FRANCK MULLER  フランク・ミュラー 

FRANCK MULLER LIMITED 2000 Ref.#2851S6 Cal.FM2800

『私的・極上時計礼讃〜(Part1・FM本体編)』



『時計オヤジ』の愛でる最愛時計の筆頭格。
その迫力、美しさ、使用感、そして完成されたまでのデザイン・バランス。
最早、理屈は不要。
7年前、初めて見た瞬間から『時計オヤジ』の琴線にガンガン響き渡る。

西暦2000年度限定モデル、フランク・ミュラー『リミテッド2000』。
ラジオミール(PAM00062)に続く『私的・極上時計』の本命が満を持しての登場だ・・・。



(序章〜過去10年で最大の成功ブランドとは・・・)

よく話題になる、最近の時計業界で影響力を大きく伸ばしたメーカーは?
揺ぎ無い『王様』は間違いなくROLEX。好き嫌いに係わらず、時計界の『王道時計』である。

新興2大勢力と言えばパネライとフランクミュラーであろう。
しかし、パネライは余りにマニアック、超硬派時計の代表格だ。世間の認知度を考えればマイナー中のマイナー。貴方の周囲でパネライと聞いて時計ブランドであることを認識出来る人(=30〜50歳代で)は、恐らく10人中1〜2人がいいところだろう。パネライのターゲットとするヘビーユーザー層(=消費者層)も日本では20〜30代が中心。感覚的にはこの点が本場欧州と異なる。欧州のパネライ顧客層は30〜40代以上が圧倒的と推測している。そもそもクラス社会の欧州であれば、日本のように金さえあれば誰でもROLEXやらブランド時計を身に出来るという意識構造になってはいないのだ。日本では筆者のように40〜50歳代の”真性オヤジ世代”で、パネライ好みの御仁など生憎未殆ど遭遇したことが無い。ごく稀にいたとしても可也の高感度オヤジか変わり者オヤジだろう。一般世間では無きに等しい。逆に、そうした『ニッチ時計』であるところがパネライ人気の源泉でもある。歳をとれば一般的にはROLEXやJLC、VC、AP、PATEKやらBREGUET、はたまたGS等の王道時計に『逃げる』のが常道だ。

しかし、フランクミュラーはそこが違う。
消費者の裾野は老若男女。今や10〜20代の学生・OLから、はては世界のセレブまでと幅広いユーザーの心を鷲掴みにした。特に独特のトノーケースと文字盤のデザインは特筆に値する。他ブランドへ与えた影響、ケースや文字盤の時計業界全体のデザイン動向に与えた影響も計り知れないものがある。時計そのものが、宝石と並ぶアクセサリーとして成立する地位も築き上げた。そしてもう一つは仰天怒濤の新技術と裏ワザ仕掛け。『クレイジーアワーズ』何ぞは初めて見た瞬間、驚天動地!”コロンブスの卵”的な発想であるが凡人には到底、真似出来ない発想だ。その意味からもフランクミュラーの誕生と、そのモデル&機能の変遷は『時計業界と一般世間に与えた最大のインパクト・ブランド』であると断言できる。
一言で言えば、『色気と華』が誰にも負けない時計。その代表モデルが『時計オヤジ』にとってこの『リミテッド2000』である。

(⇒右写真: クレイジーアワーズ・カラードリームズ・トゥールビヨン。
ここまでふっ切れたデザインの組合せはフランクならでは。
派手だが古典的意匠がテンコ盛り。古典だが見事に最新技術が融合している。このバランス感覚こそフランクの真骨頂。
2006年1月、Geneve郊外にあるウォッチランドにて筆者撮影。)




(『最愛時計』の基準、それはデザイン8割、ムーヴ2割。
 最大の特徴はBIG-DATE付き#2851ケースサイズとギョーシェの美しさにあり〜)


現在、筆者の最愛時計であり極上時計の筆頭格となる時計。
それはラジオミールことPAM00062LUC1.96、そしてこのリミテッド2000である。それぞれ特徴山盛りであるが、このリミテッド2000は何と言っても『色気と華』を放つモデルとしては断トツだ。その最大の理由は細型トノーケースの#2851にある。

