時計に関する随筆シリーズ(71)  

ROLEX DATEJUSTにおける黒色ピラミッド文字盤の妙





2005年8月、『愛機サンダーバード』の巻でも述べたが、
『黒色ピラミッド文字盤』こそが我がDATEJUSTには最高に似合うと考えている。
しかし女性用の黒ピラミッド文字盤は存在するが、紳士用のそれに出会うことは現在においては至難。
二世代前には存在したが、新品に近い文字盤の発見は最早、不可能と判断。
これ以上の待ち時間は無駄である。
2009年新年早々、満を持して『時計オヤジ』のROLEX強化月間がスタートした。



(本命文字盤『黒ピラミッド』への憧れ〜)

一般的に黒文字盤の視認性は劣る。
それでも最近の好みは圧倒的に黒文字盤である。
『サンダーバード』
でも述べたが、DATEJUST用の黒文字盤としては以下3種類を理想とする:

1)ピラミッド・パターンが背景のビッグローマン黒文字盤:
  (⇒ 右写真のように『黒ピラミッド』は女性用では存在する)
2)縦溝模様があるタペストリー黒文字盤、BAR-INDEX: 
  (⇒ref.16013では存在したが、現在では極めてレア。)
3)コンピューターロゴ入り黒文字盤、スモールローマンINDEX:
  (⇒これも実在するとの情報はあるが未確認・・・)

現行品DATEJUSTの黒文字盤としては、放射状にデザインされた新作サンビームやビックローマン+コンピューターロゴ文字盤が存在する。

更に色々調べてみると、二世代前のCal.3035搭載DATEJUST(=1980年代生産品)には紳士用の黒ピラミッドも存在したようだが、旧型用(=一世代前)の黒ピラミッド文字盤は市中における流通も殆ど無い。旧型、及び現行DATEJUST用にはアイボリー色ピラミッド文字盤は存在するが、何故か黒色は存在しない。ROLEXに照会しても、当然ながら埒があかない。ここまで来たら自ら道を開拓する他に術は無かろう。方向性は見えた。残るは決断と実行あるのみ。

と言う訳で、2009年1月。
満を持して、『時計オヤジ』は以前より温めていた計画をいよいよ実行段階に移すことに。
『ROLEX強化プロジェクト』の第一弾は長年の憧れであったサブマリーナの記念モデル・グリーンサブの入手。
第二段がこの『黒ピラミッド文字盤』製作プロジェクトである。



(現在の黒顔も完成度は高い〜)

2005年にオリジナルのシャンパンゴールドから黒顔へと『整形手術』したことは既報の通り。やはり黒色は引き締まって見えるが、視認性という観点からは、このTバードの場合は極めて芳しくない。非常に見難い、と言うのが公正なる我が評価であるが、そんなことはどうでも宜しい。あくまで、外見にコダワルのが自分流である。

黒文字盤に金色バーインデックスと極小プリントされたローマン数字付きの外周レイルウェイ目盛も中々凝ったデザインで、これはこれで素晴らしい。この文字盤のままでも良いのだが、同じ時計を長年所有していると変化を求めたくなる性(サガ)はどうしようもない。ましてや、最初から黒ピラミッドに憧れがあるのだから、目移りは当然の帰結とも言えるのだ。

余談だがROLEXの大きさ、というのは絶妙である。
このDATEJUSTは36mm径、SUBMARINERで40mm径だが、手首で落ち着くサイズとしてはケース厚との総合バランスを考慮した上でも最良のサイズと考えている。
DATEJUSTの場合、もう1〜2mm(※)大きくても良いだろうが、敢えて継続に拘る方針には大いに賛同する。(※追記1参照)
仮にケース径が大きくなればブレス幅も変わり、全ての構造と感触が変わってしまう。

そこをぐっと押さえて、昨今のサイズ大型化の波にも負けず、旧来の延長線上で新モデルも投入してくるROLEXの戦略には敬意さえ表する。逆に言えば、ここでもROLEXの基本設計のレベルの高さが普遍的完成度を持つことの証左であろう。




(今回の『黒ピラミッド』プロジェクトの実行計画について〜)

どうすれば黒ピラミッド文字盤を入手できるか。
市中に現品が無ければ製作するしかない。残る施策は『リダン』のみである。
(※リダンの定義には諸説あろうが、ここでは『文字盤製作の総称』として使用する)

しかし、懸念点は3つ:
@ 希望するリダンを確実に行えるプロがいるかどうか
A ベースとなるアイボリー色のピラミッド文字盤が入手できるか
B @と関係するが、精密なる純正レベルの仕上げが期待出来るか、そしてそれが自分の要求レベルにマッチするか、である。

まずは@について。
色々とこちらの希望を相談結果、ここぞと思える馴染みのプロに決めた。
(※諸事情からリダン詳細についての個別質問はどうぞご遠慮願いたい。悪しからず。)

Aについては右写真の通り、アイボリー文字盤のピラミッドを何とか入手。

Bについては仕上がりを見ないと何とも言えない。言わばギャンブル同様。
リダンを施す技術者の方には申し訳ない表現だが、運を天に任せる気持ちでお願いすることにした。黒地に金色の文字とレイルウェイ表示が上手く再現出来るかが大きな鍵となる。『う〜ん、金色は難しいなぁ。白色のINDEXとロゴじゃぁだめ?』と言うコメントに少々不安になるが、あとは全てを任せるしかない。手術前の患者が医者に託す不安と希望とが入り混じる心境、と言えば少々オーバーか。今回のリダンはあくまでオリジナルの再現を目指すのだ。使用する色は『黒と金』以外は有り得ない。

