Jalan Sriwijaya (PT Fortuna Shoes)  ジャラン・スリジャヤ(スリウァヤ)

Jalan Sriwijaya Zip-Up WingTip Boots
Calf Leather, Model #98603、LAST:Paul 0107 (Size:8.0)
Color: Ambra, Sole: Dainite
Made in Indonesia




昨年はカントリーシューズ編を連載した。
ShetlandfoxのWモンクでもう打ち止めと思っていたが、もう一足加わることになった。
Jalan Sriwijayaから見事なカントリーブーツの登場である。
大袈裟な表現ではあるが、このデザインは感動と満足感を与えてくれるハイレベルなデザインが真骨頂。
前回のネイビーローファーに続き、Jalan SriwijayaのZip-Up Wingについて再度、熱く語ることにする。
(2014/1/10 517,800)



(名靴Tricker'sのモールトンMaltonに負けずとも劣らぬデザイン  〜)


この手のカントリーブツと言えば、Tricker'sのモールトンが教科書的存在である(→右写真)。
7アイレットのフルブローグ&アンクルブーツの代名詞でもあり、誰もが認める世界的傑作品。この世に存在する全てのカントリブーツの原点とも言えるそのモールトンに範を取りつつも、サイドジップアップ方式という飛び切り強烈なるスパイスを加えたのが今回のJalan Sriwijayaである。

ところで、このモールトン、最近では全体のラインをやや細身にしたドレスライン的なブーツまで登場している。こうしたバリエーションが広がることは大歓迎である。確かに、都市や街中においては、無骨で重厚なブーツは重装備過ぎる。現在は登山靴ような重戦車ブーツまでが一種のブームになっているが、革製ダブルソールであれ、ダイナイトであれ、非常に重いモールトンはユーザー側にある種の『覚悟』を要求する靴である。アイリッシュセッター系の米国産ワークブ−ツとの最大の違いはこうした重量級のソールの差によるところが大きい。片やクッション性と軽量なウレタン系素材ソールに対して、英国産カントリーブーツではあくまでも伝統的Goodyear製法やレザーソールといった古風で、足に馴染むまでにも何年かかるか分からない忍耐と試練をユーザーに与える靴である。本来、過酷な大自然の環境下で使用することで、傷みも早いが、『靴のこなれ方』にも違いが生じる靴であり、その風合いが加わってこそカントリーブーツ本来の『味』が出る。その『味』を都会で履くことで求めようとするのは本来、『筋違い』であるのだ。Tricker'sの頑強神話の背景には、そうした『筋違い』の使い方によるミスマッチが存在することも事実であるが、既にここまで人気となってしまったモールトンには、ファッション・ギアとしての新たなる宿命が宿ってしまっているのだ・・・。




(サイドジップアップの魅力 〜)


『写真を見て思わず決める・・・』。
こういうことは良くある。つまり、一目惚れ。デザインに惚れるということだが、現物が写真のイメージと寸分変わらぬか、むしろ現物の質感が写真以上、というのが理想だろう。このモデルでは、何よりもサイドジップアップ方式というのが、単なるコンビニエンスのみならず、デザイン上の大きなアクセントとなっている。もとよりサイドジップアップ方式が好きなのである。そして、ご丁寧にジップ部分を隠すようなフラップ付き、というのが心憎い配慮。通常、ジップアップ方式はジッパーそのものをデザインとして取り込む場合が多いので、剥き出しとなることが殆どだが、このモデルにおいては『隠れジッパー』をイメージしている。ある意味、脱着の容易さに重点を置き、サイドジップアップであることは敢えて主張しないドレス靴のような謙虚さを表現していることが素晴らしい。実際の脱ぎ履きは極めて楽である。但し、靴紐を解かないで、サイドジップだけで脱着をすることは出来ないし、靴への負担という観点からもお薦めではない。あくまでもデザイン上のアクセントとして、そして、靴を脱ぎ履きする時の補助装置として使用するのが正解である。

今回のJalan Sriwijayaは、現物を全く手にすることなく、写真だけで即断したブツ(Boots)である。このパターンは『GS130周年』や『ドーンブリュート』の時と全く同じ。しかし、時計と靴が異なるのはサイズ、である。どんなにデザインが良かろうと自分の足型に合わない3Dシェイプの靴ではどうしようもない。時に、それでも欲しくなる靴、と言うものも存在する。今回のJalan Sriwijayaはまさにそんな覚悟と誘惑が一杯に詰まったモデルであった。


→右写真:
このサイドジップアップと大き目メダリオンのデザインと配置、そしてラウンドトゥの絶妙なる盛り上がり具合は白眉。特にラウンドトゥの立体感はご本家モールトンとは全く異なる。この辺のデザインは、元来、軍用靴生産に歴史を持つJalan Sriwijaya(PT Fortuna Shoes社)の真骨頂とも言える技術と歴史の結晶である。



(抜群のデザインの鍵が随所に散りばめられている〜)


