随筆シリーズ(91)

『2010年10月、ドバイで”カルティエ傑作17本展”を堪能するの巻』

〜本年度2回目の『ドバイ最新時計事情』はWebChronosへの投稿記事をベースに加筆修正〜





2010年9月30日〜10月12日の間、ドバイのDubai Mall Cartier Boutiqueにおいて
『カルティエの歴史的17本展』が開催された。
幸運にもその場に居合わせた『時計オヤジ』は早速、ブティックに足を踏み入れると・・・。
そこには現行ラインでは絶対見ることの出来ない豪華絢爛なカルティエの歴史的アーカイヴで溢れていた。




(出会い頭の『歴史的17本展』に遭遇する〜)


2010年10月上旬、『時計オヤジ』は再度、ドバイに滞在する。
世界最大のショッピングセンター『ドバイモール』で、偶然、『Cartierの歴史的傑作品17本展』に遭遇した。

どうせ見掛け倒しだろうと冷やかしでブティックを覗いたら、何と、本気の展示会である。歴史的傑作品がキッチリと展示されているのに思わず大興奮する。
昨年4月に上野で開催された『カルティエ展』で見たトーチュとも再会。
まぁ、ドバイくんだりでこうした傑作品を血眼になって観るヤカラも少なかろう・・・

ブティック内での写真撮影は治安上からも厳禁だが、そこは『アラブのお友達の世界』。こういうの『時計オヤジ』は得意である。
厳しい日の丸の国では有り得ないユルサ加減がイカにもドバイ。


(⇒右写真)
ドバイモールの広大な広場(ホール)に赤いテントが。
この中は写真展示だけで実物展示はない。全てはブティック内に。













(⇒右写真)
こちらはブティック店舗内の光景。
スペースを贅沢に使った演出は、商品展示以前にCARTIERの存在感と気品を醸し出している。周囲にはやたらと中国人観光客の姿が目立つ。

中国語の大きくて甲高い声がブティック内に響き渡るのも、今の時代を感じさせるのだ。
一番目立つのは不動産物件の買い漁りかも知れないが、チャイナ・パワーは現在、ドバイをも席巻中だぞ・・・。











(元祖、マズターバンカー。素晴らしいデザインに溜息しきり〜)


これは間違いなく元祖、マスターバンカーだ。
3タイムゾーンの機械はLeCoultreの1927年製。
19石、部品総数わずか140個!は信じ難いなぁ。
『部品数は少ないに限る』、が信念だが、140個とは本当に驚く。

天辺の竜頭で主時間と右側サブダイアルの時針調整。
11時位置のプッシュボタンで左ダイアルの時針調整。
FM(Franck Muller)は1個の竜頭で3つの時針を調整させた点が凄いけど、このCartierのオーラはもう絶品!!!

ブレゲ針と文字盤のセンスが品格で溢れている。
こういう時計こそ、リメイクして欲しいものだ。
New York Cartierで販売されたもので、オーダー品というから、
その素性もFMマスターバンカーと全く同じ。
ラルフ・ローレンの源泉もここに垣間見る気がする。
『温故知新』の原点であるモデルだ。








(PATEKのワールド・タイムを彷彿とさせるデザインが白眉〜)


ちらは元祖、ワールドタイマーかな。
1940年製でこちらもCartier New Yorkで販売されたもの。
PATEKの現行品(といっても、こちらもリメイクだけど)に酷似。
短針の丸い輪なんて、溜息出まくりです。
とにかく文字盤の仕上げとデザインが上手い。
『時計オヤジ』は約5分間、ガラス越しに釘付けになり、不審がられてしまったが、それ程までして見る意義ある。
この時期の懐中時計で、秒針が付いているのも珍しいだろう。

肝心のムーヴメントはスイスの”Agassis Watch Co.”製で21石、ブレゲ式ヒゲを搭載するのだ。







(こちらはまさしく古典的なトリプル・カレンダー〜)



