SEIKO   セイコー

『SEIKO KINETIC 3兄弟』
Arctura、Auto-Relay、Kinetic Chronograph Cal.5M42, 5J22, 7L22 



Q)01 『だんご3兄弟』ならぬ、『KINETIC 3兄弟』とは何か?

『時計オヤジ』が勝手に命名・選定した3モデルである。
今までのKINETIC製品において機能とデザインの両面を加味した上で選択した記念碑的なモデル3本だ。キャリバー5M42、5J22、7L22とどれもが個性的な特徴を兼ね備えている。そして、共通するのはその精悍な顔立ちとスポーツモデルであること。電池交換不要というイージーメインテナンスが最大の持ち味だ。因みに、スプリングドライブはKINETICとは別カテゴリーになる。

2007年度バーゼルで、手巻KINETICモデルが発表された。最大30日間のパワーリザーブらしい。これは超ド級の画期的キャリバーである。手巻というのが凄い。しかし、今回の筆者認定の3本はKINETIC黎明期において、KINETICの歴史上でも重要なキャリバーという基準である。それぞれ顔もいいのだ。

ソーラー式時計でもそうだが、基本的にはこのKINETICも2次電池を使用して、電気エネルギーを貯めて動力にしている。2次電池とは言え電池である。いつかはその寿命がやって来る。充電量も年月を重ねれば当然低下してくる。そうした点を十分理解しないで、『電池交換要らずの一生モノの時計、100年時計』と決め付けると、いつかしっぺ返しを食らうだろう。一般論で言えば、所詮、工業製品である限り、いつかは何らかのトラブルが必ず発生する。不老不死の製品等は存在しないのである。クォーツ&KINETICにより、精度アップ、2次電池交換含めてメインテナンス期間が大幅に伸びる時計、という大雑把な理解の上で付き合うのが正しい。



Q)02 KINETICとは何か?

KINETICとは元来、ギリシア語で「動く、動力」を意味する。英語では形容詞で:運動の、動的な、活動によって起こる、という意味がある。SEIKOはこの単語を自社モデルに命名した訳だ。SEIKOにおけるKINETICモデルとは、自動巻きのようなローターをの力で発電し(注1)、その電力を2次電池に蓄えてクォーツを稼動させる時計、すなわち簡単に言えば、『ボタン型電池を使わず、腕の力で自家発電し、内臓された2次電池で充電して動くクォーツ時計』ということになる。よく電池交換不要と言われるが、この2次電池は必ず消耗するので10年もすれば交換が必要になってくる。100年間も動き続ける訳には行かないのだ(その前に人間側が動けなくなるだろうが)。

(注1)2007年バーゼルで、SEIKOは手巻式KINETICを発表した。こちらはローターがないので、ここでのKINETICの定義は2006年モデルまでという条件付となる。

1986年開発当初、SEIKOはAGMと命名したが、1988年に市販モデルをAGS(=Automatic Generating System)と名称変更した。以来、海外展開も念頭に入れたマーケティングを一挙に加速させたのだ。AGS発売当時の『腕力発電所』というキャッチフレーズは、今でも名コピーと思ってい(⇒写真右は1993年当時の新聞一面広告。駆動時間(パワーリザーブ)はまだまだ最大で僅か3日間の時代である)。




Q)03 ARCTURA(アークチュラ)とは何か?

文字盤上の”弧”にある通り、ARCTURAとはKINETICシリーズのモデル名。
そのデザインの売りは文字盤右半分、すなわち 12時から6時位置までに描かれたレインボーカラーのARC(弧)である。赤→黄色→白、へと変化してゆく。因みに、ARCTURAとはARC(弧)とACTURUS(牛飼い座の1等星)を組み合わせた造語である。

(⇒右写真、もう細かい傷だらけだが『時計オヤジ』愛用の1本。
  『極上時計』ではないが、週末の出番が最も多い『愛用時計』には違いない。
  独特の時針形状は次のAUTO-RELAYで更に磨きがかかることになる。)

