時計に関する随筆シリーズ(72)  

『ROLEX Deep-Seaに見る新型ベゼルとクラスプの正常進化論』

”ROLEX Sea-Dweller Deep-Sea



個人的に2009年バーゼルで期待したROLEXだが今年はハズレた。
SS製モデルのサブマリーナに新型ベゼルとグライドロッククラスプの搭載を期待していただけに
来年への持ち越しはチョッピリ残念。
一方、この新しいパーツ搭載モデルを実際に手にする機会を得たので
今回は早速(でもないが)、その寸評を。。。(2009/05/22)


(一言で感想を言えば”巨大なるプロフェッショナル”。ド迫力のSea-Dweller/ディープ・シー〜)

3900m防水のケースは流石にデカイ。
しかし、無意味なデカ厚時計が多い中で、ディープシーの大きさにはリアリティがある。3900mの防水性能を持ちながら、ここまで”コンパクト”に圧縮した技術は大したものだ。それでも、コイツを街中ではめるには可也の『勇気と覚悟と腕力』がいる。サブマリーナとは全く次元が異なる真のハードダイバーズウォッチである。ディープシーを前にすればパネライのサブマーシブルと今年発表されたオメガのプロプロフ復刻版以外で相応の対抗機種が見つからない。それ以外は皆、ヤワな時計になってしまう程の迫力の塊である。
上面からの写真では威圧感もさほど無いが、横から見る姿は圧巻そのもの。43mm径、18mmのケース厚、そして3900m防水性能から、”非日常さ加減”が分かろうというものだ。

中身の機械は説明不要のCal.3135。こちらも信頼の塊とも言える現代最高の実用キャリバーであり、論評も不要だ。外観とケース上での特徴は2つ。ようやくROLEXとして技術の矛先を向けたセラクロムと呼ばれるセラミックをプラチナコーティングした立体的造形美を誇る新型ベゼルと、グライドロッククラスプである。


⇒右写真がそのセラクロム式ベゼル。
よ〜く見ると、目盛と数字部分が掘り込まれた凸凹デザインとなっている。サブマリーナ等のアルミ製で印刷式ベゼルとは高級感が全く異なる。適度な凸凹というのがたまらない魅力だ。ヨットマスターのような射出成型によるベゼルの立体形状とも異なる。白黒対比の色彩感覚からも、こちらの方が遥かに高級感で溢れている。
惜しむらくはドイツ工業基準(DIN)に則したと言われる毎分ごとの表示メモリが増えたことだ。この表示は明らかにやり過ぎであり、本来不要なもの。ベゼル円周上がこれによりウルサクなってしまった。個人的にはこの周上メモリが”致命的な不満”である。従来通りの15分までの分目盛の方がスッキリしており、ROLEXの伝統デザインでもある。
しかし、その不満を差し引いても新型ベゼルの質感と仕上げの完璧さには高く評価したい。





(←左写真: こちらはWGのサブマリーナ〜)

昨年のバーゼルで発表になったWG製のサブマリーナである。
ベゼルの目盛デザインは従来同様だ。
やはり、こちらの方がシンプルであり判読し易い。
セラクロムのブルーの発色も美しい。
そして何よりも凸凹に彫り込まれた白色の数字と目盛が青地に映える。
実際に回転させてみるとベゼルのクリック感は現行サブマリーナよりも、より確実で適度な固さを感じる。まるで高精密な歯車が噛み合っているような感触には感動さえする。

筆者が期待するのは、こちらの新型ベゼルをSS製サブマリーナにも導入することである。ROLEXの手法は、まず貴金属モデルに新機構を投入し、SS製モデルに導入されるのは最後の最後となる。いずれその日が来るのであろうが、それまでが何ともじれったい。
こうした商品戦略についてROLEXからは一切発表も無く、マスコミ取材も受け付けない。この頑な姿勢がサブマリーナのデザインを50年間守ってきた源泉でもあるが、”情報公開・情報開示”が重要視される現代においては、逆に社会やユーザーに対してアンフレンドリーな代表的企業でもあるのがROLEX、と酷評されても仕方あるまい。
冠スポンサー活動は華やかであるが、一皮剥けば従来同様に鉄仮面であるのがROLEXである。




