CHOPARD  ショパール

CHOPARD L.U.C1860 Ref.16/1860/1 Cal.L.U.C1.96 Half-Hunter Case
(100-pieces Limited Version in Rose Gold Case)

『極上時計礼讃〜各論・ショパールLUC1.96編』




私的・極上時計の本命モデル、ローズゴールド製Chopard LUC1860。
2003年に入手して早、5年が経過する。
この間、世間では数々の新作・高級ドレスウォッチが登場したが、
未だにLUC1860の存在は自分の中では色褪せない。
★  ★  ★  ★  ★
2005年、ショパール本社工場を訪問して感動したLUCの組立部門。
『極上時計シリーズ』としてラジオPAM00062、FMリミテッド2000、アクアノート旧型5065に続き
今回はいよいよLUC1860の各論について。


(2003年当時の『極上時計』の選択がこのLUC1.96搭載のLUC1860だ〜)

2002年冬に実行した『スイス時計巡礼の旅』
今振り返ると、ここからLUC1860へ辿り着くまでに自分なりの極上時計探求の旅が始まった。
『極上時計』の定義は何度も述べてきたが、以下の3点に集約される:
@信頼できる老舗時計屋が作った『哲学』のある時計。
A極上バランスを有すること。(立体感あるケースや文字盤の仕上げ。これはINDEXや針のデザインと完成度、
  そして文字盤上の装飾が大きな要素を占める。何よりもそれらが自分に似合うと思えること。)
B長きに渡りアフターサービス体制が期待できること。

実はこれら@〜Bは突き詰めると同じコンセプトを意味する。それを称して『極上時計』と呼ぶのが筆者の辿り着いた結論である。別の表現をすれば、『自分にとっての極上バランスを有する時計』、ということだ。
世にある数多の高級時計と言えども、こうした要素を踏まえて琴線に響く時計は意外と少ない。キーワードは自分のライフスタイル(=嗜好と哲学)に合致できるか否か。いくらメディアが”シンプリシティ”を賞賛しようとも、『時計オヤジ』の嗜好に合わぬ限り『落選』となる。身銭を切って選ぶ『極上時計』とは、世間の風評を参考にはしても決して左右されてはならない。最後は自らの信念で選ぶことになる。信念がないと選べない。だから時計選びは楽しくも難しいのである。

今年、2008年度バーゼルフェアを訪問し、数多くの新作時計を観て痛感したことでもあるが、喉から手が出るほど欲しい時計には最近、トントお目にかかれなくなった。新作が飽和状態、というのではなく、新作のベクトルが現実離れしてしまい、地に足が付かないデザインが多くなった結果である。自信を持って伝統的な正攻法のデザインで攻め切れない中途半端なメゾンが何と多いことか。この傾向は2004〜5年頃から特に強まったと感じる。

(右写真⇒: 2005年11月、メイランの本社工場にて。
         LUC1.96開発責任者のダニエル・ボロネージ氏との面談に感激する。
         余談だが彼のスラックスの股上の超短さにも驚いた・・・。)




(熟考の上、絞り込んだ『極上時計』候補がこちら〜)

2003年当時、自分なりに『極上時計』として候補に挙げたのが以下である:
NOMOSタンジェント黒文字盤+18金ケース
GP1945パワーリザーブ黒文字盤+18金ケース(2001年モデル)
OMEGAシーマスター黒文字盤+18金ケース
OMEGAデ・ヴィル
LANGEランゲマチック、ETERNA1947
、等等

基準項目は、貴金属ケース、黒文字盤、デイト付き3針、シースルーバック、防水、クロノメーター、Co-Axial等。これ以外のメジャーブランド、例えばPATEKやBREGUET等は入っていない。当時の自分の持つ価値観の対象外であったからだ。最終的にGP1945パワーリザーブとLUCに絞り込まれたが、共にケース素材は18桃金製ローズゴールドに黒文字盤だ(⇒右写真のモデルはWGケース。2003年11月、サウジアラビアの正規ディーラー店にて撮影。懐かしいなぁ)

