SEIKO セイコー

SEIKO DIVER'S”3RD” AUTOMATIC 150M RESIST
Cal.6306-7001、6309-7040
『3RD再考』 そのA
〜 「3RDに見るCライン・デザインの神髄」〜




3RD最大の魅力と言えば、このケース形状に他ならない。
即ち、G.ジェンタ翁によるCラインケースの導入こそが最大の特徴である。
しかし、3RDのCラインには熟考と独自の工夫が見て取れる。
今回は、3RD最大の売りでもある『Cラインケースの魅力」、について徒然と・・・。
(2013/11/01 507900)



(ダイバーズにCラインケースを導入した先見の明・・・)


Cラインについては過去にもオメガを例に色々と述べてきたが、今回は3RDのCラインについて述べる。
偏見・放言含めて、重箱の隅をつつくことにする。

***

通常、Cラインが用いられるのは殆どがドレス・ウォッチである。
G.ジェンタによるCラインがROLEXオイスターケースに触発・刺激を受けたことはクロノス日本版2012年3月号でも述べられているので、興味ある方は参照願いたい。
しかし、今回の3RDはパネライ並の44o径デカ厚ダイバーズ。どうやってCラインの特徴・利点を生かすか、3RDをジックリ眺めると苦労の跡が読み取れる。そして何よりもCラインをダイバーズという、凡そドレスウォッチとは対極にあるモデルに採用した英断には拍手したい。当時、Cラインはオメガ、IWC、ロンジン、Vacheron、Universal等のスイスメゾン各社でも採用していた。云わば、『Cライン全体主義」とでも言える時代の流行に乗った凡庸なる戦略であった訳であるが、それを日本のSEIKOがダイバーズという先例のないカテゴリーで採用した所が英断であると感じている。


***

まずは、Cラインの特徴とは何か。

第一に、視覚。直感的に感じるその流麗なるフォルム。
ラグと一体化したケースというのはTANKとCラインくらいしか無いだろう。TANKが直線的なラインで構成されるのに対して、Cラインは曲線を活用する。ケース表面の丸みに加えて、高低差(上下差)をラグ面方向に対して生み出している。この為に『流麗』なる美しさが一層、強調されている。



第二は、触感。上記とも関連するが、コロリとしたケース形状の可愛らしさ。
自然界のカブトムシやら天道虫を連想させるような、自然に近い形状でありながらも、実は緻密に計算された造形美が可愛らしさを支えている。つまり、エルゴノミクス、人間工学的な美しさ、安心感を与えてくれる造形美にある。
(※日本版クロノス読み返すと、同様に『エルゴノミック』という単語が使われていたのが何とも悔しいが・・・)

もし、貴兄が3RDを手のひらで包み込んだとしよう。
丸でパワーストーンのような、お守りのような、不思議な感覚にとらわれるだろう。抽象的な表現で恐縮だが、それが偽らざる実感である。この感覚は通常のラグ形状を有するケースでは決して味わうことが出来ないし、TANKを手にしても、そこまでの安堵感は感じられない。3RDは12.5mmという厚みを逆に利用して、球体を意識した曲面構成でオブジェを作り出す。石ころのような丸みだ。
これこそが3RDのCラインマジックである。



そして第三は〜これが本論だが〜3RDのCラインケースの側面処理が巧みであること。
恐らく、このサイド形状・造形美が数ある他のCラインとは明らかに一線を画すのだ。Cラインとも似ている三味胴のラジオミールとも一線を画すのだ。






(”3RD”側面の造形美について 〜)

百聞は一見に如かず。ここからは写真で具体的に説明することに。





(←左写真)

他のCラインケースと異なり、3RDの側面には平面が無い。
正確に言えば、手首に対して側面を巧みに『傾斜化』、
『すり鉢状』にすることで、手首への干渉と接触を最大限に緩和していることだ。
竜頭が4時位置にあることも手伝って、手の甲にも全く食い込まないのだ。
ルミノールクラスのデカ厚にも負けない厚みとケース径を有しながら、ここまで手の甲に干渉しないという事実は、十二分に練り上げられたサイド面の造形が奏功している証左に他ならない。
















(⇒右写真)

