時計に関する随筆シリーズ (53)

『H.Moser & Cie.こと、ハインリッヒ・モーザー本社訪問記』

〜 2006年10月下旬、シャフハウゼンSchaffhausen ⇒ ジュネーヴ訪問記シリーズ @ 〜





IWCの故郷、シャフハウゼンSchaffhausen。
しかし今回の目的は『新鋭』ハインリッヒ・モーザーことH.Moser&Cie.である。
現行腕時計の中でも1〜2位を争う『時計オヤジ』注目のメゾンだ。
モーザーを見るためにシャフハウゼンまでわざわざ来たのだ。
素人がモーザーを訪問するのは筆者が2人目、プレス取材でさえまだまだ少ないそう。
今回は、じっくりと訪問時のインタビューを披露しよう。。。(2006年10月末訪問)



(来たよ、来ましたよ、これがノイハウゼンにあるモーザー本社だ〜)


この日午前中はシャフハウゼン市内とIWCを訪問。そしてその後、駅前からバスで移動、欧州随一(唯一でもある)の名瀑『ラインの滝』を見学してからやって来た。

モーザーはそのラインの滝から車で約5〜10分足らず、ノイハウゼンの工業団地にある。2004年7月に訪問したミュンヘンのクロノスイス工房の建物と間取りが丸で瓜二つ。やはりドイツ系の土地柄?であろうか。本来であれば、『時計オヤジ』の訪問日程の順番を追ってWEB-UPと行きたい所だが、何といっても今が旬?のモーザーである。最新情報ということで気合を込めて今回は真っ先に公開することにしよう。
(←左写真: 建物前にはモーザーの白い幟(のぼり)が3本はためく。周囲の『工業団地』とは皆、こんな感じのこじんまりした建物だ。伝統的なキャビノチェのムードは皆無。しかし、ビッグメゾンの大型最新鋭のビルと比べれば、これが現代のキャビノチェ、と言えるかも・・・)

今年2006年のバーゼルで華々しく公式デビューを飾ったモーザーである。
その最大の魅力は、@デカ厚系のケースに、A極めて古典的でシンプルな文字盤、Bそしてハッと目を奪われる、一目見て超一流の仕上げと分かる独特のムーヴメントにある。ケース径が40mm以上というのは正直、チトでか過ぎる。しかし、それを補って余りある魅惑的な実物に触れてみたい、更に加えて言えば突然、降って湧いてきたようなモーザーという新しいメゾンとは一体何ものぞ!?恐るべし、スイス時計業界の懐の深さ!などなどの素朴な疑問と欲求にかられて『時計オヤジ』は直球勝負でモーザー本社に乗り込んだ。
今年1月の『時計渓谷ことジュラヴァレー時計聖地巡礼記』連載を終えたのも束の間、今年2回目のスイス時計聖地訪問はチューリヒを基点にこの後、ジュネーヴへ移動する2都市(地域)におけるメゾン訪問を目的とする。



(早速であるが、モーザーのセールス・ディレクターのジィマーマン氏とのインタビュー(会話)を再現しよう〜)

ジィマーマン氏は以前ショパール、その前にはモーリスラクロワで10年間勤務、香港やシドニー駐在経験もあり、時計業界を熟知した御方。加えて、語学も堪能で独・仏・英・伊・西の5ヶ国語を操る。まさに、セールス・ディレクターに相応しい御仁である。最初の2〜3分の会話でお互いのフィーリングも合う予感が。共に現在、海外を主戦場としてることもあってか、トークのリズムとテンポもピッタリだ。それにしても、インタビュー、写真撮影、議事進行?の3役を独りでこなすのは楽しくもあり、本当に難しいものだ。今回は拙い生インタビュー(ダイジェスト版)を紹介することでモーザーの醍醐味を多少なりとも表現してみたい。

