SEIKO  セイコー

SEIKO-5 REF.7S26-0590 Cal.7S26A



「最高の実用時計」 コラムで次点として推した"SEIKO5"である。

(SEIKO5は今や海外市場専用モデル〜)

輸出用として海外市場でSEIKO5がこれほどポピュラーとは思わなかった。日本国内では逆輸入を除き、まず店頭では販売されていないのではあるまいか。海外では、特にアジア・中東などの途上国では、安さ、正確さ、そしてSEIKOのネームヴァリューの影響からか非常に根強い人気がある。30年ほど前の日本では、”SEIKO 5スポーツ”と称してクロノグラフが中心であったが、現在のSEIKO5は自動巻き3針カレンダー付きが一般的であり、クロノグラフは存在しない。

ムーヴメント・ローターには"JAPAN"の刻印がある。文字盤にも"MADE IN JAPAN"の印刷があるのでどうやら日本製のようだ。CAL.7S26A(21石)が中心であり、少々グレードアップするSEIKO5"SUPERIOR"にはCAL.7S36(23石)が搭載される。しかし、SUPERIORにはローターにも文字盤上にも"JAPAN"の文字は無い。何とも不可解である。

一方、その機能には殆ど差は無い。SEIKOお家芸のマジックレバー式の自動巻き、裏蓋スケルトン仕様、ハック機能無し、手巻き機能無し、日常生活用防水(3ATM)、プッシュ式ワンタッチ・クラスプ、というのが標準仕様。風防はプラスティック製もガラス製もありモデルで異なる。6振動/秒であり、精度は目安として週差4〜5分というのが「SEIKOお客様相談センター」より得た情報である。と言う事は大雑把に日差40秒程度ということになる。まぁ、日常生活での支障は全く無かろう。そもそも、一昔前は毎朝、テレビの時報などで時計を合わせたものだ。それが、本来の機械式時計との正しい付き合い方ではなかろうか。時計は精度が最重要であることは論を待たない。しかし、毎日1秒、10秒、30秒、1分と違ったところで実生活上での影響は無きに等しい。あると思っているのは本人の「誤解」に過ぎない。

(品質二の次、マジックレバーで見せますスケルトン・バック〜)

裏蓋はお馴染みのスケルトン仕様であるが、お世辞にも感動する機械部品とは言えない。地板にはヘアライン仕上げが成されているが、どうしてもプレス、打ち抜きそのままのような粗っぽさを感じてしまう。まあ、何を言っても値段が値段である。1万円で2本も買えてしまうのだから、スケルトン・バックであること自体に感謝しなければいけないだろう。『汚いスケルトンは隠すべきだ』との主張もあろうが、場末のストリップでも裸は裸、というノリで筆者は歓迎するのである。

←左写真:
上部の赤丸枠内にマジックレバーが見える。
下丸枠内にマジックレバーの2本の支点が伝え車の偏心に設置された様子が分かる。こうしたマジックレバーの動きや構造を垣間見るだけでも価格の価値は十分にある。1959年に”ジャイロ・マーベル”で初搭載されたマジックレバーは、IWCのペラトン式自動巻き(1950年代開発)と双璧のユニークな機械。それがこの安価なCAL.7S26Aで眺める事が出来るとは何とも『お買い得時計』ではあるまいか。





(コストパフォーマンスからは満足する出来映え〜)


曜日+日付カレンダー付きも気に入っている。曜日は英語とアラビア語表記である。イスラム暦では金曜日が休息日ゆえ、アラビア語の金曜は赤字で表示される。これは販売される地域ごとにその土地の言語が第二表示されるのだ。SEIKOらしい木目細かい対応である。

唯一の欠点は3ATMしかないこと。せめて時計をしたまま泳げる日常強化防水の5ATM、若しくは10気圧防水(=10ATM/1OBAR)は欲しいところだ。因みに"SUPERIOR"は10気圧防水。ケース径は36mm、ROLEXデイトジャストと同じ適度な大きさだ。巻きブレスはその特有のシャラシャラ音がするが、これは値段相応で已むを得まい。リューズも4時位置にあり、凹凸なくケースに埋まる仕組みとなっている。




文字盤の色は黒を選択。
ブレスのデザインも3連で、共にROLEXのエクスプローラーTに「対抗」してでの選択である。ROLEXと比較するにはステージが余りに違いすぎるが、"VALUE FOR MONEY"という意味からは十分対抗できると確信する。コストパフォーマンスという観点からはSEIKO5は賢明な選択の1本と言えるだろう。ケースデザインもバブルバックっぽくて気分でもある。
小ぶりで目立たず、使いやすく、不便は全く無い。こうした質実剛健な時計こそが実用時計に求められる理想である。機械式時計の入門用として、はたまたサブカメラならぬ『サブ時計』として活用するにはもってこいの存在だ。海外等を移動中で時計が傷つきやすい場面で、治安の危ない場所で強奪されても良い時、はたまた何があっても良い状況で着用する『サブ時計』としての脇役的な存在感は大きい。




