J.M.Weston  ジェイ・エム・ウェストン
〜 カントリーシューズを探す旅・ドバイ編 E 〜

”Le Golf”
Weston Classic Line ”#641 GOLF DERBY”
Tan Grain (Size:8D/UK8.5C/US9D)、 LAST:31
Made in France




今までこのHPでも何度となく言及してきたJ.M.Westonの”GOLF”。
GOLFの誕生は1960年代。実に半世紀に亘る超ロングセラーの定番靴。
自他共に認めるその品質・デザイン・頑強度合いは折り紙つき。
しかし昨年、黒U-TIP #598を購入した際に、GOLF購入は生涯無いであろうと諦めていたはず。
それが、まさかまさかのどんでん返しである・・・。
(2013/02/16 471800)



(GOLFは紛れもない『カントリーシューズ』である 〜)


J.M.Weston(以下、JMW)の靴はどのモデルも洗練されている。
その理由は何かと考えてみると、集約される要素は、@普遍的なデザインの良さ、A革質の良さ、そしてB製法の良さ、にあると考える。この普遍的とも言える最重要基本3要素を極めれば極めるほど、その靴の特徴と個性が表現される。JMWは、まさにそのどれもが頂点に君臨する洗練度合いを誇るブランドである。そして、その基本3要素をひとつに集約した場合、JMWの場合には見事なる『フランス的情緒』、が生み出される。

一流英国靴とも違う、一流イタリア製靴とも違う、どこかにシックな知性(エスプリ)を感じさせるクールなスパイスがある。時計で言えば、まさにF.P.Journeに相当する。Journeの時計には独創的な技術に裏打ちされた『華』がある。JMWも、まさに『華』をそなえたデザインの『仏式頑丈靴』、とでもいえる独自の世界感を背景に勝負しているのだ。
このGOLFに関して言えば、誰が言ったか知らないが、巷で言われる『ジャーナリスト用シューズ』、などという殺し文句で、いやがうえにも買い手側のイメージをかきたててくれる。JMWはその広告戦略においても、超一流とでも言うべきか。
Hackett London会長のジェレミー・ハケット氏も25年来、10足を愛用するGOLFマニアという。英国紳士を代表する感度の高い同氏の入れ込み様からも、GOLFの実力が計り知れよう。因みに同氏はRadiomirも愛用する点等、多々、共感を覚える御仁でもある。機会があれば是非、一度、会話を交わしたいものである。


***


そんな華があるJMWでも、『靴オヤジ』のGOLFに関しての印象は少々異なる。
今までGOLFを遠ざけてきた大きな理由が、そのポッテリとした無骨なデザインにある。冒頭に述べた、JMWは洗練されているという表現の対極にある『無骨さ』、がどうしても受け入れられなかったのである。Tricker'sのカントリーシューズの傑作品4穴式WING-TIPもそうであるように、カントリーシューズとは皆、無骨で頑強な作りをしている。その尺度に照らし合わせれば、このGOLFもまさに全ての観点から適合する。そう、GOLFとはフランス的な解釈を加えたカントリーシューズ以外の何物でもない。そう考えると、GOLFへの接し方、自分の靴コレクションにおける位置付けも自ずと明確になってくるのである。

無骨でありながら、U-TIPという独特な意匠にカントリー的要素を被せてきた点がJMWとしての『洗練度合い』ではあるまいか。デザイン的には元祖U-TIP靴でもある、頑強なるノルウェージャン製法のチロリアンシューズをルーツに持つのではあるまいか。
加えて全体的なデザインを良く見ると、極めてソフトな印象を与える。ソフトトラッド、とでも表現すべき質実剛健さを上手くデザインで包み込んだ巧みさがGOLFの魅力と言えるのかも知れない。

⇒右写真: 今回はドバイ直営店で購入することになった。
#598Derby(=ラバーソール)と並んだ3色のGOLF達。
写真右から、濃茶、ブラウンスエード、黒、のGOLF。
どれもが全て独自の個性を輝かせている・・・。




(お気に入りのScotch Grain調のTan Grainに一発でヤラレタ『靴オヤジ』 〜)


実はGOLFに辿り着く前の遥か昔に、J.CrewのGOLFシューズを愛用していた。リッジウェイソールの頑強な英国製であったが、小指が稀に当たったりの繰り返しで、最終的には手放してしまった経験がある。実はあの靴、小指部分をストレッチ修正すれば、恐らく今でも手元にあるはずだが何とも悔しい・・・。