(⇒右写真: 
MAYUのフルコレクションを前に説明にもリキが入るジィマーマン氏。
左手には桃金ケース+黒文字盤のモナードが。ブルーの細かいピンチェックのボタンダウンシャツが若々しい。筆者のファッションと略同じ路線だ。プロトも含めて全モデル合計30本近いモーザーを拝見した。その圧倒的な存在感はPATEKのような凝縮された美しさとも違い、まるでビッグバン!(ウブロのことではない)はじけるような、大きな広がりを感じる。まさに新生極上ブランドの躍動感がここにある・・・



ジィマーマン氏(以下、Z)  『時計オヤジ』、ようこそモーザーへ。お昼も御一緒すればよかったですね。時計業界外の方で当社を訪問するのはあなたが2人目です。最初の方はシンガポールからでしたよ。ところで、どうしてモーザーを知ったのですか?
時計オヤジ(以下、TK) う〜ん、やはりシンガポールですか。あの国にはケタ違いのパワーを持つ『素人』の方がおられるようですからね。それでも2番目というのは光栄です。モーザーを知ったのは日本の時計雑誌で紹介されたのがきっかけですが、それ以前から各種WEBを通じて知っていました。初めてこのムーヴメントをWEBで見た時は感激、というよりもむしろ『Positiveな意味での衝撃』でした。モーザーの持つ時計の美しさのみならず、突然、どうしてこのようなメガトン級のブランドが新たに生まれてくるのか、スイス時計業界の懐の深さのようなところにも仰天したのです。まずは、現在の生産状況からお聞かせ下さい。

Z) お褒めのお言葉、どうも有難うございます(笑)。今年は年間500本生産の予定ですが大きく遅れています。現在はMAYUのみが市場に出ており、パーペチュアル1(以下、パーペ1)はまだ1本も出荷されていません。日本市場はプロフェッショナル、アフターサービス優先志向が強いので、現在のような状況では月間10〜20本程度の出荷が限度であり、とても日本向けに出せる状況ではないのです。多分、来年からでしょう。当面はドイツ、スイス、オーストリア向けが中心。東南アジア、日本、アメリカ向けはまだですね。

TK) ということは今年からドイツ語圏を中心にデリバリー開始したということですね。
Z) そうです。2000年からモーザー立ち上げの準備に入り、2005年で初のバーゼル出品、2006年にバーゼル本格参入を果たし、大成功を収めました。

TK) そう言えば昨日、チューリヒ市内のブヘラーBuchererでMAYUを2本見たのみです。
Z) おお、素晴らしい!ご覧になりましたか!その通りです、現在はあのMAYU2本しかありません。

TK) 来年の生産計画はいかがでしょう?
Z) 我々の会計年度は7〜6月。今年は500本のみ、2007〜2008年の来年は1000本予定ですがまだ未確認、生産状況次第です。とにかく前向きにやっています。



(まずはモーザーの歴史について復習だ〜)

TK) モーザーの歴史と会社の規模について質問します。
Z) H.モーザーは1805年に誕生しました。そのひ孫が現在の社長です。父とお爺さんの代からの時計メゾンです。ロシアのSt.ペテルスブルグで大成功を収めました(その後の歴史説明は省略。諸兄ご存知の通り)。

TK) どうしてロシアへ行ったのでしょうか?
Z) ロシア以外の欧州は既に成熟市場であり、当時のパリやロンドンでは競合他社も多かったせいではないでしょうか。詳細については不明ですが、1848年にシャフハウゼンに戻りました。父親が病期の為戻ってきたのです。帰国後、大成功を収めました。

TK) 今朝ほどシャフハウゼン市内のモーザー通りを歩いて来ました。IWC本社の側の公園で、偶然にもH.モーザーの銅像(胸像)も見つけました。(⇒右写真)
Z) それはまさしくモーザー公園です。当時のシャフハウゼンは貧困と未開で困窮していたのです。H.モーザーが水力ダム建設に貢献しました。ノイハウゼンで水力発電が興ったのは1865年のこと。ライン河をせき止めて造ったダムが有名です。最初の奥さんがシャーロット・マユ。4人の娘と1人息子(Henri)を儲けましたが、マユは不幸にも馬車事故死。再婚後、2人の子供に恵まれました。1865年、米国人フロレンス・ジョーンズが時計工場建設の地を探しており、モーザーが当地に誘致しました。安価な水力発電、家賃・場所、その他で色々手助けした結果、IWCが創設された訳です。

