従来、パシャはどちらかと言うと女性的、ボーイッシュなイメージが強い。 CARTIERそのものが余りにドレッシーゆえに、どのモデルも自ずと洗練された仕上がりとなる。 そんなパシャが敢えて”マスキュリン”に挑んだシータイマー。 『無骨になりきれない素性の良さ』がこのダイバーの真骨頂であろう。 |
(全体のデザインの纏め具合が流石、カルティエ〜) 2006年春に発売された100m防水のダイバーズ・ウォッチである。 しかし、とてもそんな風貌には見えない。余りにデリケート、余りに美しいダイバー用時計。 寧ろダイバーというよりも、ややアウトドア・ベクトルに振ったパシャ、というのが第一印象だ。 もともとパシャは1931年にモロッコのパシャ(太守)の依頼で「泳ぎながら時間が見れる腕時計」として開発された。 1995年に登場した『か細く、か弱いパシャC』は一大ブームを起こす。 2001年11月に黒文字盤デザインの荒々しいパシャ3種類(3針、クロノ、パワリザ全て38mm系)がリリースされた。 今回、それをケース径40.5mmにまで大型化し、文字盤をフラット・プレーンなブラック塗装仕上げとし、SSベルトにまでゴムコーティングを施した。パシャのアイコン(愛魂)でもある鎖付きリューズにはブラックオニキスを彷彿とさせるピラミッド型のセラミックが埋め込まれる。伝統の砲弾型でなくピラミッド型のリューズが特徴だ。これだけで雰囲気は一挙に荒々しいダイバーに変貌するのだから、CARTIERデザイン陣の手腕は見事である。2007年10月にSEATIMERクロノグラフも発売されたが、デザインは断然こちらの中3針モデルが垢抜けている。 それでも他社のダイバーとは決定的に異なるのがその美しさ。 特に文字盤の正方形のレイルウェイ式分表示とその外周に延びる放射状のINDEXの配置バランスが見事。 加えてパシャ独特のアラビア数字が一目でCARTIERを主張する。夜光が盛られた菱形針も『らしさ』で溢れている。 恐らく中身のムーヴはETA28系だろうが、故にその頑丈さと精度は一層信頼できる。 間違いなく良い時計、良いダイバー、清楚なダイバーズ・ウォッチである。 (←左写真) 今やブームから定着した感のある黒、黒、黒、で覆い込むコンセプトは成功している。 緻密な計算に基づきながらも、無駄を削ぎ落とした極めて大胆なデザインバランスで設計されている。デザイン・バランスの鍵となるのは3点: @ CARTIERのDNAをたっぷりと盛り込んだ黒文字盤(上述) A 大型のピラミッド形状の黒石(=黒セラミック)付きリューズ B そして黒ラバー調のSSブレスレット これら3大要素がCARTIERブランドの冠を手にした途端、その見栄えと価値は更に倍増することになる。 (黒ラバー調のSSブレスは独特の構造だ〜) Seatimerには通常のSSブレスレット・モデルもあるが、この黒ラバー調が一番良く似合う。シャネルのようにセラミック製のブレスで攻めてくる方式もあるが、CARTIERのようにラバーでSSを覆い込む方式は例が少ない。それもコマの両サイドはSS剥き出しである。SSとラバーの素材による質感の対比をデザインに盛り込んでしまうところがCARTIERらしさ、であるが、同時に整備性の良さ、生産過程における効率性、という点も見え隠れしてくる。 マットな黒に仕上げた点も成功である。 芯材がSSの為、通常のラバー製ベルトとは硬度の感触が全く異なる。高級感が滲み出てくるのは至極当然か。ブレスのコマのデザインも中々良く出来ている。 注意すべき点は、このブレスは意外とキズが付きやすい事。 ラバーが張ってあるとは言え、どちらかと言えば硬質プラスティックに近い感触である。 細かい引っ掻きキズに耐える精神力がユーザー側に求められよう・・・。 (裏蓋はスケルトンではないクローズド方式だが〜) スケルトンである必要は無いが、ネジ込み式ではなく、ビス留め方式による裏蓋である。中央の盛り上がり部分やビス留め部分のケースデザイン等もCARTIERのDNAを引き継ぐ。