時計に関する随筆シリーズ   (33)

『迷宮グランド・バザールで12角・黒文字盤と遭遇する』の巻。
〜 トルコのイスタンブールにて 〜



グランド・バザールGrand Bazarとは直訳すれば『巨大市場』。
トルコ語ではカパル・チャルシュKapali Çarsi。直訳すれば『屋根のある市場』。
旅行者も地元の人も誰もが訪れる観光スポットである。
衣料品や絨毯、銀製製品が有名だが、『時計オヤジ』は毎度ながらアンティーク時計に注目。
懐中時計の多さには、ただただ圧倒されっ放しである。
しかし、『時計オヤジ』は懐中時計の知識は全く持ち合わせていないのだよ・・・





(グランド・バザールは日曜日がお休み〜)

トルコのイスタンブール旧市街のど真ん中にあるグランド・バザール(以下、GB)。
『約4千軒』以上もの店店が所狭しと並んでいる『大型屋内ショッピングゾーン』とでも言うべきか。本当に4千軒以上もあるのか分からんがガイドブックにはそう書いてあるのだ。

GBの歴史は古い。1461年に完成後、増築を重ねて、現在のGBは1954年の火災の後で再建されたものだ。火災も怖いが、現代ではテロも怖い。外国人御用達の一番人気スポットでもあるだけに、今年4月に発生したカイロ・ハリーリスークのような爆弾事件だけは御免被りたい。
(←左写真: 有名な貴金属店が立ち並ぶGB内のカルパクチュラル通り)



(とにかく、日本語の呼び込みが多いのがトルコの商店街である〜)

トルコの人々は一般的に親日的である。
多分に商売目的ということもあろうが、歴史的な背景もある。近代トルコ建国の祖、ケマル・アタチュルクが今で言うところの”LOOK JAPAN”をスローガンにして日本を模範とした政策が大きな影響を与えている。初期のマハティール時代のマーレシアと同様である。誤解を恐れずに乱暴に言ってしまえば、とかく隣国同士は仲が悪いのは世界中どこも同じである。隣国同士で仲が良い方が稀である。トルコと日本はかつて争いも無く、上記の背景もあり、非常にフレンドリーな関係が続いていると言えよう。トルコの人はNO-VISAで来日出来るのもその証左だ。

(⇒有名なトルコ製絨毯の店も立ち並ぶ。『トルコ絨毯故郷のヘレケ探訪記』は別の機会にじっくりと。)





(アンティーク店はGBの中心部、オールド・バザールに集中する〜)

GBで一番古い場所が中央部に位置するイチ・ベデステン、通称オールド・バザールだ。
ここに骨董品店が立ち並ぶ。銀製品の数々、コイン、刀剣、絵画、宝石、アクセサリー、そしてアンティーク時計が所狭しと並べてある。しかし、時計の専門店は恐らく五指にも満たないだろう。骨董品の一部として時計を置いているケースが多い。つまり、部屋における観賞用、アクセントとしての時計が圧倒的。どう見てもジャンクっぽい時計が多い。

そんな骨董品店やら時計店であるが、多分日本では見ることの出来ないシロモノが数多く展示されているはずだ。日本の時計店では、デパートやら専門店、ディスカウント店においても大なり小なり展示してあるブランドには共通点が多い。高級であるか、高額であるか堂かは別にしても盆踊りのような画一性、単一民族の『モノトーン調』が感じられて新味性に乏しい。まさに時計雑誌・カタログがそのまま店舗になったような。しかし、こうした海外のSHOPでは、隣同士の店であれ全く毛色の違う商品展開にお目にかかれる。ことアンティークの世界となれば尚更である。人種の多様化、歴史的な複合国家であるがゆえに成せる業か。はたまた時計作り本場欧州のはしくれである立地条件が物を言うのであろうか。


そうした店店をコマメに探訪するといくつか面白い店に出会えるかも知れない。



(アリさんの時計店では修理中の光景に遭遇〜)

←左写真: 時計ショップ”ALI”である。
なにやら懐中時計を組み立てているらしい。
それにしても机の上には部品あり、工具あり、狭い場所が余計に狭くなっている。う〜ん、GB内の工房とはこんなものであろうか?アリさんはGBでも腕利きの時計職人で有名なのだ。
アリさん、写真撮影にご協力深謝多謝、です。








