考察シリーズ(24)

PILOT CUSTOM74 Ref.FKK-12SR-BMS
『パイロット萬年筆 カスタム74 ミュージックペン先』の考察



”プラチナ#3776”でも触れたミュージックのペン先。
現行品でスリットが2つ割り式なのは、世界中でもこのプラチナ(&中屋)とパイロットだけだ。
(※もし2社以外で他にも現行品があればご連絡ください)
と言う訳で、プラチナに続いて今回はPILOTカスタム74を取り寄せた。
羽根型ペン先のPILOT萬年筆としては”自身初入手”である。
最大の特徴はトレードマークのクリップ形状だが、このミュージック・ニブと合わせて考察する。(2010/08/20)


(独自性あるPILOTの『全体ライン』〜)


プラチナMusicでも散々述べたが、日本製の萬年筆は『色気』が薄い。
しかし、Musicペン先のPILOTカスタム74では2つの『色気』が存在する。
一つは勿論、2つ割り式スリットの極太ペン先。
そしてもう一点は玉留め式のクリップ形状にある。
この2つのパーツを楽しむ為だけでも、この萬年筆は所有する意義があるだろう。

PILOT、プラチナ、セーラーは云わずと知れた日本の誇る『萬年筆御三家』であるが、筆者の抱く特徴を一言で述べれば、PILOTは玉留め式クリップの几帳面で真面目なPEN、プラチナは#3776の質実剛健PEN、そしてセーラーは長刀ペン先に代表される長原翁ファミリー萬年筆、というところだ。

今回のPILOTカスタム74は同社の中核をなすモデル。
御三家の看板商品であるカスタム、#3776、PROFITの中でも個性という面ではカスタムが頭一つ抜きん出ている。その理由はキャップ含む胴軸全体のデザインにある。特に玉留め式のクリップとキャップに巻かれた2本帯式の金輪飾りが嫌味もなく、丁寧な作りで遊び心も感じられる。

特にクリップが良い。
欲を言えば、AURORAやMontBlanc限定モデル、DELTA等でも見られるようなクリップ曲げ部分の美しさに洗練さが欲しいところ。無骨とも言えるクリップ形状には、願わくばもう少々流麗なる造形美が欲しい。クリップの面取りにもっと手間隙をかけ、クリップ自体のラインも直線だけではなく、巧みにカーブを加えればもっと昇華した色気ある胴軸が出来上がるだろう。
萬年筆は書く喜びと同時に、持つ喜び、即ち見て、触って楽しめる要素がなければ美しいPENとは言えない。萬年筆は文字を書く道具である以上、書き味が最優先されて当然だが、長年の愛用の対象たるPENになる為には胴軸形状や全てのパーツの造り込み具合、そして重心などの全体バランスが融合することが条件である。




(⇒右写真: プラチナMusicと比較してみる〜)

一見して分かるように、両者では羽根型ペン先の大きさがふた回りは異なる。
イリジウム部分だけを見れば、共に似通った大きさ・幅があるが、書き味という点ではプラチナに軍配が上がる。
ヌラヌラ書けるという感触ではプラチナが柔らかく、腰もあり、適度な弾力もある。一方のPILOTは、ややカリカリした感じで固めのペン先という印象だ。但し、これはあくまで書き手の主観によるので、実際には試し書きをすることをオススメする。

トレードマークの2本の切り割り(スリット)もプラチナのほうがやや幅広で、ハート穴もしっかりあるが、PILOTではハート穴はない。どうしてないのか、カタログ等を見ても一切の説明が無い。こうした細やかな説明やPRが不足しているのは残念。視覚的には是非、ハート穴が欲しいところ。そうすれば更にペン先の”腰の強さ”や”返り”といった点も改良されるかも知れない。

胴軸がプラチナより1cm弱長い割には、ペン先が5号で小さ目というのがややバランスを欠く点でもある。この1cmの長さは決定的な意味を持つ。

出来れば、”1cm短く”すれば更に重心バランス含めた全体の美的バランスも大きく改善されると考える。


それにしても2本式スリットというのは、見ていても飽きないし、個性豊かで楽しい。




(萬年筆御三家の長さバランスはこうなる〜)

⇒右写真でも明らかだがPILOTが一番長い。
上からPILOT/Music、プラチナ/Music、セーラー/Profit(中字)。

個性、と言う点ではプラチナとセーラーは一見して見分けが付かないほど酷似している。特にクリップ形状もそっくり。PILOTの個性というものが見てとれるだろう。

しかし、PILOTを手にするとどうしても長すぎる。つまり、バランスが悪いのだ。
キャップをとると短すぎる。まさに帯に短し、襷に長し、である。全長14〜16CM程度の萬年筆において、1cmの長さの違いは極めて大きい。
製品への開発段階で種々、試行錯誤は繰り返しているのだろうが、少なくも数種類の長さを揃えて、ユーザーに選択肢を与えるような工夫がメーカー側に望まれる。今や、時計でもサイズで選べる時代である。同一モデルの萬年筆の長さにバリエーションを持たせても何等、不都合はあるまい。

要は、ペン先部分、胴軸部分、キャップ部分の3つを組み合わせることで簡単に対応できる。
@胴軸部分の長さを2〜3種類もつことで、こうしたユーザー側の不満は簡単に解消できるのだ。
A若しくは、PENのバランスを考慮して重心の位置を好みに応じて変化できる工夫が欲しい。
  重心はペン先に近い方が書きやすいのだが、あと10〜20g加えて重心位置を下げたら可也重厚なバランスになるのではないか。

是非とも、メーカーには再考を願いたい点である。






(『旅萬年筆』としては最高の伴侶かも知れない〜)


本格的なピストン吸入式と違いカートリッジ併用というのは実用的だ。
カートリッジでなくても、付属コンバーターCON-50(別売り)も日本製らしいコンパクトで使い勝手の良さを誇る。

旅行用には太字が似合う。
セコセコした細字よりも、のんびり、ゆったりした太字(若しくは中字)が旅先で感じる開放感ともよりマッチする。その意味からはMusicニブは更に個性的で太字であるが故に、『旅萬年筆』としては最適であるのだ。

小型インク瓶を1〜2個、スーツケースにしのばせて旅先でのんびりと萬年筆で楽しむゆとりくらいは欲しいものだ。逆に、そうしたゆったりとした時間を必ず確保するのだ、と言う覚悟の証左として萬年筆を持参する意味合いもある。そうした『旅萬年筆』にはポップなモデルより、どっしり重厚な古典的萬年筆がよろしい。

ドイツ製、イタリア製でも良いのだが、やはり極太ミュージック・ニブのPILOTは、異国の見知らぬ土地でも『日本』を感じることの出来る、個性ある『気分の1本』であるのだ・・・。
(2010/08/20 315700)



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