オリエントは輸出用モデルが俄然、面白い。 ある意味、SEIKO5と双璧の海外用廉価モデルであり、個性的なモデルが目白押しだ。 そして中身の機械は40年ものロングセラーを誇る『46系』搭載。 これがマジックレバー搭載とくるから、こちらも海外を舞台にしたセイコーの7S系と真っ向勝負である。 どちらも楽しい時計には間違いないのだ・・・。(2011/4/21) |
(不思議な時計会社、オリエント〜) 筆者にとってのオリエントの印象は、秋葉原にある意外な会社・・・。 『1958年のイラン向け、カナダ向け初成約を皮切りに、海外輸出用モデルとその市場開拓のパイオニア』、というイメージが強く重なる。海外市場と言っても、主戦場は中国、東南アジア、中東、南米等の新興国(=途上国)中心。これが機械式中心のモデル展開と大きく関係してくることは容易に推察できる。種類が多いクォーツ時計用のボタン電池を買うこともままならない地域は実は今でも多い。電池交換不要という、ある意味メインテナンスフリーの機械式時計はこうした地域では今でも人気が高い。日本国内ではパワリザ針を準アイコン的に多用したシンプル系や、文字盤くり貫きテンプ丸見せモデル、そして往年の人気モデルの復刻シリーズなどで中々元気があるオリエント。会社としては2001年にセイコーエプソンの子会社(52%)となり、2009年には100%完全子会社となっている。いわば、セイコーグループの正規メンバーの一員である。そう考えるとマジックレバー搭載の自動巻きキャリバーを主力にする点も、今や完全に合点が行く。 そんなオリエントを最近、2本購入した。その1本目がこのモデル。 見た通り、容姿はRADOのThe Originalそのもの。一見、コピーとも見間違う程のモノマネぶりには正直、驚く。しかし、細部を見ると微妙にと言うべきかオリエント独自の味付けが幾つも見られるのだ。今回はそんなオリエント3-STAR★★★を徹底分析してみる・・・。 (どこで買うか、輸出版オリエント!) 詳細は別途レポートするが、サウジアラビアの首都リヤド。 その市内南部に位置する『混沌と憂鬱のバトハ地区』。 危ない時計、危ないモデルはバトハに限る。地元日本人やお金持ちの中流以上のサウジ人でさえ決して近づかない巨大スーク。安物とニセモノで溢れかえる、底辺の人々のたまり場、それがバトハである・・・。 『時計オヤジ』はバトハに詳しい。 長年、商売柄・趣味柄・人格柄・ヒョウ柄、、この種の胡散臭い市場、街並みには馴染み深いのである。理由はそれ以上は明かせないがバトハの時計なら『時計オヤジ』に聞け、が合言葉。しかしこの際、そんなことは堂でも宜しい・・・。 ゴマンとある怪しい店並の中で、逸品を探し出す楽しみ。 この沼にはまると、あなたの人生も狂いかねないのだヨ・・・ (⇒右写真) ありました、ありました、これ全部、オリエント。 しかも輸出用の中でも『中〜上玉クラス』。因みに『下玉』クラスは、デザインも作りも価格もそれはそれは低級です(ゴメン!)。下玉の対抗馬としては、カシオ、TITAN(インド)、無銘ブランドの”スイス韓国品”あたりとなる。 筆者が手を出すのは『上玉クラス』。このレンジの方が全てがワンランク上で面白味も倍加するのだ。 ★ ★ ★ そしてバトハに並ぶ『中級クラス』の典型的な店がこんな感じ。 因みに上級クラスに属するのはTISSOT、RADOの代理店クラス。 (←左写真) 奥の棚にあるのも全部時計。まるでボタン屋さんみたいに、BOX表面にサンプル時計が貼り付けてある。 つまり、それぞれの箱の中は全てそのサンプルと同じ時計が収納されている。小規模卸売り店、である。 店員の目付きが厳しい。笑顔は皆無だ・・・。 (⇒右写真) こちらはサングラスと時計が主力商品の店。 時計の種類としては、Orient、Seiko、Citizen、Casio、Titan、その他訳の分からない”国際的ブランド品”が鎮座する。 店員は一目でインド人と分かる。 最近、インド人、パキスタン人、バングラデッシュ人、スリランカ人・・・この辺りの国籍が外見・人相から大体分かるようにまでなってきた自分が怖い・・・ (←左写真) こちらは上玉の部類に属する40時間パワリザ付きの3針。 テンプくり貫きは蛇足だが、なかなかシンプルで良いデザイン。 キャリバー46S50搭載。 デイデイト表示が無いので46系お得意の2時位置早送りボタンが見えない。 この3連式ブレスも朴訥、シンプルで似合っている。 こうい時計も1本、手を出しそうな予感が・・・。 (閑話休題。本論たるこのモデルに戻る〜) ⇒右写真: どうだろうか、この黒(マットブラック)文字盤モデルは精悍だ。 