(↓思わぬオメガの12角ダイアル黒文字盤を目敏く?発見する時計オヤジ〜)

色々眺めて目に留まったのが別の一店。まともな展示品、ショウウィンドウの綺麗さ、まともなブランドの数々で信頼できそうな雰囲気(?)が・・・。そんな展示品の中で瞬時に目に留まったのが大好物であるオメガのコンステレーション、それも12角ダイアルの黒文字盤である。
その瞬間に一挙にアドレナリンが放出され、ボルテージが高まる自分を感じる。大変危険である。またもや『超人ハルク』になってしまう自分がいた。まるで、昨年6月にタイ・バンコクで衝動買いした『金張りコンステ』と同じようなシチュエーションに嬉しいような、困るような『時計オヤジ』である。


(←これがその『12角ダイアル』黒文字盤〜)

このデザイン、誰が何と言おうと文句無く良い。

三角形の独特なindex、夜光の白い線が入ったドーフィンdauphine針、コンステ独特のラグ形状、そして何よりもシルバーindexとhandsとの対比が美しい黒文字盤である。『オメガ 12角ダイアルの妙』でも述べるが本当にこのデザインはオメガの、いや腕時計デザインの傑作品とさえ感じている。アールデコの雰囲気を残した全体のデザイン全てが『時計オヤジ』の興味と購買意欲をグイグイとソソルのである。文字盤はリダンではないオリジナル、だそうだ。
しかし、冷静になろうなろう、としてよ〜くチェックすると、おや、竜頭が少々傾いているような気がする。矢張り、ここはグランド・バザール、少々アブナイかも知れない。。。 





←左写真: 遠慮無くムーヴメントを見せて頂く。24石のCal.500系。日付早送り機構は無い。

見たところ、錆びも無さそうで、ローターの動きもスムースだ。裏蓋内側にもスレ傷も殆ど無い。毎秒5.5振動と思われるチチチ音も、特に異音が混じっている様子はない。
ただ、竜頭の微妙な曲がり角度がここでも気になる。修理可能であろうか?どうせOVHするのだから購入すべきであろうか、、、等と思いは巡る。

ルーペを借りて、心行くまで鑑賞させていただく。値段は相応。日本国内市場と余り変わり無い。当然ながらここでも『値引き交渉』は当たり前。しかし、本日はGBの視察に来たのであり、結局購入は思い止まる。店の名刺を頂き、店員のムラッド君と別れた。次回、もし在庫で残っていれば買ってしまおうかな、などと未だに悩んでいる『時計オヤジ』である。その後の調べでは、このGBにおけるアンティーク時計の修復には、上述のアリさんが多大なる役割を果たしていることが分かった。もう一つ、特にOMEGAの500系ムーヴを積んだ機械はガワと中身の不一致も散見される。GBは『バザール』であることを肝に銘じて、こちらの眼力が試される場でもあることを十分に認識することが重要だ。


それにしても、この頃の赤メッキのオメガムーヴメントは本当に綺麗だ。まるで、現代のフランソワ・ポール・ジュルヌF.P.JOURNEの赤金(Red-Gold)製ムーヴメントのような雰囲気はいつ見ても惚れ惚れする。50〜60年代のオメガは、見ても、使っても本当に素晴らしい機械だ。新旧、両極端の例えであるがオメガのCAL.560〜565とロレックスの現行Cal.3135にはたまらなく魅かれる。さて、12角ダイアルのSSケース、黒文字盤。出来れば18金ケースに黒文字盤であれば更に魅力は倍増しよう。




(懐中時計にも傑作品らしき数々を発見する〜)

筆者は腕時計への興味が精一杯であり、懐中時計にまで手も暇も頭も回らない。
しかし、1900年代になるまでは『腕時計』は存在しなかった。よって、1800年代から1900年代初頭の時計、と言えば当然ながら懐中時計と置き時計、掛時計の類を指すことになる。

そうした懐中時計もGBでは大量に発見できよう。
まさに玉石混合、という感じであるが、アンティーク時計の意味は、人によって受け止め方も異なる。実用を重視する人もいれば、あくまでその雰囲気をアクセサリーとして楽しむ、という人もいよう。よって、動かないから駄目な時計、とも一概には言えないのが骨董店の時計ではあるまいか。

(⇒ 右写真: おお〜、何と大御所、ランゲA.Lange&Söhneの懐中時計が鎮座しているではないか〜。14K製ケースに入り、値段は約5千米ドル。1890年前後の生産である。結構お買い得の価格ではなかろうか?)