一度は巨大角型GPに決め発注したが、当時は正規ディーラーでも納入の目処が立たず仕舞い。そんな折、シンガポールのCHOPARD直営ブティックで偶然にも紹介されたのがハーフハンターケースの限定モデルである。




(ハーフハンター製グラスバックは日本国内未発売〜)


桃金、黄金、ホワイトゴールド、プラチナ(白金)の4種類の貴金属ケースが居並ぶ。全て各素材限定100本。加えてハーフハンター製というのが希少である。
LUC1.96搭載モデルは通常、グラスバックにケース同素材の裏ブタが付属するが、ムーヴメントを鑑賞する為に多くの場合、グラスバックが選ばれるだろう。しかし、それでは付属の18金製裏ブタが宝の持ち腐れとなってしまう。その点、ハーフハンターというのはまさに一挙両得。これしかない、というケース構造で限定生産というのも魅力である。

ケース素材は桃金を選択。文字盤は黒色と決めているので、最後は買う、買わないの『決めの問題』となる。限定100本だが、好きな番号を選択出来るオマケも付いた所が流石、CHOPARD直営店故の在庫力である。
中華圏では8の数字が縁起が良いとされる。その結果、シンガポールのCHOPARDブティックには、8番が付くシリアルが可也集中的に集められているのが面白い。筆者もそんな中から、これしかない、というシリアルを選択する。
『極上時計』に希少性を求めることはしないが、100本限定に加え、好みのシリアル番号を選んだことで愛着は自然と増す。

蛇足だが、この時計を選択する為に現地で足掛け3日かけた。
初日、ぶらりと訪問したブティックで偶然、LUCコレクションに遭遇し、じっくりと拝見する。
二日目、数あるLUCシリーズから好みのモデルの選択に再度ジックリと時間をかける。
三日目、数本に絞った時計で再再度、激しいジックリtimeに突入、そして最終決定⇒購入、というプロセスに至る。
この間の商談は全て広々とした個室。ブティック側からはシャンパン提供のサービスも受け(初日から)、買手の勢いが加速させられる。上手い商売のやり方である。

こちらは一本釣りで店に入ったのではなく、偶然の訪問によるゼロからのスタート。
ぶらり散歩⇒目ぼしい時計を発見⇒予定外の購入、という過程を経るには一回の訪問では完結の仕様が無い。
時計そのものへの評価が自分の基軸に見合うか、この辺をあ〜でもない、こ〜でもないと自問自答するプロセスが悩ましくもあり最大の楽しみでもある。その際に店の販売員と呼吸が合うかも重要なポイントだ(言語は勿論英語)。どんなに素敵な時計でも接客に問題があれば商談成立には至るまい。売り手側の重要な条件とは、考えるに3つ。@最低条件は、自社製品を熟知していること(⇒複数ブランドのリテイラーではもっと大変だが、これは小売店である以上『基本のキ』) A紳士・淑女であること B買手の心理を読む力、それをさらけ出さずに買い手を見守る包容力があること。

上記3点は実はそれぞれが奥深い意味を持つのだが、それは別の機会に言及する。
このCHOPARDブティックの店員はA、Bにおいて及第点。@については知識不足であったが、それでも分からない点は自社ネットワークを使い、回答しようと努力する真摯さにおいて合格であった。
(余談:後日、この御仁とは交流が続いたが、その後、ドゥ・ヴィットに移籍された)



(グラスバック+ハーフハンターは淫靡の世界への扉となる〜)

ハンターケースを開けるとそこには美麗ムーヴLUC1.96を覘く。装着時にはガラスではなく、18金製ケースが手首上に接する。この奥ゆかしさ、グラスバックを隠す羞恥心を知った世界。その扉を開けることで淫靡な世界へ入り込むような悦楽が待っている・・・。