それにしてもこのアイボリー色のピラミッドもそれはそれで美しい。清楚だ。
ピラミッド模様を純粋に鑑賞するのであればこちらがお薦めである。





(←左写真: こちらがリダン直後の完成版〜)


撮影の都合で全体に白っぽい色彩だが正真正銘の金色INDEXと刻印は見事に再現されている。ビックローマンINDEXは勿論、再メッキ処理済みでピカピカ。植字式INDEXの強みだ。植字でなければこうした微細部品の再メッキ処理も難しい。
黒文字盤の艶やかなる仕上がりも期待通り。
恐らくオリジナルよりも肉厚であろう黒色ペイントは、加えて光沢感もまるで琺瑯製のように艶やか。
全てが予想を上回る出来映えに『時計オヤジ』の長年の夢が叶った喜びはヒトシオである。

写真上の白い点は光の加減によるものでホコリではない。
どうしてこんな業(リダン)が出来るのだろう、と暫し『プロの仕事』に感心しきりだ・・・。

これを機会にTバードにとって初めてとなるオーバーホールOVHも実施することに。
OVH後の精度は平置き+3秒、12時下+2秒、3時下±0(全て日差)。満足出来る範囲だ。良くROLEXはOVH無しでも10年以上正確に時を刻むとか言われるが、時計のオイルは通常4〜5年で揮発するか無くなる。10年以上メンテ無しでも昨日と同じように動く所がROLEXの基本性能の高さだが、やはり10年以上もOVH無しというのは無謀だ。注油しないで何年間も自転車を走らせることに等しい。動くことは動くが、各パーツに相応の負担がかかっているということ。乱暴に言えば、ムーヴメントのパーツが大きい作りの時計は、このROLEXのように耐久性も高いが、それでも定期的な点検は車検同様、必要不可欠と考える方が無難であろう。



(光線の当たり方で、その美しい陰影を生み出す『クロキン・ピラミッド』〜)


自己満足、自己陶酔の世界は楽しい。
自ら求めたデザインや腕時計そのものに邂逅する至福。
オーバーな表現かも知れないが、長年の夢が旧型Tバードを通して今、現実となったことがまだ夢のようだ。
他人から見れば何の変哲も無い黒文字盤にしか見えないだろうが、密かな楽しみとはまさにこうしたことを言うのだ。

キラキラと文字盤が動くたびに、黒ピラミッド紋様が織り成す万華鏡の世界。
18金&SSコンビモデルにおいてのみ、その実力を発揮するのである。
10ポイントのダイヤ付き文字盤でさえ顔負けの色気がムンムンだ。
まさに狙い通り、期待通りの黒ピラミッド文字盤。
金色のビックローマンINDEXには夜光も無い。
ただただ大胆で太字のビックローマンとのコンビネーションがド派手で、エロイ。怪しい文字盤、イヤラシイ文字盤という評価も聞こえてきそうだが、外野の声には一切耳を貸す必要は無い。もう唯我独尊の世界なのだ。




(⇒右写真)
お遊びで光線を四隅から当てて十字架模様を作ってみる。
本来、黒色の文字盤ではあるが、金色INDEXと18金製ベゼルの強烈なる反射のせいか、やや濃茶っぽい色目の色彩へと変化して見えるところがまた楽しい。


18Kコンビの旧型Tバードに黒ピラミッド文字盤の組合せはまさにドンピシャリ。
もしかすると、愛機の『極上時計』達を差し置いて、この黒ピラミッドが自分にとっての最良&極上時計としてNO.1に躍り出るかも知れない予感さえする。

時計には色々な楽しみ、遊び方がある。
こうした着せ替えで意外なる新たな発見に遭遇するのもまた、時計の世界ならではの『道楽』ではあるまいか。

『ROLEX強化プロジェクト』は更に第三弾へと続く。(2009/03/20)





追記1)
2009年度のBASEL WORLDがいよいよ開幕した。ちょっと驚いたのはDATEJUSTで41mm径が発表されたこと。
通常モデルより一気に5mmも拡大された。不滅の36mmモデルは生産継続されるだろうが、遂にと言うべきか王者ROLEXでさえ拡大化の波には抗し切れなかったということか。サブマリーナの40mm径さえも超えた『巨大DATEJUST U』には即座に共感は出来ない。と、同時に『変化させない継続の哲学』の権化であったROLEXにも、ここ数年で一つの大きな転換期が到来していると感じる。ROLEXは確実に変化・進化を加速させているのだ。(2009/03/28)




追記2)
クロキン・ピラミッド文字盤はROLEXだけかと思っていたが、何とRADOの定番、DIASTAR 
”THE ORIGINAL”にも見事なピラミッド文字盤が存在した(⇒右写真)。このデザインも中々素晴らしい。恐らく日本には未入荷ではないだろうか。この程、偶然にしてサウジアラビアで発見する。
1962年に登場以来、この”THE ORIGINAL”はRADOの看板モデルとして長年に亘るロングセラーを誇る。そこに『黒金ピラミッド+
真紅ルビーの10ポイント』とくれば、もう『時計オヤジ』は黙ってはいられない・・・。
詳細は近々、UPLOAD予定中。。。(2010/07/23)










(参考)『時計オヤジ』のROLEX3部作はこちら:
ROLEX OYSTER-DATE PRECISION REF.6694はこちら。
ROLEX DATEJUST CAL.3035はこちら。
ROLEX DATEJUST CAL.3135(Thunderbird)はこちら。

ROLEX 角型手巻PRINCE CELLINIはこちら。
TUDOR PRINCE DATE ユニークダイアルはこちら。
ROLEX SUBMARINER REF.16610LV(グリーンサブ)はこちら。
『ROLEX DATEJUSTにおける黒ピラミッド文字盤の妙』はこちら

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