黒や濃茶のスムースレザーは見慣れているが、今回、偶然に発見したのがこのTan Grain。定番品である。
やや明るめの茶系にエンボス加工が施されたスムースレザーは大の好物。Scotch Grain系の革には滅法弱いので、一度は諦めたGOLFであるが、購買意欲が再度、急浮上である。
前回は黒GOLFを狙っていたが、このTan Grainであると印象は一変する。極めてソフトなトラッド靴としてのカジュアル感が増す一方で、偉大なるGOLFとしての存在感には変わりない。

自身のFITは7.5Eがベストであるが、Tan Grainの在庫が無い為、8.0Dを試す。ソックスの厚みで調整出来ないことは無いが悩んでいると、店員が隣りのJohn Lobb店舗へと消えていった。5分ほど経って戻ってきたときには、なんとJohn Lobb刻印がある革製インナーシート(⇒右写真)をGOLF用に加工して持って来た。まだ買うとも決めていないのに、何と言う早業、何と言う機転・・・。
こういう店員の無言の熱意、というものにユーザーとしては素直に感動するのである。




↓下写真: 徹底的に納得するまで試し履きする。
JMWはキツメのサイズを薦めると良く言われるが、この店ではそうしたことは一切無い。店側もサイズを決めるのは『靴オヤジ』であることを十分に認識している。余計なアドバイスは筆者の選択過程で邪魔になるだけなので、常連客を傍観することに徹するのみ。ただただ本人自身によるサイズの吟味に時間が費やされるのを店側は温かく見守ってくれるのだ・・・。勿論、上述のようなサポートを最大限に発揮してくれるし、購入時には純正シューツリーとスペアの靴紐を無料でサービスしてくれた。買い手・売り手の呼吸もピタリであるのだ。




























(矛盾する表示名?)

⇒右写真はGOLFの靴箱にある表示ラベル。
まず目に付くのが、モデル表示名である。
”GOLF OXFORD”というのは少々、違和感がある。
GOLFとは明らかに外羽根式のデザインである。
OXFORDとは内羽根式の総称であって、JMWでは外羽根式であれば”DERBY”と呼んでいる。#598はその一例。

とすると、このラベル表示は矛盾する。
因みにJMWの公式HPでは”GOLF DERBY”と記載されているので、JMWがその後修正しているのが分かる。
よって、このHPでもタイトルは”GOLF DERBY”に統一している。

”OXFORD”という単語は英国の地名に由来するのであろうか、という推論も成り立つが、上記のようにJMWにおいて既に、OXFORD⇒DERBYと名称を変更しているのは、仮に地名に由来するとしてもその紛らわしさの為に変更したとも解釈できる・・・。

そして更に、”OXFORD SHOES”と言えば、甲の上で紐を結ぶ短靴の総称、でもある。
この『総称』をGOLFの名称に組み合わせたとも考えることが出来よう。
筆者なりの推論は、恐らく当初は短靴総称のOXFORDを用いたものの、JMW社内での表記に矛盾が出た為にその後、DERBYへと変更したものではないか、というものだ。個人的には、内羽根式であれ外羽根式であれ紐式の靴であればOXFORDと呼んでおかしくないと考える。更には、OXFORDの語源である古英語のオクサンフォルダ『牛を渡す浅瀬』(=Oxanforda)から考えても、アウトドアで使う紐靴の総称、というのが適切ではなかろうか。イメージ的には、特に外羽根式の靴であれば、OXFORDという心地良いカントリーライクな発音の響きと英国地名の印象もだぶって、”GOLF OXFORD”の表記の方が好みである。
OXFORDという単語、語感にはそこはかとない英国カントリーの郷愁が感じられるからだ。

果たして、真相はまだ闇の中である・・・。


***

そして、もう一つ。毎回、紛らわしいのがJMWのサイズ表示。
JMW独自の表示、UKサイズ、USサイズの3種類が混在する。
そろそろUK/USに統一したらどうだろうか。
それとも、あくまでフランス製メゾンとしての誇りから、独自表示に拘るのであろうか。
ユーザーの立場からは、百害あって一理もない困惑表示方式であると苦言を呈したい。






(最大の謎、GOLFソールとリッジウェイソールの関係〜)

