SEIKO セイコー

SEIKO DIVER'S”3RD” AUTOMATIC 150M RESIST
Cal.6306-7001、6309-7040
『3RD再考』 〜 その1「復刻祈願」 〜





My SEIKOダイバーズの原点である、通称『3RD』。
1965年のデビューから今日に至る数あるSEIKO傑作ダイバーズの中で、
この『3RD』こそが筆者にとっての『頂点』、である。
初代GS、44GS等、最近のSEIKO復刻モデルには過去の垂涎のモデルが登場しているが、
是非ともこの”3RD”の復刻も望みたい。
そんな個人的な願いを託して、そして”3RD”へのオマージュもたっぷりと込めて、
”3RD”の考察を開始することにする

(2013/10/26   507100)



(再度、我が手中に戻って来た『3RD』達・・・)


今回、はるばる南半球から、アジアから、そして日本から手元に届いた”3RD”である。

両方向式の回転ベゼルは半端なく固い。間違って簡単に動くなんて代物ではない。
全てがハードボイルド。同時に、全てに甘い香りが漂う・・・。

***

学生時代に一度手放して以来、30数年ぶりでの対面となる。
しかし、何故か羽化登仙の気分にはなれない。
この間、時間は確実に過ぎ去り、自分も、この時計もそれぞれの道を歩んで来た。
そして今、再度手にしたこの時計達とこれからの時間をどのように過ごそうか・・・
そんな少々、厳粛なる気持ちと覚悟だけは感じている。
この時計だけは、今後、もう手放さないだろう。

通称”3RD”(サード)。
自分にとってSEIKOダイバーズの頂点に位置するこのモデルについての考察を開始するが、その目的は全てが、現代における『3RDの復刻』を願うこと、にある。


***

7S26の項でも述べたが、”3RD”の特徴とは、以下の6点に集約される:


? G.ジェンタ翁デザインにルーツを持つ巨大Cラインのケース
? SEIKOデザインによる独特の黒ベゼル
? 特徴的な矢印型ハンズ形状
? 秒針ハンズの先端に丸型ドットが付く
? 4時位置竜頭
? 独創のIndex形状

これから、それらの6大要素を子細に考察してみる。




("3RD”の系譜 〜)

まずは、その生い立ちを振り返る。
3RDの設計者は言わずと知れた徳永幾男氏である。
SEIKO特殊時計の父、でもある同氏が設計したのが1975年。
Cal.6159 600M Professional後継モデルとして開発されたのが63シリーズである。

(⇒右写真: 1977年当時のSEIKO国内カタログに初登場した3RD、こと6306の写真)


国内用(Cal.6306)と海外用(Cal.6309)の2種類があるが、
6309がその後の63シリーズの礎となったと徳永氏は語っている。
しかし、生産は国内用6306が若干早く、1976年がデビュー年。
残念ながらその生産月までは突き止められなかったが、6306と6309の違いは以下:

6306: 21石、ハック付き
6309: 17石、ハック無し
これだけである(曜日言語は除く)。
ケースや文字盤、針等、全て国産品であれば同一だ。

そして、両者共に日本国内生産年度は1976〜79年と短命。
しかし、6309は丁度当時のSEIKOの海外生産展開の波に乗り、
80年以降はシンガポール工場で組み立てが行われ、1984年迄※生産される。
(※この年度は生産主、経由で確認出来た。)

それが理由で6309の玉数は非常に多いのだが、その生産数量は不明。
シンガポール工場品についてはこの後、詳述する。

つまり、国内モデル6306は3年足らずの生産であり、極めて短命。
1979年からは、3RD後継モデルであるクォーツ製の7548-7000に取って代わられたが、
このCラインケースの良さが、ここで途絶えてしまったのは、
海外品6309があるとは言え、非常に惜しい。
もし6306を所有している諸兄であれば、その幸福を今一度噛みしめるべきだろう。









(品番)

6306/6309にはそれぞれ2種類の品番がある。即ち、

6306−7000(国内用、初期品。恐らく、76〜77年生産品)
6306−7001(77〜79年迄。WネームのScubapro450もここに入る)
6309−7040(北米以外の全世界向け。⇒右写真のモデル。ブレスはカスタムメイド。)
6309−7049(北米向け)


7000/7001の具体的な違いは不明。
7040/7049も同様に不明。

※上記はすべて筆者推測によるものであり、事実と異なる可能性あり。

現在でも圧倒的に玉数が多いのが7040であることは論を待たない。
今回、最初に手に入れたのも7040である。







(石数の違い)
17石と21石の差はどこか。
3、4番車とガンギ車のホゾ穴使用での差に他ならない。
当然乍ら21石の6306がお薦めであるが、17石でも立派な仕上げである。
兎も角、6306/6309の頑丈さには定評がある。普通の使い方では壊れることはまず有り得ないのではあるまいか。とは言え、生産後すでに30年以上が経過するアンティーク入口の機械である。加えて残念なことに2008年でSEIKOによるアフターサービスは打ち切られてしまった。メーカーによる新たなパーツ供給が完全に消滅した現在、今後のメインテナンス体制には大いに不安が伴うのは事実・・・。

