”#607 OXFORD” 2005年11月、ジュネーブ市内のJ.M.Weston直営店で見たのが最初である。 以来、このデザインへの憧れは一時も自分の脳裏から離れることはなかった。 あれから7年、この程、遂にロングセラーの#607を入手することになる。 7年間、#607への憧憬を抱き続けた自分への『ご褒美』であると同時に、 7年間以上も#607を生産し続けているJ.M.Westonへの賛辞を込めて今回のレポートを作成する。 (2012/2/20 416900) |
(絶妙なる『シガーブラウン』の配色と発色〜) #607を初めて見た瞬間のことは今でも鮮明に記憶している。 場所はジュネーブ市内のJ.M.Weston(以下、JMW)直営店のショウ・ウィンドウであった。2005年11月のことである。 当時、気になっていたのは#677、通称『ド・ゴール』のDerby Shoesであった。そこで並んで目にしたのがこの#607。JMWではCasual Chicラインと呼ぶが、なるほど、まさに見た目はスニーカーっぽくてカジュアル。しかし、今回、初めて試し履きした段階で、その作りが世間一般に氾濫する『スニーカーっぽい靴』とは全く一線を画すことに気が付いた。追々詳述するが、この#607は完全なる本格靴。何処で履いても臆することなく胸を張れる立派なドレスシューズであると同時に、その守備範囲の広さと履き心地の快適性能では圧倒的に世間一般のドレスシューズをこれまた凌駕する実力の持ち主であろう。 恐らく、JMWモデルでも名作GOLFやローファーに隠れた存在として、ソフトシューズ・マニアの間では売れ筋No.1?ではなかろうか。 そんな#607を今回、世界最大のShopping Centerである『ドバイ・モール』で購入することになる。 My First JMWを2004年にベイルートで購入した訳だが、今回、奇しくもまたもや中東直営店での購入である。 * * * #607の最大の特徴は何と言ってもその革質と発色の良さにある。 JMWの自家所有タンナーによるBox Calf(=クロム塩でなめされた黒い子牛革)の評価は高い。その厚みでモデル用途も異なるが、#607はゴルフのような肉厚でなければクラリッジラインのような繊細さもない。云わば中庸の革質だが、中庸とは言えそのレベルは可也高い。加えて、このブラウン(JMWではTANと呼称)の発色が素晴らしい。筆者はこの色を評して『シガーブラウン』と勝手に命名しているが、似たところでは同じくフランス製の大御所Berluti、ヴェネチアンレザーを髣髴とさせる『枯れたシガー色』が他に類を見ぬ出来栄えを誇る。この『シガーブラウン』を手にい入れるだけでも#607の価値は存在すると思っている。 そしてもう一つが独創性に溢れるデザイン。 特にシューレース開口部付近のスニーカーシューズ的なデザインとフルブローグの融合は絶品。 有り体に言えば、ブラッチャー(外羽根式)に属する方式だろうが、一枚革で一体成型されたシューレース部分を見ればバルモラル(内羽根式) の変形と考えることも可能。この中央開閉部分にSporty感を見事に与えた所が並でない。 JMWにおける分類では、このモデル名が示すように”Oxford”(=内羽根式)であり、外羽根式は”Derby”と称している。 因みに、この#607は当初、”Classic Flex Wing-Tip”、と呼ばれていたのだが、現在では”#607 OXFORD”と、妙にシンプルな呼び名である。少々、そっけないネーミングになってしまったのが残念・・・。 #607を皮切りに、ソフト・ビジネス靴が数多(あまた)市場に溢れる訳だが、未だにこの#607を超える靴は登場していない。 筆者にとって、#607 OXFORDとは、まさにライト・ウェイト級Wing-Tipの金字塔的存在である。 分かる人にはわかる靴、響く人には響く色。それが#607 OXFORDであるのだ。 (絶妙なるスクエア・トゥの威力とは〜) ⇒右写真を見ても分かる通り、かなり角張ったスクエア・トゥである。 かといって、モダンな印象は微塵にも存在せず、むしろ逆に古風なトラッド感で満ち溢れているデザインが魅力。もし、この靴もミッシェル・ペリーのデザイン作品としたら、その幅広い創造性に対して感嘆するのであるが、実際のところは誰のデザインによるものかは分からない。 写真の通りコバの張り出しは、略ない、と言って良かろう。 代わりに、スクエア・トゥとは言いつつも、厚みのある立体的な形状は、つま先に適度な捨て寸と余裕をもらたす。ワイズはEのみ。つまり、余裕あるワイズであるのだが、スニーカーっぽい外羽根式レースアップによりワイズの調整は十二分に可能。