一見して分かる特徴としては: @デイデイト小窓が左右、非対称の位置にある A長針(分針)と秒針が目一杯、周囲のINDEXまで伸びている Bカットガラスは真横に大きく3面あり C見易い大きな自社ロゴと3★マーク DRADO似の独特なベゼル形状、しかしラグ部分辺りが微妙にシェイプされている これが表側から分かる5大特徴だろう。 この5つの特徴こそがこの時計のセールスポイントであるのだが、逆にこれが気に食わないと決して手にすることが出来ない要素でもある。 じっと見ていると何だか天然記念物の『カブトガニ』みたいな造形に見えてきた・・・。 (⇒右写真: 禁断?の元祖vsオリエント2本比較〜) 避けては通れぬご本家RADOとの比較写真。 似て非なるモノ。似てはいるが両者で全く異なるのは: @RADOの超鋼ケース(ベゼル)の輝きはオリエントとは全く違う Aベゼル形状もRADOは楕円、オリエントはラグ方向部分に微妙な『絞り』を持つ Bそのケース径も可也異なる C両者ともデイデイト表示窓を持つが、オリエントは水平方向・『2窓独立式』 この窓配置はPATEK年次カレンダーRef.5205を連想させる!? D価格。RADOはオリエントの5〜7倍である。(それでもまだ安いけど・・・) RADOの超鋼ケースは独特の光沢と美しさを誇り、オリエントのプレス成型ケース(多分・・・)とは全く異なるのは素材と成型方法の違いにある。 デザインは確かに似ているが、こうしてみると可也、独自の味付けに配慮された全くの別物であるのだが、それでもこのオリエントのモチーフがRADOであることは100%疑いようも無い事実。こうしたデザインを実際に商品化して販売してしまう自由度、というべきかハチャメチャ加減の猪突猛進ブランドがオリエントの楽しさと言っても良かろう。 換言すれば、そもそも論でこれを許せるか許せないかが、このモデル評価の大きな境界線となるだろう。 ★ ★ ★ このモデルに限らず、『中東の販売現場』では恐ろしい種類のオリエントが並んでいる。 こうした展開をするのは日本ブランドではオリエントとSEIKO5のみ。流石のCITIZENもここまでの広がりはない。お安いモデルで高機種の雰囲気を狙っている、かどうかは分からないが、結果の商品群を見る限り二匹目のドジョウ狙いは免れない。しかし、デザインの模倣、流行の後乗りは時計業界に限らずどの分野でも同じこと。イミテーションコピーは論外だが、独自の『味付け』をしているという条件付であればこの種のモデルは許容範囲である。好きか嫌いか完全に分かれるモデルであるが、筆者は『好き』なモデルである。 (←左写真: ブレスとクラスプは可も無く不可も無い〜) ブレスは薄くてシャラシャラ感が漂うが仕方あるまい。 クラスプも単純な三つ折れ式でワンプッシュ開閉式ではない。そこまでコストをかける余裕はなかったのだろう。SEIKO5とも差別化されていると言えるが、このクラスでは所詮、50歩100歩のレベルで大差は無い。 22mm幅のブレスであるが、ケース径は楽勝大型40mm以上はあるのでケース・ブレスともにそれなりの存在感はある。革ベルトに交換しても、結構いい味が出せるのではないかとも感じる。 裏蓋はスクリューねじ込み式でシースルーではない。 防水50mを文字盤に謳っている程なので、このねじ込み式はまんざらでもなかろう。『場末のストリップなら見ない方がマシ』、という山田五郎氏の主張に則れば、裏スケでないスクリューバックは実態のスペックに沿った仕様である。 (★★★3-STARの意味とは〜) メーカーによれば3-STARは、「品質」「デザイン」「価格」の3つに対する自信の象徴である。 安くて、丈夫で、正確、ということで海外市場においての信頼を勝ち取った証でもあるのだろうが、具体的に何年からこのマークが輸出用モデルに付いたのかメーカーに照会したところ、1980年からとの回答を得た。国内モデルではアーカイブを見る限りでは1969年以前より採用されていたことが分かるが、これも確認結果、1965年のダイバーズモデルで初登場ということが判明した。今や『向かい獅子』と並ぶオリエントの2大アイコンであるのがこの3-STAR★★★である。 |