ケース番号#2851はフランクのトノーでは最細。
サイドの膨らみとラグ幅、POLISHED仕上げのSS製トノーケースが”絶妙のバランス”を醸し出す。”絶妙”の定義は難しい。これは多分にユーザーの感覚、美的判断基準に頼るしかない。フランクのトノーは直線が無い、3D(=3次元)シェイプで一時代と新カテゴリーを築き上げた。中でも白眉であるのがこの#2851に他ならぬ。フランクミュラーの傑作トノーサイズをと聞かれれば、即座に#2851と答えよう。これぞ『トノー・カーヴェックスの妙』(注1)である。

(注1)フランクミュラーサイドにおける正式呼称は『サントル・カーヴェックス』でありトノー・カーヴェックスではない。

#2851の原型は、フランク初期のトノー・カーヴェックス#2850。
#2850はトノー・カーヴェックスで初めての自動巻き搭載モデルだ。1993年に製作された永久カレンダーモデルやポインターデイトモデルがそれだ。ケース横腹に早送り用PUSHボタンもあるので防水性能は低いと思われる。#2851では防水性が向上し、流麗なトノーシェイプに更に磨きがかけられている。




(時計オヤジ公認の『THE・MOST・エロ格好いい時計』〜)

その復刻モデルが2000年登場のこのリミテッド2000(#2851)である。

当時、流行のBIG-DATE搭載が最大の特徴。BIG-DATEブームのきっかけを作ったのは、他ならぬ1994年に登場した『ランゲ1』。しかし、その美しさではこのリミテッド2000も負けてはいない。ETA2892A2ベースゆえにムーヴメントの仕上げではランゲと比較にならない。いや、そもそもランゲとは比較してはいけないのだ。BIG-DATEの2枚羽根にも大きな段差が気にはなる。チラネジも無い、裏スケでもなく、シャラシャラ音がするプラチナ製ローター付きではあるが、この時計にはイェーガー・レベルソのように時計を裏返しにして裏スケを愛でる必要も無い。それ程、文字盤とケース自体の仕上げが美しい。正々堂々と表の文字盤で勝負が出来る。敢えて負け惜しみで開き直れば、複雑系ムーヴでもなく、マニファクチュールのような少量で独特なムーヴでもない。いわば汎用ムーヴ、それも最も売れ筋のETA2892A2系にラ・ジュー・ペレ社La Joux-Perret(旧ジャケ)のモジュールを加えたものだ。このムーヴメント自体にフランクミュラーの独創の血筋・DNAは流れてはいないだろう。ETA2892の開発年度は1975年。既に30年以上も経過したシーラカンス級の”古き良きキャリバー”でもある。故に今後、更に長きに渡りメインテナンス用のパーツ不足も心配なかろう。どこがヤラれても何とか成りそうな”保険”にも似た安心感が逆に強みとなる。。。

リミテッド2000にはプラチナローターさえ不要だ。

この文字盤の仕上げ、濃紺に輝くブルースティールの青焼き針、流麗な細身のケース形状、そして文字盤のフランク独特の数字と同じ書体(これが泣かせる!)のBIG-DATE付き・・・。これだけで筆者基準の極上時計の範疇に十分に入っていくる。もっと正確に言えば、極上時計の基準から逸脱はするものの、筆者の強い思い入れと嗜好から『特待生』扱いで、極上時計に当選してくるモデルである。そうした極上時計としても価格の価値は十分にある。『デザイン8割、ムーヴ2割』の評価基準たる所以である。
いくら能書きを並べても、この良さは中々伝わるまい。好きな人は好き、そうでない人には何でもない時計。逆にデザインが強烈であるがゆえに時に目障りにもなろう。が、それで結構。それこそがフランクの持ち味である。しかし、このリミテッド2000は古典中の古典的なデザイン。奇抜さや衒いなどは皆無。まさに『ネオ・クラシック』を代表する意匠ではないか。パテックの96やトノー・ゴンドーロ(⇒2007年バーゼルで見事に復刻された)にも負けぬ定番の風格、と言えば過大評価だが伝統的なデザインの中に色気と華を巧みにブレンドしている。まさにこの点が『時計オヤジ』ぞっこんの理由である。

