時計に関する随筆シリーズ (36)

『OMEGA 新旧12角ダイアル・デザインの妙』
〜 DE-VILLE & CONSTELLATION 〜



(昔も今も、伝統の維持と革新に余念が無いオメガ〜)

OMEGAとROLEX。
SWATCHグループと独立系。その立場と方向性に違いはあるが、共に王道を歩む両ブランドに迷いは見られない。潔く、頑固。伝統と革新を絶妙にブレンドした戦略に気付かない人には、時につまらなくも見えるブランド。しかし実際はしたたかでエキサイティングな商品展開を行っていると、『時計オヤジ』は高く評価している。

OMEGAの積極的な保守本流の商品展開とCo-Axialの新技術導入。
ROLEXの頑ななまでのケースデザインの堅持。ゆえに可能となる多様なダイアルバリエーションにより、同じ時計で何度でも美味しい『着せ替え』の楽しさを提言する。
『時計オヤジ』にとっては、離れてはまた魅惑され、とりこになってはまた距離を置く両ブランド。その繰り返しで、結局は自分のそばに1本は置かないと気が気でない存在。この2大メゾンは本当に気合が入った、頭の良いブランドである。




(「12角デザイン」のコンステレーション〜)

そんなOMEGAのCONSTELLATIONシリーズは筆者の好みである。
特に、上写真(↑)にある、通称、『12角コンステ』がお気に入りである。1950年代前半には『蜘蛛の巣』と呼ばれる原型(↓下写真の黒文字盤)が出来たが、上写真の『12角コンステ』は’50年代後半に開花する。

そしてその『蜘蛛の巣』ダイアル(=文字盤)を2004年にDe-Villeで『復刻』、進化させたのが右写真⇒の限定モデルである(De Ville Co-Arxial Big-Date ref.4644.30.32 cal.2610 世界限定699本)。しかし、正確には復刻ではない。『蜘蛛の巣』ダイアルとは異なり、INDEXと12角のエッジの位置を敢えてずらしたことで現代の12角を主張している。こうした点にも、OMEGA一流の一味加えたデザイン魂を感じる。

初代Co-Axialを搭載したのもDe-Villeシリーズ。その初代のダイアルとほぼ同じデザインであるが、このモデルは3時位置にBig-Date表示付きである。加えて、裏スケルトンからCo-Axialムーヴを堪能できる。と言っても肝心の脱進機回りのガンギ車やパレットは見えないが、スケルトンというのは何故か心安らぎ、ホッとするのである。


(デビルDe-Villeとコンステレーションの区別とは〜)

この新型De-Villeの文字盤ルーツはコンステにあることは間違い無い。しかし、この時計はコンステレーションのラインには無い。あくまで、De-Villeシリーズであるのが少々腑に落ちない。現在のオメガでは、こうした復刻調モデル、限定モデルは全てDe-Villeのラインとしてリリースしている。コンステ現ラインにはこうしたモデルは加えない。
裏を返せば、今まで中々、桧舞台に上がることが出来なかったDe-Villeシリーズを底上げし、実験的なモデル投入やら、Co-Axialを武器にした魅力的なモデル群でDe-Villeの知名度を高めようとしているのではなかろうか。
これも新たなOMEGAの戦略と読み取る。



(ピンク・ゴールドのケースはダイアルデザインと相まって存在感抜群〜)

←左写真の2本:

左側がケース径35mmのセンター3針式、デイト付きのDe-Ville。確かに小振りであるが、腕にするとピタリとはまる。決して女性用ではない。由緒ある、正しい伝統的な大きさである。『デカ厚ブーム』に負けてはいけない。自信を持って35mm径と接するべきだ。

右側がBig-Date搭載モデル。ケース径38.7mmと可也大きめ。裏スケルトンのガラスがフラットゆえに、腕にピタッと張り付くようだ。手首上での納まり具合は流石に大きめで、ゴロゴロ感あり。ケースの大きさがかなり目立つ。一方、3時位置にBig-Dateを持ってくるデザインは新鮮である。ここまでデイト表示を大きくするには確かに2枚のディスクを利用したBig-Date方式を取らざるを得まい。ROLEXやPANERAIのようなサイクロプスが無いとデザイン的にはすっきりする。

上記2本共にCo-Axial搭載、嬉しい裏スケルトンというのはユーザーの嗜好に応えてくれている。Co-Axial採用初期はスケルトンを何故か採用しなかったOMEGAも、最近ではSeamasterアクアテラ、レイルマスターシリーズでは全品、裏スケである。De-Villeシリーズの一般モデルでは裏スケが少なかった、今後、どんどん増えてくるものと予想している。




(新旧『12角ダイアル』の比較考察〜)

