOOK2もでたことだし、どうでしょうか徳間書店さん?
●ROLEX Only Magazine(ロレマグ)成美堂出版刊: たまにはロレのお勉強を、と購入。昔のROLEXはやはり良いなぁー。
●ムーブメントブック(ワールドフォトプレス刊): これもお勉強用に。薄っぺらい(失礼!)が値段は高い。1800円也。
●世界の腕時計NO.69(ワールドフォトプレス刊): ようやくSEIKOスプリングドライブ自動巻きの裏面シースルーを拝見。加えて銀座・和光で3種類の実物展示品も手できたのは幸運。(6/10-23GSフェア開催中であった)
●monoモノ・マガジン6-16: 電波時計特集。基礎の復習には最適?
●Grazia 7月号(講談社刊): 女性誌だからと言って侮る無かれ。写真、構成、登場モデル?もなかなかGood!危うし、NIKITA!マンネリから脱っせよ、男性誌諸君!
●Domani(小学館):これも女性誌であるが、この別冊は素晴らしい。視点が女性受けする柔らかさ。福山雅治のスイスレポート含む新作紹介は誌面構成も成功!「サントス物語」、「パルミジャーニ工房見学」、「WATCHLAND訪問」等、今回一番の大穴的傑作特集かも知れない。
●入手待ち: パネライスタイルブック2。 

それにしても日本くんだりから合計20冊以上を飛行機で、しかも手荷物として、よくもまぁ、はるばると担いできたもんだ。。。これも日本のマスメディアから遠ざかっている反動の成せる業。さて、年内はこれらの雑誌と暫し悦楽の境地?に入ることとしようか。

最後に、各誌のキャッチフレーズを以下順不同に:

今年こそ「私を語る時計」に出会う
腕時計はムーブメントで選ぶ時代だ!
”ゼンマイ”オヤジは止まらない!
時を感じよ、電波を受け取れ!
技術が表す、洗練のフォルム
いま注目すべき、33ブランドの腕時計。
これでロレックスがもっと楽しい
新作時計186連弾
進化する実用時計
腕時計の審美学 デザインは「時代」を語る
艶女(アデージョ)は「時計」で出し抜く!
一目惚れ時計200本
あなたの時計、勝ち組ですか?
時計は男の顔である
腕時計にもう一度夢を見たい
今年「買うべき一本」はここにある
ただ者ならぬ腕時計
史上最多の126ブランド、新作350本!
時計史に燦然と輝くスイスの最高峰ブランド
スイス、夢の時計に誘われて
ため息を誘うラグジュアリーブランドの競演
時のロマンに魅せられて、、、さぁ旅に出よう

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