TK) 歴史から見ると、モーザーとIWCは非常に近い関係にあるようですが、技術面・製造面での関係は如何でしょうか?
Z) 実際には左程、近い関係にはありません。確かにIWCはモーザー無しではこの地に有り得なかったし、ジョーンズを助けたことも事実ですが、時計業における協賛、資本関係は殆ど無かった。現在でもIWCからの部品供給も無いし、IWCとの提携も一切ありません。1998年、Dr.Jurgen R.LangeはIWCを去りましたが、ギュンター・ブルムラインと近い関係にありました。因みに、Dr.Langeはランゲ&ゾーネとも全く無関係です。(筆者注:Dr.Langeは以前、IWCの技術部長であった)


(独創と美麗デザインの融合、モーザーのムーヴメントについて〜)

TK) モーザーは現在、完全なる独立系ですか?リシュモンとの関係はどうでしょう?
Z) 100%独立系です。5人の出資者(Private investor)がいるのみです。

TK) ということはDr.LangeがIWC出身と言うことで、ここでも大きな偶然が重なりますね。
Z) そういうことになりますね。

TK) 写真を見る限り、アンドレアス・ストレイラーさんはこの数年でかなり太りましたね(笑)。
Z) 良く分かりますねぇ(笑)、彼は十分に儲けたのでしょう(笑)。
モーザーのデザインと機構はDr.Langeが考案しますが、技術的な解決方法はアンドレアスが担当しました。現在、5種類のキャリバーがありますが、どんなに素晴らしい写真を見ても実際の時計の良さは伝わらないので、どうぞフルコレクションを見て下さい。
(ケース) エレガント、グッドルッキング、貴金属素材のみ(⇒MAYUコレクションを見る)。
(文字盤)大きな秒針ダイヤル位置はETAなどと違い、真下にあります。パワーリザーブIndicatorは裏面にあります。理由は表面の文字盤を綺麗に見せる為です。MAYUのみ1バレル、あとは全て2バレルです。
(ムーヴメント)コート・ド・ジュネーヴではなく、モーザーカットと呼ぶ装飾です。
最大の特徴はInter-changeable Escapement Moduleを搭載していること。
ユーザーへの最大の配慮とメリットを狙ったものです。
4〜5年毎のサービス、OVHの時に時間がかかり過ぎる。スイスに返送される時計も多い。
それを解消する為にEscapement部分をそっくり交換することで、簡易性を尊重しました。

TK) 交換したEscapement(脱進機)はリサイクルするのですか?古いモジュールはどうするのでしょう?
Z) 多くのユーザーが自分の古いモジュールを返して欲しいと言うかも知れません。実際にはコストの問題もあり、現状ではまだOVHする時期も来ていないので、じっくり検討します。

TK) 一番気になる新型(というか変形?)脱進機、チラネジ付きのテンワについて構造を説明して下さい。
Z) テンワはブラス(真鍮)をメッキしています。チラネジは2個だけがSS製、あとは全て18金ホワイトゴールド製です。
これは非常に古い製法です。この2個が主な調整用です。理由は、2つ。
1)金のチラネジは緩みやすいのです。テンワ側のチラネジのスクリュー径は0.38mmで、テンワに切れ込みが入っています。SS製チラネジを入れた後でプレス(圧力)をかけて固定するのです。SS製だと固定し易いのです。
2)ブレゲ式ヒゲぜんまい。Nivaroxからヒゲゼンマイのレシピを買いました。ですから、同一の素材・品質のヒゲゼンマイを生産できるのです。全く、Nivarox製品と同じですが、生産が自由に出来る訳です。そして他社にも供給出来ます。1980年代後半に数百キロの素材を購入済みであり、まだまだ暫く生産できます。ドラゴンリバーと呼ぶアンクル、パレット形状はアンドレアスが考案した新システムです。アンクルは真鍮製、パレットとガンギ車はGOLD(金無垢)ベースに特殊処理を施します。アンクルががまさにドラゴン、恐竜の形をしているのでそう命名しました。