(⇒右写真:
BIG-DATEの2桁数字板には0.5ミリ程の段差がある。まさにベースETA+モジュールの特徴だ。文字盤の四隅はカーブを描いた立体的な曲面を作る。長い分針も先端が僅かに曲げられている。ブルースチール針と共に高級時計たる風格十分である。)



SS製1,000本、PG、RG、YG、WG製が各200本。合計1,800本の限定モデルである。
文字盤の色は、青エナメル、サーモンピンク、そしてこのシルバーの3種類と思われる。
筆者のお気に入りはこのシルバー&ギョーシェである。これ以外の文字盤では針の形も夜光入りとなり、繊細なスペード型は見られない。銀色ギョーシェには青焼きのスペード針。これが最大のお洒落。そこはかとない艶やかさを醸し出す古典的意匠の理由だ。

2002年には再度、#2851S6Jが発売となる(J=日本限定品の意味)。
長嶋茂雄氏もプラチナ製2851を愛用(注2)らしいが、このモデルにはデイト表示は無い。6時位置の『6』が秒針小ダイアルで欠けてしまうのが興醒めである。因みに、俳優の中井貴一氏もリミテッド2000の愛用者と聞く(注3)。中井氏はREF#16520と思しきデイトナ黒文字盤もお気に入りのご様子(⇒ちと古いが2005年末放映のNHK大河ドラマ『義経』座談会でその黒デイトナを装着した姿が印象的)。流石、『時計マニア』である。ツボをキチンと心得ていらっしゃる。

(注2)プラチナケースであればフランクでは数少ない裏スケモデルの自動巻きとなり、こちらも中々魅力的な出来映えだ。
(注3)Men's Ex (2004年2月号87頁)による。





(BIG-DATEをじっくり観察してみよう〜)


←写真左: これがその独特の書体、ビザンチン数字である。

他ブランドのETA2892A2モジュールではBIG−DATEの書体が既製品のゴシック体やらが多い。しかし、流石にフランクミュラーでは手を抜かない。逆にここで手を抜かれては困るのだ。文字盤の数字と同様の凝ったデザインを用いる。最低限の『お約束』は守ってくれている。この12時位置のデイト表示はPOSITION的にはしつこいようだが、逆に12時表示と上下して、あたかもロンドンの2階建てバス、ダブル・デッカーのようで面白い。これこそが最大の魅力の一つである。



ここでフランクミュラーのモデル名の記号の意味について少々触れよう:

7500系 : S6は手巻ETA、クロノは手巻フレデリックピゲ(FP)。
2850系 : S6、SC共にETA2892系、稀に手巻プゾー(ETA)7001もある。
5850系 : SCはETA2892系、CCは手巻レマニア1870。

SC: センターセコンド(分かり易い省略だ)
S6: 6時側にスモールセコンド
CC: クロノグラフ、となる。


ベースキャリバーはETA、レマニア、FP中心で、それに独自の改造を加え、彫金を施し、独特の化粧をする。
マニュファクチュールではないが、こうしたムーヴメントの仕上げもありだな、と感じ入る。
上述の通り、メインテナンスの有利さもあるが、筆者はマニュファクチュールのムーヴメント至上主義には与さない。あちらも良いが、こちらも良い。筆者自身の志向・嗜好にも変化が出てきた。変化と言うより、むしろ時計の世界の奥義、妙へと更に迷い込んでいる感じだ。