左がオメガ、
右がラジオミールである。

元祖OMEGAのCラインのサイド面はこのようにほぼフラットな平面で構成される。

三味胴のラジオミールであっても側面はカーブを描くが平面である。

こうして比較すると如何に傾斜した側面を3RDが持つか一目瞭然。
もし、3RDのサイド面が垂直に切り立ったブレゲのような形状であれば、その円柱形状となる底面の表面積の大きさと過大なる体積がデカ厚3RDでは致命的な装着感の悪化につながるのは明らか。










(⇒右写真)

一方で、『すり鉢状』にすることで、自ずと重心位置が高くなる。
このままではバランスに欠ける装着感となるが、この弊害をどうやって克服しているのか。
ラグを目一杯、下方へ曲げることでベルトを装着した時点で時計裏面とベルトのラインに段差を減らす工夫をしているのだ。つまり、ラグを真下方向に曲げることで、ベルトやストラップ装着位置を肌と接する面に近づける。そして、時計裏面からストラップにかけての手首に接する面が360度、段差なく密着する工夫を凝らしているのである。

冒頭のOMEGAとの比較写真を見れば更に明らかだろう。
3RDの方がケース全体に丸味を帯びている。OMEGAの方が縦長に見えるのはラグの張り出し方向が異なるからだ。3RDの場合、ラグが極端に短く見えるが、実はラグの張り出し方向が下側に伸びているからに他ならない。










(総括、そして”3RD”復刻への願い 〜)


時計上面(表側)における丸みの強調がジェンタの功績であるならば、3RD(SEIKO)の功績は時計底面から側面→上面にかけての逆方向からのサイド部分の曲面の創造にある。これが3RDのCラインが美しい最大の秘密である。

ジェンタのCラインが誕生したのが1962年。
3RDデザインが完成したのが1975年。
間違いなく、当時のSEIKOデザイン陣はジェンタ(OMEGA)のCラインを研究したことだろう。
そして、かつて例がないデカ厚3RDにどのようにCラインを当てはめるか試行錯誤を繰り返したことが想像される。
そのデザイン完成に至るまでの間に、様々な形で存在したであろう問題解決に至るまでの葛藤・挑戦・創造、そしてその執念には心から敬意を表したい。

クロノス最新号(第49号)では、ミドルレンジの時計の品質が話題にされているようだが、
この3RDもかつての立派なミドルレンジとして、その実力は今でも評価に値する。ここまで放言すると我ながら心地良い。

***

今回、一連の考察を重ねた目的は、このSEIKOデザインの粋が凝縮された3RDを復刻させて欲しいという、その一点に集約される。逆に言えば、現行10万円以下のモデルでは、悲しいかなSEIKOのDNAが崩れかけている。願わくば、SEIKO関係者にもこの声を届けたい、そして無理を承知で3RDを現代に蘇らせて欲しい、そんな『嘆願書』にも似た心境で綴ったのが真意である。
ROLEXサブマリーナに正面から対抗できる数少ないSEIKOダイバーズとしても、3RD復刻の意義は十二分に存在する、と考えるのだが如何だろうか・・・。

もし、復刻が可能であれば、以下の注文を付けたい:
@ Cラインケース、文字盤、針ともに完全復刻であること。
A ケース素材はブライトチタンで軽量化を図り、ブレスも同素材とする。
B 機械は高価なSDではなく、6R以上の自動巻きとすること。
C そして、価格は20万円以内(チタン無理ならSSでも良い。


3RDのデザインであれば現代に復刻させる意義は十分にあり、また、正統なるSEIKOデザインのDNAを完全復活させる意味からも、3RD復刻は決して絵空事ではないとも思うのであるのだが・・・。(2013/11/01 507900)


God Bless 3RD, ”I LOVE 3RD”.

『3RD再考B」、へと続く・・・


(参考文献)「クロノス日本版・2012年3月号」

(SEIKOダイバーズ関連HP)

1) SEIKO KINETIC ARCTURA DIVER'Sはこちら
2) SEIKO 200m DIVER'S (SKX007J)はこちら
3) 『SEIKO ・3RD再考』その@はこちら
4) 『SEIKO ・3RD再考』そのAはこちら
5) 『SEIKO ・3RD再考』そのBはこちら。


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