5THキャリバーはパワーリザーブが付いていません。Cal.321は32.1mm径の大型キャリバー。価格はYG/RG/WG全て同じで11,000スイスフラン(CHF)。プラチナ製がCHF16,000、ダイヤ埋め込みがCHF32,000。ルテニウム製は限定版。裏蓋はガラスではない密閉式(=ダブルイーグルモデル)となります。


(一番気になる、OVHについての質問を〜)

TK) OVHの費用も気になります。モジュールを交換するのであれば、尚更そのコストに興味があります。
Z) まだMAYUしか出荷していませんし、1本も帰ってきていないので何とも言えませんが、他社(製品)よりも低目に設定することになるでしょう。

(⇒右写真: MAYUのロシアン・ダブルイーグルに裏面ダイヤ25個入りの特別モデル。隠れた贅沢!これを彫った彫金師はこの後に登場する。)

TK) スイスではなく、例えば日本で一般時計技術者によるOVHは出来ますか?
Z) オススメしません。全ての部品が非常に複雑であり、調整するには高度な技術も必要です。スイスへ返送するのが理想的です。

TK)ユーザーには機械式ムーヴは同じ物を愛着を持って長年使うから魅力を感じる人も多いと思いますが。本当にモジュールごとの交換が必要なのでしょうか?
Z) その点はよく理解しています。2つの解決方法を考えています。
1)脱進機モジュールを変更しない方法。ユーザー合意のものとスイスへ返送し、OVHのみを行う。
2)必要あれば脱進機モジュールごと交換し、交換したパーツをユーザーに返却する。しかし、この方法ではケース、モジュール番号を全て記録、Traceする必要があり、logistic上では悪夢の煩雑さとなります。ユーザーの反応次第です。

TK)次のモデルはモナードですね。モナードの語源は何でしょうか?
Z) 現在、私が使っているモデルです。40.8mmケース径です、MAYUは38.8mm径です。
これは小さな時計ではありません。脱進機は共有しています。モナードの語源は、カリテ・モナー、カリテ・ブ、カリテ・トピアス等、当時のフランスの単語から取っていますが意味は不明です。Cal.343はゴールドシャトン、パワリザIndicatorが裏面にあります。7日巻きで黒のエナメル文字盤。昨年のバーゼル用のプロトタイプ(真ちゅう製ケース)もあります。

TK) 素晴らしい!世界で全てのコレクションが見れるのはここだけですね。だから私も来たのですが。
Z)『時計オヤジ』は幸運でした。現在、今週スイスでもwatch-fairがあり、来週はオーストリアで、次は中東のバーレンで展示会(ジュエリー・アラビア)に持って行くところでした。モナードデイトと呼ぶ日付けは非常に大きい。現在、ランゲ&ゾーネを除き、一般のデイト表示は大変見難い。それが理由で大型化しました。眼鏡無しでも読めるデイトが目的です。来年3月に上市予定。今月末(10月末)にはモナード、パーペ1は11月末に小売商へのデリバリーを開始予定しています。

TK)と言うことは初年度の500本というのは殆どがMAYUですか?
Z)MAYUとのナイスミックスです。誰しもがパーペ1を待っています。来年にはパーペ1を月産30本にはしたいところです。

TK)まさにライジングサン、日の出の勢いある会社ですね。ところで私はLUC1.96の桃金ケース+黒文字盤のハーフハンターモデルを愛用していますが、何故かモーザーの雰囲気に似ていると言うべきか、ある種の共通点があるように感じています。
Z)私は現在、Sales Marketing Managerでもあり、Management(経営側)でもあり、出資者でもあります。そして以前にはショパール本社Chopardに勤務していました。2000年にChopardに入社しました。ニコラス君は私の部下でした。(⇒Chopard訪問記を参照乞う)

