![]() 久々のPENネタである。 2010年の発表以来、ずっと気になっていたIngenuity。 当初より買うなら『黒金・SLIMライン』と決めていたが、欧州・中東で発見する機会に恵まれなかった。 今年4月にはロンドン市内でも種々探したが徒労に終わった。 そして、年末12月のタイ・バンコク市内にてようやくの巡り会い。 待ちに待ったIngenuity、即決即断で購入である。(2012/12/28 464200) |
(バンコク市内のショッピングモール内にて遂に発見したこの新型ペン 〜) 2012年12月某日。 ペンオヤジはバンコク市内中心部、ISETANも入る大型ショッピングモール内にいた。ここでPARKER直営店を見つけ、念願のSLIMライン購入となる。モール内では下写真のように、丁度、この新型ペンの宣伝広告も大々的に打ち出されている最中であった。 発売から1年を経過して、ようやくメーカーによる供給体制にも安定感が出てきたようである。因みに、2012年7月時点では中東の買い物天国ドバイにおいてもさえ、Ingenuityは発売前であったのだ。 バンコク市内で購入した場合、VAT還付は7%とされるが、還付時に手数料100バーツもかかるので、最終的に還付率は5%を下回った(1バーツ約2.8円換算)。この価格では、日本国内の割引価格で買うよりも割高となってしまうが仕方あるまい。タイでの輸入品価格は概ね高い。日本国内における在庫の潤沢さ、市場の大きさ、そして長期に亘る円高の恩恵も追い風となり、最早、海外で買えば何でも安い時代は完全に終わったことを改めて痛感する。 ![]() ![]() |
(はっきり言って最大の魅力は、『見た目のデザイン』に尽きる 〜) ![]() 何が『5th』であるのか。5番目のテクノロジー、というのがメーカーの謳い文句である。つまり、シャーペン、ボールペン、萬年筆、ローラーボールに続く第5番目の筆記具ということらしい・・・。 メーカー側は第5番目の筆記具との『発明』を全面に押し出すが、ペンオヤジの興味と関心は何と言っても、ペン先周りのデザインに尽きる。萬年筆の羽ペンを模したようなデザインは、実は本来の書き味・ペン先とは全く関係が無いダミーである。つまり、フライフィッシングのルアーと全く同じ理屈で、新型デザインという『疑似餌』で消費者を釣るという、極めて正面からのまっとうなるデザイン勝負に出たのがIngenuityなのだ。だから、これを買うという行為は『承知の上で騙される』ことを愉しむことでもある。 勿論、新規開発されたペン先は悪くは無い。が、誤解を承知で敢えて表現すれば、『日本製の200〜300円クラスのハイテク筆記具に萬年筆をイメージさせる最新デザインの鎧を被せたペン』、という印象が強い。書き味自体はフェルトペンを連想させる。特段、何が素晴らしいという感触もない。しかし、このペンの最大の魅力はやはりデザイン。レトロだが斬新なダミーペン先。リフィル方式というのもアフター部品で稼ぐ自動車同様、コンセプトとしては正解だろう。 *** ペン先はF/Mしかないので、太字党としては極めて物足りないが、使用するうちにペン先が磨耗して、適度に潰れてくるらしい。その過程を自分なりに愉しむ、つまり、ペン先を育てる愉しみは確かにあるのだが、果たして実際にそこまで辿り着けるのか、はたまた、どの程度の時間をかければ辿り着くことが出来るのかは今後の検証事項としたい。しかし、これをもって萬年筆と同じ愉しみとは到底言えないだろう。何故ならこのペン先は使い捨てであり、あくまでボールペン同様のリフィル方式なので、折角、自分の書き味を育成したと思っても、それを永久に愉しむことは出来ない。この点はボールペンやローラボールと同じ範疇であることを理解しないと、Ingenuityと付き合うことは出来ない。リフィルもデザイン形状が凝っているので、ボールペンのように安くは無い。1本千円程度はするようだが、モンブランのボールペンリフィルとて高価であるので、この価格設定は仕方ないところだろう。このリフィルが高すぎる、という方はIngenuityの顧客層から乖離しているので、最初から近づかぬ方が賢明である。コスパ観点、書き味観点から言えば、国産の廉価ハイテクペンの方が遥かに上を行くのだから・・・。 |