耐摩耗性、耐衝撃性、耐スリップ性から内外で高い評価を受けるGOLFソール。恐らく、Westonの”W”頭文字をソールパターンの一部としてデザインしたと思われるこのソール意匠は、英国製リッジウェイソールに酷似する。この点についてリッジウェイソールを生産するメーカーの会長からコメントを頂く機会を得た。その表現は歯切れが悪いものの、非常に苦々しいという内容のもであった。

JMW店員にかつて聞いた話では、仏タイヤメーカーのミシュランと共同開発したソールだそうだが、果たしてミシュランが現実にGOLF用ソールの生産を行っているのかは定かではない。この辺の情報収集を更に行った上で、ご本家リッジウェイとの関係も含めて言及したいと考えている。

もう一点、このソールのデザインはJMWのW頭文字と述べたが、Mの頭文字という説もある。同じJMWの#607のラバーソールには明らかに”W”をデザインしたパターンが配置されていることからも、このGOLFソールはやはり”W”の頭文字ではないか、というのが筆者の考えである。


***


GOLFにはレザーソール版もあるが、やはりGOLFと言えばラバーソールが定番である。GOLFのこのソール色は、JMW内では『ブロンズ』と呼ばれる黒と茶色の中間色のような褐色系である。そこに縫い込まれた銀色系のような太い糸が鈍く輝く。ヒールには9本の釘が打ち込まれている。Goodyear方式の重厚なる作りは片足616グラムもする。John Lobb製のインソール込みでは630グラムにもなる重量靴である。
こうした意匠を総合的に見れば見るほど、カントリーシューズとしての素性が浮かび上がってくる。そして、カントリーシューズを完全に都市生活に溶け込ませた靴、言わばシティカントリーシューズとでも言うべき頑丈靴がGOLFであるのだ。




(ラウンドトゥの代名詞たるつま先形状とヒールにまで伸びた外羽根がトレードマーク 〜)

JMWの美しさは秀逸な意匠と同様に、その丁寧なる作り込みにある。
ラウンドトゥのモカシン縫いや、ヒールカップに見える2本スティッチ仕上げ等、どのパーツ・縫製を見ても一流品。個人的にはヒールカップが踵中央部分で割れているモデル(つまり中央に縫い目があるモデル)は好みではない。Crockett&Jonesもそうであるが、機能面からは問題はなかろうが、ここに縫い目があるのは洒脱ではない。GOLFの場合、摘み縫いのように部分
縫いはあるものの、ヒールカップ全体のデザインは一枚革からなるので、非常に見た目も美しい。
つま先のラウンドトゥは、例えば英国靴のどのデザインにも似ていない。
独自性という点ではGOLF独特なもの。強いて言えば、同じフランス製のParabootsのU-TIPが酷似するラインを出しているが、これはJMW独自、フランス製独自のラウンドトゥ・デザインと言っても良かろう。

さて実際の履き心地は、一言で言えば硬い。GOLFソールは殆ど屈曲しないので、これではなるほどアッパーの革にもシワが入りにくかろう。折れ易い木製シャンクが使われている理由も分かろうというもの。そして、JMW全般に感じることだがヒールサポートがやや緩い。サイズ8Dを選択した影響もあるが、踵が浮かないまでもヒールカップに吸い付くようなサポート感は感じられない。しかし幸いにも小指が当たるなどの圧迫感や痛みは微塵も無いので、念には念を入れたサイズ選択が奏功したようだ。

この先、ライトブラウンのTan Grainをどのように磨き上げて、経年変化を人工的な変色変化を加えて行こうかと今から愉しみである。
恐らく、この靴はCrockett&JonesのBANGORらと共に、『靴オヤジ』の定番靴としてON/OFF問わず登場の頻度が高まりそうな予感大、である。
(2013/2/16 471800)


























(参考文献)
『最高級靴読本Vol.3』(世界文化社)
『Men's Precious 2002Winter』(小学館)

(加筆修正) 2013/2/20

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(本格派カントリーシューズ関連のページ)
@ 『英国で本格派カントリーシューズを探す旅(序章)』はこちら
A 英国訪問編・Crockett & Jones "BANGOR"はこちら
B ドバイ訪問編・Mr.B's "MENTZEL"はこちら
C イタリア訪問編・Church's "FAIRFIELD-81"はこちら

D サウジアラビア編・Massimo Dutti "Blucher Crepe"はこちら
E ドバイ編・ J.M.Weston "#641 GOLF DERBY"はこちら
F ドバイ編・ CLARKS ”Freely Burst"はこちら


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