時計三昧のバーゼル・ワールドから離れて、市内へ一歩足を踏み入れる。 ポカポカ暖かな4月上旬。路上カフェも花盛り。 ふと見ると早くもブライトリングの新作クロノグラフのポスターが目に付く。 何と早くも『路上、一般公開』されているのだ。 バーゼルはこの時期、時計一色の街並みと化すのである・・・。 |
(← クロワゾネ製文字盤のPATEK REF.5131 ワールドタイム〜) 気になる時計のトップバッターはPATEK。 近年衣替えしたワールドタイムは、旧モデルと比較すると短針に大きくくり貫かれた丸型ブレゲ針調のデザインと、放射状の直線的ギョシェが特徴。但し、このギョシェと長めのBAR INDEXは個人的には非常に違和感を感じる。文字盤上で直線的なギョシェは観る側に安定感・安心感を与えない。 その点、このクロワゾネ製の世界地図文字盤はそのデザインと発色の良さが際立つ。余裕ある階層の遊び時計としては最高の部類に入る2針式時計だろう。 マイクロローター搭載のCal.240が裏から見れるのはもうひとつの隠れた楽しみだ。 値段はさておき、間違いなく『現代最高の古典的ウォッチ』の一本である。 (← 会場で目に付くアジア系のマスコミ陣〜) 全体的な雰囲気から恐らく日本人ではないかと思われるカメラマン。 会場ではこのような光景に数多く接することになる。不思議と欧米系のカメラマンは少ない。アジア系の人間の方が欧州では目立つこともあるのだが、毎年の『バーゼル速報』を命とする日本の雑誌業界では皆、こぞって一刻を争いつつ、こうした新作・注目作を撮影することになるのだろう。有名な時計ライターや日本の一流小売店のオーナー&関係者の姿も会場のあちらこちらで目にすることになる。 因みにこのカメラマンはPATEKの歴代キャリバーの展示コーナー前で、盛んにシャッターを切っていた。手ぶれ防止はどうしているのだろう? (←新型ROLEX サブマリーナの18KWGモデル〜) この写真もおなじみの光景だろう。 ついに新型デザインの波はサブマリーナにまで押し寄せている。 この後、残るはSS製のサブマリーナの導入である。大きな改良点はドット表示の大型化、ケース形状の変更、そして何よりもベゼルのセラミック化と掘り込み式表示である。DEEP-SEAでも同様であるが、このセラミック製ベゼルは高級感もあり現行ベゼルの数段上を行く。加えて、クラスプ形状も新型となり、ようやく並みのレベルに追いついてきた感じである。 詳細は既出『随筆シリーズ(72) ROLEXにおける新型ベゼルとクラスプの正常進化論』を参照乞う。 (←ショパールも相変わらず元気一杯〜) 筆者も愛用する贔屓のメゾン、・ショパールも元気だ。 LUCシリーズの開発も順調に進み、1996年から怒涛の開発で一流メゾンに登りつめた。最近ではカリテ・フルリエ含む自社キャリバーを巧みに用いつつ、表の顔では独自のデザイン展開をしている。いわば、高性能マシンの上で自由に遊ぶ余裕がショパールの強みだ。ある意味、カルティエにも通じる商品展開が現在のショパール路線と感じている。 ショパールの展示は一般来訪者向けには殆ど無いも同然。ブース奥の関係者だけによる商談が中心である。 (←左写真: グラスヒュッテ・オリジナルも新境地を開く〜) 2008年の注目度No.1がこのモデル、パノインパースXL。 手巻きCal.65をひっくり返したようなCal.66。正確にはダブルスワンネック搭載のテンワ部分を表面に持ってきたのだが、当然、輪列その他大々的に再設計されている。 筆者も愛用するCal.65であるが、このモデルの文字盤デザインは今ひとつだ。 個人的にはダブルスワンネック式チラネジ付きテンワ部分は、トゥールビヨンにも負けない存在感を感じる。しかし、折角ここまで開発するのであれば、もう少々、落ち着いた文字盤にすべきではなかったか。凝った文字盤仕上げであることは一目で分かるが、『おもちゃっぽい大人気なさ』を感じてしまうのは『時計オヤジ』だけであろうか。 良い時計とは常に王道にある。目先の流行や奇抜なデザイン欲求に負けてはいけない。『王道』とは、周囲の変化に負けず、じっと堪えることでもある。我慢して伝統的なデザインを極めようとする試みこそが老舗フランドに求められるところだ。 |
(←左写真: 日本では殆ど見かけないエテルナに注目〜) ポルシェ・デザインとのコラボレーションを強化中のエテルナ。 展示の中心は自家製と思われる新作キャリバー。これが中々強力だ。 左はCal.6036。何と101石で15のブリッジを持つ。デジタル文字盤はデイト表示ではない。クロノグラフ時間表示をデジタル文字盤で表示する方式だ。パワーリザーブ46時間、8振動@秒のこのムーヴメント、日本のマスコミは殆ど取り上げていないのが不思議かつ残念。やはり、国内に代理店がいない時計は陰が薄いのであろうか。 この他にも手巻き角型キャリバーCal.3500など、津々浦々まで興味津々。 (←こちらもエテルナ、ビッグ・デイト表示式3針〜) 中身はETAの新型ムーヴがベースであると推測する。 このビッギ・デイトの3針は極めてシンプル。今や、こういう普通の時計が稀少となった。心意気、デザインの方向性には賛同するが、不満点も多い。 例えば、 ● 文字盤の面積に比して、INDEXと2本の針の太さがアンバランス。 せめて時針の針は1.5倍程度の力強いドルフィンを採用すべきだ。 ● ビッグデイトの二桁表示が読みづらい、小窓を拡大するか、 二桁で一つの窓表示にすべきであろう。このままでは文字盤面積に比して窮屈すぎる。 と、まあ、不満はあるがこうした時計を生み出せるメゾンは少ない。エテルナは従来より『極めて普通』の3針モデルをラインアップの中央に置くメゾンだ。ドイツでは根強いブランドでもある。クラシックなこうしたデザイン開発には諸手を挙げて応援する『時計オヤジ』である。 |