TK)そうですか、ニコラス君には丁度1年前のショパール訪問時にお世話になりました。お話を伺うと、なるほど、Zさんの過去の「キャリアと色」がモーザーに滲み出ているようにも感じます。大型デイト表示ですが、もう少々ご説明願えますか?
Z)デイトはユーザーフレンドリーに貢献します。ランゲ&ゾーネも良いが、ラージデイトの二桁表示ではデイトが常に表示の中心には来ません。例えば、1〜9日の場合、ランゲでは十の位が空欄になり表示上のバランスが悪い。1桁表示にすれば常に数字を中心部分に表示できます。それがメリットでもあります。そしてダブルクラウンシステムがあります(説明省略)。


(驚愕!大型デイト表示は何と上下2枚ディスク式だ〜)

TK)でもこの(ダブルクラウン)システムはむしろ、時計初心者向けではないですか。
Z)そうかも知れません。でも使い易いはずです。
モナードデイトの価格はCHF19,000〜25,000(プラチナ)です。2007年3月から生産します。
パーペ1は、カーヴドケースバック、そして恐らく世界で初めてのパーペチュアルに見えないパーペ腕時計です。文字盤上に全てがありますが、文字盤は非常に美しくまとめてあります。懐中時計のようなラージデイト、ダブルクラウン、月表示、パワーリザーブ、フラッシュカレンダーが画期的です。。。

 (筆者注:といって、カレンダーを実演してくれたが驚いた。多分、本邦初公開!?このデイトは2枚のデイト・ディスクが重ねられている超複雑機構だ!ディスク毎の表示が1〜15日と16〜31日に分かれている。道理でデイト表示をあのように大きく出来るはずだ。フラッシュカレンダーの秘密はここにあるのだ。⇒右イラスト写真参照)

Z)デイト表示は時間帯に関係なく、前後共に調整可能です。モーザーストライプ、シャトンビス留め、フラッシュカレンダー、ラージデイト、リープイヤー表示など全てが革命的です。数ヶ月間使用しなくとも、いつでも簡単に月日合わせが出来るのです。 

TK)(竜頭を巻きながら・・・)この巻上感はかなり軽いですね。シャフトドライブを導入した成果でしょうか。ケースとムーヴメントの大きさから、そしてダブルバレルということですから、もっと重いユニタスのような巻上感を想像していましたがこれは快適!このカーブドサファイヤバックはモーザーが初めてですね。大変、魅惑的な裏蓋のラインで、装着感も良さそうです。
Z)その通りです。他社では無いと思います。誰しもが感激してくれます。

TK)このクラスプはシングルタイプですね。正直かつ、ぶしつけな質問ですが、今後、モーザーで改良すべき点、課題は何でしょう?
Z)シングルクラスプは伝統的なデザインですが、改良の余地はあります。

TK)個人的には最近、食指を動かされる時計が少ない気がします。そんな中、ブレゲ・トラディションとこのモーザーがpositiveな意味で衝撃を与えてくれました。時計業界ではモジュール毎の交換はユーザーが知らない舞台裏では珍しくはありませんが、それでも、脱進機のモジュール交換にはまだ抵抗があります。ところで、コースク(COSC=クロノメーター規格)は取得していますか?
Z)いいえ。コースクは今やどのブランドでも取得しているので、特別な規格ではありません。
 近い将来にはカリテフルリエのような別の規格の取得を検討するかも知れません。



(新モデルの充実・開発も気になるところ〜)

TK)モーザーでは更なるコンプリケーションは開発するのでしょうか?
Z)やります。しかし、モーザーは伝統的なコンプリモデルを狙います。トゥールビヨンは作りません。例えば、ミニッツリピーターや、クウォーターリピーター等のラインを念頭に置いています。

TK)トゥ−ルビヨンについてお聞きします。その存在をどのように意義付けていらっしゃいますか?
Z)個人的な意見ですが、トゥールビヨンはあくまでも営業サイドからの要請で作られていると思います。パーペチュアルの5倍の値段と言うのはおかしいのであり、トゥールビヨンにはパーペチュアルの5倍の複雑さはありません。

