2007年バーゼルもいよいよ開幕した。 PATEKのトノー型Ref.5098クロノメトロ・ゴンドーロ復活には嬉しい驚き。 こうしたデザインが『ネオ・クラシック』の本流、原点だ。 フレデリック・コンスタントも真面目なメゾン。どのモデルを見ても奇を衒うデザインは皆無。 逆に、『ここまでクラッシックしちゃって良いの?』と、こちらが戸惑うほど。 『時計オヤジ』のお気に入りはハートビートではなく、クラッシック・アールデコ・シリーズ。 特にネオ・クラシック路線一本で直球勝負するこの”Classics Art Deco”は十分立派な『納得時計』であるのだ(2007/4/15)。 |
(ネオ・クラシック要素がテンコ盛り。この時計に欠点はほぼ無い、と言えば褒め過ぎか〜) 2006年10月、ジュネーヴ市内の時計店で偶然見かけたこのモデル。 見た瞬間、買おう!と決めた『即決時計』となる。 時計通、それもネオ・クラシック派であれば説明不要だろう。『表面的な伝統的要素』がたっぷり詰め込まれているのが分かろうと言うもの。 少々説明を加える。まず、『ネオ・クラシック』とは何ぞや? 一言で言えば懐古調・伝統的な意匠に現代技術による”スパイス”を加えたもの。 それは外見であれ、中身のムーヴメントであれ同じことだ。 古典のデザインに範を求め、現代風の味付けを独自に加える。 それが新(=ネオ)・クラシック・デザインである。 では懐古調とは、新しい要素とは何か。 この時計の場合、懐古調部分は、古典的なトノー型ケースを採用、ローマ数字、ギョーシェ彫り、ブレゲ針採用、中3針ではなく、秒針ダイアルを6時位置に配し、そしてデイト表示無し、となる。 そうした伝統意匠に加えた現代要素(スパイス)とは、トノー型ケースに適度な厚みを持たせて、流麗でふくよかなケースラインを生み出す。これは現代の高精度のプレス&切削機械の成せる業だ。ローマ数字のデザインとその文字盤上におけるバランス作り。複雑なギョーシェ彫りを中心のトノー型部分(ピラミッド)のみならず、3重の縁取りにも使用している点、そして青焼き針ではないがブラックペイント(多分)された太目のブレゲ針のバランスが秀逸。特に短い時針の丸型ブレゲデザインが位置といい、形と言い見事なバランスを見せる。秒針小ダイアルにも放射状に同心円型ギョーシェ彫りを施し、女性用の小さな文字盤と言えども手を抜かないのだ。いや、むしろ女性用の小型文字盤であるからこそ、こうした複雑なるギョーシェを施すことで、光の反射と凹凸感によるダイナミズムを表現しようとしたのではあるまいか。仕上げは5連ブレスである。ボリュームあるトノーケースに負けず劣らず、まるで真珠のように立体的デザインをヒトコマ一駒に重ねている、と筆者は感じる。恐らく、こうした造形美の導入はケース同様に現代の高度なスタンピング、又は切削技術が成せる業ではあるまいか。ネオ・クラシックたる所以がここにもある。 (←左写真: ギョーシェを拡大してみよう。ブレゲ針も見事〜) 中央部分は、ピラミッド式の細かいギョシェ模様が施されている。 クロード・パリ("Cloud de Paris")、パリの爪と呼ばれる独特のギョシェguillochageである。高級時計でもこのパターンは少ない。それをこの時計にぶつけて来るデザイナーのセンスとメゾンの方針が何とも素敵ではないか。その周囲にはこれも独特の縁取り式ギョーシェが3重に彫られている。 駄目押しは、自社ロゴを立体的に盛り上げた『台座』の上にプリントしている点。 そして、上述の通り、極めてデザイン完成度の高い時・分針のブレゲ針である。 短い時針の中央部に丸型アクセントが配置されているのが中々宜しい。 丸型のくり貫きも中心をややずらす点も定石通り。これがツボ、である。 サファイア・クリスタルガラスの風防は3気圧防水(日常生活)。ケースサイズは30.5 x 21.5mmであり、昔風の小振りなサイズ。しかし、女性用にはこのサイズが一番似合う。余談だがパネライの40mmケース(⇒男性でさえかなり大きいが)では手元がバタつき、うるさ過ぎる。時代も時計業界も女性用にデカ厚を全体主義的に煽るが、悲しいかなどうしても無理がある。女性の体格も変わって来たとは言え、大多数の”か細い手首”の上では、こうしたFCの凝縮されたデザインや小振りなタンク(カルティエ)のさりげない輝きが実は最もお洒落なセンスを発揮し、実際にも良く似合のだ。これを知った上で、女性用にデカ厚を煽る時計業界やマスコミは少々無責任ではなかろうか、と敢えて苦言を呈したい。 (←左写真: 5連ブレスは極めて滑らか〜) ブレスレットとクラスプの作りも十分満足できる。 トノーケースに合わせた立体感あるデザインは装着感も素晴らしい。こんな時計は男性用でも欲しくなる程であり、少々悔しく感じてしまう。 クラスプは最も安全度が高く、且つ脱着がスムースなプッシュ式ダブル・フォールディング(DF)・バックルである。そのバネ部分も写真で分かるように4本ある。中々少ない丁寧な構造である。 プッシュ式DFのもう一つの利点は、常に手首裏の中央部分に金具位置が来ること、もしくは来るように調整できることだ。シングル式では金具(バックル)部分が大きすぎて手首横まで届く場合もあるが、そうなると装着感を害する。無理なく手首中央にくるのが一番自然で、楽チンである。DFタイプにはそれが出来るからオススメの理由がある訳だ。 |