↓写真2枚で新旧ダイアルを比較してみよう。
一瞬で感じるのは新旧、両モデル共に通じるデコラティヴdecorativeな造形美である。
しかし、よ〜く見ると旧型の伝統(DNA)を随所で受け継いでいることも良く判る。

@文字盤: 
上述した通り、INDEXと12角の構成が新旧で異なる。旧型は12角の位置にINDEXを配置。新型はINDEXを12角のエッジ位置ではなく、面の部分に乗せてある。好みであるが、筆者には旧型の組合せが素直なデザインと感じる。

AINDEX: 
Bar-Indexも良いが、新型のローマ数字との組合せも秀逸。しかし、旧型の三角形INDEXがアールデコの雰囲気をも漂わせ絶品である。何とも美しい。こちらも旧型に軍配を上げよう。

BHANDS(針): 
旧型の夜光付きドルフィンも良いが、新型は同リーフ型である。旧型はダイアル周上にある分INDEXまで時針が届かないが、新型は通常の時計のように時針はダイアル外周にまで伸びている。それぞれのデザインは視覚上、旧型であればより小さく見え、新型ではより大きくダイアルが見えるように感じる。


Cラグ形状: 
新旧ともにDNAが良く働いている。旧型は至ってシンプル。新型では切削技術や工作・加工技術の飛躍的な進歩もあり、更に見事な造形を誇る。それぞれの時代性が良く出ており、一概にどちらがどう、とは言えない。片やアンティークの良さが滲み出ており、新型では現代最高の時計工作技術、精密技術が惜しみなく投入されている訳だ。

Dケース径: 
最大の相違点はそのケースサイズにある。結論から言えば、旧型のサイズで新型を作って欲しかった。手首での納まりは』明らかに35〜6mm径が快適だ。38mm超でも裏面側を工夫して若干のカーブを付けるなどすればまだ良いが、フラットゆえに大味すぎる。
もし、新型が35〜6mm径であれば、間違いなく散財の可能性”肥大”の時計オヤジであるのだが・・・。

Eムーヴメント: 
もう一つ重要なのが中身の機械である。
Co-AxialがOMEGAに初搭載されたのが1999年。その量産化の歴史は僅か5年ほど。一方のCAL.561(=上写真、黒文字盤)であれば1950年代に誕生して以来、約半世紀近い実績がある。しかし、ここはググっと引いて、OMEGAのムーヴメントをどちらも信用しようではないか。アンティークの定義は様々あるが、少なくも生産されて30年以上を経過したムーヴメントの取扱には細心の注意と配慮が必要だ。各パーツや芯は弱り、細ったりして金属疲労し、壊れやすくなっているのは事実。一方の新型ムーヴであれば、この先の寿命は充分期待できる。よって、その耐久性をとれば新型に軍配が上がるが、古いムーヴの持つ”独特の味”も目に見えない大きな魅力である。腕時計ゆえに、新旧共にいたわるのは当然としても、そうした様々な要因factorを考えて比較検討するのも、これまた楽しい時計選びである。


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OMEGAの新旧『12角ダイアル』は、共に『時計オヤジ』が考える『極上時計』としての品格と性能を有している。
こういう時計を作れるメーカーはあるようで、なかなか少ない。いや、殆ど無いと言ってもよかろう。

「ブランドの歴史と伝統(DNA)」、「明確な企業倫理と経営哲学」が製品から滲み出ている。
12角ダイアル・デザインは、『時計オヤジ』が『オメガの傑作時計』と評価する『名作時計』であるのだ。


(参考文献)
『OMEGA BOOK』 (徳間書店刊)
『ONLY ANTIQUES(CARESE WRIST WATCH COLLECTION)』 (グリーンアロー出版社刊)
『時計Begin』 Vol.35夏号 (P.154〜”オメガ・コーアクシャルの実力を再確認”) (世界文化社刊)



『ちょい枯れオヤジ』のオメガ関連WEB:

「OMEGA "HOURVISION" De Ville cal.8501のレポート』はこちら。
「OMEGA "HOURVISION" De Ville cal.8500/8501をジュネーヴ展示会で見る』はこちら。
「OMEGA CONSTELLATION CAL.564 12角ダイアル」はこちら。
「OMEGA CONSTELLATION CAL.564 ジェラルド・ジェンタモデル」はこちら。
「OMEGA SEAMASTER GENEVE CAL.565」はこちら。
「バンコク、再訪!」OMEGAコンステCライン購入記はこちら。
「トルコのグランドバザールで12角・黒文字盤と遭遇する」はこちら。
『オメガ、新旧12角ダイアル・デザインの妙』はこちら。
『2006年1月の時計聖地巡礼記・その9、オメガ博物館訪問記』はこちら。 (2006/10/14)



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