随筆シリーズ (113)

『The Britsish Museum 再訪記』
〜The Sir Harry and Lady Djanogly Galley of Clocks and Watches〜

(〜2012年4月、大英博物館・第38-39号時計展示室再訪記〜)
祝・ロンドン五輪開催





今年はロンドン・オリンピックイヤー。
世界中から多くの観光客がこのロンドンに集結するのが7〜8月である。
しかし、『時計オヤジ』の最大の観光目玉は何と言っても大英博物館。
今回は約4年ぶりに、リノベーションも完了した時計展示室の見学を楽しみにしてきたのだ・・・。


(↑上写真:2012年4月下旬だというのに気温は9度で雨交じり。
まるで真冬並みの寒さに震え上がる『時計オヤジ』であった・・・)
(2012/08/01 444000)



(時計好きで大英博物館を訪問しない御仁はモグリである〜)

と、今まで度々主張している通り、折角ロンドンにまで来て大英博物館を訪問しない手はなかろう。
意思あれば道あり。訪問する気力さえあれば絶対にお薦めであるのが入場無料の大英博物館である。無料の分はいくらかでも募金に回そう。こうした慈善事業的な国家的、いや世界的な遺産の維持運営には一般人の協力が不可欠である。ということで、今回も数ポンドを博物館入り口の募金箱に寄付することにする。

大英博物館を訪問するのにメトロを乗り継いだり、タクシーを使うのは馬鹿らしい。今回は賞味丸2日間の滞在であったが、この間に訪問した回数は3回。それを可能にした秘訣は、大英博物館から徒歩圏内に宿をとることである。今回も地下鉄HOLBORN駅傍の定宿Citadine Holbornに滞在する。ホテルから散歩がてら約10分の至近距離に助けられ、都合3回訪問という『大英博物館三昧』を満喫する。

***

今年は何と言ってもロンドン・オリンピックイヤーである。
この原稿をしたためている本日(7月27日)は五輪開会式である。昨日のサッカー予選リーグで日本が本命スペインを1−0で下した勝利の余韻を楽しんでいるのだが、大英博物館も4月にはオリンピックムード一色。今回が3回目の開催となるロンドン五輪であるが、過去の歴史や今回の金メダルが展示されていた。
しかし、このメダル、よ〜く見ると何ともそっけないデザインというか、重厚さに欠ける図柄であるのが気にかかる。世界中のアスリートが頂点を目指す金メダルなのだから、もう少しデザイン面での工夫が欲しかった・・・。


↓下写真はロンドン五輪用とパラリンピック用の金メダルの表と裏面がそれぞれ展示中。

























(2008年に完成したリノベーションの成果は如何に!?、と期待が膨らむ時計展示室 〜)


数ある他の展示コーナーには目もくれず、『時計オヤジ』が目指すはただただ、第38-39号室・時計展示コーナー。
2つの大部屋に所狭し?と配置されるのは主にグランドファーザーから置き時計、懐中時計が中心であり、腕時計の類は限定される。

展示室は大別して3つのコンセプトから別れている。
@ 時計発明初期(AD1300年)から1650年までの
   歴史的CLOCKのコーナー
A 1650年以降、今日までのコーナー(CLOCK中心)
B 懐中・腕時計コーナー


大英博物館で所蔵する時計の数々は膨大な数量のはずであるが、現在展示されている逸品は厳選に厳選を重ねたものだろう。その選定には苦労した跡を察する。


改装前の展示室と比較すると、以下の点が目に付く:
@ 展示室全体が明るく、スペースもゆったりと改善された
A 時計に関する歴史的経緯が整理整頓されて分かり易い
B 時計に興味が薄い一般大衆・子供からマニア層まで、
   幅広い対象を考慮した満足行く展示物の数々・・・


しかし、従来あったランゲの懐中時計は今回の展示から姿を消していたのは、少々残念。


























(視覚的にも興味深い逸品の数々を幾つか紹介する〜)


(⇒右写真) 

1585年製、作者はドイツのHans Schlottheim(1545-1625)。
この展示室の目玉作品の一つである。
黄金に輝くこの当時の軍船(gallleon)は銅と鉄製のオートマトンである。甲板上の乗組員が時間と15分毎にハンマーベルの音で知らせる上に、メインマストには時計表示もされる。
加えてオルガンのような構造による音楽も奏でるという超絶帆船である。
是非一度はその音色を聞いてみたいものである。
そして、この金色に輝く独特の造形美に心惹かれる・・・。














(←左写真)

1820年頃製作のRolling Ball Clock。
鉄製のボールがジグザクに板の上を移動し、反対側に到達するとまた逆に動き出す仕組みである。
ボールが片道を移動するのに約30秒かかり、年間における総合計移動距離数は4000キロ!にも達するという。
ということは写真にあるジクザクの片道は、計算上では約3.8mあるとうことだ。














(⇒右写真)