ハンターケースは他メゾンでも限定モデルに多い。
レギュラー品でハンターバックケースというのは筆者の知る限りでは無い。
ヒンジ部分の耐久性、腐食を考えると少々不安になるが、ヒンジが壊れる前にユーザー自身が逝ってしまうだろうからここは良しとしようか。

(←左写真: 逆さ富士ならぬ、"逆さLUC1.96"を楽しめるオマケ付き〜)
ハンターケースの良さは何よりも懐中時代の名残と控え目加減にある。これ見よがしのグラスバックとはせず、見たいときにチラ見する楽しみ。これはオーナーの特権である。ハンターケースの内側にはCHOPARDマークが刻印されている。鏡面仕上げであるので、ここに映る『逆さLUC1.96』を見るのも愉悦のひと時だ。


PATEKのようにハンターケースは全開しない。90度くらいの角度で止まるので、取扱には少々注意を要する。
ガバっと開いた方が簡単・安心であるのだが、こうして控え目がちに覗き見る楽しみにも慣れてしまえば問題は無い。

それにしても桃金ハンターケースバックを開けて、中のLUC1.96を眺める度に、その芸術的な美しさにはため息が出る。CHOPARDでは桃金をローズゴールドと呼ぶが、CHOPARDの桃金の色彩には定評がある。流石、宝飾系ブランドとでも言うべきか、メイランの自社工場で製造する桃金の純金バーからくり貫かれるローズゴールドケースは非常に落ち着いている。ややオレンジっぽいとでも言うべきか、”レッドゴールド”でもない、”ピンクゴールド”でもない、まさにCHOPARD独自のレシピによるローズゴールドなのだ。




(ケース、文字盤、ムーヴメントの仕上げが『極上時計』の判断基準〜)


個別の時計本体に焦点を当てよう。
極上時計とはケース、文字盤(針、INDEX含む)、ムーヴメントの3つの良し悪しでその出来映えが決まる。
特にケース、文字盤は時計の顔でもあり、この仕上げの良し悪しが大きな鍵となる。その点、このCHOPARDの出来映えは完成度が高く、何よりも全体のデザインが良い。ドーフィン式dauphine時針は中折れ式で、長く非常に太い。この太さは有りそうで実は高級時計でも数少ない。大きなトルクが必要になるのでゼンマイパワーの伝動効率の問題が壁となる。しかしCHOPARDはダブルバレルとすることで駆動時間を約65時間に延ばすと同時に、大きなトルクも生み出すことに成功している。その結果としての大型&ロング時針の設置が可能になったと見る。加えて、COSCも取得しているので精度面でもお墨付きだ。因みにCOSCとジュネーブシールを同時に取得している時計は極めて少ない。ジュネーブシールを取得出来るメゾンはジュネーブに存在することが必要だが、あのPATEK、VACHERONでさえCOSCまで同時に取得しているモデルを筆者は知らない。この点、LUC196はいきなり『2冠』制覇でデビューしたところが凄い。精度と仕上げへの執着、がLUCの基本理念である。



(文字盤の凝り様が鑑賞に耐えうること。それが『極上時計』の重要条件〜)

文字盤周上のレイルウェイ目盛、ティアドロップ(涙)型の植字式INDEX部分、そして中央に放射状ギョシェが施された装飾と、大まかに言えば3つの面で構成される『贅沢な文字盤』である。やや凝り過ぎとも思える仕上げだが、毎回鑑賞するのが楽しい限り。黒文字盤よりもシルバー系の方が見易いのだが、極上時計は黒文字盤と決めている。何故なら、黒色がより『近代の色』であるからだ。黒文字盤は1900年代、20世紀に入ってから腕時計に用いられた新しい色彩である。その歴史は一般化されてまだ半世紀そこそこである。昔の時計には無い色。それが黒文字盤である。
(←左写真:光の加減で濃紺にも輝く美麗な文字盤)

