『ドイツ時計シリーズ』から少々離れて、今回はオメガのシーマスター・ジュネーヴSeamaster Genève。 防水時計で有名なSeamasterだが、このモデルは決して海には潜れないSeamasterだ。 (理想のデザイン、時計のスタンダードであるこの1本〜) OMEGAは筆者の好むブランドである。アンティークから現行品に至るまでその商品展開、デザインの進化は大いに支持するところ。これで3本目の登場だが、一言でOMEGAを表現すると「誠実」「実直」なブランド・イメージだ。特に60年代をピークとするコンステレーション、シーマスター、デ・ヴィル各シリーズのドレスラインは非常に品格があり、また同時に古典的な風合いを残しており、筆者の嗜好・趣味に合致するモデルが多い。一方、現在のラインアップにおいても、それぞれのシリーズモデルの中でクラシックデザインを復活したり、CO-AXIAL化を拡大したりとデザイン・機械の両面で中々元気で活発なマーケティングを展開している。(←左写真:ミュンヘンの老舗時計店Huber前で) 今回のモデルは興味ない人からみれば何の変哲も無い、可も不可も無い普通の3針時計に過ぎぬであろう。おもしろくも可笑しくもない「オヤジ時計」と一笑されるかも知れないが、まさしく「時計オヤジ」が身に付けているのでその表現は正しい。 ある時計店の話では、60歳前後のサラリーマンの人が大切にする時計に、OMEGAやSEIKOが多いそうだ。恐らく彼らが40年程前、社会人になった時や結婚記念などの当時のOCCASIONが、ワンランク上の時計購入の動機となったことは容易に想像がつく。そうした人々も今や退職、引退し、転職したりはたまた役員に上り詰める人もいよう。持ち主と一緒に人生を歩んできた「昭和」の時計、そんなイメージがこのSeamaster Genèveにはピッタリする。 (3大要素で合格!!!) 以前、コンステレーション(CAL.564)で述べたが、時計の3大要素である文字盤、ケース、ムーヴメント共にツボを押さえている。 文字盤: 時計の顔、命でもある文字盤が美しい。円形の面積一杯に伸びた時針。見やすいBAR-INDEX、それでいて決してチープさは無く、むしろ高級な感じがする植字式のINDEXは飽きがこない。落ち着いた雰囲気を醸し出すペンシル型ハンズの中央には控え目に夜光が盛られている。BAR-INDEXとのマッチングも計算されつくしている。 文字盤の発色がまた素晴らしい。 乳白色ならぬ白銀色は、光の当たり方で微妙に鈍い輝きを変える。昨今、流行のギョーシェ模様にも頼らぬところもシンプルで好感が持てる。もっとも当時はまだギョーシェは一般的でなかったが。そしてその文字盤は中央から周辺に行くにしたがってなだらかな斜面、カーブを作ってゆく。無機的な平面ではかかる微妙な光の反射も生み出せまい。こうした曲面的な造りが筆者の好みである。近年ではZenithのELITEシリーズ文字盤が多少、似通った雰囲気を出しているが、ありそうで中々少ないデザインである。 ケース形状: 無難なようだが、ラグの形状とラグのケースからの伸び出し方、そして絶妙なラグの長さが大変よく調和している。ラグ一つをとっても、下手にデザインを加えるとケース共々台無しになるのであるが、このOMEGAでは見事にバランスと均衡を保ち、破綻は微塵もない。Rolexにも共通するが、50〜60年代のOMEGAデザインにはハズレがない、と筆者は感じている。因みにこのSeamaster Genèveは1968年製だ。 ムーヴメント: コンステ以外に搭載されるCAL.565も、もはや論評の必要もなかろう。 このモデルも最近、OVHの直後ですこぶる調子が良い。手巻きも可能だが、その感触も幾分軽くなった。またケース磨きをかけた結果、目に見えたキズも消え、新品のようなSSの輝きを取り戻した。毎度ながらの時計職人さんの技術には敬服する。これもSSとは言え無垢素材が成せる業であるが、やはり定期的なメインテナンスは機械時計には不可欠と実感する。毎秒5.5振動の鼓動も元気一杯。ゆったりとしたロービートは何とも心安らぐものだ。Hi-Beatも良いが、Low-Beatも時代的な雰囲気を楽しめて機械式時計らしい味わいがある。こういう時計はたまらない安心感を与えてくれるのだ。 |
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(右写真⇒) 当時の純正美錠も昨今では中々見られない立体的な造り・デザインがありユニーク。2種類ともにSS 製。こうしたアンティーク美錠を集めるのも面白い。 (ガンダーラ井上氏も絶賛〜) 同氏著『人生に必要な30の腕時計』の中でこのGenèveがいみじくもその1本に挙げられている。カレンダー無しの3針タイプであるが、それ以外は筆者所有のモデルと同型である。この本は時計を語る目線が独特であり、occasion優先でそれに似合う時計を「逆算」選定している。こじつけであれ、創作であれ、異色の論評がまた楽しい。 同著で、このOMEGAが当時、ロンソンのライター、パーカーの万年筆とともに3種の神器として数えられていたとあるが、いかにも「昭和」の時代らしい。現代の3種の神器であれば差し詰め、「カメラ付き携帯電話、不変のスタンダードとして君臨するROLEX、クラシコイタリア路線におけるロング・ノーズのビスポーク靴」、というところであろうか?万人受けする時計、実直な印象を与える時計であるが、ともすると没個性にも陥りかねない「オヤジ時計」としても紹介されているところが愉快だ。同感である。(2004/11/12) (参考文献) 「人生に必要な30の腕時計」 (岩波アクティブ新書) 「THE OMEGA BOOK」 (徳間書店) 『ちょい枯れオヤジ』のオメガ関連WEB: 「OMEGA "HOURVISION" De Ville cal.8501のレポート』はこちら。 「OMEGA "HOURVISION" De Ville cal.8500/8501をジュネーヴ展示会で見る』はこちら。 「OMEGA CONSTELLATION CAL.564 12角ダイアル」はこちら。 「OMEGA CONSTELLATION CAL.564 ジェラルド・ジェンタモデル」はこちら。 「OMEGA SEAMASTER GENEVE CAL.565」はこちら。 「バンコク、再訪!」OMEGAコンステCライン購入記はこちら。 「トルコのグランドバザールで12角・黒文字盤と遭遇する」はこちら。 『オメガ、新旧12角ダイアル・デザインの妙』はこちら。 『2006年1月の時計聖地巡礼記・その9、オメガ博物館訪問記』はこちら。 (2006/10/14) |
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