考察シリーズ K

”DENTS LEATHER GLOVES STYLE NO. 5-1513 Handsewn”

『革手袋についての考察〜A』




デンツDENTSの手袋である。
1777年創業、英国の老舗中の老舗。
この手袋にも『英国らしさ』が溢れている。何が英国らしさか?
世界中で愛用者も多いこの手袋について考察を加えてみる。



(世間では最高級のイメージが強いDENTSだが〜)

考察シリーズJに続く革手袋シリーズ第二弾はDENTS。
英国の老舗、ペッカリー手袋に代表される高級品で知られるDENTSであるが、何とペッカリーの型押し安価手袋(=£35)まで生産しているのには驚いた。勿論、純正品のDENTSであるが、どうして型押し品を生産するのだろう。安くてもペッカリー気分を、型押しでもクロコ調の革ベルトを、と同じ理屈であろうか。DENTSにしてペッカリー・モドキの手袋とは、暫し唖然である。

閑話休題。
黒革手袋でごくごく普通のモデルを探していたところ、ドンピシャリのモデルにDENTSで遭遇した。黒革手袋は基本中の基本。
現在使用しているモデルがくたびれてきた為、新調することにした。
デザインはまさに右写真の通り。
手の甲には手間隙かかる3本線のすくい縫い方式で革のラインが盛り上がっていること。フラットな仕様もあるが筆者の好みはこちら。特にドレッシーな手袋であれば3本線はデサイン上の必須条件。加えて脱着し易いように手首回りにスリットが入っていることも実用上有り難い。

どうして甲に3本線が入っているのか、その理由は定かではない。
現在ではデザイン的要素が強いのであろうが、血管を表現しているとか、3というバランスがとれたラインが美しい仕上げとなるとか、装飾の完成形であるとか、諸説ある。筆者は単純にデザインバランス上、美しい仕上げと感じている。






(老舗、DENTSの実力は如何に〜)


この手袋の表面素材はナッパnappa。なめしレザーである。
ナッパと言えば柔らかい羊革か山羊革が一般的。しかし、この感触はどうみても牛革である。革がやや厚く硬いのだ。勿論、しなやかな硬さではあるが、羊革とはまるで異なるこの感触はイタリア製手袋の感触とは根本的に異なる。
『素材が頑固』、これが『英国らしさ』の本質である。

英国とイタリアとでは文化的背景が全く異なる。加えてアングロサクソン系の好みとでも言おうか、靴で言えばエドワードグリーン、チャーチ、J.ロブにも通じる共通性だ。極端に言えば時計のR.W.Smithにも共通するのがこのDENTSである。



イタリアやスペインの地中海地方では温暖な気候と肥沃な土壌から農作物が豊富である。ローマ帝国の進出地域は北アフリカのマグレブ諸国を含めてまさに重なる。即ち、家畜の生育にも適合し、人はその家畜の消費にも精を出す。食は文化なり、の世界がここにもある。よって、例えば牛であればその肉であれ皮革であれ年齢に係わらず自由自在に楽しむことが出来るのが最大の文化的特徴だ。
しかしイギリスに代表されるアングロサクソン文化はそうは行かない。過酷な生活環境下、まず食べることに最優先順位が置かれる。食肉重視となれば成牛になるまで皮革の生産も待たねばならない。家畜を最大限に飼育して食肉を最大限とする。その結果として皮を利用する。長くベビーカーフやらカーフ素材が極端に少なかったのはその為だ。そうした長年の風土文化は特徴・傾向として現代でも生きている。




(ステッチはブリックシーム製法と呼ばれるアウトステッチ方式〜)


縫い目が見えないインシームと外側に粗めの縫い目が見えるブリックシーム製法の2種類があるが、後者は手縫いの雰囲気が楽しめるので好みである。特にこのモデルは手縫いを宣伝文句にしているので、機械式ではないのだろう。ステッチが美しいのもDENTSの特徴だ。ウィルトシャー州ウォーミンスターの工場における一針一針の手作業が目に浮かぶようで思わず笑みがこぼれそうになる。

今回は通常よりワンサイズ小さめを選択。
かなりタイトな装着感に気分も引き締まる。
DENTSは日本でも販売されているが、果たして日本人用の型紙を使用しているのであろうか?全体に大きい、サイズが粗い、のが難点。特に指の長さは困りモノ。サイズダウンしても親指だけがどうしても浮いてしまう。指先に捨て寸が出来てしまうのがちょっと残念。個人的な問題かもしれないが、手袋は実際に装着して購入するのが基本である。それこそ流行の『別注』とやらで、小手先の色違いなどではなく、日本人サイズに合った手袋を調達して欲しいものだ。

しかし、こうして写真を見ると甲の3本線ラインが膨張感を押さえ、キリリとの手首への締まり具合を表現しているのが良く分かる。



(今回の最大の目玉は赤いシルクライニング〜)


カシミア製のインナーライナーでは厚ぼったくなり、暑すぎる。
日常の使用であればライナーはシルク製、若しくはライナー無しの一枚革でも十分だ。今回は、黒革に対比する真紅の薄手シルクライニング付きである。この色彩バランスがこの手袋の最大の特徴。英国製のスーツ同様、裏地に派手な色、『差し色』を持ってくるのがイタリア製とは少々異なる。

肝心の表皮はなめし具合も効いて、やや厚めのナッパであるがオイルドレザー製のようにしっとり、している。イタリア製と比べるとカチっとした頑丈な造りである。ファッション性よりも実用性、防寒性重視。その結果、あっと気が付いて赤の差し色を施した、という感じだ。
しかし、この革の感触は独特の味がある。そうでないDENTSも多い中、今回のモデルは総合的に見て非常に個性的で味のある一枚である。(2008/02/03)





(手袋についての関連WEB)

⇒ 『革手袋についての考察@』はこちら
⇒ 『DENTSの黒革製手袋についての考察A』はこちら
⇒ 『DENTSのペッカリー製手袋についての考察B』はこちら

⇒ 『DENTSのPITTARDS製革手袋についての考察C』はこちら
⇒ 『グローブホルダーについての考察D』はこちら
⇒ 『PARTENOPE製オレンジ手袋についての考察』はこちら
⇒ 『PUSATERI製、ショート丈・時計用手袋』はこちら
(2011/6/11)


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