(時計本体価格<OVH費用、というのはアリ?〜)


機械式であるが故に、数年後にはOVH(オーバーホール)が必要になる。
時計本体が5千円としてOVH費用を考えると少々悩ましい。今時の日本では5千円以下でOVHを引き受けてくれる修理店もまずなかろう。下手をすれば、中身のムーヴそのものを、いや、時計本体を丸々買い換えた方が安上がりかも知れない。

しかし、まがりなりにも世界に誇るSEIKO5である。機械式腕時計である。「使い捨て」などとは間違っても口にしたくない。いくら大量生産、機械化によるコストセーブの賜物とは言え、それが僅か数千円で買えてしまう御時世に感謝する一方で、そんなに安くて良いのだろうかと考えさせられる。そして、OVH費用との兼ね合いから、機械式時計の意義・意味を改めて考えさせられ、少々哀しい気持ちになるのである。(2004/4/12)



加筆修正: 2007/6/2写真&文章を全面変更、2010/4/4追記1をUP 


追記1) 新旧SEIKO5の比較@サウジアラビア〜

2010年、『時計オヤジ』は再びサウジアラビアに戻ることになる。
2005年にサウジを去って以来、まさか二度とこの地を踏むことはあるまいと思っていたが、2006年、2007年と二度、出張訪問する。これが正真正銘の最後と思っていた矢先、今回は遂に正式再赴任である。人生、何が起きるか本当に分からないものだ・・・。

上記のSEIKO5を購入したのが2003年であるから、既に6年以上が経過している。幸い、現在に至るまで不具合は無い。精度上でも不満に感じたことはなく、腕時計としての仕事をキッチリとしているのは当然と言えば当然。手巻きが出来ないCal.7S26だが、マジックレバーの巻き上げ効率が良いせいか、パワーリザーブも通常の使用においては何等、不足は無い。
この程、そんなSEIKO5の新型に遭遇する機会を得たので、簡単に新旧比較考察を行う。
ここで感心したのは『SEIKO5の正常進化』である。表現は悪いが、廉価モデルのSEIKO5ごときにここまでチカラを込めたデザイン開発が成されているとは驚きである。尚且つ中東において、特にこのサウジアラビアにおいてSEIKO5がここまで根を張り、今でも市場で大きな人気があるとは正直、予想外である。SEIKO5は日本では輸出専用であるが、中東市場ではSEIKOの看板商品と言っても良かろう
(⇒正確に言えば、同じ中東でも『ドバイSEIKO事情』はまた異なるのだが、その詳細は後日、最新ドバイ時計事情として考察する)。

何がSEIKO5の人気の秘密か。
それは日本とは全く認識の異なる中東市場の特性に由来する。
『時計オヤジ』は大きく次の3点がその理由であると分析している:

1)日本製であること。時計も家電も車も、日本製への絶大なる信頼性が中東市場には存在する。
2)機械式であること。逆に言えば電池不要がメインテナンスフリーと誤解されていること。
  売り手も買い手も機械式の何たるかを正しく理解していない。市場の無知も人気を支える原因。
  Eco-DeiveやKINETICでは価格的に高すぎる。機械もデザインも長年でこなれきったSEIKO5の成せる業であろう。
3)優れた『本格時計らしい』デザインと低価格。それでも筆者が購入した7〜8年前からは大きく値上がりしている。



右写真⇒を見ながら新旧の相違点を考察してみる:
(左が旧型、右が新型の現行モデル)

1)時針、INDEXが太くなり、視認性が格段に向上。
2)ケース径は36mmで不変だが、ケースエッジの微妙な
  変化を筆者は感じ取る。
  ややマッシブになったと思うのだがどうだろう。
  36mm径は手首上でピタリと落ち着くベストサイズだ。
3)Cal.7S26A⇒7S26Bへの変更。
  これはヒゲ持ち形状の変更が主因らしいが詳細不明。
4)4時位置の竜頭が金メッキされ、幾分、大型化された印象を持つが、恐らくこれは竜頭の切れ込みデザイン変更によるものと思われる。






←左写真の新型モデルでは黒文字盤上に四角の格子ラインが全体に施されているのが分かる。SEIKO5は文字盤の種類が多すぎて、一体、モデルのバリエーションがいくつあるのか見当が付かないが、小売店を丹念に巡り歩き、好みのSEIKO5を探し出す時間がコレマタ楽しいのだヨ。


随筆シリーズ@でジェッダ時計事情を記述したが、長年の懸案であった『リヤド最新時計事情』を現在、草稿中である。高級スイス時計の世界とは対極に位置する異文化に囲まれた『最新・サウジ時計事情』を、近々UPLOAD予定。(2010/04/04@KSAにて)
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