1780年製、作者はJohn Arnold(1736-1799)。
言わずと知れた英国が生んだ時計師としては5指に入るだろう。
スプリング・デテント式脱進機に、温度補正ヒゲゼンマイ搭載、クォーターリピーター付きの見事な懐中時計である。
如何にもマリンクロノっぽい雰囲気がプンプンする。
英国は南東部のKing's Lynn出身のワイン商人Mr.Everardにより所有され、同氏は馬で旅行移動する時にも常に使用していたという時計である。当時としては精度も高いことで有名であった。









(←左写真)

1768年製、Travelling Clock。
作者はThomas Mudge。
懐中時計としてはシンプルなデザインであるが、中身の機械の複雑さはかなりのもの。毎正午と15分毎のリピーターである。
全ての輪列とリピーター機能は2枚のプレートの間に置かれている。MudgeデザインによるDetached lever escapement搭載。
そして時計はマホガニー製木箱に納められている。













(ブレゲによるマリンクロノメーターも〜)

(⇒右写真)

コチラは1813年製、A.ブレゲ製作によるマリンクロノメーターNo.2741。
といっても、この時計は実際の航海では使用されていない。
この時計は当初、ブレゲの実験用、試験用の計測時計として用いられていたが、1822年にCambrai司教に贈呈された。
左側の文字盤が時間と分表示を、右側文字盤は独立した分・秒を表示、中央上部にはもう一つの秒針用小ダイアルが、そして下の左右にある2つの針は2つの主ゼンマイのパワーリザーブ状況を示す。
レバー式脱進機搭載。
銀色の縁取り文字盤が如何にもブレゲを表現している。
まさに正真正銘、本物のブレゲの時計である。
日本国内ではA.ブレゲのオリジナル作品の展示品にお目にかかれることはまずないだろう。こうした超逸品に難なく遭遇できるのが大英博物館の底力、魅力なのである。











(←左写真)

1821年製、製作者はBenjamin Lewis Vulliamy。
見た目、デザインが全体的にブレゲに似ているが周辺のローマ表示INDEX等は良く見ると微妙に異なる。
1827年のジョージ4世が王室主治医に贈呈した時計といわれるが、修理のため製作者に戻ってきたのである。
しかし、その故障の原因はジョージ4世本人によるもの、との逸話が存在する。国王の時計、という何とも名誉ある時計である。










(我らが20世紀の代表作を紹介する 〜)





(←左写真)

1976年製、George Daniels博士による懐中時計。
Independent Double-wheel escapement搭載の金時計。
昨年2011年10月21日に亡くなった博士を心より偲んで暫し拝観する。
説明書きには、『現存する英国で最も偉大なる時計師による・・・』との記載がある。今は亡きTokeihakaseこと時計博士の面影が脳裏を横切る。
ブレゲ研究家としても著名な博士であるが、この文字盤にもどこかA.ブレゲの雰囲気が漂っていると感じるのは私だけだろうか・・・。











(⇒右時計)

ROLEX Sporting Priceは1932年製。
まさかまさかのROLEXとの遭遇である。
腕時計のPrinceが発表されたのが1926年。
この時計は、そのPrinceを開閉式のケースに納めたもの。
銀製かSS製か不明だがケースがかなり汚れている。
せめてケースなんか、もう少し磨けばもっと輝くのに・・・。
前回までの展示では存在しなかったROLEX PRINCEだけに、
新鮮な驚きと興味で目が点になる。
嬉しい誤算の発見に、またまた目が点になる『時計オヤジ』である。












(日本製で唯一展示されているのが、
 意外や意外、SONYの目覚ましであった!!!)


まさか日本製の時計があるとは思わなかったが、それもSONYのデジタル式目覚まし時計、というのが1本とられた感じ。
SEIKOでもCITIZENでもなく、家電メーカーのSONYというところが半分はブラックユーモアか。

ラジオも聴ける多機能デジタルという趣旨の選択だろうが、この辺の選択眼は、『流石、大英博物館、侮れず』、である。

僅かに2部屋の展示であるが、その内容は極めて濃い。
上記以外にも教会時計やらグランドファーザー、各種置き時計、懐中時計の数々とまだまだ見所満載。時計ファンであれば、このスペースだけでも1時間は楽しめるだろう。


***



繰り返しになるが世界4大時計博物館の一角として、パテック時計博物館グラスヒュッテ・ドイツ時計博物館、そしてラ・ショード・フォン国際時計博物館と並ぶ存在価値を誇る大英博物館・時計コーナーは必見である。一方で『時計オヤジ』が目指す次の博物館は、諏訪湖にある『儀象堂』とセイコー時計資料館(東京)である。是非、日本に帰国した際には訪問してみたい最右翼の場所であるのだ。
(2012/08/01 444000)



(関連リンク)
2004年の大英博物館・旧時計コーナー訪問記はこちら
2004年のグリニッジ天文台訪問記はこちら
2008年の大英博物館・時計展示室休館の巻きはこちら
2008年のロンドン・ギルドホール時計師博物館訪問記はこちら
2012年4月の大英博物館・時計展示室(2008年のリノベーション後)再訪はこちら


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