時計に関する随筆シリーズ@

「2004年春〜サウジアラビア・ジェッダにおける時計事情の考察〜」 



筆者の体験から中近東、アジア、欧州等における時計事情を折に触れ述べてみたい。

まずはサウジアラビア、から。どうしてサウジアラビア、と聞かれても困る。随筆であるので徒然なるままに、なのである。この先、中近東で一番有名、かつ西側文明も色濃く反映されている街、ドバイの時計事情についても記する予定でいる。(サッカーのU-23が国立で負かしたUAEのドバイ、である)

(不思議の国、サウジアラビア〜)

さて、サウジアラビアは日本からの直行便もなく、南回りでは香港経由、シンガポール経由、クアラルンプール経由、マニラ経由での飛行路線があるのみ。しかし、サウジアラビアには原則、旅行者は入れない。禁止されているからだ。

毎年、300〜400万人のハッジHAJ(巡礼者)と呼ばれるモスリム(=イスラム教徒)のみはハッジビザにて入国可能だが、それ以外の観光目的は禁止されている。
1996年以来、サウジアラビア航空が主催する欧・米・日の観光客限定ツアーがあるが、2002年までの累計旅行者数は3,000人強である。これは年間平均で僅か400人程度しかサウジに来ていない計算である。如何に「旅行者鎖国状態」に近いかお分かりであろう。因みに、隣国エジプトへの旅行者数は2003年度600万人強、であった。


(厳格な宗教戒律には、異教徒の『時計オヤジ』としては閉口する〜)

首都は内陸の人工都市、リヤド。ジェッダはアフリカ・スーダン対岸の紅海に面した貿易港として、またメッカ・メディナの2大聖地への玄関として古くから栄えている商業の街である。西側(この表現も今や死語だが)の人間、特にモスリムではない人間にしてみれば生活慣習、その他の全てが不思議な国である。

例えば、右上の機関車がある広場はつい20年前までは公開処刑が行われていたジェッダの中心地だ。現在も公開処刑は場所を変え行われている。宗教の慣習上、女性は働くことは勿論、車の運転も禁止。よって女性の店員は原則、いない。一日5回ある宗教上の礼拝時間(サラー)には店・スーパーマーケット等、町中の店は強制閉店せねばならない。ここまで厳しい規制があるのは中東でもサウジアラビアだけである。1回のお祈りは約20〜30分続く。この間、店にいる人間は外に追い出される。買い物途中でも諦めねばならない。慣れないと(慣れても)忍耐が要求されるシキタリである。そしてサウジは王国、である。サウド家による王政支配が続いている。酒もご法度の完全禁酒国(ヤミ市場もない)である点が筆者には一番辛い。。。



好対照の2景:
←左写真は2004年3月27日撮影。
  ジェッダ市内の中心部。
  オメガ、ロレ、エベルの看板が
  何とも気分である。



⇒右写真は同じ場所の建物を
  2010年8月28日に撮影。

近代化、時代の流れはこうした光景にも見ることが出来る。
昔の看板の方が味があって良かったなぁ・・・









(貿易港ジェッダにおける時計販売手法〜)

ジェッダではそうした巡礼客を相手にした商売が繁盛している。時計について言えば、下の写真のようなセイコーやシチズンを中心とした小売店が圧倒的に多い。店の店員は殆どが、インド・パキスタン系の外国人である。SEIKOは圧倒的な信頼とネームバリューを誇る。売れ筋のSEIKO5自動巻き(CAL.7S26)で約150〜200サウジリアルくらい。邦貨で約5〜6千円程度だから、日本で買う逆輸入の時計と同じ位か。どの店員にも共通した言動は、
@「クリスタルガラスで傷がつかない」と宣伝する挙句に鍵を使ってガラス面をひっかいたりする 
A全世界共通XX年保証である
B値段は心配するな、である。
筆者には@の仕草が耐え難い。不必要にガラス面を傷つけようとするアピールは日本では有り得えないから。またこうした店の主なブランドは、セイコー、シチズン、TITAN(=インドのSEIKOと呼ばれる巨大グループ)、その他中国製やら、国籍不明のジャンクっぽい時計がごろごろしている。価格的には1,500円くらいから15,000円位までが売れ筋である。



話が前後するが、ジェッダの時計屋のカテゴリーは大別して3つ:

1)上記のごとく安価な価格帯商品中心の店(85%)
2)ややグレードアップして、オメガ、RADO、TISSOT、ブライトリング、
  モーリスラクロワ等を扱うグループ(AL-GHAZARIが代表格。これが10%くらい)
3)高級ブランド専門店、および専門ブティック(5%、以上全て筆者の推測)、である。










(街中のコピー時計の売人〜)


街中を歩いているとどこからもなく擦り寄ってくるのが香水売りと、ジャンク時計売りだ。右写真の路上売人は、GUESSとROLEXのコピー時計を持っていた。ROLEXコピーの値段はピンキリ。偽物ゆえピンもキリもないが、約千円から5〜6千円位のようだ。商標権の管理がルーズな国であり、驚くことにサウジアラビアの空港免税店でもF.MULLERのコピー商品を見たことがある。彼らがどの程度売り稼いでいるかは不明であるが、香水やサングラス、ジーンズ等もコピー商品が氾濫しているのが極く当たり前というこの国である。先日も、飛行機内で見かけた当国の男性で非常に身なりも立派な人間が堂々とコピー時計をしていた。