とは言え、サイズが合わないと所詮、どうしようもない。この点も後述するが、下手に尖ってもおらず、丸くもない、絶妙なるスクエア・トゥが、このモデルのデザイン上においても大きなアクセントとなっていることは間違いない。 トゥ部分のメダリオンもデザインは全体的に上手くまとまっている。しかし欲を言えば、ややトゥ周辺部に拡散しているというか、メダリオン面積が広がってしまっているのが惜しい。出来れば、もう少々中央に集中させて、メダリオンの凝縮感を表現した方が美しいしバランスがとれる。この点だけが悔やまれる点である。とは言え、このメダリオンの配置・デザインは及第点。J.M.Westonの面目躍如、流石の上手さであろう・・・。 (心憎いダミー・スティッチによるブローグ飾りの妙〜) (←左写真) もうひとつ見逃してはならないポイントがある。 つま先から2番目のメダリオンのラインが実はダミーのスティッチのみによる飾りなのである。今までこの点を指摘した記事は読んだことが無いが、この#607ではEdward Greenのインヴァネスの飾りスティッチと真逆のパターンであるのだ。即ち、インヴァネスではつま先のWing部分とヒールに流れるメダリオンが飾りスティッチによる仕上げであり、革パーツによる切り返しではないのであるが、この#607ではその逆にシューレース周りの真ん中のメダリオン・ラインのみがスティッチによるもので、つま先Wingとヒール部分のメダリオンは独立した革パーツによる切り返し縫製なのである。 これは非常に新鮮な発見と驚きであった。 Edward Greenの隠し技がJ.M.Westonでも見られるとは、この#607モデルに籠められたJMWの『匠みの精神』を見るようで非常に得した気分であり、満足度も十二分に湧いてくる。やはり、JMWは只者ではないことを再認識させられる仕上げである。 (4mmピッチの『矛盾』、Westonの『嘘』〜) 今回、入念な試し履きの上で選択したサイズは8.0E。 Width(靴幅)は”E”のみしかないという。 これはUK=8.0E、US=8.5Eと同等サイズ。 JMWでは、JMW独自のサイズ表示と、UK、USの3種類が箱に表示されている(以下、全てJMWサイズ表示の意)。実は多少、緩めの8.5Eと迷ったが、今回はインド人の店員とも十分相談の上、Just Fitの8.0Eを選ぶ。この選択は一つの賭け、でもある。結果、まさにJust-Fitであり、不要な『靴内不和』、つまり指や甲の痛みも発生しておらず、大正解と言える。 JMWで有名な話が『キツメのサイズを薦める』ことだろう。 しかし、これは良く考えると非常におかしな話である。 JMWの最大の長所は、木目細かいワイズ展開と4mmピッチのサイズ(長さ)を揃えることだと言われる。もしそうであれば、最初から自分に合うサイズが見つかる可能性が高い。それにも拘わらず、多くのユーザが小さ目のサイズを店員から薦められる現実がある。挙句の果てには、ユーザーが足を痛めて苦痛と戦いながらJMWと対峙する、という真に滑稽、且つ本人の悩みと決して安くはない投資を考えると哀れみを誘うケースが多々ネット上でも紹介されている。 JMWは、どうして小さ目を薦めるのであろうか? 4mmピッチで展開しているのであれば、どうして最初からジャストフィットする製品を作り出せないのであろうか? 欧米人も同様な『苦行』にも似たプロセスを経てJMWを楽しんでいるのであろうか? それとも、『甲高段広』の日本人ラストに適合していないが故の『苦行』であるのか? JMWは日本人用(若しくはアジア系ユーザー)専用のラストを開発するなどの、本当の意味での木目細やかさは有していないのだろうか? 4mmピッチでJust Sizeを謳い文句としつつ、小さ目サイズを薦めるJ.M.Weston。 その矛盾と嘘がここにある。 筆者は以前から述べるように、『良い靴とは最初から何等、負荷無く、吸い付くようにフィットする』、というのが持論だ。 経験上、そして革質と製法の特性からイタリア製老舗にはこうした抜群の履き心地を誇る靴が少なくない。 例えば、タニノ・クリスティー、GUCCIのビットモカシンなどは、購入後、丸で第二の肌のように吸い付く感触であり、一度も足に痛みを覚えた記憶が無い。特にGUCCIは25年愛用を続けるが、未だに現役、未だに普遍的なデザイン性と快適性能を有する『傑作靴』である。 願わくばJMWユーザーにもそうした福音にも似た恩恵を最初からストレス無く与えて欲しいものである。 仮に小さい靴を薦めるのであれば、JMWとしてその理由と慣れへのコツと、そこに至るまでのリスクをもっとユーザー側に、分かり易く説明するべきであろう。