SEIKO   セイコー

VELATULA DIRECT DRIVE Cal.5D44 Ref.SRH005P1




2007年のバーゼルで発表となったKINETIC DIRECT DRIVE(以下DD)。
1年後にようやく市販開始となる。
手巻でも発電するDDとは一体、どのような持ち味だろうか。
興味津々であったDDをようやく手にするチャンスに恵まれた。。。



(KINETICの究極が『手巻』である〜)


手巻のKINETIC発表に一年前は仰天したものだ。
まさかと思っていたシステムが実現したのだから、一刻も早く実物を手にしたいと長らく待ち焦がれていた。この程ようやく、と言う感じでその時が来た。
DDは、正確に言えば『手巻も出来るKINETIC』ということになる。
通常は自動巻きのようなローターで発電・充電を繰り返すのだが、いざと言う時には手巻によって急速充電が出来るというシロモノ。
普通のKINETICであれば時計を左右に振る事で急速充電が出来る訳だが、それを手巻で可能にした、というのがミソである。

←左写真でも分かるように、リューズが大小2種類ある。リューズガードの内側にある大きなリューズが手巻き用、外側の平べったいリューズが時針調整用となる。






(とにかくデカイ。ケース径は44mmもあろうかという大型〜)

手巻を行うと9時位置にあるインジケーターがまるで自動車のタコメーターのように、小刻みに上下する(*)。発電の強弱の状況を瞬時にオーナーに伝えるというのが『最大の売り』だ。カタログによれば、20秒の手巻で約4時間分の充電が可能になるという。フル充電で最大一ヶ月の稼働時間であるこのDD、単純計算すればフル充電するには60分もの間、手巻が必要ということになる。一時間もの間、手巻を、それも素早く行うことなどはまず不可能。ということは、この手巻DD機能とは、あくまで緊急用、又はオーナーの自己満足、お遊び用といったオマケであり、むしろハイテク技術の誇示を謳ったものと捉えた方が無難だ。

(*)各種WEBでも動画配信されているので、その動きはお分かり頂けよう。

KINETICはその機構からして、機械式自動巻きのそれとは異なり、充電の為にはローターから伝達された『高速ギア回転』が必要。それを手巻で補うことには自ずと限度がある。
手巻による充電状況を瞬時に見れることは画期的ではあるが、その域を出ない。
DDの誕生により、KINETICの開発も成熟・完成の域に達した感を強く感じる。

『KINETIC3兄弟』でも述べたが、KINETIC(アークチュラ)誕生⇒オートリレー⇒クロノグラフ、そしてこの手巻DD、でKINETICの技術開発は略完了かとも思えるが、次の一手がどのように料理されるのかが興味深い。




(このDD、デザイン面ではどうであろうか〜)

今回紹介のモデルは輸出専用のVELATURAシリーズに搭載されている。
国内モデルにもDDはあるが、このモデルが一番DDの特徴が上手く表現されている。
特にリューズガードを備えたリューズ部分が最大のデザインポイントだろう。
ケース形状は裏面からみると、四角であることが分かるが表から見ると丸型である。これをクッションケースと呼ぶにはちょっと無理があるが、まるでパネライ44mmクラスのような迫力。重量も200グラム前後でかなりある。

ブレスは流行の異種素材を利用した黒色ラバー調のミックスブレスが強いアクセントとして効果を上げている。一方で、文字盤上に見える二つの銀色アーク(弧)が頂けない。デザインは良いのだが、その素材がかなりチープ。アルミホイルのようなキラキラした銀面が個人的には受け入れ難い。針の質感も低い。いかにもプレスで打ち抜いたというような仕上がりで、ペナペナ感が漂う。厳しい言い方をすれば、ダイレクト・ドライブというハイテクを搭載しながら、その鎧はコストとの戦いで完全に押さえ込まれてしまっている。営業(経営?)サイドからの価格設定にDDの高度な技術面が負けてしまったような印象を強く感じるのだが・・・。





(KINETICとSPRING-DRIVEの戦略が見え隠れする〜)

手首上ではご覧の通り、かなりの存在感。
デカ厚の極致でもあり、装着するには相応の覚悟と手首の大きさが必要だろう。
KINETICという発明は未だに、画期的と筆者考えている。
スプリングドライブ(以下、SD)も同様だ。しかし、量産によってKINETICは通常のクオーツ時計のような価格帯になってしまった。高ければ良い、安いと不味いという理屈は全く無いが、機械式と異なるのはKINETICでは機械の作り込み過程で、特に匠の技を発揮するような手工業的な技術が入る余地が少ないことにあろう。この点が、ゼンマイと輪列機構と地板を持つSDと決定的に異なる点だ。

SEIKOはSDにおいては徹底的に『匠の技』を全面に押出すことで高度な商品カテゴリーを形成し、スイス機械式時計に対抗する独自のジャンルを創造しようと試みる。一方、既に汎用品として一般大衆化してしまったKINETICでは小手先のデザイン勝負で流行を追って販売して行く戦略だ。つまりSDだけは大衆化路線とは一線を画し、決して汎用商品開発はせず、スイス製機械式時計と伍して戦う存在としてこれからも育成する、そんな戦略が『時計オヤジ』の目には読み取れてしまう。

脱線するが、2008年8月発売予定のSDの新作クレドール『叡知(えいち)』は凄い。
年産5本(Ptケース)、価格600万円近いというのが興醒めだが、ノリタケと共同開発した磁器製文字盤、これは一生モノと呼ぶに相応しい。加えてSDの改良版7R08が美しい。まさに表裏両面で楽しめる逸品だが、ケース径35mmは昨今の標準からはチト小さい。せめて38mmクラスにどうして設計しなかったのだろうか。リューズはラジオミールのような逆台形型で、これはいかにも手巻に向いている。
磁器製文字盤+38mm径+価格100万円以下(SSケース)のデフュージョン版を是非とも量産してもらいたいところだ。
(2008/4/13)



(SEIKO関連WEBはこちら↓)

⇒ SEIKO アークチュラARCTURA 初代モデル(Cal.5M42 ダイバー)はこちら
⇒ SEIKO スプリングドライブSPRING DRIVE 初代モデル(Cal.7R68)はこちら
⇒ SEIKO セイコーファイブ(海外モデル)(Cal.7S26)はこちら

⇒ 『SEIKO KINETIC 3兄弟』はこちら
⇒ 『SEIKO Direct Drive Cal.5D44』はこちら

⇒ (腕時計MENUに戻る)
(このWEB上の一部または全部の写真・文章等の無断転載・無断複写はご遠慮下さい。)

TOPに戻る