自動巻きサントス等にも通じる共通性がある。 しかし、8箇所のビスは少々多すぎる。 メインテナンスの観点からは、海水や汗による塩分により錆びて腐ってしまうビス(それも可也小さめのビス)を使用するよりも、ネジ込み式による『面でパッキンする方式』の方が信頼性が高いように思われる。少なくとも見た目にはビスを使用するとどうしても貧弱な印象を受けてしまうのだが。 一方で、この裏蓋のデザインはまさしく古典、である。 まるで大昔の潜水服のヘルメットや船窓を連想させるデザイン。まるでジュールベルヌの世界から飛び出してきたような8箇所ビス留め方式は、APロイヤルオークの八角形ベゼルと同じ。CARTIERデザイン陣の『遊び的要素』まで投入されているのであれば、それはそれで結構。 |
(シンプル構造のDバックルは安定感抜群の出来映え〜) 今や、各メゾンでも定着した感のあるプッシュ式Dバックルが装着されている。 特にプッシュ部分のバックルの幅の広さは特筆モノ。 ここまで幅広のベース(土台)を持つ安定感あるバックルは少ない。 パネライのDバックルでさえ、もっと狭くて華奢である。 こうした基本的骨格、基本構造を頑丈に仕上げる姿勢は、ある意味でCARTIERらしくないと言うか、真面目な取組であり素直に評価する『時計オヤジ』である。加えて『ゴム張り』ブレスは肌触りも中々宜しい。SEIKO/ARCTURAダイバーでも感じたことだが、ラバーの感触は金属アレルギーの人にも抵抗は少ないはず。何よりも見た目が精悍だ。 Dバックルの効能については論を待たぬが、ブレスレットタイプであればプッシュ式ダブル・ディプロイメント・バックルの装着が理想であろう。余談であるが、本格的ダイバーズ時計であればやはり旧来型のノーマル美錠が向いている。本格ダイビング用途であれば、はたまた宇宙にまで飛び出したオメガ・スピードマスターを見ても分かるようにプロフェッショナルユースでは手首サイズのブレスレットというのは全く用を成さないし、そもそも手首に直接時計をすることは有り得ない。。長さの調整が自在なベルクロ式ベルトや、長いラバー&革ベルト等が必然となる |
(時計以上?に充実した関連アクセサリーは更に魅力的〜) シンプルな文字盤デザイン、そして黒色を基調としている為に視覚的にも全体に引き締まった印象を受けるが、ケース径40mm超は流石にデカイ。その存在感は十二分。加えてCARTIERというオーラがシックに漂っているのがこのSEATIMERである。 加えてCARTIERは時計以外のアクセサリーにまで、SEATIMERラインを展開させている。カフス、マネークリップ等、そのデザイン配置は心憎いばかり。まんまとCARTIERのアイコン(愛魂)戦略にはまる『時計オヤジ』が選択したのはマネークリップ(⇒写真右)。 ピラミッド型黒セラミックを中央にデ〜ンと鎮座させ、周囲に回転ベゼルをモチーフとする数字&目盛を刻み込む。これだけで『時計オヤジ』の物欲は十二分に刺激されてしまう。最近ではPATEKやBREGUET等もカフスやタイバー、ブローチといった時計関連のアクセサリーを展開しているが、そこはCARTIER、一日の長がある。 CARTIERといえば、『宝石商の王が故に、王の宝石商』。 その発祥は王室・貴族ご用達から大きく飛躍した。特にヨーロッパでは富裕層を顧客の主体として成長してきた。そのCARTIERも昨今では市場開拓の御旗の下、大きく戦略転換を推進している。特にバブル以前の80年代から、20〜30歳代の女性層の市場を開拓、日本での地位はご承知の通り。そんなCARTIERがいよいよ20〜30代男性をターゲットとした骨太商品で迫ってくるのが時代の変遷を感じさせる。 CARTIERファン、PASHAファンにはたまらないSEATIMERである。(2008/02/01) (CARTIER関連WEB) ← 『TANK LOUIS CARTIER』はこちら。 ⇒ (腕時計MENUに戻る) |
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