ARCTURAシリーズのデザインの産みの親は1953年生まれのヨルグ・イゼックYorg Hysek氏。スキンヘッドで有名な独特の風貌の持ち主だ。その風貌はウブロのビバーCEOを連想させる。イゼック氏は1999年から自らの時計ブランドを立ち上げている。ARCTURAシリーズでは、この20気圧防水(20BAR)のダイバーモデルがデザイン面でも突出しており、当時の他のARCTURAシリーズとは一線を画す。断トツに良い出来映えである。欲張りな注文をつけるとすれば、スプリングドライブで採用しているようなスイープ運針にして欲しい。かつて、SPIRITシリーズ(クォーツ)でスイープ運針モデルを発売したように、廉価版モデルでも出来るはずだ。いっそのこと、SEIKOのクォーツモデルは全てスイープ運針にしてはいかがだろうか。あのデッドセコンドの動きが好きなファンも多いかも知れぬが、やはり流れるようなスイープ針は大変滑らかで、見ていて安心できる。大型の壁掛け時計にはSEIKO、CITIZENともにスイープ運針モデルがあるのだから、腕時計でも是非とも再考頂きたいところだ。




Q)04 ARCTURAダイバーモデルCAL.5M42の何が良いのか?

1997年に発売開始されたこのARCTURAシリーズ。
中でも傑作品がこの20気圧ダイバーモデルである。
裏ブタの無い、ワンピース構造のケース。正確に言えば、表にある4箇所のビスにより文字盤側のケースを分割、取り外すことが出来る。通常は裏ブタ開閉式が主流であるなか、最近では珍しい構造である。代わりに裏ブタには1/4サイズの小窓裏スケルトンというスパイスが加えてある。

ケースの造りも丁寧。ケース下部は濃いブラック・グレーともいうべき色彩処理が施されている。文字盤のデザイン、ベゼルのデザインにも統一性があり、アークチュラのレインボーカラーが黒文字盤上で映える。このアーク(弧)の部分は文字盤上でくり貫かれている。最近のパネライ・ベース系文字盤のサンドイッチ構造のように手が込んでいる。
そして、金属とウレタン部材によるコンビネーション・ベルトはハイブリッド・ベルトの先駆者でもある。
観音開き式のプッシュ式DFB(ダブル・フォールディング・バックル)も非常に精巧な造りで、抜群に使い易い。
国内販売価格は当時、10万円。もう10年も前の価格である。
このクラスになるとSEIKOも俄然、本気で細部まで気合が入って来るのであろうか・・・。

CAL.5M42のパワーリザーブはKINETIC初期モデルということもあって、最大でわずか3日間。
しかし、2004年3月にサウジアラビアのSEIKOサービスセンターで、ガスケット(=防水用のゴムリング)、古いキャパシタ(=SII SL920)、絶縁体、押さえ金具、の4点を交換。その結果、パワーリザーブはフル充電で一挙に6ヶ月程度にまで伸びた。この辺がIC進歩の恩恵であるが、ユニット交換でいとも簡単に機能も改善出来る点がすごい。機械式時計では有り得ぬ特典だ。当時、交換費用が僅か750円程度(≒25サウジ・リアル)だったことに再度驚く。

装着感含めて総合的な満足度は極めて高い。『時計オヤジ』にとってのサブマリーナ(?)的存在。
パワーリザーブが大幅に伸びたことも、本来のSPECでは有り得ないプラス要因。週末に愛用するモデルの筆頭格は未だにこのARCTURAである。気張らず、大人しく、しかしデザインは良し。KINETIC初代モデルにして傑作品である。★★★★★



Q)05 AUTO-RELAY(CAL.5J22)とは何か?

”この時計は動き、眠り、そしてまた起きて動き出します”という宣伝コピー(=英語版)で1999年にさっそうと登場した。
72時間(=3日間)動きを与えないと、自ら強制的に時針の動きを止める。その間、内臓されたICが正確な時間をキープ、再度時計が動作を感知すると、時針はたちどころにグルグルと回転し始め、正確な現在時間表示に戻る。KINETICを動力に、上述の時針静止機能を武器にして、最大で4年間ものパワーリザーブを実現した画期的モデル。それがCal.5J22である。但し、カレンダーのみ手動による補正が必要(perpetualではない)。このシステムをSEIKOではAUTO-RELAYと命名した。自動時刻復帰機能=オートリレー。まさにその名の通り。動いて、眠り(止まり)、また動き出す一連のリレー式動作。ネーミングも的を得ており、誠に秀逸。

