随筆シリーズ(111)

『2012年、SIHHに見る新作ラジオミールについての雑感』





いよいよ、今年も2012年新作時計ラッシュの季節到来。
PANERAIは今年も『復刻路線』、『47mm径中心路線』で攻めてきた。
果たして『時計オヤジ』の琴線に触れるチャレンジモデルはあるのだろうか。
気になる新作ラジオミールについて論評を加える。。。

* * * 
(↑上写真: 愛機PAM00062とPAM00103の2本。
『時計オヤジ』にとっては、これら40mm径Radiomirを超えるラジオはまだ登場していない・・・。)
(2012/1/27 413400



(2012年、SIHHで気になる新作ラジオミールとは〜)

毎年の年中行事とは言え、1〜3月のSIHH、そしてBASELには興味が尽きない。
一方で、そうした興味と期待とは裏腹に、ユーザー側や『時計オヤジ』を落胆させるモデルも数多い。何本の新作が毎年登場しているのか見当もつかないが、そんな数多あるモデルでいいなぁ、と思わせてくれる新作は10本にも満たないのが悲しい現実である。一頃の時計バブルはリーマン以降、影を潜めたとは言え、まだまだ世の趨勢は何らかのギミック的味付けを加えたモデルが多い。あからさまなトイ・ウォッチとまでは行かずとも、まだそれっぽい風味を残した時計が多いのだ。
この1〜2年のトレンドは、『シンプル回帰』とか言われているが、確かにそうしたモデルが多くなっている反面、価格帯含めた現実離れしたモデルや、価格と品質が見合わない『インフレモデル』が半分以上ではなかろうか。

そんな状況下、毎年楽しみにしているのがパネライ。
特にラジオミールをドレスウォッチとして位置付けている筆者にとって、このモデル新作は毎年心待ちにしている。
思えばパネライは稀有な存在である。モデルは大きく、ルミノールとラジオミールしか持たず、その基本デザインはミリタリーウォッチとしてのそれである。デザインのバリエーション、味付けにも自ずと限界がある中で、毎年毎年、良く新作を出してくる。しかし、当然の結果として、大きなデザインの変化を行うことは出来ず、やれ限定版だの、復刻モデルだのと言ってユーザーへのアプローチを繰り返すが、その手法は極めて巧みである。有り体に表現すれば、少ない材料を酷使して良くぞ毎年少しずつ違った料理を出せるものだ。一方で、そんな小さな変化を感じることが出来ないユーザー層もいる訳で、そうした顧客層からみれば、毎年大きな変化が無いことが逆に、普遍性を売り物にした地に足が着いた安心かつ新鮮な戦略、と映るのかも知れない。筆者にとっては、まさしく後者の評価が相当する。この点、PANERAIはROLEXとも戦略が似ている。

* * *

閑話休題。

ここ数年、毎年、限定モデルやら復刻モデルが中心のパネライではあるが、今年もそのトレンドは同じ。
そして、今年は遂にこのモデルを復刻してきた。いよいよ、復刻限定シリーズも佳境、というところであろうか。

1940Radiomir(47mm径、PAM00398)はルミノールへの過渡期モデル(↓):

ルミノールの代名詞的存在であるリューズガードも無ければ、ラジオミール専売特許のクッションケース+ワイアードループも無い。リューズ形状も、ごく普通の時計と同様。いわば、ラジオミールからルミノールへの移行期ケースがこの1940Radiomirである。故に、ケース形状も中途半端、全体の雰囲気も折衷デザインであり、ごった煮的な味付けがこのモデルの歴史的な特徴。その中途半端加減が、このモデルの『売り』なのである。この点で評価できるか否かでキッパリと顧客層は分かれるだろう。

ムーヴメントはオリジナルがROLEXであるのに比べて、こちらは現代の新生ミネルバ製。巨大なるムーヴメントは観る者を圧倒する。このミネルバ製ムーヴも、この数年来採用されているのだが、もともとパネライは他社製スペシャルキャリバーを搭載するのが、大きな目玉的戦略の一つ。特に自社製キャリバー開発までの2003年頃まではそのピーク。今回も、中身にこうした『特別キャリバー』を搭載することで、表の顔だけでは区別が付き難い点を裏スケルトンから見えるキャリバーでカバーしているのである。この戦略、マーケティングは見事で巧妙。

このミネルバ製キャリバーもツボを押さえている。変形スワンネック付き、チラネジ付き脱進機周辺は古典的手法を見事に再現。一方、右半分の複雑形状のプレートは好みが分かれるが、歯車形状に沿ったくり貫き加減が見事。真横に入れたジュネーヴァ・コートもその細めな感覚が美しい。その基本構造はユニタスキャリバーと大差無いので、機構的な特徴は無いが、それゆえに視覚的にも安定感がある。
































* * *


(↓下写真)こちらが1940Radiomirのオリジナル:

ムーヴメントはROLEX製手巻き搭載。ROLEXが他社にムーヴメントを供給することは殆ど無い。筆者知る限りこのモデルのみ。いわば、ROLEXが他社にムーヴを供給した唯一のモデルがこれである。
ではどうして、ラジオミールのクッションケースから、極太ラグを有するルミノール的なケースへと移行したのであろうか。
筆者の結論は、『強度と耐久性』にある。