INDEX形状はCHOPARD特許、とでも言うべき独特でフェミニンなティアドロップ型植字式。手書きも良いが、立体性を好む『時計オヤジ』としては植字式がベスト。PATEK96シリーズの植字式BAR-INDEXが正統派とすれば、こちらはまさにモダンなデザイン。ファッション性さえも醸し出す、如何にも宝飾ブランドらしい”華”を感じさせるINDEXだ。ドーフィン式針ともピッタリのマッチングである。
そしてその存在感ある時針は周上のレイルウェイ目盛まで届く。
時針が短い時計、文字盤周上まで届かない時計はどんなに高価で有名なメゾンであろうとも”落第”である。逆に、こうしたツボを押さえたモデルであれば価格や有名度は関係無い。逆に言えば時針の長さひとつをとっても、中々満足した仕上げを表現するモデルが少ない。黒文字盤にギョシェはミスマッチかも知れない。見難いからだ。しかし、ラッカーペイントされたような輝きと艶を見せるこの文字盤にはギョシェも映える。レイルウェイ目盛は金色ペイントというのも色気タップリのゴージャス感を生む。日付け表示の白色以外は全て黒色と金色がベースとなる。クロキンモデルとしての面目躍如である。

文字盤のロゴは昔ながらの”Chopard” 筆記体であるが、個人的好みは他LUCモデルでも見られる”大文字活字体”である。しかし、そこはこのLUC1860がCHOPARDのフラッグシップであり、歴史的オマージュを込めたものであるが故に筆記体となるのは必然だろう。分かってはいるが、大文字が好みである。

ケース形状は平凡にも見えるが、実はそうではない。
やや曲面を描いた幅広のベゼル。そこから伸びる絶妙な形状の長めのラグ。最新工作機械(CNC)の恩恵であろうが、技術論はさておき素直にデザインの勝利を祝おう。10年前でこうした加工が可能であったのだから、今日ではあらゆるデザインの具現化が可能となった。しかし、逆にだからこそ醜悪なデザインも数多。”創造と抑制の高度なバランス”。これを実現できるメゾンこそが『極上時計』を生み出せるのだ。そうした理性あるメゾンであることも『極上時計』には要求される。そして、理性あるメゾンは文字盤径も決して40mmを超えないのだ。



(『駆動系重視』のLUC1.96マイクロローターの妙〜)

マイクロローターについては以前、ユニバーサル・ジュネーヴでも述べた。
マイクロローターの魅力を一言で言えば、自動巻きでありながら、ムーヴメントを隠さず見れること。その結果として薄型化できる恩恵も大きい。やはり大きな通常サイズのローターは鑑賞上邪魔である。現在、マイクロローターを搭載するメゾンはPATEK、新生ユニバーサル・ジュネーヴ、そしてこのCHOPARDの3社のみである。3/4ローター搭載のLANGEやGO(Glashutte)、Breguetもあるが、ここまでの本格的マイクロローターを搭載するのは3社のみだ。中でもPATEKのCal.240とLUC1.96は双璧。現代最高のマイクロローター2大ムーヴメントと断言する。

しかしマイクロローターの弱点は慣性モーメントの大きさだろう。
それを補う為にCHOPARDは22金製で比重の重い素材を贅沢に使うことになる。高級ムーヴと評価される一翼をこの金素材が担うことになる訳だ。
フランクミュラーのように、より比重の高いプラチナを使うメゾンもあるが、ムーヴメント上の”見栄え”を考えれば黄金色のローター以外には考えられまい。
しかし、このCHOPARDのマイクロローターは決してグルグル、ブルブルとは回らない。どちらかと言えば、コツン、コツンと不連続な回転運動となる。
恐らくその理由は三角型の自動巻きワインディングカムにあると推測する。CHOPARDの自動巻きとは乱暴に言えば、切替車を使わずに爪(ラチェット)による掻揚げ方式により主ゼンマイを巻き上げる方式だ。同じ範疇にはIWCペラトン式やSEIKOマジックレバー式が存在するが、マイクロローターを起用するのは勿論、CHOPARDのみだ。一方、切替車方式でマイクロローター搭載のPATEKのCal.240系の動きは極めてスムース。因みにCal.240系搭載モデルは2針のクルドパリ・ベゼル仕様のカラトラバ、ワールドタイム、G.エリプス、そして年次カレンダーのみ。ジャイロマックステンプと共にCal.240系は本当に美しい。非の打ち所の無いキャリバーである。


