DUBEY & SCHALDENBRAND  ダービー&シャルデンブラン

DUBEY & SCHALDENBRAND AERODYN GRANDE DATE 



(スイスの小規模ブランドだが個性あふれるダービー〜)

ダービー&シャルデンブラン(以下、D&S)。
少量生産とニッチなデザインで躍進するスイスの極小メーカーである。
1946年に創業。主役はGeorge DubeyとRene Schaldenbrandの2人の時計技師。スプリット・クロノググラフ・フライバックの簡易機構を発明し、スイス(1948年)、アメリカ(1951年)等をはじめ世界特許を取得した。70年代からのクォーツ危機時代を細々と機械式で乗り切り、1995年に現在の経営者であるCinette Robert女史に継承された。
現在地は女史の故郷近くのLes Ponts de Martelという場所で、黄金の三角地帯と呼ばれるLa Chaux de Fonds, Le Locle, Neuchatelに囲まれている土地である。女史はそれまでに買い集めた大量の機械式モジュールを改良して搭載。カレコンブレやクラシックシリーズ、そしてアエロダイン等のヒット商品開拓に成功した。。。というのが、歴史のOUTLINEである。
時計メーカーとしては現在でもかなり小さい方であり、基本的には多くの部品は外注でまかなっているそうだ。いわばスイス伝統的な分業制によって成り立っているブランドである。尚、G.Dubey氏は隠居生活に入り、今年(2004年)91歳で健在のご様子。ご健康を祈りたい。





(摩訶不思議なデザインが最大の特徴〜)

何とも不思議なブランドである。文字盤のデザインといい、ケースデザインといい初めて見た時にはその斬新さと奇抜さを理解するまでに相応の時間がかかったことを記憶している。特に、AERODYN DUOシリーズのおどろおどろしい(?)までの不思議な文字盤には強烈なショックを受けたものだ。

唐突であるがFRANCK MULLERが好きである。90年代モデルから注目してきた。一番の好みは、リミテッド2000(LIMITED 2000 BIG-DATE、←左写真)。特にその細身ケース(#2851 S6)とBIG-DATE表示に憧れたのだが価格も格別であり泣く泣く諦めた覚えがある。そこへAERODYNのBIG-DATE登場である。FMとは似て非なることは勿論であるが、LIMITED 2000への想いがAERODYNに乗り移った、というのが最大の動機であろう。それにしてもフランクのケースサイズ#2851は、個人的にはFMのトノーでベストの造形美を誇っていると感じている。LIMITED 2000は時計オヤジの脳裏から決して消え去ることはない傑作品であるのだよ・・・。





(ヨルダンの首都アンマンで一晩悩む〜)

出会いの場所は2001年12月、ヨルダン首都のアンマン市内に新規オープンしたGRAND-HYATTホテル内。何気なく覗いた店が例のレバノン本拠地の高級宝飾店モアワッドMOUWARDであった。ここで、D&Sの数々のモデルを30本くらい見せてもらった。DUOとAERODYNで迷ったが、最終的には憧れのBIG-DATEをセレクト。そして更にシルバー文字盤か、黒文字盤かで一晩悩んだ(写真下)。店にお願いして、この2本をショーウィンドーに夜も飾ってもらうことにして、真夜中もホテルロビーの店の前でどちらにするか悩んだ自分が懐かしい。

(⇒右写真: Mouwardにおいて最終的な『交渉』を行う『時計オヤジ』。
  美人な店員さんを前に、そしてD&Sのフルコレクションを手にすることが出来てデレデレである。)



汎用性を重視して結局はシルバー文字盤に決定した。実は今でも少々悩んでいる。黒文字盤に金色のリーフ型ハンズ、白色のINDEXも中々よろしい。但し、独特の放射状のギョーシェ模様はシルバー文字盤の方が見易い。まぁ、これ以上考えてもキリがないのでこの辺で止めておこう。




(シルバー文字盤にビッグデイト〜)

シルバー文字盤の視認性は抜群である。BIG-DATEも期待通り非常に見易く、独特なデザインが気に入っている。ケースサイズは、縦44o、横33o、厚さ12o程度。素材はSSの最高級ラインと言われる316Lを16回以上プレスした鏡面仕上げであり、その曲面デザインも加わり、輝きの美しさは他の時計と一線を画す。時針、秒針共にブルースチール製であり、ルーペで見ても非常に綺麗だ。(⇒ BIG-DATE機構についてはこちらを)

ムーヴメントはETA製Cal.2892-A2がベース。裏スケではないので普段は見る由も無いが、カタログ等を見る限りではローターにはコートドジュネーヴ模様が、地板やブリッジにはペルラージュ紋様が、そして文字盤側の地板にもペルラージュが丁寧に装飾仕上されている。中々美しくも手抜きの無い仕上げである。26石、パワーリザーブは平均的な42時間程度。8振動の28,800vph、11 1/2リーニュ、5姿勢差による調整済、等など技術と仕上げにおいては惜しみなく現代の粋が注ぎ込まれている。