家内制手工業的な独立時計師のムーヴは見事。それはそれで芸術の域にもあり、マニアックでもあり、素晴らしき逸品である。しかし、それ以外にも見事なムーヴメントも沢山ある。例えば量産の典型、ROLEXのCal.3135は完成度の高い、高品質で現代最高の実用キャリバーの一つと断言しよう。筆者が今、裏スケに改造してでも見たいムーヴの一つだ。愛すべきキャリバーベスト5には挙げられる。フランクミュラーのようにETAベースにモジュールを加えて、手を入れる。云わば90%以上が既製品モジュールの流用だろう。NOMOSのように徹底してベースキャリバーの部品を組み替えているか堂かは不明だが、想像するにカサブランカのライン、ETA2892系であればローター以外は可也、殆どが原型パーツに近いのではなかろうか。しかしながら何故か雑誌ではそうしたフランクのムーヴメントについて徹底分析、公表しないのが不思議である。個人的にはローター以外のどこが独自の部品であるのか是非とも知りたいところ。

メゾンとプレスの駆け引き、広告主との力関係か・・・。諸々の力関係、Power Balanceは どこの世界にもある構図である。




閑話休題。


BIG-DATEをよ〜く観察すると、日付二桁の段差の正体が分かる。
ETA2892A2の特徴である、10の位が十字形の回転盤。この段差式構造はまさにランゲと同一。但し、フランクの1の位は十字型の羽根であるが、ランゲの場合は円盤を使用し、グっと小径である。この2種類の日付盤が重なることで段差が出来る訳だ。

(←)左の写真は日付が変わる瞬間である。非常に分かりやすい、日付盤の構造を垣間見ることが出来る。



BIG-DATEの機構については、各社でデザインも異なるが共通しているのは10の位と1の位の日付表示用の日付盤が独立している点である。9日から毎10日、20日、30日に、そして31日から1日に替わる時が一番の醍醐味だ。2種類の日付盤がパチっと変わる瞬間。ドイツ、ドレスデンの元祖ゼンパーオーパー(=ゼンペル・オペラ場)で食い入るように見た世界初の5分単位デジタル式時計の思い出が毎回重なる。ウォッチランド訪問の経験も蘇る。自分の持つ思い出や経験を自身の時計にオーバーラップさせることが出来ればこの上ない愛で方ではなかろうか。

(参考) BIG-DATEの詳細はこちら⇒ 『ドイツ時計聖地・ゼンパーオーパーとBIG-DATE機構の因縁』。




(秒針ダイアルも絶妙のバランス位置を誇る〜)

フランクのギョーシェ彫りは業界TOPクラスの出来映え。
例えばクレイジーアワーズの文字盤、その散りばめられた数字模様などは世界遺産ものの逸品である。その文字盤のデザインと巧みな色彩が群を抜く。完成度は天下一品。
このLimited 2000の文字盤の色彩はシルバーと黒の2色のみ。このシックさ、控えめ加減と垢抜けした上品さ加減が際立つ。ギョーシェが綺麗な時計と聞かれれば、筆者は迷わずフランクミュラーを一番に挙げる。

秒針ダイアルは数字表示(=INDEX)を害さない。6時の数字もしっかりと残している。BIG-DATEも同様に12時の数字を壊さない。この勇気と英断が心憎い。12時と6時数字が微妙に上下に圧縮されているのが『味』となる。しかし、ここまで来ると美術工芸の域に達する。長時間の鑑賞にも十二分に耐え得る。手首に乗せても気持ちが和む。長年の愛用にも存在感を持って答えてくれるであろう。そうしたユーザーへの自信をかき立ててくれるような時計は昨今では決して多くはない。




(⇒右写真: こちらはダービー&シャルデンブランのアエロ・ディーン〜)