TK)トゥールビヨンの精度、効能についてはどう思いますか?普通の腕時計であっても、腕に付けて使用する限りは重力の影響は懐中時計よりも受けにくく、常に姿勢positionもトゥールビヨン同様に変わるはずですけれど(笑)。
Z)その背後に潜むシステムが重要ですが、これはあくまで2姿勢のみの懐中時計時代の発明です。ご指摘の通り、腕時計ではpositionも常に変化するので実用上では、その必要性は殆どありません。

TK)パーペ1の黒文字盤+ローズゴールドケースは、現代の数ある時計の中でも私が一番好きな時計の1本です(=右上写真)。
Z)CHF32,000というの価格はこのモデルに対しては決して高くは無いと思います。モナードにしてもリーズナブルな価格を常に目指します。今年12月には、max20本作成、来年2月以降は月産20本を目標にしています。

TK)12月のパーペ1の20本は既に発売前から完売ですね(笑)。
Z)完売以上です(笑)。小売店からはいつも少ないとクレーム電話をもらっています(笑)。

TK)現在、モナードをされていますが、何か問題点はありませんか。
Z)バックルは完璧ではありません。他の点は完璧です。

TK)防水性能は?革ベルトのサプライヤーは?金属ブレスは今後、生産するのでしょうか?
Z)防水機能は30m。ベルトはオーストリア製。ブレスは検討中ですが、デザインは未だ完成されていません。本体ケースの完成度が高いだけに、似合うブレスはそう簡単には出来ません。

TK)ケース素材は全てGold/Pt.製ですから同素材のブレスとなると価格も相応のものとなりますね。ところでバネ棒はベント(湾曲)式のようですが、フランク・ミュラーがカミーユフォルネ製のアビエシステムを採用しているように、このような方式は非常にユーザーフレンドリーでもあり、ラグも、ケースも傷付きにくいシステムだと思います。パネライのルミノールにも一部、新システムが開発されましたね。そうした工夫ある、簡易脱着システムを是非ともモーザーでも研究頂きたいと期待しています。




(それでは本社内にあるプロト組立工房を見学させて頂こう〜)

TK)この工房では組立も行っていますか?
Z)プロトタイプシリーズのみの組立をしています。量産用は全て外部で組み立てます。今はいませんが、ここで午前中、女性がブレゲヒゲを巻いていました。彼はマスターウォッチメイカーです(⇒右写真)。

・・・ブレゲヒゲを巻ける技術者も年々、減少していると聞く。
   普通は簡単に見せてはくれないので、彼女に会えなかったのは残念。
   ショパールでも女性技術者がブレゲ式巻上ヒゲを製作していた。
   まさかショパールから、、、?
・・・机の上には例のドラゴンリバーやらアンカーが見える。

   組立工房における、この静寂感、緊張感がたまらない。





(←左写真)
丁度、パーペ1のムーヴを組立している真っ最中。
インタビューにもあったが、全ての完成部品を一度ここに集めて検査している。
どうやら来月末からデリバリー予定のパーペ1を試験組立している様子であろうか?











TK)雑誌では表面的な紹介記事、モーザーのカタログを丸写しにした様な記事が多いですが、もっと深い技術面やら、テスト記事を期待しているところです。しかし、市場に実物が無いのではまだ難しいかも知れませんね。
Z)来年には多分、MAYUがレポートされるでしょう。パーペ1についてはもう暫く時間がかかりそうです。

(⇒右写真)
CAL.HMC321.503。MAYUのムーヴを拡大撮影。シングルバレル、3日間のパワーリザーブ、27石。肝心の脱進機モジュール部分はまだ装着前。写真が小さくて見にくいが、ドラゴンリバーは固定されているのでしっかりと見えるのが分かる。シングルバレルで3日のパワリザというのは最近、SEIKOのGS(グランドセイコー)自動巻きが主ゼンマイの長さ・幅に工夫を凝らして実現したが、モーザーではいともあっさりと???MAYUに搭載している。恐るべし、この技術の塊、先進のムーヴメント。MAYUも本当に美しい時計だ。 