(←左写真: LUC1.96最大の特徴は『3点セット』にある〜)

マイクロローター、ダブルバレル、ラチェット式巻上方式の”駆動系3点セット”がLUC1.96の独創性だろう。これ以外にも、ブレゲ式巻上ヒゲやスワンネック採用という”制御系の見せ場”もあるが、”3点セット”の駆動系にこそCHOPARDとしての技術力・開発力が集中されたと考える。

←左写真で”3点セット”が良く分かる。
ダブルバレルは重層式、2段重ね方式である。例えば最新のオメガCal.8500系キャリバーやJLCグランデイトに搭載されるCal.875では同じダブルバレルでも重層ではなく並列式を採用している。どちらが効率が良いのか分からないが、スペース確保という観点からは重層式の方が省スペース化を図れることは素人でも想像できる。
2本式のロッカーアームは三画形状のカムを通じてマイクロローターの動きを捉えて、反対側の左上に取り付けられた2本の爪(ラチェット)が駆動系歯車を引っ掻くように巻き上げる。この巻上の実際は目視出来ないが、想像する楽しみは十分に残る。






(100%満足出来る『極上時計』は有り得ないのか?〜)


しかし、そんなLUC1860であっても不満が無い訳ではない。
どんな時計であれ、自分の要求と不満との折り合いをどこで付けるか、不満や欠点と自分がどのように同居できるかで時計への評価と愛着が決まる。『時計オヤジ』の嗜好に基づき、ユーザー目線でこのモデルを眺めて見る:

@針飛び・ハック機能無し:
針飛びはクォーツ時計でも起こるが、このLUC1860では顕著。細心の注意を払って竜頭操作をしても、時針が大きめにズレる。これは些細な点かも知れないがユーザ側には大きなフラストレーションとなる。ROLEXやOMEGAでは針飛びは少ない。どうしてかかる高級時計で防げないのか?歯車の噛み合わせに何が起こっているのか?ハック機能が無い点も不満だ。得てしてスイス高級時計にはハックが無いモデルが散見されるが、どうしてだろう。ランゲのゼロリセット機構もあるように、時刻合わせ上、秒針停止の必要性は高い。この2点は改善を切に望みたい。

A受板のカットライン:
これは個人の審美眼にも因るが、LUC1.96の受板形状は複雑すぎる。その結果、受板形状曲線に安定感が見られず、美しさを欠く。ジュネーヴシール取得モデルなので、断面や細部の処理は完璧であるが、デザインそのものが戴けない。この点ではPATEKのCal.240や昔のUNIVERSAL(Cal.2-66、2-67)に軍配が上がる。

Bスムーステンプの見栄え:
スワンネックは宜しいが、小型ハイビートのスムーステンプは少々味気ない。PATEKのジャイロマックス式に比べて躍動感、メカニズム感に欠ける。脱進機に躍動感とは?駆動系と並んで脱進機含む制御系はシースルーバックにおける鑑賞するべき東西横綱格の”見せ場”である。そこにはメゾン独自の創造性が求めらるのだが、LUC1.96では無味乾燥。その分、精度にコダワリ、毎秒8ビートの高速化を手に入れる為に、小型テンワやブレゲヒゲを開発したことは分かる。しかし、やはりチラネジ、ジャイロマックス、フリースプラング等の工夫・見栄えが脱進機の醍醐味。シースルー全盛の現在ではそうした意図的な装飾的要素も重要である。GOのダブルスワンネックなどは人為的見せ場を盛り込んだ際たる例だろう。筆者の嗜好に合致するベクトルである。