中身のベース・ムーヴメントはまず間違いなくフランクと同じETA2892A2である。よって、秒針小ダイアルの位置といい、BIG-DATE窓の位置といい酷似。BIG-DATEは上述の通りゴシック調である。これはこれで良いのだが、フランクの文字盤にはゴシック文字の小窓は絶対似合わない。やはり、独特のビザンチン書体のみがフランクには許せるのだ。これが同じフランクでもマグナムサイズ(#6850)のグランギッシェともなれば、BIG-DATEの位置も数字の書体も、その窓の大きさも全て異なる。ケースは大きくなったのに全てが逆に”ダウンサイジング”されてしまい、全体バランスを乱す。そうであれば、Limited 2000のようにBIG-DATEを最細ケースに押し込むのが正解。見栄えも生きる。その意味では、このダービー&シャルデンブランもその独特のギョーシェと青焼き針の組合せでBIG-DATEの魅力を存分に引き出している好例と言えよう・・・。CPP(=Cost-Per-Performance)では非常に高得点のモデルである。

2007年の新作においてフランクより、このアエロディーンに瓜二つの変形角型”ギャレ(GALET)”が発表された。筆者の辿った経緯とは逆に、今度は丸でフランクがダービーの後追いをしているかのような新作発表である。エッジが効いたもう一つの新作”アールデコ(ARTDECO)”に至ってはTISSOTポルトのケースに酷似する。う〜ん、フランクの流麗なるトノーのイメージとは程遠い。いつぞやの”トランス・アメリカ”のように長続きしない、いつの間にか消え去るモデルとなる予感がして仕方ないのだが。。。





(⇒右写真: これがその大型マグナムサイズのグランギッシェだ〜)

このボリューム感、膨張感はさすが#6850。鯱(シャチ)のように巨大ケースだ。
しかし、グランギッシェ(=BIG-DATE)の窓の位置も、インデックス数字の大味加減、6時表示の欠け具合等、全体バランスは全くの別物となっている。リミテッド2000の華奢だが繊細な凝縮デザインが良く分かろう、と言うもの。(2007年2月某日、ジュネーヴのFM直営店にて撮影。)







(トノー・カーヴェックスには本来、革ベルトが一番似合う〜)

極論すれば革ベルトか、ブレスレットを選ぶかは機能性の優劣の問題ではない。
その人、オーナーの審美眼と感性の問題である。

腕時計はその歴史上、革ベルトから始まった事はカルティエ・サントスの歴史が語るように明らか。だからといって腕時計には革ベルトが宜しい、という短絡的発想は意味が無い。あくまで個々の時計の持つ、デザイン性と方向性、特徴を十分理解して選択するべきである。その選択基準はオーナーの美的バランス感覚と実用上の理由が、それぞれ縦横のマトリックスとなり、その交差軸を時々で変えてゆくのだ。その時代、その時点で最善と思えるタイプを選ぶべきだろう。単純なOX式の選択は無意味である。

それではこのリミテッド2000にはどちらが似合うのであろう。
筆者の答えは間違いなく革ベルト、それもクロコダイル(若しくはアリゲーター)の黒色、が正解だ。
理由は、
@ドレス用の時計には革ベルトがマスト。手錠のようなブレスでは、この時計の場合には少々無粋となる。(逆にメリットもあるが、詳細は続編”ブレスレットの妙”〜仮題〜で論じる) 
A最細の#2851トノーケースを際立たせるのは黒のレザーベルトに限る。文字盤の数字の黒色と連動した黒クロコがベスト。 
B古典的デザインを具現化したこのモデルには、全体バランスとして革ベルトが一番似合う、のである。


クロコダイルと一口に言っても、クロコダイル種とアリゲーター種があり、またその鱗・斑のデザインにも竹符(たけふ)と玉符(たまふ)等がある。クロコの世界に入るとこれまた迷宮ものに近い奥深さがあるので、興味ある御仁はその方面の研究をしたら宜しかろう。フランクの純正ベルトはカミーユフォルネOEMが多く、クロコの竹符が圧倒的である。その出来映えは既製品の王様と呼ぶに相応しい。竹符の区切りとなる横線の皺の深さも十分にある。よって盛り上がる符の部分もボリューム感に溢れる。流石に革ベルト専門メーカーらしい見事なクロコである。




(気分を変えて濃茶のクロコを購入する〜)