Z)彼は彫金師です。
 ロシアンイーグルを彫金中ですが、その他にもオリジナル・デザインも彫金出来ます。彼は裏蓋中心に彫金を施しますが、ムーヴメントへの彫金はここではやりません。

(←左写真)
ロシアン・イーグルのみならず、他にも特別注文のような1点モノのデザインで裏蓋に彫金されている。机の左端にズラッと並べてある裏蓋には全て異なる彫金が施されている。
黙々と彫金作業を行う技師は、ある意味、孤独。集中力と想像力を絶やさぬことが大変に難しいのではなかろうか。







Z) (⇒右写真の説明)これは非常にユニークな機械です。レギュレーション、ヒゲゼンマイのバランスホイールを計測しています。現在ではROLEXとMoserのみが所有しています。非常に古い機械ですが、現在でもベストの機械です。他のメゾンでは最新鋭の機械を使っていますが、この機械ほどの性能はありません。

TK)この工房はドレスデンのランゲ&ハイネを連想させる一方で、ミュンヘンのクロノスイス工房とそっくりな間取りですね。そして、ドイツのグラスヒュッテと似通った歴史的な背景も感じます。新生モーザーはこの地に社を構える『歴史的必然』があるのでしょうか?
Z)必ずしもそうではありません。どこでも良かったのです。しかし、Dr.Langeがシャフハウゼンにいたこと、他の投資家も同様です。歴史を見るとシャフハウゼンと関係が深いですが、我々はこの土地で時計を多く生産している訳ではありません。ZURICHでもBASELでもどこでも会社を構えることは出来たのです。(⇒ この回答には筆者も少々肩透かしを食らった感じだ。。。)


TK)全てのパーツ、時計はここでデザインし、他社で生産されているのは分かりましたが、ここでプロト以外の組立が行われない理由は何でしょうか?
Z)モーザーのモットー(社是)は、もし最高の時計を作るのであれば、最高のサプライヤーと組むこと、です。
ご承知の通り、現在では多くのメゾンがマニュファクチュールを名乗っていますが、実際にはマニュファクチュールとは程遠い会社も多いのです。例えばこの小さなパーツは過去、数世代に渡り専門工場で生産され続けてきた訳です。そこには深いノウハウと技術が宿っています。それを誕生から僅か1〜2年のモーザーが自社生産するのは狂気の沙汰です。ブリッジやら歯車やら諸々の部品を外部で委託生産し、一旦ここに集めてQualtity Controlを行い、そうした部品を再度、今度はジュラ渓谷にある”XXX”(注:筆者判断で名前は伏せる)というHigh-Profile-Assembly工場へ送り、組立します。そうしてモーザーはTop Luxuary Brandとなるのです。

TK)成る程、デザイン、プロトタイプは本社で行い、量産用の組立は専門工場に委託するスイス伝統の分業体制ですね。
Z)その通り、シャフハウゼンでプロトは全て組み立てます。もう一つの事務所はラインフォールの横にあり、Dr.Langeはそこにいますが、来年にはこちらに来る予定です。遅遅とではありますが、着実に発展しています。


TK) 私の全てのコレクションを売り払ってでも、この時計を購入する価値があると思います。
やはり時計はこうして製造(プロト組立)現場を訪問してお話をお聞かせ頂くと、その楽しみ、醍醐味も増幅されると感じました。本日はどうも有り難うございました。えぇ!?シャフハウゼン駅まで送ってくれるのですか、そりゃあ嬉しい。。。




(この後、1階にあるヒゲゼンマイの製造設備を見学する〜)

ヒゲゼンマイは時計の心臓部。まさか斯くもあっさりと見学許可されるとは嬉しい誤算だ。
Nivaroxからレシピを買った話は時計誌でも読んだが、その機械は想像以上に大きい。
流石にここだけは写真撮影ならず。あちこちにヒゲゼンマイが散乱している。
ヒゲゼンマイの自社生産を新生メゾンが行う・・・俄かに信じられなかったが、目の当たりにして納得である。これでヒゲゼンマイの他社供給も出来る、時計業界でも稀有な存在『新生モーザー』であることを実感する。