このモデルで特筆すべきは3点:
@ Cal.5J22による独自の時間静止・復元機能。
時刻復元時に回転する時針の動きは見ていて飽きない。
ある意味、フランクミュラーのクレージーアワーにも負けぬ発想であり、感嘆する。IC技術の進歩と革新を体感させてくれながら、価格は抑え目というのも凄い。

A 風防ガラス中央部に内側から蒸着メッキされた銀色の時針センターカバーと時針のデザイン。筆者の知る限り、時針の中央部分をこのようにカバーするデザインの時計は他に見たことがない。
鏡面仕上げのこの部分は、他のどの時計にも似ていない強い個性を主張する。デザイン的にも大きな特徴となっており、近未来的なデザインを上手く表現している。そして時針の形状も非常にユニークで独自性・視認性ともに高い。これがKINETICの個性というものだ。

B 精悍だが優しい印象を与える完成された黒文字盤のデザインと全体のマッシブなデザイン。
白文字盤も存在したが、黒色の引き締まった顔が素晴らしい。
ブレスデザインには異論もあるが、全体のデザインは良くまとめてある。

***

SSブレス含めたケースデザインは当時のSEIKOパリのデザインセンターSCSよるもの。
SCSの主力デザイン開発メンバーへのインタビュー記事(注2)では、動物の犀(サイ)の体をイメージしたデザインとのことだが、この高圧プレス(スタンプ)式のようなブレスデザインだけは個人的には好みではない。一方、文字盤のドット(丸型)とバー(棒字)表示は見やすい。先代からやや大型化されたドット形状は上述ARCTURAとも共通しており、シリーズとしてのDNAも表現しつつ、視認性も高い。デザイン全体としての纏まりが大変素晴らしい。デイト表示窓を4時位置にずらしたのもバランス上、大正解。惜しむらくはベゼル上の数字と目盛のデザインだ。これも文字盤上の12時数字と連動させて、もう一工夫が欲しかった。ARCTURAでは成功させているだけに、こちらのベゼルはアクが強すぎて、素晴らしい文字盤のデザインと打ち消しあう形となってしまったのが残念。ベゼルデザインにまで余力が無かったのであろうか?

尚、2000年に限定モデル(3000本、内700本が日本国内販売)として裏スケルトンも発売された。限定版にしては本数が多すぎるが、こちらも『時計オヤジ』のコレクションに加えている。通常品と異なるのは、秒針が赤い針、12時表示が赤色、ベゼルは黒色、21分目の目盛が21と赤字で表示されている。勿論、21世紀の意味だ。それ程、気に入ったデザイン。但し、裏スケだがメカは殆ど見えず、余り意味はないのだが・・・。
このハイテクICの塊、AUTO-RELAYは今もって新鮮である。★★★★☆

(注2)日本版ESQUIRE 1999年8月号(Vol13、No.8) バーゼル特集記事のインタビューによる。


Q)06 CAL.7L22の良さとは?


一目見た衝撃度ではこのモデルが断トツ。ARCTURA KINETIC CHRONOGRAPH Cal.7L22 である。
2003年バーゼル発表後、首を長くして市販を待ち望み同年秋にシンガポールにて念願の購入に至る。
このモデルは海外用だが、国内モデルでもCal.7L22を使用したモデルは勿論ある。
KINETICには以前から独立4眼式のクロノグラフ(cal.9T82=SPORTURA)は存在したが、ARCTURAシリーズでは初。どこがARCTURAかと言えば、45分計の積算分表示窓が扇型(弧)を描いている点だ。レインボーカラーは初代モデル(5M42系統)のみであり、このモデルでは色彩はシックにまとめられている。
勿論、モチーフはアーク(弧)である。

文字盤のデザインセンスが素晴らしい。
センター針をクロノグラフ秒針のみとし、通常の時間表示窓を6時位置側にずらしている。
後日特集するが、『偏心文字盤の妙』の具現化である。ランゲ1でその存在が大きくアピールされたが、筆者はセンター位置に時針が無い文字盤を『偏心文字盤』と命名した。ジャケドローも有名であるが、こうした変形、偏心デザインが好きである。ムーヴメントであればマイクロローターもまさしく偏心ローター・デザイン。偏心文字盤はランゲ1登場の遥か昔、18〜19世紀から懐中時計では存在していた。この古典的な偏心文字盤を最新のKINETICに、それもクロノグラフで導入してきたことが”デザインセンス”である。デイト表示も4時半位置というのが共感できる。ZENITHエリートシリーズと同様だ。ゴチャゴチャしてそうで、意外とすっきりした顔つきである。デザイナー冥利に尽きる纏め方であろう。

