Baume & Mercier   ボーム&メルシェ

Classima Executives Retro Jumping-Hour Ref.8690

(シャフハウゼンSchaffhausen ⇒ ジュネーヴGeneve訪問記シリーズB)


(2006年の新作時計で興味を魅かれた時計を選ぶ〜)

チューリヒ時計事情でも触れた老舗&超高級時計店BEYER。
創業は1760年。この時計店の地下にある時計博物館を見学に来たのだが、開館の午後2時まで少々時間がある。それではとばかりに、店内にて遠慮無くボーム&メルシェ(以下B&M)のクラシマ(クラッシマ)・レトロ・ジャンピングアワーを拝観させて頂くことに。。。

店外のショウウィンドウには、IWC、JLC、Cartierを始めとして数々のメジャーブランドが並ぶが、その中でキラリと光ったモデルがこのB&Mのジャンピングアワーである。
以前、2006年発表の新作の中で、『時計オヤジ』のお気に入りとして以下の6本を挙げた:

@H.Moser & Cie パーペチュアル1 黒文字盤+RGケース+手巻。ダントツに良い。
  唯一、時針のデザインが大味過ぎ。
AVacheron Constantin コメモレーション2006エリタージュ(日本限定15本) 
  黒文字盤+PGケース+秒針小ダイアル付。素晴らしいデザイン。
BBaume&Mercier クラシマ・レトロ・ジャンピングアワー黒文字盤+RGケース。
CPatek 5130ワールドタイム(短針リバイバル) 但し、放射状のギョーシェデザインはX。Index処理が残念。
DGlashutte Original パノマチック・リザーブ グレー文字盤+Cal.90搭載+新型SSブレス付き。
EBvlgari ブルガリ・ブルガリ 3針+デイト付き。短針x2倍=長針と、バーインデックスのバランスが見事。
  見方によってはそれがアンバランスとも映るが、極めて完成されたデザインだ。
  唯一ベゼルのブランドロゴがトレードマークではあるがでしゃばり過ぎる。



時計マスコミはシンプル時計の極致として『リヒャルト・ランゲ』やグラスヒュッテオリジナル『セネタ』、複雑時計の究極モデル『JLCトリプティック』やらをこぞって讃えているが、『時計オヤジ』にはいずれもピンと来ない。機能的に云々、精度も仕上げも格別であるのは分かるが、実際に魅力として響いてくるものが正直のところ小さいし、少ない。ここで言う『魅力』とは自分の琴線に触れるか否か。乱暴に言えば、一般受けするとかしないとか、派手なメカメカしさやら、凝りに凝った超一流仕上げのムーヴメントがどーだとかは二の次。自分が身にする時計として相応しいか否か、自分の肌(=インスピレーション)に合う時計か否か、総合的に見て『是が非』でも買いたい時計か否か、、、その一点が基準となる。

上記の6本は『是が非』とまでは言わぬが、極めてそれに近い時計である。
特に@、Aは断トツに良い。Bもデザインと桃金の色彩バランスが素晴らしい。



(ジャンピング・アワーとは何か〜)


解説不要であるが、12時位置の時間表示窓が特徴的。
←左写真は8時27分17秒位を指している。
慣れれば良いのかもしれないが、『時計オヤジ』のように文字盤全体の位置関係から時間経過やらを読み取ったり想像する『古典派ユーザー』にはこうしたデジタル表示式の文字盤は苦手である。それがどうであろう、不思議とこのクラシマには興味を魅かれるのは多分に全体のデザインの完成度の高さによる。

ぱっと一目見て魅力的なのが、色彩バランス。
桃金ケースにエナメルのように輝く黒い文字盤が極めて強烈な個性を放つ。そして偏心文字盤のような、ジャケドローのモデルを連想させる円心からずらした分針と秒針ダイアル。とどめは12時位置のジャンピングアワーである。
ラグやケース形状はごくごく一般的な意匠だが、竜頭のデザインはスポーツ系時計を彷彿とさせる。パネライ・ラジオミールやIWC7日巻きビッグ・パイロットウォッチ、そしてジャケドローやスピーク・マリーン等も採用している。本来、手巻式に向いた使い勝手のよい逆円錐形状の竜頭であるが、このクラシマはラジオミール(PAM00062)同様のオートマモデル。そのモデルに、そしてドレスモデルでありながらこうした逆円錐形のどっしとりとした竜頭デザインを導入するところが些細な点ではあるが、『時計オヤジ』の琴線に触れるのだ。コインエッジが入っているのは逆円錐形状にはお決まりである。