(⇒右写真: 愛車のNISSAN高級SUVで駅まで見送り頂く途中〜)
ジィマーマン氏の出身地はもともとはチューリヒ。ジュネーヴの水は自分には合わなかったと言う。フランス系とドイツ系。即ち、スイス時計保守本流系とドイツ時計系。極めて単純な暴論ではあるが、こうした図式も仕事のやり易さ、メゾンの色に出るのかも知れない。



さて、このモーザー、可也の高級時計、極上時計を目指していることが良く分かった。
と、同時に問題点もいくつか・・・。
1)生産体制がまだ安定していない。特にパーペ1は来年にかけてまだまだ少ない。
  例えばF.P.Journeの2005年の生産本数が約700本強。
  モーザーはまだまだこの範疇にあり、来年の1,000本体制も全ては、諸々の状況次第という外部要因次第。
  筆者は決して大量生産を望む訳ではない。年産500本でも結構。
  しかし、モーザーとしての落ち着きどころ、戦略、路線、というものをもう少し見極める必要があろう。
  (一方、生産数が少ないので、兎にも角にも、手に入れることを優先するのも正解。)
2)独特の複雑機構をいくつも備えるだけに、そのメインテナンス体制の確立が急務。
  (特にパーペチュアル1を中心とした複雑系のOVH体制の今後については興味深い)
3)精度、ムーヴメントへ機械への評価待ち。まず、間違いなく独創性+稀少性+美しさの3拍子揃った、近来では出色の時計には違いない。しかし、個人的には期待が大きいだけ、まだまだそのパフォーマンス(性能)において情報不足であるのが事実。もう少々、市場の評価を待ちたいところだ。世の本格時計雑誌を名乗る諸氏(誌)よ、モーザーのテストレポートを期待しておりますぞ!余談だが、日本の時計雑誌に最近、モーザーが何件か紹介されているがそうした記事の内容はモーザー本社に必ずしもFeed-backされてはいないようだ。これはモーザーに限らない。今回、数誌の記事のカラーコピーを差し上げたところ、大変喜んでくれたズィマーマン氏であった。


それにしても、凄い時計が現れたものだ。
『時計オヤジ』の嗜好から言えばケース径40mm以上では大き過ぎる(MAYUはやや小さ目だが)。
しかしこの時計に限り、その大きさが逆に圧倒的な存在感となり、極上時計の貫禄にさえにまで昇華するのではなかろうか。『パーペチュアル1』はダントツに良い。永久カレンダーには今まで興味が無かったが、この時計であれば調節も簡単だ。月の表示も小さな針で行い、JAN,FEB,MAR等の月表記(小窓)が一切無いのも革新的。

のっけから興奮気味で綴ってしまったが、今後適宜加筆・修正を加えてゆく。
本当に、自分のコレクションを全て整理してでも、、、とまで思わせる、極めて危険で魅惑的な時計、極上時計の最右翼、
それがハインリッヒ・モーザーである。(2006/11/17 96680)

Special thanks to ”Moser Schaffhausen AG” 



2006年10月末、『時計オヤジ』のシャフハウゼン(チューリッヒ)&ジュネーヴ2都市訪問記は以下:
⇒ @ 『モーザー本社訪問記』はこちら
⇒ A 『最新・チューリッヒ時計事情』はこちら

⇒ B 『Baume&Mercier クラッシマ・レトロ・ジャンピングアワー』はこちら
⇒ C 『BEYER時計博物館訪問記』はこちら
⇒ D 『IWCの故郷、古都シャフハウゼン散策記』はこちら
     ⇒ ドバイの『世界初、IWC直営店訪問記』はこちら
⇒ E 『2006年10月、ジュネーヴ時計王国・最新情報』はこちら
     ⇒ 番外編 『2006年10月、ジュネーヴで買った理想のWモンク・シューズ』はこちら
⇒ F 『フレデリック・コンスタント新工場訪問記』はこちら

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