(←左写真)
こちらは更に驚くことにトゥールビヨンの懐中時計である。
スイスはラ・ショード・フォンで生産された”MOBILIS”というブランド。殆どDEAD-STOCKという。
下半分に見える渦巻き型のケージが確かに回転して動いていた。
現在の時計オヤジには懐中時計にまで興味も知識も蓄積する余裕は無いのだヨ。果たしてこの”MOBILIS”なるブランドが歴史的にどういう位置付けにあるのか知る由も無い。









↑文字盤のindexの雰囲気といい、ギョーシェ模様のようなシルバーエナメル製文字盤といい結構いい雰囲気である。大きさは掌(てのひら)大、と言う感じで、そこそこ大きい。1902年頃の作品にて文字盤はオスマン(オットマン)帝国の意匠に基づく特別仕様。

⇒開閉式の裏蓋を開けると、丸穴車と角穴車が輝くムーヴに息を呑む。銀製のケースがこれまた気分だ。お値段はレクサス1台分というところか。ため息・・・。







(興奮さめやらぬ『時計オヤジ』はひとまず退散する〜)

GBは一日いても飽きない、楽しい場所である。買物、見学に疲れたらチャイハネと呼ばれるトルコ式の喫茶店で休めば宜しい。注意すべきはここでも、スリ・引ったくり・ぼったくり、である。世の中、甘い言葉をかけるヤツにはどこでも要注意である。基本的には無視することだ。

(←左写真: ドルマバチェフ宮殿における衛兵の交代風景)
トルコの国旗は赤と白だ。イスラム国特有の聖なる緑の色彩が無い。まるで革命旗のようだが、待てよ、日本の国旗も赤と白。ここでもトルコとの共通性が発見された???






(ケバブは有名だが、本来トルコの料理ではない〜)


最後に、『時計オヤジ』が立ち寄ったのは地元のケバブ・レストラン(⇒右写真)。
定番のドネル・ケバブをTAKE-OUT(⇒トルコ語では”パケットpacket”と言う)することにした。
羊肉が回転(ドネル)されながら焼かれている。これを薄くスライスして、パンやライスと一緒に食べる。淡白であるが結構うまい。そしてまあまあ安いと言えるかも知れないが、相対的に物価は決して安くは無いのがイスタンブールであろう。
因みにケバブはトルコの代表料理のように言われているが、実はこの30年で中近東から広まってきたものだ。イスタンブールも、もともとはタクシム界隈が中心地であった。都市1400万人とも言われるグレーター・イスタンブールは急激な変貌を重ねているのだ。

どうやらこのイスタンブールには、時計以外の魅力も満載されているようだ。
5月25日にイスタンブールで行われた欧州チャンピオンリーグ決勝戦、A.C.ミランvsリバプールにはしびれた。前半0−3から後半で3−3、そして延長戦、PK戦の果てのリバプール逆転勝ち!!!
今年8月21日にはトルコで初の第14戦F1GPも開催される。


トルコは6月から9月位までが最高の季節となり、世界中からの観光客と地元の人々で賑わうのである。(2005/5/26)

(加筆修正)2007/2/11


『ちょい枯れオヤジ』のオメガ関連WEB:

「OMEGA "HOURVISION" De Ville cal.8501のレポート』はこちら。
「OMEGA "HOURVISION" De Ville cal.8500/8501をジュネーヴ展示会で見る』はこちら。
「OMEGA CONSTELLATION CAL.564 12角ダイアル」はこちら。
「OMEGA CONSTELLATION CAL.564 ジェラルド・ジェンタモデル」はこちら。
「OMEGA SEAMASTER GENEVE CAL.565」はこちら。
「バンコク、再訪!」OMEGAコンステCライン購入記はこちら。
「トルコのグランドバザールで12角・黒文字盤と遭遇する」はこちら。
『オメガ、新旧12角ダイアル・デザインの妙』はこちら。
『2006年1月の時計聖地巡礼記・その9、オメガ博物館訪問記』はこちら。 (2006/10/14)



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