文字盤側のケース径も時流に乗ってか、やや大型化され直径約40mmとなる。
SSブレスデザインは、センターラインのような窪みあるデザインであり、ブレスまで完成度を訴求出来ていない。やや息切れした感が否めない。どうもKINETICシリーズのブレスデザインは全体としてしっくり来ないのが気掛かりだ。

クロノ分針積算表示もアークを模りユニーク。
クロノグラフの操作ボタンは丸型ではない、角を取った独特の形状とし、リューズガードも違和感ないデザインである。。
パワーリザーブは6ヶ月。十二分なロングライフである。そして、クロノグラフ帰零機構には一部機械式を用いている。クォーツクロノに特有な、スーっと戻る秒針ではない。スパっと一瞬で帰零するのが気持ち良い。
唯一の欠点はクロノ積算分針表示が判読しづらい点。一体、何分経過したのか分かりにくい。分針の針位置が曖昧なのだ。
クロノグラフで積算分針が判読できないのは致命的欠陥だ。
これさえ改善できれば、CAL.7L22は無敵のキャリバーとなる。そしてドレスモデルにこのキャリバーとデザインを応用させれば、更なる可能性を秘めた面白い展開が期待できるのだが・・・。

ともあれ、曖昧な『分針積算表示の難』を割り引いても、『偏心文字盤』のデザインを導入した判断には拍手である。★★★☆




Q)07 KINETIC 3兄弟をどのように使い分けるべきか?

3本とも皆、基本的には仕事用(ON-DUTY)には向かない。
オフの休日用に着用するのが正しい。しかし、どうしてもというのであれば、ARCTURAダイバーモデルを除いた2本はスーツ姿でも着用可能。但し、AUTO-RELAYのベゼルは目立ち過ぎるので、ベゼルのデザインと相まって少々子供っぽさ、カジュアルさを演出してしまう。時計を露出させない工夫をするべきだろう。

ARCTURAクロノグラフの銀白色系の文字盤であれば、違和感無く全方位TPO(&PTAにも・・・)に対応可能である。文字盤の大きさといい、存在感は十二分。昨今のデカ厚時計としても当てはまるサイズだ。





そもそもここで紹介した3本を同時に所有する人も多くは無いはず。
よって使い分けるという実際の必要性も少ない。事実、筆者の場合もARCTURA(5M42)を除きほぼ観賞用として保管している。しかし元来、この手のスポーツモデルは実用時計である。
遠慮せずにガンガン使用してこそ、その真価を発揮するのだ。
SEIKOの生んだハイテク技術の粋を各自各様に手首の上で楽しむのが正解だ。

SEIKOのハイテク系クォーツラインには以下のシリーズがある:
スプリングドライブSpring Drive =戦略的高級路線ライン
スポーチュラ、アークチュラ =主に輸出用ライン

但し、スプリングドライブだけは、その位置付けは別格。
GSモデルとして製品化していることからも分かるように、最高級品としてSEIKOの販売戦略に組み込まれている。しかし、それ以外のスポーツラインは比較的低めの価格帯で、主に20〜30歳代の若い顧客層をターゲットにしている。まさに、新し物好きの敏感な世代に焦点を置いているのだろうが、どっこい、『時計オヤジ』や時計好きのさらに高い年代層の心もガッチリと掴んでいるのだ。『KINETIC 3兄弟』は特にデザイン・機能両面で個性的な3本と高く評価している。(2007/5/18)


(SEIKO関連WEBはこちら↓)

⇒ SEIKO アークチュラARCTURA 初代モデル(Cal.5M42 ダイバー)はこちら
⇒ SEIKO スプリングドライブSPRING DRIVE 初代モデル(Cal.7R68)はこちら
⇒ SEIKO セイコーファイブ(海外モデル)(Cal.7S26)はこちら
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