(セルロイド製萬年筆、『キンギョ』〜) ![]() セルロイドとはレトロな素材である。 1870年にアメリカで商標登録されて以来、今日まで生き続けている。 何故かとても人間っぽい味わいがある。 手作り風味とでも言おうか、古き良き時代を連想させるクラシックなセルロイドは『PENオヤジ』好みの素材である。 一方で、優しい素材のイメージとは裏腹に、セルロイド加工工場では火災爆発の事故と背中合わせだ。発火点が170℃程度と低いので、切削などで粉状になったセルロイドは簡単に引火・爆発する可能性がある。 そんなセルロイド軸のPENがプラチナ萬年筆から発売されている。その名も『金魚』。他にもイシガキとかベッコウ等もあるが、共通しているのは、丸で万華鏡のように輝く模様が美しい、その柄だ。 特にこの金魚はネーミングも洒落っ気たっぷりであるが、まさに水槽で泳ぐ金魚のような風情漂う萬年筆に仕上がっている。 国産3大メーカーの一つプラチナ、及びその修理部門でもある中屋萬年筆では、このカラフル金魚を生産している。 #3776シリーズはご存知の通りプラチナ萬年筆の看板ライン。 その中でセルロイド軸を揃えるのだから、やや太軸に属されるであろう、どっしりとした存在感があるのは至極当然。 キャップ収納時の長さ137mm、キャップ無しの胴軸+ペン先まで118mm、筆記時約150mmというのは標準的なサイズだろう。重量は約20グラムで可也軽い部類だ。 ![]() 過去の他社製金魚を見るとカタログ上でも、首軸近辺の色合いが胴軸本体部分の色彩とは異なり、黒系の樹脂製となっているものが多い。カトウセイサクショ製も同様。しかし、#3776のモデルでは首軸まで同色のセルロイド製。色目の違いは無い。 赤と白色の発色がとても綺麗だ。 セルロイドとは石油製品ではない、植物性の合成樹脂である。 地球に優しい素材ということで、現代において再度見直されていることもあるだろう。この金魚も小売店では略、完売状態が続くという。その理由の一つは素材の希少性。 セルロイド板を製造後、半年から2年間寝かせて水分の蒸発と収縮を図り、製品の安定を生み出す。材料調達まで時間と手間がかかる素材である。詳しくは中屋萬年筆のHPを参照乞う。 セルロイドの製造過程はとても興味深い。 |
(日本独特のキンギョ柄は世界で唯一の存在〜) ![]() この金魚は日本を代表するセルロイド柄、と言っても良かろう。 外国製でもセルロイド製PENはあるが、この柄は日本独自のもの。 そこに金魚とのネーミングであるから、もう完全にハマリである。 ペン先は14金製の中字を選んだ。 ⇒右写真の通り、ペン先装飾は実に簡易でそっけない。 切り割り末端にハート型の穴がある以外に色気は全く無い。 やや堅い目のペン先がプラチナらしい。 こうした太軸系の萬年筆には中字や太字が似合う。 ユーザーの好みにもよるが、『PENオヤジ』は中字以上の太字系を好む。 個人的にはFやEFはどちらかというと苦手。 キッチリとした細字は神経質すぎる印象を受ける。 ややいい加減さが残る太字系が自分には似合うし字体にも合う。 余談だが、この金魚とは別にプラチナのミュージックも現在、入荷待ちだ。ペン先に切り割りが2本入った迫力ある極太ミュージックで、ヌラヌラ、スラスラ書きまくることを夢見ている・・・。 ![]() 萬年筆のペン先はいつの間にやら、こうした羽根型が主流となってしまった。 14金や18金製素材で出来た大型のPEN先は見栄えもする。 LAMY2000のようにPEN先の大部分を隠すモデルもあるが、市販品での主流は大型ペン先のこちらだろう。 黒いペン芯の付け根周辺部分が白い樹脂製となっているが、この部分は黒色にしてもっと落ち着きを見せる工夫が必要だろう。 胴軸本体との色合いを配慮したのかもしれないが、そうであれば逆効果である。いかにもプラスチック製というチープな印象がする。こういく首軸部分の色合いは黒で引き締めた方が良い。周辺部材との配色バランスから見ても不釣合いである。 3万円クラスの萬年筆としては、少々悲しい点だ。 是非とも改良を望みたいところ。 ![]() (黒とアイボリーの『イシガキ』も存在感あり〜) 手前は同じくセルロイド製の『イシガキ』のBPである。 