時計に関する随筆シリーズ (59)

『大英博物館・時計展示室休館の巻』





筆者が『世界3大時計博物館』の一つに数える大英博物館。
現在発売中の雑誌『時計Begin』最新号(Vol.47)でも紹介されているが、
ヨーロッパ展示室44号室は既に閉鎖中であることを同誌編集部はご存知か?
それも2008年後半になるまで再開の目処は立っていないのだよ。。。
(↑上写真: イオニア式の列柱44本がそびえる大英博物館正面玄関。いつみても壮観だ。)




(ロンドンの住民となった『ちょい枯れ時計オヤジ』は嘆く〜)

既に何度と無く通いつめた大英博物館・ヨーロッパ展示コーナー44号室。
イギリスを訪問して、それもロンドンに来てここを訪れない時計愛好家はモグリである。愛好家にモグリがいるかどうかは知らぬが、それ程、この展示室は魅力に富んでいる。詳細は前出レポートを参照頂きたいが、19世紀半ばまでの『時計業界』はその覇権を巡り、スイス、フランス、ドイツと火花を散らす状況にあった。それでもイギリスはその中心において実力を誇り、時計技術の発展に重要な役割を担っていたのだ。そうした貴重なコレクションが一堂に会したこの展示室を再度拝観しようと勇んだ『時計オヤジ』はいきなりガックリである。。。










(←左写真: 一応、気を遣ってか、大型ポスターでお知らせがある〜)


2007年4月上旬時点で、既に時計コーナー(44号室)のみならず、その他の陶磁器展示室(42〜43号室)も閉鎖されており、展示場所自体が完全にCLOSEDになってしまった。

博物館側に照会したが、2008年後半には再開するとのこと。担当者は筆者にこっそりと『イギリスのことですから、普通は遅れ気味になりますよ』と、それでも正々堂々とした回答があった。むむむ、本音、正論であろう。












(ロンドンにおいて見るべき時計博物館は3つある〜)


一つは勿論、大英博物館。
二番目はグリニッジ天文台。
そして三番目はどこか?
筆者の知る限り未だかつて、この三番目の博物館を取上げたメディアはいない。
その紹介は後日行うが、生憎とこちらは一般見学者の写真撮影は禁止なので、内部を写真紹介することが出来ないのが残念だ。










(2008年末までこちらも態勢をを整えて待ち受けようではないか〜)

という訳で、暫くの間は逸品にお目にかかることが出来ない。
しかし、考えてみればこのリニューアル、当然の措置であろう。
従来の展示室は薄暗〜い雰囲気、照明ランプも故障気味、ディスプレイも古びて作動しない展示コーナーもあり、とてもではないが時計の魅力を伝える以前の状況であったのだから。

この機会に是非とも素晴らしい時計展示室に”オーバーホール”して頂きたいもの。
今日(4月22日)はロンドンマラソンが開催されたが、あと1年半、『時計オヤジ』は今から首を長くしてマラソンランナーのごとく持久戦でその完成を待つのである。(2007/4/22)



(参考WEB)
⇒ 2004年7月の大英博物館訪問記はこちら
⇒ 同、グリニッジ天文台探訪記はこちら





(追記1〜: 2007年7月1日) 128030

閉鎖中の時計展示コーナーは、大英博物館入口を入ってすぐ左側に、暫定コーナーとして6月に新設された。左写真の様なスペースに、大きく4セクションに分類されており、臨時の展示室としては可也立派に作られている。流石にグランドファーザー等の大型ペンダロンは無いが、『博物館側が選んだ逸品』揃いである。『逸品』の基準を評価する材料としても興味ある『暫定政権』の展示コーナーだ。

完全クローズドに対する時計愛好家の悲鳴が届いたのであろうか?
『時計オヤジ』も少々安堵である。







(⇒右写真: Edward East製作によるテーブルクロック。1665〜70年製)

1657年、オランダの物理学者クリスチャン・ホイヘンスによる振り子式時計の発明以来、正確性・精度を格段に向上させた(日差10分程度)こうした小型のテーブルクロックも盛んに作られるようになる。95歳の生涯を時計製作に費やした1602年生まれのE.Eastは、ロンドンでも有名な時計メーカーWatch-makerである。
従来の金属製のデコラティブなケースから、こうした木製ケースに納めた置き時計も中々味わい深い。ゼンマイの巻上鍵は文字盤上に2箇所ある。文字盤の銀色表示デザインもブレゲ式のそれを彷彿とさせる。こういうクラシックでシンプルなデザインが350年以上も前に存在していたことをどう意義付けようか。ここでも時計デザインとは温故知新の世界にあり、ということが良く分かる。







(←左写真: こちらはグッと若返って1980年前後のJLC〜)

イェーガー・ルコルトン、ことジャガールクルトJaeger Le Coultreである。
12時位置にはLeCOULTREと旧ブランド名が、6時位置には”Futurematic"と記されている。写真の通り竜頭が無いのが最大の特徴だ。この両方向巻上式の自動巻き腕時計には文字盤9時位置にパワーリザーブ表示がある。パワーリザーブの英語式表記にもいくつかあるが、この展示説明では”state-of-wind”という表現を使っている。state-of-mindならぬこの表現、如何にもブリティッシュ・イングリッシュ式の面目躍如?と『苦笑い』する筆者である。(苦笑いの意味が分かる方、有難うございます)

ティアドロップ式のラグが時代を感じさせるが、これも当時でさえネオ・クラシック。
古典からヒントと着想を得たデザインであり、JLC独自のデザインという訳ではない。
2007年9月2日、再度撮影し直す。



(追記2〜: 2007年9月07日)

1976年製、英国が生んだ偉大なる時計師、ジョージ・ダニエルズ博士George Danielsによる懐中時計だ。ご存知、コ・アークシャル搭載であるが、こちらの説明によればコ・アークシャルという言葉は無く、"independent double-wheel escapement of Daniel's own invention"という表現が用いられている。これは博士の2大功績である、Co-Axialと並ぶ発明とされているもので、2つの独立した(別々の)ガンギ車より動力を供給するデテント系の脱進機のこと。

直径10センチはゆうにあろうかという金無垢ケースには秒針が12時位置に来る独特のもの。『偏心文字盤』のデザインとしても完成度は高い。時針の短針先端は写真のように矢印の意匠である。竜頭らしきものは見当たらない。恐らく古典的な鍵巻き式を採用したのであろう。どうやって時針の動きを調整するのであろうか。

下側の時針文字盤のデザインはブレゲを彷彿とさせる。ブレゲ研究の権威でもある同氏ならではの帰着デザイン、であろう。繊細なギョーシェで飾られた文字盤上には、小さく、DANIELS、 LONDON、と刻印されているのが誇らしい。

現在はマン島で隠居生活をしているダニエルズ博士らしい。今年で御歳81のはずである。スポーツカー三昧の生活を楽しまれていると以前、とある雑誌の取材記事で拝見した記憶がある。確か山田五郎氏のインタビューであった。『時計オヤジ』もちょっとロンドンから遠出して、本物のtokeihakaseこと『時計博士』に会いに行きたくなる衝動を覚えるこのスペシャル懐中時計である・・・。



追記3〜: 2008年10月5日)

大英博物館を今日、日曜日に訪問した。英国のこと、そう簡単に修復作業が予定作業通り行くことはないのは十分承知。それでも淡い期待を持って訪れたのであるが、案の定、時計展示コーナーはまだ当分未完成の様子。この調子では来年の2009年春頃までは新装の時計展示コーナーはお預けだろうなぁ〜(溜息・・・)。



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