(好みであるが、デザイン細部の詰めはまだまだ甘い〜) ![]() 右写真は60〜70年代のPARKER DUOFOLDとの比較。トレードマークでもある矢羽クリップを比較すると、Ingenuityのそれは余りにも淡白。そしてクリップ根元の『隙間』も気になる(⇒右写真)。 更には天冠デザインも淡白極まりない。 こうした歴史的なアイコンはもう少し丁寧にデザインするべきであろう。時計でも同様であるが、復刻モノを登場させる時に必ずというほど使われる台詞が、 『現代的な解釈を加えた・・・云々』、である。 アイコンを継承するのであれば下手な言い訳は聞きたくも無い。その代わりに、デザインを通じて雄弁に語るべきである。このIngenuityではお世辞にも矢羽デザインが成功しているとは思えない。ここで見るのは矢羽の造形美ではなく、それに似せたプレスによるクリップと天冠である。ペン先デザインが成功している一方で、自社のアイコンデザインには残念乍、美しさが感じられないのが唯一の難点である。 (独創的なペン先デザインが最大の魅力 〜) ![]() 萬年筆のペン先にあるスリットもダミーであるが、筆記具らしい顔を表現したペン先デザインは魅力的。筆者含めて、この『疑似餌』に食いついた御仁もさぞ多かろう。 ペン先から覗くポチっとしたペン先が若干、貧弱ではあるが、デザイン的には成功している。 書き味はスラスラした感じで、インクフローも安定している。通常はFine(細字)のリフィルが装着されているようだが、今回は最初からM・中字の青色に変更してもらった。発色も良く、書き味で違和感は無い。但し、インクが濃いせいか、普通紙やメモ帳では裏面にところどころインクが滲む可能性もありそうだ。 こうした点ではボールペンが勝るのであるが、ローラーボールの欠点(ペン先の乾燥(※)、インク途切れ、粗いペン先等)は克服していると言えるだろう。 (※)ペン先の乾燥について、キャップを確りと付けたまま2週間後に使用してみると、インクがかすれて出てこなかった。乾燥に強いペン先と特殊インクが宣伝文句として謳われているが、マスコミのライターの大部分は実体験していない『御用記事』中心である。こうした記事を鵜呑みにすることは自らの破綻に繋がる。 すべからく心して物事・世評を吟味すべし。 最終的に頼れるのは自分自身の五感と評価軸である。 その両方を研ぎ澄ますための日々、研鑽。これぞ物欲道の極意かな・・・。 *** 今回選択したSLIM軸も正解。ラッカー仕上げの黒軸も落ち着いた雰囲気で、ラバー製よりも重厚感がある。 通常のモデルでは軸が可也太いので、試し書きは必須。あくまで自分の手の感触で確認するべきだろう。 このペンにはまだまだ秘められた可能性がある。既にIngenuityの他にもデザインバリエーションが増殖中であるが、それよりもペン先種類の開発に力を入れて欲しい。現在のF/M2種類では心もとない。黒字と青字だけというのも寂しい。もっと工夫して、例えばMusicとか太字、カリグラフィー用とかのリフィルをセット販売すればその魅力は倍増するものと考える。インクが乾燥し難い長所を最大限に利用する余地はまだまだ残されているのだから。 *** 苦言も多々述べたが、この種ペンを持つことは自分なりのライフスタイルと自己満足の表現でもある。 萬年筆からのメインテナンスフリーを求めるユーザー、ローラーボールの書き味に不満なユーザー、そして何よりもペン先含めた全体デザインに賛同するユーザーには、それなりに納得出来るのがこの5th Ingenuityではあるまいか。 細々とした御託を並べたが、ペンオヤジとしては実は1年間に亘る恋を実らせた喜びの方が勝っている、というのが正直な現在の感想である。(2012/12/28 464200) (『PENオヤジ』のその他の関連ページ) ⇒2007年10月の『ロンドン・ペン・ショウ潜入記』はこちら。 ⇒ルイジ・コラーニのボールペンはこちら。 ⇒カラン・ダッシュの驚愕・腕時計萬年筆はこちら。 ⇒Platinum #3776 セルロイド金魚はこちら。 ⇒Platinum #3776 Musicペン先萬年筆はこちら。 ⇒PILOTカスタム74 Musicペン先萬年筆はこちら。 ⇒モンブラン作家シリーズ『ヘミングウェイ(#1)』と『S.フィッツジェラルド(#12)』はこちら。 ⇒ 旅行、その他のページに戻る |
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