このコントラストが強烈なモザイク調の模様もいい味を出している。 ⇒右写真、奥のキンギョはSP(シャープ・ペンシル)であるが、両者とも略、同サイズ。但し、キンギョ萬年筆と異なり胴軸直径が小さいので、男性用としては少々細すぎる。長時間の筆記には疲れてしまい、適さない。グリップすると胴軸の細さから違和感を感じるのが残念。 このサイズで敢えて商品化したということは、BPもSPも共に対象は女性中心、と読める。セルロイドの優しさはここでは女性向け、ということか。 恐らくユーザーも女性の方が多いのではなかろうか。 それでもこうした『逆境』を乗り越えて『PENオヤジ』は使いたい。 理由はやはり、セルロイド素材の優しさであり、発色の良いメリハリの効いた美しさにある。 ![]() (継ぎ目こそがセルロイドの証?) ←左写真: セルロイド製PENは、板状のシートを巻き込むようにして本体軸を作ることから、どうしても『継ぎ目』が生じる。 キンギョ、イシガキ共に右写真のような境目が出るのであるが、これをデザイン的に嫌う人も多い。メーカーは意図的に継ぎ目を目立たなくする位置に持って来ようとしているが、結果はこのようになるのだ。 同じセルロイドでも、シートを巻き込むのではなく、塊から刳り貫く方式であれば、継ぎ目は生じないが、手間とコストがかかることから日本製では殆ど、継ぎ目が生じる。その点、イタリア製であれば刳り貫き方式を採用し、労力をかけることから、継ぎ目が無いモデルもある。好みと言えばそれまでだが、やはり継ぎ目は無い方が良かろう。 (こちらはアセテート製のペンシル・ホルダー、longproductsの『錦鯉』〜) ![]() 大阪で創業した老舗longproducts(旧不二ゼット万年筆)もセルロイドとアセテート製PENの専門メーカーだ。 限定100本で生産されたペンシル・ホルダーはキンギョと比べて白色部分が多い。故に、『錦鯉』と命名されているが、こちらの素材はセルロイドより熱と劣化に強いアセテート製である。最大の特徴は、セルロイドより柔らかく、機械乾燥で短時間に出来ることから、生産性と加工性の良さで優れる点だろうか。メーカーにとってはセルロイドよりも熱に強いので、まさに願ったり、適ったりの素材であり、ユーザーにしてみると『次世代のセルロイド素材』として歓迎できる。 昨今、鉛筆を使用する機会がメッキリと減ってしまった。 鉛筆は削る作業が伴うので不便と言えば不便。 しかし、この鉛筆削りという儀式は逆に新鮮な気持ちを味わいさせてくれる。オマケに簡易鉛筆削りも中国製の安価なものから、金属製のドイツ製までピンキリの世界。削り具合も数段階で選択できるものもあり、鉛筆が短くなるまでギリギリまで使える鉛筆ホルダーというのは時代に適したエコ製品とも言える。 SPであれば2Bか3Bか4B、鉛筆であれば2Bを使用するのが『PENオヤジ』のシキタリである。 芯が柔らかく、黒々とした線が引ける鉛筆、SPは筆記の楽しみを加速させてくれる。 萬年筆、BPとは異なるアナログ的な書き味が何とも言えない。 個人的にはクリップ形状は、PILOTやAURORAのような曲線を描いた玉留め式が好みであり、 金色パーツの形状と色具合の工夫や胴軸の太さや形状にも変化を加えたい願望がある。 そうした『改良点』を差し引いても、キンギョにはセルロイド製の魅力がたっぷりと込められており、希少性と個性が加わり、日本を代表するPEN、と言っても過言でなかろう。 PENの世界も腕時計に負けず劣らず、楽しい。 これからしばらく、愛用するPENの世界について述べる事にしようと思案中だ。。。(2010/05/13) (『PENオヤジ』のその他の関連ページ) ⇒2007年10月の『ロンドン・ペン・ショウ潜入記』はこちら。 ⇒ルイジ・コラーニのボールペンはこちら。 ⇒カラン・ダッシュの驚愕・腕時計萬年筆はこちら。 ⇒Platinum #3776 セルロイド金魚はこちら。 ⇒Platinum #3776 Musicペン先萬年筆はこちら。 ⇒ 旅行、その他のページに戻る |
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