SEIKOに限らず国産メーカーはJIS規格に則り、アフターサービス期間を7年で区切るケースが多い。SEIKOも堂々とそう開き直るが、こと時計に関する限り7年でサヨナラでは非現実的。PATEKの宣伝ではないが、孫子の代まで引き継ぐことも不思議でないのが腕時計である。せめて機械式時計であれば、生産後30〜40年間以上は責任体制を確固たるものにして欲しい。この3RDに関しては、2008年にメーカーによる部品供給やOVH引き受けは停止されてしまった。6306を例にとれば、1979年の生産終了後、約30年間もメインテナンス提供されたのは立派と言える。しかし、この頑強なる3RDはまだまだ世界中で生き延びているはずだ。ここまで長寿かつ人気あるダイバーズである限り、もう少々、純正メインテナンスを継続して欲しかった、というのはユーザーとしての偽らざる願いでもある。マイクロソフトのXPのように、メインテナンス期間が終了すれば、『はい、今日からは面倒見ませんよ・・・』という姿勢では困るのである。こと、時計に関する限りは特に・・・。

***

(⇒右写真)
SEIKOのCal.6306Aの修理ガイドブックには、このキャリバーの特徴として以下4点が強調されている。

? 豊富な機能を有した紳士用腕時計
? 信頼性の高いムーヴメント
? 簡単な操作の日曜修正装置
? アフターサービスが容易なムーヴメント
   ⇒ネジ共通化、部品点数減少化、形状・機構の単純化等。

30年以上経った現在、その謳い文句は見事に実証されていると言って良いだろう。









(3RDに垣間見るSEIKO海外生産戦略 〜)


先に述べた通り、6309(輸出モデル)の日本国内生産は1976〜79年。
この後、6309は海外に生産拠点を移して1984年まで生産された。
シリアル番号によっては1985年初頭までの生産が確認されるが、1984年という年度はSEIKOと確認した結果である。
事実と少々、矛盾があるが、ここでは1984年という正式情報を優先させたい。

***

この時期のSEIKO海外展開の要になるのが以下の2拠点:

(シンガポール工場)
●1973年9月設立。
●1974年、89名の技術者が第二精工舎で技術訓練を受ける。同年末に時計生産を開始。
●当初はストップウォッチ、及び女性・子供用の時計組み立てを行うが、後に商品も時計以外の電子機器を扱うようになる。

(香港工場)
●1968年11月設立、機械式時計の組み立てを開始。
●1977年5月、電子回路盤の組み立て開始。


両工場共に機械式時計の組み立てで開始したが、1969年のクォーツ時計発表の後、爆発的な世界的クォーツ化の波に乗り、その比重をクォーツモデルに移して行ったことは容易に想像出来る。6309はそんなSEIKOの海外拠点拡充化の波にも上手く乗ることが出来た時計であり、まさに『時代の波乗り時計』でもあったのだ。

1979年に国内生産終了後、6309海外モデルの生産拠点はシンガポール工場に移されることになる。
では、どのように海外生産を見分けるか、以下考察を続ける。

***



(←左写真)
日本国内生産モデルは、文字盤下に
”JAPAN 6309-704LT”の文字が印刷される。
そして、”150m”の下に諏訪マークも印刷されている。











***




(←左写真)
80年代になりシンガポール工場(※)で生産されたモデルがこちら。
”6309-704XT MOVT AND DIAL JAPAN CASED HONGKONG”と印刷。
この長い文章は5時から7時位置までにビッシリと読めるのが特徴。
”150m”下の諏訪マークは無い。北米市場向けモデルである。
※CASED HONGKONG: 香港工場で組み立てされた可能性も捨て切れない。

***

そして、次なるパターンは、上記の簡易表示で以下となる:
”6309-704XT MOVT JAPAN CASED HONGKONG”







***



(←左写真)
北米以外向けモデル用には次の表記もある。

”6309-704MT”

勿論、シンガポール製であり諏訪マークも無い。















***

こうした表記を子細に読み取ることで、その3RDの素性やら、はたまた偽物表記も判別することが出来る。筆者の独自調査では、3RDのデザイン10箇所を子細に観察することで、純正ダイアル・ハンズ・ベゼルの見分け方から、その素性が略確認できる。その詳細説明は省略するが、こうしたバリエーションの多さが6309海外向けモデルの大きな特徴である。

SEIKOの海外戦略の波に乗り、3RDも恰好の海外移管モデルになった訳である。
ムーヴメントの簡易構造、部品数の減少化などは海外生産用として最初から念頭に置かれたことは間違いなかろう。
3RD(6309)は、SEIKOにおける『海外展開』の魁ともなった国際モデル、でもあったのだ。。。(初出:2013/10/26 507100)


God Bless 3RD、”I LOVE 3RD”.


『3RD再考?」、へと続く・・・


(SEIKOダイバーズ関連HP)

1) SEIKO KINETIC ARCTURA DIVER'Sはこちら
2) SEIKO 200m DIVER'S (SKX007J)はこちら
3) 『論評・3RD再考』その1「復刻祈願」はこちら
4) 『論評・3RD再考』その2「Cラインに見るデザインの神髄」はこちら
5) 『論評・3RD再考』その3「緋色の研究」はこちら
6) 『論評・3RD再考』その4「STRAP編」はこちら


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