2006年1月に訪問したジュネーヴ。『厳寒の時計聖地巡礼記(買物編)』でも触れたが、ジュネーヴ市内イル島にあるFM第一号直営店で濃茶のクロコを購入した。銀色のSSケースに濃茶クロコという選択も悪くはない。黒クロコがベストと述べたが、気分によって色彩で遊べるのも革ベルトの利点である。しかし、未だにこの濃茶ベルトは使用していない。黒クロコを使い込むとどうしても他の色をする気にはならない。それ程、この黒クロコは時計本体とマッチングしているのだ(OEは黒のマット、艶消しである)。

(←左写真) リミテッド2000のラグ幅は16mm。美錠幅も同じだ。よって、見た目はやや華奢に見える。16mmのストレート・デザインは『デカ厚』常識の現在では可也細めだ。筆者は当然ながら、Banda社製のプッシュ式DFB(ダブルフォールディングバックル)に変更している。オリジナルの穴止め式クラスプも良いが、利便性、装着具合、安全性の全てにおいてプッシュ式DFBは経験上、最高の組合せである。





(その品質において時計愛好家の間で絶賛される”茶谷さん”に特注する〜)

上述の通り、OEベルトは艶消しの竹符(たけふ)であるが、個人的には玉符も好みである。但し、竹符・玉符であれ、一つ一つの玉符が『非常に立体的』でなければいけない。玉符はワニの腹に近い部分に多く、得てして細かい皺(シワ)がかぶってしまう一つ一つ班(紋様)が多くなる。玉符(班)がそれぞれ独立して、皺もかぶらずに盛り上がっている革を良しとする『時計オヤジ』の基準では、既製品で満足出来るベルトは少ない。そもそも16/16ミリというサイズからして極めて稀有である。そこで今回は茶谷製作所へ初注文ながら、細かな要望にもご相談に乗って頂き、一緒になって創り上げて頂いたのが左の特製、玉符ベルトである。小穴のピッチも0.5mm間隔として、5穴に止める。腰に巻くベルト同様、穴の数が奇数であることは鉄則。本来、1つが理想だが、多少のフレキシビリティとギリギリの間隔を重視した結果、こうなった。見栄えと耐久性では疑問点もあるが実験である。因みにこちらは『光沢、艶あり黒』を指定。ピカピカに輝く珠玉の出来映え、『艶ありクロコ玉符』の出来上がりだ。



(⇒右写真: 加えてアビエ・システム用に小穴も開けて頂く〜)

FMの革ベルトは細部に至るまで凝っている。
最大の特徴が、工具無しにワンタッチで取り外し可能なアビエ・システム搭載のバネ棒である。以前にも何度か触れたアビエ・システムはユーザーフレンドリーだ。通常のバネ棒を取り外す時に、素人が自分で行うとラグに傷を付けることが圧倒的に多い。プロでも神経を使う作業である。バネ棒はずしは決して生易しいことではないのだ。少なくとも傷防止の為にテープ等でマスキングすることは常識。だがその面倒を解決したのがカミーユ・フォルネ開発のアビエ・システム。OEMのレザーベルトにはアビエ式バネ棒が付属している(最初から装着されている)。しかし、現状ではこの特殊バネ棒はリサイクルもされず、単品でも販売されていない。となれば、OEベルトがダメになったら、アビエ式バネ棒を自分で再利用するしかあるまい。それを前提に、茶谷さんと色々相談させて頂いた結果、右写真の様に後日、アビエ式バネ棒を再利用できる小穴を開けて頂いた。バネ棒通しの穴自体にも工夫が施されたことは言うまでもない。

加えて、フランクのトノーケースのバネ棒穴位置はやや特殊。
革ベルトであれば何でもかんでも装着出来るというシロモノではない。こうした経験則も茶谷さんは十分に蓄積しているところが発注前から安心していられる点である。勿論、こちらも過去の茶谷さんの製品・評価を十分と吟味検討した上での発注であったが、CPP(cost-per-performance)の観点と合わせても評判通り満足度120%の出来映えである。



(『アガリの考察・序章』。極上時計までの出会いについて〜)