(← 元祖?8日巻きヘブトマスの腕時計〜) 懐中用のムーヴメントがその源泉である。 革ベルト式の腕時計は従来より存在するが、革ベルト巾が極端に細いので非常に貧弱に感じていた。このモデルはSS製ブレス搭載だ。ブレス巾は細身(恐らく16〜17mm程度と推測)だが、肉厚のSS製ケース&ブレスは重量感と迫力がたっぷり。このムーヴメントは香箱にエクストラ・ロングのゼンマイを組み込んでいる。記憶ではゼンマイの長さだけで1.5m程度あったはず。それもシングルバレルだ(確か)。 この3針+パワーリザーブ目盛はそれだけで実用十分。 この時計も日本には未入荷というのが非常に惜しい。 (←新作ではないがCITIZENのコンプリケーションジリーズは面白い 〜) いつの間にかCITIZENはこのような時計を出していたことを知る。 大き目の変形ブレゲ針はイマイチだが、偏心文字盤とクロノグラフ積算針をこれも偏心に外周に向けて振っているのが宜しい。 9連の細かいブレスも中々気分、である。 文字盤上のまとまりは極めて荒削りで、決してバランス(均整)がとれたデザインではないが、こうした時計を商品化する決断と時代の到来に拍手したい。 この時計はEco-Driveではないが、クォーツ製の利便性を徹底的に追求して、スイス時計に対抗できるデザインで勝負して欲しい。やはり、日本製時計の弱点、かつ最大の関門は文字盤デザインと時針などの細部のデザインと仕上げにある。このモデル、価格が価格だけに(10万円以下)高望みは出来ないまでも、もう少々、デザインのツボを抑えた商品展開をデザイン陣には望みたい。 (以下の2本は新作ではないが、そのデザインが群を抜くモデル〜) 下の2本はご存知、Bell&RossとHarry Winston。 まずはベルロス。 このジャンピングアワーは『微妙な寸詰まり加減』が良い。筆者は何故か、水木しげるの妖怪『からかさ小僧』を連想する。一つ目小僧にも似たジャンピングアワーと寸足らずな分針のアンバランスが何とも面白い。独自のパワーリザーブ表示まで備えているのが嬉しい。良い意味で『滑稽な文字盤』、楽しく可愛いベルロスである。 そしてもう一本はHarry Winstonのこのモデル。 ハリー・ウィンストンと言えばOPUSシリーズが真っ先に思い浮かぶ。何よりも世界最高峰のジュエラーである。 『時計オヤジ』の興味の対象外メゾンではあるが、展示してあったこのモデル、一目で極上時計ということが分かる。 偏心文字盤、レトログラード式デイト表示と月表示。加えて、その夜空の発色が素晴らしいムーンフェイズ搭載。 つまりアニュアル・カレンダー搭載、ということだ。 こういうデザインは簡単なようで中々できない、極めてハイレベルなデザイン処理である。 見た瞬間、ハッとするデザインとはまさにこういうモデルを指すのである。 (←左写真: アラン・シルベスタインも登場〜) メインの時計展示館とは別に構えるブルガリ館ではジェラルド・ジェンタやブルガリの専用パビリオンになっている。非常にゆったりとしたスペースの中に、独自の世界を築いているのが『ブルガリ王国』である。そこで、アラン・シルベスタインAlain Silbeersteinが夫妻で訪問していた。ご承知の通り、アランの作品はバーゼル展示会場からは2007年を最後に去ってしまった。毎年毎年、新作攻勢で息が切れるバーゼルの雰囲気から離れてじっくり時計製作に打ち込みたい、とうご本人の希望による。よって、この2008年は過去20年と違い、参加者側ではなく、オブザーバーとしての訪問である。のんびり眺めるバーゼルはアランにとって、どのように見えたのだろうか。残念ながら、インタビューのタイミングを逃したのが悔やまれる。 (最後にLONGINESについて〜) 最近のロンジンは元気がある。 力感溢れるミリタリー系復刻ラインには目を見張るものがある。 一方で、Hydro Conquestのカラー・アルミニウム・ベゼルのダイバーも面白い。 左写真はブルーのベゼル・文字盤であるが、かつてのチュードル”青サブ”を髣髴とさせる雰囲気を持つ。勿論、12,6,9のアラビア数字INDEXは”青サブ”とは全く異なるが、ブルーを配色に用いるだけで黒色一辺倒のダイバーとは全く別の雰囲気を生み出す。ケース径も39mmとツボを押さえたサイズ作りが流石、老舗! 価格帯もクォーツを含めて10〜20万円台前半というのが好ましい。 自動巻きの中身はETA2824だが、信頼性が高く、汎用性も高い(=修理し易い)ムーヴメントを利用していることが何よりも安心感をもたらしてくれるのだ。 さて、次回はBASEL会場から少々離れて、市内へも足を伸ばすことにする。 To be continued 〜 (『時計オヤジ』のバーゼル参戦記シリーズはこちら〜) @2008年BASEL観戦記〜バーゼル会場までの到着編はこちら。 A2008年BASEL観戦記〜バーゼル会場編はこちら。 B2008年BASEL観戦記〜気になる時計編はこちら。 C2008年BASEL観戦記〜市内&宿泊番外編はこちら。 D2008年BASEL観戦記〜気になる時計2 & 総括編はこちら。 ⇒ (腕時計MENUに戻る) |
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