(実際の装着感は上々だが、ややデカ厚に属する形状である〜)

装着するとそのボリュームに圧倒されるが、決して邪魔には感じない。手首上でのごつごつ感、ゴロゴロ感も無い。理由はその独特のケースによる。その型式ではトノーに分類されるのであろうが、筆者はこれをトノーとは思わない。どちらかと言えばレクタンギュラーの亜種である。

感覚的な問題もあるがトノーであればもっとラグ方面を絞り込むべき。これはD&Sの独創的なデザイン力の結晶であるのだが、トノーとレクタンギュラーの中間に位置するケース型である。D&Sのカタログによれば、デザインコンセプトは1920〜30年代にかけて流行したアールデコにあるという。アールデコART DECO、アールデコラティフART DECORATIFとも呼ばれるこのデザインの特徴は、幾何学的な直線をベースとするが、AERODYNを見る限りむしろ、それ以前のヌーヴォー(ナチュラルな曲線を多用する)に近い気がするのだが。文字盤上のINDEXは直線的だが、ケースの曲線はART-DECOとは程遠いので、個人的にはデコとヌーヴォーのデザイン融合と解する。ケースと一体化したラグの形状も微妙に手首に沿ってカーブしており、なめらかな感触が良い効果を与えている。ムーヴはETAのベストセラー・モジュールである2892-A2。信頼性は文句無い。欲を言えば裏スケルトンにして欲しかった。革製ベルトは文字盤INDEXと同色のブルー、クロコ型押しである。シングル式Dバックルも標準装備だ。純正SS製ブレスも別途入手した。





(今後のD&Sの奮闘に期待する〜)

この先、D&Sはどの方向へ進むのであろう。
そしてどのような新デザインを打ち出すのであろうか。
活況を呈する現在のスイス時計メゾン各社は競うように毎年、新作を発表し続ける。大袈裟な表現をすれば、この競争に乗り遅れることは企業としての死、をも意味しよう。しかし、自動車でさえモデルチェンジ期間を長くする方向にあるのだ。時計業界の毎年の新作発表は少々、過激・過熱し過ぎではあるまいか。大資本の潤沢で莫大な資金投入により、開発競争が年々加速される一方で、スイスの伝統的な「分業」によるD&Sのような中小規模ブランドが過去のデッドストック中心のムーヴメントを流用した開発体制でどこまで時代に耐えられるのか、躍進できるのか、非常に気になるところである。かつてあのミネルバが消え去ったように、D&Sのような中級以下のメゾンにはまだまだ試練の時が続くのであろう。C.Robert女史の奮闘とこのブランドの「地道な進歩と発展」を願わずにはいられない。(2004/04/04)



(2005/11/27 写真&文章を加筆変更、2007/6/10写真変更)

追記1)2005年11月9日夜にアンマンのGrand Hyatt含む3つのホテルで同時自爆テロが発生した。丁度一年前に再度、宿泊したばかりの馴染みのホテル故に大変なショックである。無差別テロは本当に卑劣極まりない。犠牲者の方には謹んでご冥福をお祈りする。ロビーにあったあのモアワッド宝飾店もその後が大変気になる。(2005/11/13。)

追記2)2007年の新作でフランクミュラーは、丸でこのAERODYNにそっくりの新型トノー『ギャレ』を発表した。う〜ん、トノー型も各社から出揃ったこの時期に、敢えて独創性に欠けるギャレをぶつけてくるフランクミュラーの真意を図りかねるのだが。案の定、マスコミ、時計メディアはこぞって賛辞を送るのが甚だ滑稽だ。誰も一石を投じられないのは業界の体質であるのか。だとしたらそれも情けない話である。(2007/6/19)

追記3) 2010年3月開催のBASELから悲しいNEWSが届いた・・・。
何とD&SがRobert女史の手を離れて
新オーナーに身売りされてしまったのだ。
BASELでは新作も発表されたが、今までのオドロオドロしいD&Sモデルから、単なるファッション時計のデザインになってしまった。D&Sらしい個性や独特の味が全く失せてしまった。デザイン勝負で細々と生き抜いて来たブランドだけに、デザイナーやメゾンとしての哲学が変わってしまっては堂しようもない。2008年リーマン・ショック後に経営が大きく悪化したこと、及びRobert女史の健康と経営への意欲に問題が生じたのではあるまいか。誠に断腸の思いであるが、D&Sは消滅した事実を受け止めなくてはなるまい。実質、15年間でその命を終えようとしているD&Sと、その間のRobert女史の活躍に対しては心より賞賛を送りたい。
さよなら、ダービ−&シャルデンブランよ・・・(2010/5/27)。




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