(運命の出会い、FC新工場で実際の組立現場に遭遇する〜) 『フレデリック・コンスタント新工場訪問記』でも述べたように、まさにこのモデルの組立現場に立ち会うことが出来た。クォーツ時計ゆえに”組立”、と言えば少々大袈裟か。しかし、裏蓋の4点ネジ留めをしている光景と言えども、組立のプロセスには違いない。それより何より、工房訪問出来ても好きなモデルの生産を見れるとは限らない。その好みの時計の製作現場に立ち合えるという感動。既に購入しようと決心していた筆者にはトドメの一撃、ダメ押しの光景となる。 それにしてもこれだけの数量の同一モデルを目にする機会を得たシアワセ・・・ こうして見ても極めて完成されたデザインであることを再認識させられる。 裏蓋の4点ネジ留め方式はフランクミュラーと同じだ(↓下写真)。 このカービングを描きながら4隅だけとは少々心許無いが、機密性は一体どの程度保たれているのか? |
(男性用のトノーも出来映えは素晴らしい〜) このWEBでも何度か紹介してきたFCの男性用トノーモデルも気に入っている。 ムーヴは自動巻きETAだが、ローターなどの一部部品をリファインしている。 裏スケルトンからそうした機械を愛でる楽しみ。ETAなのに、と言われるかも知れぬが、時計好きには歯車の連結や、脱進機・回転ローターの律儀な動きに対してやはり心ときめくものだ。 (右写真⇒)中3針、3時位置にデイト表示付きだが、こちらのギョーシェも手抜きはない。 欲を言えばローマン数字の線がケースサイズに比してやや細すぎる向きはある。 しかしこの大型トノーケースにブレゲ針、そして『ギョーシェ彫りを利用したレイルウェイ式の秒針表示』とキッチリとツボを押さえているのが流石。しかし、デザインの凝縮度・全体バランスから言えば、この女性用の小振りトノーに軍配が上がる。 しかし、男性用=大きなケースサイズ、女性用=小さなケースサイズ、という単純な2者択一に留まらないサイズ展開を考えているのもマーケティングをキッチリ実践しているメゾンの証しである。FCはミッドサイズ(ユニセックス)も用意しているところがニクイ。 サイズでユーザーを悩ませない、選択肢を多く与えることでより消費者フレンドリーな戦略をとるFCの頭脳プレーには拍手である。右写真(⇒)はその中間サイズ、ミッドサイズのトノーケースである。上の大型トノーケースと比較してもその凝縮感が把握できようというもの。 大型サイズが好きな女性、やや小振りな時計を好む男性にはもってこいのミッドサイズである。『同一モデルで3サイズ展開出来るメゾンは信頼できる一つの基準』、というのが筆者の持論でもある。 * * * * * それにしても、フレデリック・コンスタントのアールデコ・シリーズはラウンド型であれトノー型であれ、デザイン面では楽々と及第点獲得である。『時計オヤジ』もこの大型トノーをと狙ってはいるが、いかんいかん、既にトノーモデルは本命を押さえてあるのだ。このFCをWeb-Upさせたからには、そろそろ愛機フランク・ミュラーに登場願う機が熟したかも知れない。 話がそれたが、FCのアールデコ・シリーズはもっともっと評価を受けてしかるべき価値がある時計ではなかろうか。(2007/4/15) ●ミッドサイズ写真+加筆(2007/4/16) 2006年10月末、『時計オヤジ』のシャフハウゼン(チューリッヒ)&ジュネーヴ2都市訪問記は以下: ⇒ @ 『モーザー本社訪問記』はこちら。 ⇒ A 『最新・チューリッヒ時計事情』はこちら。 ⇒ B 『Baume&Mercier クラッシマ・レトロ・ジャンピングアワー』はこちら。 ⇒ C 『BEYER時計博物館訪問記』はこちら。 ⇒ D 『IWCの故郷、古都シャフハウゼン散策記』はこちら。 ⇒ ドバイの『世界初、IWC直営店訪問記』はこちら。 ⇒ E 『2006年10月、ジュネーヴ時計王国・最新情報』はこちら。 ⇒ 番外編 『2006年10月、ジュネーヴで買った理想のWモンク・シューズ』はこちら。 ⇒ F 『フレデリック・コンスタント新工場訪問記』はこちら。 ⇒ (腕時計MENUに戻る) |
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