正確な数字は後日確認するが、下のオリジナルを含めて、プレヴァンドーム以前(1988年以前)までに生産されたパネライ総数は僅か300本程度であったと記憶する。つまり、この本数が物語る通り、パネライとは軍事用の特別なるミッション時計であり、一般市場を想定した時計ではなかったのである。ミッション時計、軍事用時計はツールとしての特別な存在であり、故に視認性重視の大型47mm径が生まれたのであるが、古典的なクッションケースとワイアードループでは軍事ミッションで要求される強度と耐久性、特に水中ミッションには絶え難かったものと推測する。つまりラジオミールの欠点を改良したのが、この『移行期ケース』なのである。






























(こちらは従来品のPAM00287〜)

今年注目のラジオミールと言えば、Black-Seal Automaticである。
右写真が現行モデル。キャリバーOPIII搭載。所謂、ヴァルジュー7750からクロノモジュールを省いた『減量版』である。パネライ数字も12、6しかない。裏面はスケルトンではなく、クローズド。
このモデルの存在感は薄い。理由は、文字盤デザインのインパクトの弱さと、手巻きBlack-Seal(PAM183)の影に隠れてしまうからだ。

今回、大幅に改良を加えたのが今年の新作PAM00388である。









↓)今年の新モデルPAM00388では見事に生まれ変わった。
古典であるサンドウィッチ文字盤、そして、拡大鏡の無いスッキリ・デイト窓。
数字9周辺、小ダイアルの光景は何時見ても良い。ここまでやったのであれば、数字の3も復活させて、4つの数字を全部揃えるべきであろう。筆者は長年に亘り、12−3−6−9数字を並べることを声高に主張してきた。何故なら、それがパネライの持つ伝統であり、歴史に忠実なデザインとして表現するのであれば、”MUST”のデザインであるからだ。
しかし、恐らくパネライのデザイナー陣は、最早、そうした拘りを持っていないか、捨てたように見受けられる。この点だけはどうしても譲れないのだが、当のパネライ自身が拘りを持っていなければ残念だが、仕方ないところである。

中身の機械はP.9000の三日巻きでシースルーバック。
ルミノールではお馴染みであるが、いよいよラジオミールでも搭載とくれば、気になるのはそのケース厚。
P.9000の厚みは7.9mm。これがクッションケースに納まった結果、どの程度になるだろうか。こればかりは実際に手首で確認しないことには何とも言えないが、恐らく45mm径の『適度な巨大サイズ』と相まって、可也イイ線行っているのではないか、と推測する。

ともあれ、この新作BLACK-SEAL AUTOMATICは、『時計オヤジ』にとっては今年一番の注目ラジオミールである。





































(⇒右写真: こちらがP.9000の展開図〜)

こうして見ても、如何にも頑丈そうで耐久性も良さそうな機械である。
ローターのブルブル回転する感触とか、手巻きの感触、全体の重量バランスが一番気になるところだが、恐らく、年内中にはどこかで手にする機会があるのではないかと期待している。














(注目の42mm径ルミノール登場について〜)

さて、別の意味で今年注目の新作がPAM00392、ルミノール・マリーナ1950のφ42mmである。今まで、40mm、44mm、47mmがルミノールの主戦場であった。これに42mmという『中途半端』なサイズを投入した真意は何か?

ラジオミールでは40mm径はPAM62とPAM103の2本のみである。今では40mmは壊滅となり、42mm、45mm、47mmの3サイズ展開となった。
では、ルミノールの42mm径の意味とは何か。
44mmと47mm径は今後とも、パネライの看板モデルとして君臨し続けるだろう。では、40mmはどうか。パネライの中ではやや小振り、小体なケースではあるが、それでも40mmである。ROLEXサブマリーナと同じ大型サイズ。これを称して女性用というのは無理がある。しかし、パネライが登場して早14年経過するのだが、いよいよもって40mm径も時代の趨勢においてはやや小振り、との判断であろう。即ち、40mmから42mmにサイズアップを図った結果と考える。しかし、これは極めて皮肉な結果だろう。

デカ厚時計の権化である元祖パネライが時代の流れに屈して40mmからサイズアップを行ったとすれば、そもそも40mm径の意味合いは何だったのか。大きいサイズが好みであれば44mm以上に逝けば良いのだ。それを小振りな40mmから僅か2mm拡大したサイズ展開を図るとは、全く持ってパネライの真意は何か?疑問を感じざるを得ない。
恐らく、もう間もなくこうした背景についてマスコミでもインタビュー記事が載るであろう。ボナーティCEOの言葉がどんな表現、単語を通して成されるのか、非常に大きな興味を持って今後の推移を見守りたいと思う。(2012/2/01 413400 )



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(過去のパネライ関連ページはこちら)

@ルミノールGMT(PAM00088)はこちら
Aラジオミール(PAM00062)はこちら
B『生誕地フィレンツェにPANERAI Boutique 1号店を訪ねる』はこちら
C『デカ厚ブームの嘘、パネライの真実』はこちら
D『マニファットゥーレ・フィレンツェManifatture Firenze・Aged Calf Leather Strap 1942』はこちら
E『マニファットゥーレ・フィレンツェ・新作2本』はこちら
F『ヌーシャテル訪問記〜パネライ工房門前払い』はこちら
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