Cマイクロローターのぎこちない回転運動:
上述の通り、ブルンブルンとは回らないローター回転はちょっと頼りない。理由はマイクロローターの裏側に位置する凸凹ある三角形のカム形状に起因する。丸でロータリーエンジンのローターのような三角形状のカムの凹んだ部分に2本足のロッカーアームが来るとマイクロローターも一休みする。この回転のぎこちなさがLUC1.96の構造上の特徴でもある訳だが、個人的にはもっとクルクル、スムースに小気味良く回るローター回転が好みである。

実は上記4点は決して無視できない不満点である。
それがゆえに、LUC1860には諸手を挙げて賞賛することが出来ないのが正直な感想だ。


          
★ ★ ★ ★ ★

『私的極上時計』としてこれまで4本を挙げたが、どれもが未だに至高の存在である。
特に40mm径ラジオミールと旧型ジャンボ・アクアノートは現在では入手難であり、旧型の素晴らしさ、実直な仕上げのムーヴメントに満足度も高い。
今回のLUC1860は正統派ドレスウォッチとして、Limited 2000と双璧の存在である。それぞれの素性は全く異なるが、それらを超えてソソラレル時計には最近、トントお目にかかれないのが実は嬉しい誤算でもあり、と同時に時計業界への物足りなさが入り混じる複雑な心境である。(2009/01/01)




(参考: 他機種のマイクロローター〜)

⇒右側写真:
  PATEKのCal.240。
  1977年に特許申請されて以来、未だに至高の存在。
  2.53ミリの厚さは現役キャリバーで世界最薄である。
  1996年登場のLUC1.96は3.3mm厚であるのだから。
  8個のジャイロマックス搭載というのも至高の存在。
  (※写真はPATEKのカタログより筆者撮影)



















←左写真:
  旧ユニバーサル・ジュネーブ。Cal.2-67。
  2.5mm厚にして1966年初登場というのが凄すぎる。
  現代メゾンにはこうした地道な技術に基づく復刻モデルの開発を期待する。








⇒右写真:
  グラスヒュッテ・オリジナル(GO)のCal.90は4/3ローター搭載。
  チラネジ式テンプに何とダブルスワンネック搭載の見せ場満載、
  欲張りキャリバーだ。
  詳しくは『GO本社工場訪問記』を参照乞う
  ※ダブルスワンネックについては別途、『GOの考察』で詳しく述べたい。



新素材、複雑機構開発中心の現状にはうんざりする。
特に2008年では異素材の組合せがブームとなり、各社ともそうした異素材を全面に出した新モデルを発表している。異素材開発は元祖、ウブロに任せておきたい。もっと正攻法な取り組みが欲しいのだが、時計業界は今や老舗メゾンよりファッションブランドを含めた新規参入組の方が多い。既にパンドラの箱が開けられた現在、あとは時計本来の美しさから離れた部分で各社の個性を主張をすることが生き残りを賭けた道なのであろう。しかし、老舗メゾンは安易にそんな商品展開をしてはならない。『理性と抑制』にはここでも大きな葛藤が伴うが、そうしたメゾンの苦悩をユーザー側から眺める事も気楽に楽しんだ方が良いのだろうなぁ、と最近は達観と諦め半分の気持ちである。

伝統的技術に基づいて開発された、ハイレベルで美しい仕上げのムーヴメントが『時計オヤジ』の求める『極上時計の心臓』である。そんなムーヴを搭載した時計に巡り会えることが出来れば、人生においてささやかだが、心の大きな拠り所になる時間(とき)を過ごせると信じている。(2009/01/01)




『時計オヤジ』による『私的・極上時計礼讃シリーズ』:

『極上時計礼讃・序説』はこちら
『極上時計礼讃〜ラジオミールPAM00062』はこちら
『極上時計礼讃〜フランク・ミュラーLimited 2000』はこち

『極上時計礼讃〜パテックフィリップ・AQUANAUT旧型ラージサイズ』はこち
『極上時計礼讃〜ショパールLUC1860』はこちら

ショパール関連web:
2005年11月、『ショパール本社メイラン工場訪問記』は
こちら。


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