まずはフロント・トゥのポッコリ・モッコリとした盛り上がり。この立体感はTrcker'sには存在しない。指先に余裕、ゆとりが出来るスペ−スは長時間歩行において、非常に重要である。この造形を生み出したLAST Paul 0107は可也秀逸な出来栄え。個人差はあるものの、汎用性の広さでは多くの人に無理なくフィットするだろう。これが軍用靴で長年のキャリアを持つメーカーとしてのノウハウかも知れない。
そして、そのラウンドトゥ上に施されたメダリオンが素晴らしい。そのデザインは伝統的なパターンであり、英国靴ブランドのみならず国産REGALでも使用しているパターンである。安定感とデザインバランスからみても、筆者の好きなメダリオンのデザインBEST5に入ってくるものだ。大小メダリオンのサイズバランスも見事である。

今回はダイナイトソールを選択する。と言うか、それしか選択肢として存在せず、革製ダブルソールモデルはすでに完売状態。このモデルを発見したのが遅すぎたのであるが、最大の悩みが試着しないでサイズを決めると言う暴挙に出たことだ。通常、このような買い方、つまり通販で靴を買うということは絶対にしないのであるが、リスクを踏んででも惚れ込んだこのデザインに賭けることに。結論として、サイズも正解。実物質感にも満足できる買物となる。
改めて、Jalan Sriwijayaの実力を思い知ることになる。



























(仏アノネイ社のカーフの実力とは 〜)

特段、原皮レザーのブランドやタンナーに凝る訳ではない。この靴も聞かなければ、どこのレザーを利用しているかは全く分からないし、左程興味も持たない。しかし、仏の老舗アノネイ社カーフを使用しているということで、靴への信頼とそうした一流どころの原皮(革)を利用しているJalan Sriwijayaと言うメーカーそのものへの信頼度が増すことは事実である。確かに革の感触、特にアンクル周りから上の最上段ハトメ部分においては非常にしなやかに感じる。しかし、一言でアノネイのカーフと言ってもグレードも色々あるだろう。そうした詳細は一切不明ではあるが、Tricker'sの革と比較すると非常に柔らかいことは確かだ。このライトブラウン、マロンブラウンのような深い発色も称賛に値する。今後、年月をかけてどの程度経年変化してゆくか、または自分で育てることが出来るかが非常に興味深い。

そして、将来的にはソール交換の愉しみも控えている。
→右写真は革製ダブルソールの同型モデルにトライアンフ150とVibram製の1mm厚ハーフラバーを装着したものである
(写真提供:購入後、直ちに改造したN氏協力による)。革製であればこうして『色で遊ぶ』愉しみもある。スチールで補強する楽しみもある。思い切ってVibramガムライトなんぞで一挙に軽量化とクッション性能UPを図る選択肢もある。まさにその愉しみ方が無限大に広がるソール改造は、オーナーのみに許された愉悦の特権である。そして、日本国内であればリペア技術も世界一のレベルにある。こうしたソール変更を妄想するだけでも、この靴を手にした意義十二分であるのだ。







(小さな流行となるのか、サイドジップアップ方式のブーツ 〜)


繰り返しになるが、今回のモデルの3大特徴は:
@ フラップ付のサイドジップアップ
A 絶妙の革の発色を持つフルブローグ・ブーツ
B ズングリ・モッコリとした立体的なラウンドトゥ、
ということに集約される。

そのサイドッジッパーであるが、どうやら密かなるデザインブームになるのではないかという予感がしている。直近では2014年モデルにGUCCIでも登場しているのだ。本来、靴紐があればジッパーは不要。これを付けることは邪道である。しかし、デザイン上のアクセント以上に惹きつけられる魅力がある。それは何か。Tricker'sを手本とする7アイレットのカントリーブーツという普遍のデザインに文字通り大きな切り込みを入れる。そこをジッパーで繋ぐという『改造』デザインにこそ、このモデルの真価がある。つまり、ここでのジッパーは『下げる』ためのものではなく、左右の革を繋ぐ、即ち、『上げる』ために存在する。脱ぐ為にではなく、履く為のものである。靴紐を締めて、更にジッパーを引き上げる儀式。ブーツを真っ二つに割ったようなサイドラインをジッパーで繋ぐことで靴としてのデザインと機能を完成させる儀式。そして、その儀式によりユーザーである本人の内部で、これからその靴を使い込むぞ、という『覚悟』を抱くことになる。そうした一連のプロセスとそれに伴う仕草がこちら側の気持ちを昂らせるのである。まさしく不思議な魔法、サイドジップアップブーツに潜む魅力ではあるまいか。

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今回のJalan Sriwijayaに似たデザインでFoot The Coacherがある。知る人ぞ知る気鋭の国産ブランドであるが、こちらで定番になっているのが、やはりサイドジップアップのフルブローグWing-Tipブーツである。両者の比較写真でその違い、共通点も良く分かるだろう。














































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前回のネイヴィーローファー、そして今回のサイドジップアップ・Wing-Tipブーツからも明らかなように、Jalan Sriwijayaの実力はデザイン力と素材の良さ、縫製の良さ含めて3拍子が揃ったハイレベルにある。自分にとって、まさかのインドネシア製であり、予期せぬブランドの登場となったのだが、改めてその出来栄えに驚かされる今回のカントリーブーツである。(2014/01/10 517800)



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(本格派カントリーシューズ関連のページ)
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