これは保険加入時や債権購入時に、金融機関側によるリスク説明が義務付けられているのと同等の話だと思っている。シューフィッターの責任は斯くも重いのである。 * * * 繰り返すが、良い靴は最初から何のストレスも無いのである。 恐らく、JMWは製造過程でラスト(木型)に革を可也キツク巻きつけて成型するのだと想像する。 よって、その完成品の革は既にパンパンに張られているために、更に伸びる余裕も少なければ、足を包み込むタイトな感触も可也キツメに出来上がっている。それが原因で普通は合うはずの自分のサイズでも特にワイズ面ではキツメに感じるのではあるまいか。 しかし、『窮靴』であれば、ユーザーにとって楽しみ半減、愛着も消滅しかけぬ大きなリスクをはらむことをメゾンとしても強く認識すべきであり、同時にユーザーも店側の『助言』に惑わされること無く、入念な事前調査と自らのサイズに対する信念を持って選択には慎重を期すべきである。結局、自分の足型と過去の経験・経歴を知るのは自分一人であり、仮にサイズ違いを店側が薦めても、後で何等責任を取ってくれる訳ではないのであるからね。 (抜群の履き心地の良さとWing-Tipの風格〜) この靴に限らず、靴の真価と適正サイズは試し履きだけでは中々分からない。 しかし、#607は試し履きの段階で、良い意味で『違和感』を十分に感じることが出来る。 その一つ目は、堅いラバーソールがまるで革底のような感触さえ与えてくれることだ。加えてラバー製なので滑らない。この独特な感触・風合いを自身の足裏で感じることは大きな楽しみである。靴底の接地面が微妙に湾曲している影響もあり、フロア上では革底のごとく、コツコツとした小気味良い音色を奏でてくれるのだ。 ヒールの高さは2.5cm。見た目はもっとあるように見えるが、ラバーソールでここまでの本格的なヒール厚と造形美を見せてくれる靴も稀有な存在。 云わば、@シガーブラウンの発色、A絶妙なスクエア・トゥ、Bパンチングが確りと効いたフルブローグ、そしてC革底のようなカチっとしたラバーソールと、DOn/Offとシーンを選ばぬ汎用性の高さ、が#607の5大特徴&長所であるのだ。 特に、濃紺のジーンズに合わせるシガーブラウンの#607は、子供には背伸びしても真似し難い、大人の男としての特権的な愉悦に浸ることが出来るのである。これはまさにシガー(葉巻)と同等の世界にある。 今回、純正シューキーパー込みで邦貨5万円弱 (↓下写真のキーパーは別物を装着状態)。 既に慣らし運転も完了し、心配した足の痛みや不要な圧迫感は皆無。 慎重に慎重を期してサイズ選択した『成果』が早速現れている。こうなれば上記の購入価格も安いものだ。 J.M.Westonには、残る一足がTargetとしてあるのだが、兎にも角にも、この#607には満足感と感慨で一杯の『靴オヤジ』であるのだ。(2012/2/20 416900) (←)シガーブラウンの妙・・・・ (加筆修正等)2012/3/10、2012/6/03、2012/09/27 追記1) 購入からその2週間後。 今度は黒色#607を試す機会が出来た。 ⇒右写真のように、色彩にグラデュエーションは存在しないが、シンプルな黒のBoxcalf製も中々宜しい。出来れば、茶色(TAN)とこの黒で2足揃えても良いと思うのであるが、黒系統のWing-Tipは所有在庫も十分であり、ココはジッと耐え忍ぶ。 もっとも、黒のWing-Tipであれば、REGAL定番#2235を選択して、つま先にはVintage Steelを施して、自分なりの小さなカスタムアップを図りたいと思っているのだ。。。(2012/3/10) 420660 追記2) このたび、サイズ調整を行った。 購入後、甲周りにおける微妙なタイト感が気になっていたのだが、地元のシューリペアで思い切ってサイズ調整を行った。 詳細は省くが、今までのモヤモヤ感が氷解するがごとく、足当たりは更にピタリとなり、余計な圧迫感は皆無となる。案ずるより産むが易し。足に違和感やキツイと思った時には躊躇することなく、信頼おけるリペアショップと相談することだ。 無用な我慢や足への負担は一刻でも早く回避する試みを行うべきだろう。(2012/6/03 434900)) (J.M.Weston関連ページ) ⇒『J.M.Weston購入記@ベイルート』はこちら。 ⇒『2005年11月。我が心の故郷、ジュネーヴ再訪』はこちら。 ⇒『2012年2月、ドバイモールで#607 Oxfordを買う』はこちら。 ⇒『2012年3月、2足目・#598黒のSplit-Toe Classic Derbyを買う』はこちら。 ⇒ 靴のページに戻る |
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