実際にジャンピングアワーを使わせて頂いた。
毎正午ジャストに数字が次の時間へとジャンプするのだが、一瞬のジャンプの直後に時間表示の数字盤が小刻みに振動で揺れるのだ。この振動が、『ワタクシ、機械式トケイです!』と自らが主張しているようで自分でも不思議と小さな感動を感じざるを得ない。


(⇒右写真: 裏スケのガラス上には何やら幾何学的な紋様が・・・)
ムーヴメントはETAの傑作汎用キャリバー2892A2であるが、そこにジャンピングアワー用のデュボア・デプラDubois Depraz社製モジュールCal.14400を加えた物だ。ジャンピングアワーの原理はレトログラードにも通じるところがある。又は、ロレックスに代表されるデイトジャスト機構を毎正午に使っているとでも言えばもっと分かり易いであろうか。

裏スケルトンから見える地板には”ETA2892A2”の文字がくっきりと刻印されているのが見える。こうしたベースキャリバー名をそのまま載せているB&Mというメゾンがバカ正直というべきか、スウォッチグループの一員だからと言うべきか、開き直りが感じられる。
176本限定生産のモデル、国内定価は105万円。スイスでも価格は似たり寄ったりである。


B&Mというブランドはまだその方向性に迷いが感じられる。
価格帯でも20〜50万円ゾーンの一番競争が激しい、難しいレンジにある。
新しいデザイナーを迎えて、この2〜3年は積極的に変革に挑戦しようとしているが、このモデルを見ても素晴らしいのだが、B&Mらしさが今ひとつ伝わって来ない。ジャンピングアワーでありながら、ロゴを変えればどのメゾンでも発売できそうな個性の薄さが残念な点ではある。
そして、文字盤上の数字の書体(ロゴ)も丸で明朝体数字のようで余りに凡人過ぎる。優等生、八方美人というのはソツが無い反面、面白みに欠ける。もう少し押出しの強さをデザインに出しても良いのではなかろうか。



(ジャンピング・アワーについての感想を少々〜)

ジャンピングアワーには時間表示としての新味性、面白みはある。
セカンド・ウォッチとしては良いが、これのみでは苦しい。やはり、終生共にする時計というのは伝統的な2針か3針式に止めを刺す。それはさておき、最近、このジャンピングアワーが脚光を浴びつつあるようだ。その典型例が以下の3本。


←ご存知、クロノスイスのデジターDegiteur:

ジャンピングアワーの時計(=懐中式)は少なくとも150年前には存在していた。
前出、ドレスデンのツヴィンガー博物館でも、新メゾン・ヴァシュロン・コンスタンタンにおいても見かけた。針式時間表示と比較すれば、デジタル式の走りでもあり、当時からかなりモダン、モードなデザインであったと思われる。
このデジターは、クロノスイスの御大ラング師が歴史的なオマージュを込めた渾身の再生作品。手巻式古典キャリバーを用いて繊細で美麗なフレアケースに納め、2005年に限定搭載・発売したもの。針の無い時計という意味を持つこのデジターは裏スケであり、キャリバーFEF130から見えるチラネジ式手巻メカを眺める楽しみも隠されている。しかし正直のところ、時間の読み取りは極めて不便。特に、分と秒の小窓が見難い。この表示窓の大きさでは40歳半ば以上の方には判読し辛いであろうが、この時計は『高級ファッションウォッチ』として思い切って割り切るべきだ。敢えて言えばゴールドのバングル、ブレスレット的な感覚で装着するのが正しい。





← 説明不要、ブライトリングのベントレーモデル:

2006年発表のこの時計はマスコミでは絶賛されてるようであるが、『時計オヤジ』にはどうしても不可解なデザインバランスに映る。その理由は、ケースの縦横の比率と文字盤の構成にある。ジャンピングアワーの表示窓の大きさと分針ダイアル、そして秒針ダイアルの大きさがアンバランスに感じる。特にジャンピングアワー表示窓と秒針ダイアルの小ささが気になるところ。加えて文字盤下段のスペース処理が緩慢である。
個人的には上のデジターと比較すると、同じ空白(=間)の処理で優劣が際立つ対照的なモデルである。このモデルのようにレクタンギュラーケースに納めるジャンピングアワーというのは、その意匠的にはドクターウォッチに似てくる。ジャンピングアワーというデザインの中で、何を主張しようとしているのか、どこにアクセントを置こうとしているのか。マッシブな意匠で大型ベントレーを演出しようとしているのは分かるが、全体のデザインが緩慢に感じる。



← あのペルレPerreletも新デザイナーを迎えてイメージを一新した:


1995年にリバイバルを果たしたペルレは表裏のダブルローターで有名だ。しかし、最近、新たにデザイナーを迎え入れ、そのデザインを大きく変えつつある。
その急先鋒がこのジャンピングアワーモデルであるが、ブランド名を確認しなければどこのメゾンかは分からない。ボーム&メルシエと言われても分からない。逆を言えば、このペルレもB&Mもデザインは良いが、今ひとつ個性の強さに欠ける。
見方によってはジャケドローのモデルにも通じるデザインが新鮮ではあるが、二番煎じの感を免れない。もう一ひねり、デザイナーの奮闘を期待したいところだ。





(ジャンピングアワーの究極の形がここにある〜)

右写真⇒は、2006年1月にフランクミュラーのウォッチランドで撮影したクレージーアワーのトゥールビヨンである。毎正午に5時間先にジャンプする時針もジャンピングアワーの応用形ということが出来よう。このモデルでは更に文字盤から時間を読み取る、計算するということが難しい。いわば時間の概念を超越した、時間を否定する時計、とでも言おうか。発想の非凡さがフランクミュラーの真骨頂である。



←左写真: オメガ デ・ヴィル・ジャンピングアワー:

5〜6年前にはあの大御所オメガからもトノー型ケースに納められたジャンピングアワーが登場していた。このオメガのデザインはまさに斬新。12時位置にあるジャンピングアワー窓に1本の分針がトノー型文字盤に乗るというのが極めて潔い。更に分針の1本針は変形ブレゲ針でもあり、大胆なデザインだ。まるで妖怪の一つ目傘を連想させる程、くっきりとした時間表示窓でもある。これこそが個性、という好例である。視認性は勿論、上記3種類のモデルよりも遥かに上だ。さすがにオメガ、である。




繰り返しになるがジャンピングアワーとは決して新しい機構ではない。むしろ古典的な意匠であるのだが、現在においてもその魅力が褪せることは無い。デザイン優先としての個性的な普遍性が宿っているだけに、中途半端な取組やデザイン導入だけでは各メゾンの特徴を出し辛い。
自社の理念とデザイン力を試される時計、それがジャンピングアワーである。




2006年10月末、『時計オヤジ』のシャフハウゼン(チューリッヒ)&ジュネーヴ2都市訪問記は以下:
⇒ @ 『モーザー本社訪問記』はこちら
⇒ A 『最新・チューリッヒ時計事情』はこちら

⇒ B 『Baume&Mercier クラッシマ・レトロ・ジャンピングアワー』はこちら
⇒ C 『BEYER時計博物館訪問記』はこちら
⇒ D 『IWCの故郷、古都シャフハウゼン散策記』はこちら
     ⇒ ドバイの『世界初、IWC直営店訪問記』はこちら
⇒ E 『2006年10月、ジュネーヴ時計王国・最新情報』はこちら
     ⇒ 番外編 『2006年10月、ジュネーヴで買った理想のWモンク・シューズ』はこちら
⇒ F 『フレデリック・コンスタント新工場訪問記』はこちら


⇒ (腕時計MENUに戻る)
(このWEB上の写真・文章等の無断転載はご遠慮下さい。)

TOPに戻る