(驚愕の”グライドロック・クラスプ”〜)

過去50年間、クラスプに何ら工夫を施してこなかった”サボタージュ”を、利息も含めて一気に返済・挽回したのがこの新型クラスプである。まず、その名称が良い。”グライドロック”とはその名と通り、滑るようにロックすること。昔、ハーレーダビッドソンで”エレクトラグライド”という代表バイクがあったが、まさにROLEXのグライディング機構は現代の時計業界を代表する傑作機構と言っても良いだろう。

クラスプの風貌はまるでエイリアンを連想させる(⇒右写真)。
複雑でメカメカしいこの新機構は1.8mmづつ10段階にスライド(グライド)する。加えて従来方式のエクステンションフリップも装備した二重延長機構を持つ。現代の腕時計クラスプとしては最高品質であり、最高技術を誇るもの。筆者は3900mの防水性能よりも今回はこの新型クラスプに最大の賛辞を与えたい。

しかし、その代償は重量に現れる。
オーバー200グラムというのは高級コンパクトデジタルカメラを一台、常に手首に括り付けるに等しい。LUMIXのLX3よりも更に重い、と言えばその重量がわかるだろう。快適な重量の範囲を超える、まさにステンレススティール904Lの塊である。
結論として、ディープシーは街中での一般使用には全く不向きというのが筆者の見解だ。







(こちらはそのディフュージョン版⇒右写真:
 WG製サブマリーナにも簡易式だが新型クラスプが装着される〜)


ディープシーと異なり、WG製の新型サブマリーナには”グライド”しない新型クラスプが付く。
それでも現行SS製の単純なプレス式クラスプに比べれば格段の進歩である。
この機構がSS製にまで降りてくるのは恐らく来年以降。クラスプだけの仕様変更は考え難いので、SS製黒ベゼルのサブマリーナもグリーンサブ同様にドットとハンズが大型化され、ケース形状もWG製のように微妙なる変更が適用されるものと予想する。






(変化と攻勢を加速してきたROLEX戦略〜)


今年のROLEX新作で気になったのがデイトジャスト41mmモデルの投入である。
流石に36mm径の現行デイトジャストは世評では”小さい”部類に入ってくるかもしれないが、36mmであればまだまだ十分ではなかろうか。時代のトレンドに対応した41mm径開発は理解できるが、筆者は今まで何度も主張している通り、オーバー40mmサイズというのは日常生活では持て余すサイズである。デイリーユースを念頭に置けば、『身にしていることを忘れさせる適度な大きさ』が理想だ。それは大きくても38〜40mm径が限界であり、ケース径とは別に時計の厚みを加味すれば36mm径の現行デイトジャストは必要にして十二分な大きさである。

数年前、デイトジャストに新型ロレゾールケースを投入したがケース径は36mmを踏襲した。
中身のムーヴメントがcal.3135で変更ないのであるから、文字盤表面のデイト位置等を考慮すれば、どんなに大型化しても40mm径前後が限界だろう。あとは、クラスプやブレスレットのような基本部品を徹底的に改良することが”ROLEXの新作”として残された道だ。昨年発表されたディープシーは全くの新作と捉えて良いと考えるが、上記のWG製サブマリーナのような”正常進化”が、残るSS製サブマリーナに課された改良点であり、今後の方向性であると考える。

2010年のバーゼルにこそ、SS製サブマリーナ新作を期待している。(2009/05/22)



参考文献) 『クロノス日本版  第22号』


(参考)『時計オヤジ』のROLEX3部作はこちら:
ROLEX OYSTER-DATE PRECISION REF.6694はこちら。
ROLEX DATEJUST CAL.3035はこちら。
ROLEX DATEJUST CAL.3135(Thunderbird)はこちら。

ROLEX 角型手巻PRINCE CELLINIはこちら。
TUDOR PRINCE DATE ユニークダイアルはこちら。
ROLEX SUBMARINER REF.16610LV(グリーンサブ)はこちら。

『ROLEX DATEJUSTにおける黒ピラミッド文字盤の妙』はこちら

⇒ (腕時計MENUに戻る)
(このWEB上の写真・文章等の一部または全部の無断転載・無断複写はご遠慮下さい。)

TOPに戻る