こうした例は枚挙に暇がない。勿論、本物の素晴らしい時計にもその数倍はお目にかかっているが。話は外れるが、やはりコピー商品には賛成できない。偽物で満足することは自分への誤魔化しである。自分をまやかす人間にどうして他人へ誠実な態度がとれようか。コピー商品は麻薬と同じと心して、決して手を出さぬことだ。また、日本国内のネット売買もどうしてコピー販売を黙認?するのであろうか。サウジよりも悪い状況かもしれない。



(ジェッダ市内の高級正規店を幾つか紹介する〜)

さて、上の写真は典型的な高級ブランド専門店の外観である。
左より、ROLEX専門店。EX-1で30万円くらい(⇒2004年4月時点。その後、度重なる値上げで結構値上がりした)。
この店では茶飲み話も交えて、折に触れ色々話を聞かせてもらった。
サウジを去る直前にはこの店でTUDORユニークダイアルも購入することになる。
TUDORの詳細はこちらを参照願いたい。








2番目は中近東でも有名な超高級・宝飾系ブティック、MOUAWAD(⇒右写真):
1890年創業のレバノン宝飾商の老舗だ。恐らくサウジアラビアでは一番の専門高級店だろう。ショパール、カルティエ、GP、ポールピコ、ロジェデュブイ、ジェラルドジェンタ、その他ROBERGE等の宝飾ブランドである。2003年12月に開店したジェッダにおいて3店舗目になる新ビルは4階建ての時計の館であり(⇒右写真)、バサティーンmall横にそびえたつ威風堂々のビルだ。






3番目はELITEという店(⇒右写真)で、PANERAI、カルティエ、JLC、ボーム&メルシェ、ピアジェ等のリシュモン系が主力。
正式な会社名称はAl-Hussaini Trading Co.といい、1975年にジェッダで創業された由緒ある店舗である。
しかし、これら高級店にしても、店員は概して専門知識を持ち合わせておらず、サービス精神も可也、劣る。
質問事項、頼んだ事に対してさえ木目細かい対応、連絡・回答も出来ない。
更に誤解を恐れずに言えば、店員がインド系であればまだマシだが、アラブ系となるとその場しのぎ、口先三寸の対応が多く、実行動できちんとした対応が出来ない、というのが筆者の経験で得た結論である。これは概ねドバイでも同様に当てはまる。恐らく、客の大半であるサウジ人のお金持ち御仁・御夫人、それも彼らは夜8時過ぎから買い物に来るわけで、そうした人々相手には細かい気配りや、商品知識は不要であるかも知れない。事実、そうした人はダイヤでごてごての宝飾時計を中心に関心を示すのであり、時計そのものが持つ本来の美しさなどそっちのけ、である。時計も宝石の延長線上のアクセサリー感覚になるのだろう。尚、写真にはないがドバイ同様、”Paris Jewellery”も昨年(2003年)末にタハリヤmallに開店した。





さて、本日、”ELITE”でパネライのウォールクロックを見つけた(=PAM00174)。最近、掛時計に興味を持ち始めた筆者としては、ググっとくる商品である。ところで、今一番欲しい時計、としては何といってもミュンヘンに工場を持つERWIN SATTLERの超高級レギュレーター式掛時計である。レギュレーターについては別の機会に触れてみたい。









(”ERWIN SATTLER”アーウィン・サトラーへの憧れ〜)

これは多分に、クロノスイスの創業者ゲルト・R・ラング氏による影響に他ならないが、出来ればいつの日にかERWIN SATTLERの商品に直に触れたい、と思うこの頃である。代わりに、とは決して言えないが最近、上記カテゴリー1)の店でSEIKO製の壁掛け時計を購入した。大好きなSWEEP運針に加えて、アラビア語数字であることが嬉しい。これが本当の「アラビア数字」だと思うが、一般常識ではアラビア数字といえば、1,2,3の算用数字を指すのである。これはインドで発明された算用数字をアラビア人が欧州に伝えたことが語源らしい。では本当のアラビア語数字はなんと呼ぶのであろうか?因みに、SEIKO5でも同様のアラビア語の数字文字盤、カレンダー搭載のモデル(=勿論、こちらは腕時計)も市販されている。

さて、出来れば次回はジェッダよりも更に混沌としているリヤドのバトゥハ・スーク(市場)における時計問屋事情もレポートしたいものである。(2004/3/27公開)



(加筆修正)2011/3/25



(『時計オヤジ』のドバイ&ブレゲ関連WEB:)

2005年4月の『世界初のIWC直営ブティックをドバイに訪ねる』はこちら
2006年1月のジュネーヴ市内における『ブレゲ再考』はこちら
2006年10月のチューリヒ市内・BEYER時計博物館における『ブレゲ時計検証』はこちら
2009年夏、最新ドバイ時計事情はこちら
2010年夏、再訪・ドバイ最新時計事情はこちら


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