(Cal.46943は1989年開発以来、20年以上のロングセラー機だ〜) オリエントの中核キャリバーである46系には幾つかのバリエーションがある。中でも基本はこのCal.46943。後の48/40系キャリバーの礎となるムーヴメントである。 27mm径、6mm厚、21石、6振動でローター角も約100度と狭く、小さ目ローターはクルクルと良く回転する。46系全てのゼンマイ巻上げ方式にはセイコー同様のマジックレバーが使われている。外見からは確認できなかったが、肉厚の各受け板、装飾も何も無いそっけない各部品もセイコー7S系とソックリである。兎に角、コストを最大限まで圧縮して効率一辺倒で仕上げたキャリバーであるが、頑丈そうで安心感さえ抱かさせる。ETA28系にも似た雰囲気が好ましいではないか。3-STAR人気の販売を影で支えるのは、この46系キャリバーがあるから出来た業でもある。7S系と並ぶ『輸出用2大傑作実用キャリバー』と言っても過言は無かろう。ハック機能は無い。 46系の初号機は1971年に開発された。以来、40年間の生産累計で1億個を超える、というから驚きを通り超えて言葉も出ない。最盛期には月産50万個を超えたというから、一体、何人でどのような生産ラインで組み立てたのだろうかと考えると疑問や妄想は尽きない。まさに、時計業界の『怪物キャリバー』である。(⇒7Sならば累計何個なのだろう・・・?) |
(実はこれだけあるバリエーション!) 同一モデルでこれだけのバリエーションを持つ時計は少ない。 通常、多くても2〜3種類だ。ところがこのオリエントはざっと店頭確認出来ただけでも、右写真のように6種類もあった! 左列シルバー系は上から、 黒文字盤、青文字盤、クリーム色文字盤。 右列金色ケースは上から、 黒文字盤、白文字盤、ブラウン文字盤。 どれもが個性的。 特に銀系の黒/青、金系の黒/ブラウンは魅力的。これ6本全部買い占めて、毎日、色で着替える時計遊び、というのも中々洒落ているではなかろうか。 この6種類に加えて、更にダイヤ付きモデルまであるのだから、このモデルにかけるオリエントの執念さえ感じてしまう・・・。 (←左写真) 個人的にはこの黒と青文字盤が可也、気に入った。 SEIKO5でもLonginesでも青文字盤を手に入れたのだが、最近、こうしたブルー系文字盤も結構、好み。多分、その源流にはROLEXやTUDORの青サブが脳裏にあるのだが、この★★★モデルもブルーの発色が中々美しい。 3面カットガラスとも相まって、光の反射加減、文字盤上のロゴがダブって見えるところ何ぞは中々悦に入ってしまう愛すべき『独自性』である。 このスパっと伸びた時針と秒針。INDEXまでキッチリ届くというのが晴れ晴れするほど気持ちが良い。秒INDEXも0.5秒刻みでシッカリ見易い。5分毎の四角いINDEXも植字式のようで非常にこのみ。そして大きなORIENTロゴと3★マーク。 46系キャリバーの特徴を生かした左右独立式の小窓。 もう、ここまでアイコンが揃ってしまうと文句の付けようが無い境地、にまで辿り着いてしまう。ここまで来るとRADOとの比較云々は超越したレベルに達する・・・、と思うのだ。 (↓下写真: ということで青文字盤も迷わず入手。この青色の色彩がたまらない魅力。 実際は上写真のように比較的明るい青色だが、光の加減でDeepな青色にも映る。 ジャガーフォーカス(1970年)やメキシカン(1972年)といった過去の名作のDNAがここでも上手く表現されている。 う〜〜〜ん、オリエント、侮れず!!!) こちらは、MODEL REF.SEM70002DGとなる。 (←左写真: ダイヤ付きモデルをRADOと比較〜) 更にバトハでダイヤ付きモデルまで発見できるとは驚きだ。 しかも、上記の通常モデルとはデイデイト窓も異なるし、時針の『短さ』もRADOと酷似。大きなORIENTのロゴや★★★マークで見間違うことはないが、こうして2本並べるとよく似ている、というか似せている。 ここまでやるのを洒落っ気と見るか、単純模倣と見るかでまたもや評価は分かれるが、『時計オヤジ』の評価は半々。つまり、やり過ぎ半分、それでもこれでRADOと間違えることも無いので『遊び心』として許しちゃう気持ちが半分。 SEIKO5含めてこうした廉価で、中身も価格以上に確りした機械を搭載している汎用モデルを武器に、まるで底引き網漁法のように外国出稼ぎ労働者を対象に大量販売を促進している数で勝負の時計、それが3STAR★★★であるのだが、こうしたキラリ輝く『逸品』については『時計オヤジ』としては飛びつかない訳には行かないのである。(2011/4/21) 362800 (加筆修正)2011/4/22青文字盤写真追加 (参考文献)『オリエント★物語』(スイッチ・パブリッシング刊、2010年7月13日初版発行) (気になる『ご本家』RADOはこちら〜) ★黒金RADO THE ORIGINALはこちら。 ☆黒銀RADO THE ORIGINALはこちら。 ⇒ (腕時計MENUに戻る) |
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