トノーケースには不思議な魅力がある。
分類上はレクタンギュラー、いわゆる角型時計の亜種、延長線上にあるのだが、筆者にはそう簡単に割り切れぬ不思議な存在だ。角型時計にはその縦横の比率によって無限の形状があるように、このトノー型も横へのふくらみ、湾曲率とサイドの曲線と曲面の組合せで無限のバリエーションがある。丸型は全て相似形だが、角型とトノー型にはより複雑なる、全てが異なるケースデザインの魅力がある。そこに文字盤やら付加デザインによるオンリーワンの特異性が生じて、個別の魅力へとに転化・倍増するのではあるまいか。

初めてフランクミュラーのトノー実物を目の当たりにしたのは1990年代半ばのこと。
今からはるか10年以上も昔のことだ。
取引先の某社長(日本人)が手にしていた『初代カサブランカ』を見て、衝撃を受けた記憶がある。
まず価格が突出していたこと。当時でも50万円以上だったと記憶する。そして、古典への造詣にも全く疎い当時の筆者にとっては、『極めて独自色が強い、インパクトが大きなデザイン』に映ったこと。加えて、日本のそこそこの会社の社長で、こうしたお洒落な時計をしている人がいるという事実そのものに感銘を受けたことを、今でも新鮮に記憶している。

その頃の筆者にしてみれば、あらゆる意味で『雲上時計』のカサブランカ。
時代もまだまだ熟成していない当時。この後に来るフランクミュラーの一大ブームの夜明け前に、自らに動く力も知識も意欲もなかった、というのが正直のところである。その後、時代と共にトノーへの興味は次第に増幅し、1997年、最初に手にしたのがソニア・リキュエルのトノー型クロノグラフとなる。これは自分自身で『GPのリシュビル対抗品』と勝手に位置付けて購入に踏み切ったものだ。流石に現在では愛用するチャンスは殆ど無いが、そのデザインにおいては今も気に入っている。


物事を諦める時、人は様々な理由を付けて、時に無理矢理にそれが不可能であると納得しようとしたり、はたまた本当に無理であるとGIVE-UPしたりする。そこで完全に諦めが付けば結構であるのだが、その後々まで尾が引くパターンは性質が悪い。
筆者の場合、まさしく後者。当然、ソニア・リキュエルのトノー型モデルで満足するには至らない。

そしていよいよ世界的なフランクブームが到来する。90年代後半、まさにミレニウム前夜のこと。
各方面からのマスコミ攻勢もあり、この頃からブームに乗せられやすい?『時計オヤジ』は次第にそのフランク独自のデザイン世界へと惹き込まれることになる。その結果、フランクのみに止まらず、本当に良い時計、即ち、『極上時計』とは何か、『極上時計=自分に似合う最上の時計』とは何か、というラビリンスへと更に迷い込んで行くのである・・・。(2007/6/23)


Part-1 『リミテッド2000・本体編』はこちら
Part-2 『アガリの考察・個人的各論』はこちら
Part-3 『フランクミュラーに見るブレスレットの妙』 はこちら

2007/07/07写真を追加


参考文献:

TITLE (2002年7月号) 文藝春秋社刊
Men's Ex (2004年2月号) 世界文化社刊
時計Begin (2002年春号No.27) 世界文化社刊

フランク・ミュラー関連WEB:
『極上時計礼讃・序説』はこちら
『極上時計礼讃〜ラジオミールPAM00062』はこちら
『2001年3月、イタリア時計巡礼〜フランク・ミュラーを探す旅』はこちら
『2002年12月、スイス時計巡礼の旅〜FRANCK MULLER WATCHLAND探訪記(ジュネーヴ編・W)』はこちら
『2005年1月、FRANCK MULLER 限定モデル"WATCHLAND"6850SCのレポート』はこちら
『2006年1月、厳寒のWatch Valley時計聖地巡礼記 (その2)」(ジュネーヴ買物編)』はこちら
『2006年1月、厳寒のWatch Valley時計聖地巡礼記(その5)」(ウォッチランド再訪記)』はこちら



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