写真右は、ポインターデイト表示を持つトリプル・カレンダー時計。
うっかりして詳細の記録を失念してしまったが、このモデルも恐らく1930〜50年代のモデルと思われる。
ラグ形状はアールデコっぽくもあり、洒脱な遊び心が感じられる。
それにしても分針(長針)が異様に長い。
理由は周上にある分針目盛に届く為であろうが、そうであっても少々長すぎるだろう。時計の針は短くても、長すぎても全体バランスをやや欠く例である。この点が惜しい。

文字盤は金属プレートの素材を表現したようなシルバーカラー。
赤字のデイト表示が異彩を放つ。良く見ると、2つの小窓も赤字表示だ。
当時、こんな時計を身に付ける男性は可也の洒落モノであったことだろう。金色と赤は、配色上、決して良い組み合わせではないのだが、敢えてチャレンジしてくるのがCARTIERとしての意地だろうか。

個人的にはトリカレや、パーペチュアル・カレンダーの類には興味が薄い。
絶えず使わない時計の日にち合わせでさえ神経を使うのに、それに月・曜日まで加わり、尚且つ昔の時計であればその調整方法も煩わしいこと極まりない。ローテーション上の理由からも、『時計オヤジ』には不向きのカテゴリーである。








(⇒こちらは壁に展示された写真の一枚〜)

どれも個性的な時計だが、左上の角型時計が素晴らしい味を出している。
12時位置に細長い針でパワーリザーブ表示、6時位置に四角の秒針小ダイアルが配置され、極めつけはブレゲ針である。
今、仮に復刻させても間違いなく人気沸騰のデザインとなることは疑いない。こうしたアーカイブが大量に蓄積されているのが、CARTIERんお懐の深さであり、最大の強みでもあろう。












(現在のCARTIERライン、特に
カリブルオート・オルロジェリー・コレクションについての雑感〜)


新作カリブル・ドゥ・カルティエに代表される新型ケースは、オート・オルロジェリー・コレクションでも重厚なる展開を見せる。
マスコミもこぞって賞賛するのだが、『時計オヤジ』にはこのケースデザインと文字盤デザインが納得できない。
一言で言えば、余りにマスキュリン、無骨なデザインであるのだ。
そこが狙い目、と言われればそれまでだが、CARTIERのDNAの源泉にある繊細さを感じさせないのはどうしてだろうか。

現代の工作機械と技術をすれば、全体の仕上げレベルが高度となるのは当然だし、その為の対価(価格)もそれなりだ。
しかし、今回見た17本の傑作品のDNAが、現行品においてはどうしても感じられないし、カリブル・シリーズは逆に趣を異にするとしか感じられないのは筆者だけであろうか?

だからカリブルは過去のDNAとは決別した新境地にあるとのだ、という安易な理由付けでは、到底納得出来まい。
カリブルのデザインはカルロス・ディアス時代のロジェ・デュブイやT.ナタフ時代のゼニスに代表される最近の毒々しいデザインの要素をたっぷり盛り込んでいる。今までと異なることを単純に新境地とは言えないし、CARTIERでもやって良いことと悪いことはあるはずだ。

果たして、5年後、10年後にこのオート・オルロジェリー・コレクションやカリブルは生き残っているだろうか。
市場の審美眼は厳しい。
CARTIERという冠を被った『化けの皮』が剥がれるかどうか、それを確認できる絶好の試金石となるモデルである。(2010/11/18) 333800





(『時計オヤジ』のCARTIER関連WEB:)

『TANK LOUIS CARTIER』はこちら
『CARTIER SEATIMER』はこちら
『ドバイでCARTIERの歴史的17本傑作展を堪能する』はこちら



(『時計オヤジ』のドバイ&ブレゲ関連WEB:)

2005年4月の『世界初のIWC直営ブティックをドバイに訪ねる』はこちら
2006年1月のジュネーヴ市内における『ブレゲ再考』はこちら
2006年10月のチューリヒ市内・BEYER時計博物館における『ブレゲ時計検証』はこちら
2009年夏、最新ドバイ時計事情はこちら
2010年夏、再訪・ドバイ最新時計事情はこちら




⇒ (腕時計MENUに戻る)

※掲載の写真・文章等の全てのコンテンツの無断転載・無断複写を禁じます。
※特に金銭絡みの
オークション説明等へのリンク貼りは本意に非ず、厳に禁止します。

TOPに戻る