LONGINES   ロンジン

LONGINES HYDRO-CONQUEST "STAR NAVIGATION"
Ref.L3.675.4.96.6, Cal.A L633(ETA 2824/2)





2009年の新作で『時計オヤジ』の琴線に響いた1本がこのモデル。
ロンジンの”Star Navigation”はその青色文字盤が大変美しい。
300m防水の自動巻きで価格も手ごろ。
丸型ドットINDEXとバーINDEXの併用で、デザイン的に多少ゴチャゴチャするものの、
サブマリーナ、プラネット・オーシャンに続く『潜水御三家』として『時計オヤジ』垂涎の本年度の注目作である。
2009年11月。偶然、見つけた吉祥寺の時計店で即決の購入となる。(2010/01/10)




(”青サブの亡霊”から逃れらない『時計オヤジ』〜)


チュードルの40mm径・青サブ。
2004年、サウジアラビア在住中にジェッダ市内のROLEX正規ブティックで、タッチの差で新品を買い逃した苦々しい思い出が未だ脳裏を過ぎる。当時、新品ながら約6万円という破格。本来の価格だろうが、それにしても超安かった。同じETA2824/2ベースの自動巻きながらチュードルの青サブは、ROLEXには無い味を醸し出しており、今でも憧れがある。しかし、新品での購入は最早、不可能。中古品では中々良品も少なく、価格もプレミア付きで30万円前後の高値安定している状況では100%諦めの境地である。

そんなチュードル青サブを彷彿とさせるのがロンジンの2009年新作だ。
Hydro-Conquestシリーズはロンジンのダイバーズ・ウォッチとして看板商品の一つだが、2009年の『国際天文年』に因んで発表されたのがこのSta-Navigation。
※因みに、『国際天文年』とはガリレオ・ガリレイが望遠鏡による天体観測を行ってから400周年目を記念したもの。パネライなども北京で大々的な記念イベントを行うなど、時計メゾンにとっては節目の年として宣伝に利用し易い絶好のタイミングであった。

青色文字盤とやや濃紺がかったアルミニウム製ベゼルという組み合わせに、オリオン星座をモチーフとしたデザインが斬新。ダイバーズ・ウォッチに星座というのは、正直ミスマッチ感を抱くのであるが、その点はこの際、不問にしよう。
何といってもこの青色文字盤が最大の特徴であり、単純に美しいと感じる。時計としての全体的なデザイン面では冒険も斬新さも無い。保守本流の無難なデザインであるがゆえに、安心感はあれど違和感は全く無い。
※ところで、このオリオン星座をモチーフとした文字盤であるが、極めて初期の時代(⇒1600年代と推測)に観測された星座群がベースらしい。どの程度オリオン星座を正確に表しているのか、それとも多分にデフォルメした”雰囲気を表現したテイスト”であるのか、天文知識のある方のご意見をお聞きしたい点である。






(←左写真:星座の文字盤と並んで裏蓋の七宝焼きメダルが特徴〜)

短針の太い”イカ針”といい、300m防水性能といい、自動巻きETA2824ベースだが定価で10万円台というのも非常に良心的。ケース径も39mmと、略サブマリーナ同様の適度な大きさだ。Swatchグループの中堅どころ、庶民派ロンジンは流石にツボを抑えている。
ケース裏面には星と波がモチーフの七宝焼きメダルがさりげなく施されるなど、ロンジンのコダワリが凝縮されたモデルと言えまいか。

汎用ETAムーヴを使用したダイバーズ・ウォッチであれば、裏面スケルトンは不要。特に防水性能が300mもあれば尚更だろう。しかし、ROLEXのように味も素っ気も無い単なるフラット裏蓋にせず、こうした七宝メダルを配置する遊びと工夫は心憎い演出である。やや立体性を帯びた七宝メダルは、夏場における手首上での装着性の良さも少なからず担保してくれそうだ。








(←通常のHydro-Conquestモデルと比較すると〜)

写真からも分かるようにレギュラーモデルの方が視認性では優る。
丸型ドットINDEXとバーINDEXの併用は両者共通のアイコンであるが、レギュラーモデルの方が、12−6−9のアラビア数字INDEXも大きく、見易い。少々、ROLEXエクスプローラーTにも似ている。大型のEXT、という風情もある。
こうして両者を比較すると、Star-Navigationの文字盤が視認性よりデザイン優先であることが容易に伺えるだろう。
機能性よりもデザイン重視に割り切っているのがStar-Navigationである。
こうした思い切りがないと、インパクトにも欠けるし、それなりの成果も出せないだろう。
筆者はこうしたデザイン戦略には大賛成、である。













(ダイバーズのご本家”ROLEXサブマリーナ”との比較考察論〜)


具体的にサブマリーナとの相違点をあぶりだしてみる。

1.全体デザイン&視認性について:
上写真からも明らかなように視認性に関してはサブマリーナが断然、上を行く。
しかし、全体的なデザインは両者略互角。これはある意味で当然であり、ROLEXは全てのダイバーズ・ウォッチのお手本として君臨する所以である。3連式オイスターブレスやケースデザインなど、機能性を追及するとサブマリーナに辿り着く帰結となる。
ベゼル表示を15分間隔とするなどロンジンの『独自性』が多少なりとも表現されてはいるものの、ROLEXと大きな差異は無い。



2.全体的に”肉厚”な作りのロンジン:

ロンジンのベゼル側面のギザギザ・エッジは12時と6時方向には無い。
ROLEXのように全周囲に刻んでも良いのだが、これはデザイン面での選択だろう。
側面写真からも分かるが、ケースラグ部分の長さと厚みがロンジンの方が”大味”である。39mm径だが、こうした肉厚さ加減が昨今のデカ厚時計の特徴でもある。もう少々、スリムにしても良かったのではないか。
やはり、こうして見るとROLEXの仕上げの良さと熟成度合いが際立つ。
※ブレスの青いセンターラインは新品段階の保護シールによるもの。











3.ブレスの装着感は両者で全く異なる:

⇒右写真からも一目瞭然だろう。
ブレス駒の厚みと大きさではロンジンが一回り大きい。
これは実際に装着してみると大きな違いとして感じるのだが、ロンジンのブレスはケースの肉厚も加わり、まるで手錠をしているように重く感じる。手首へのフィット感ではROLEXはしなやかさ、ロンジンでは無骨さを感じてしまう。
この辺は好みの問題として分かれる点でもあるが、駒自体はSS無垢のような上質感はあるのだが、個々の駒が”大味”な作りであり、筆者はちょっと違和感を抱いてしまう。





ともあれ、このStar-Naigationは『時計オヤジ』にとって初のロンジンとして”当選確定”の評価にある。
勿論、そうでなければ購入しないのだが、上述の不満点はあるが及第点が付けられるダイバーズ・ウォッチである。
デザイン的には多少ゴチャゴチャしているものの、実用ダイバー時計としては、サブマリーナ、プラネット・オーシャンに続く3本目の『御三家』として『時計オヤジ』垂涎の2009年度の秀作である。

基本性能は以下:
モデル名:STAR NAVIGATION Ref: L3.675.4.96.6
ケース径: 39mm、ケース厚: 12.6mm、ケース素材: SS、防水性: 300m、ストラップ: SS
ムーブメント: 自動巻、Cal.A L633(ETA 2824/2)、毎時28,800振動、約38時間パワーリザーブ
仕様: ダイヤルにオリオン星座のモチーフプリント、ダイビング用延長ピースと二重安全金具付ブレス、裏蓋に星と波モチーフの七宝焼メダル、サファイアクリスタル、日本国内定価: 162,750円(税込) 発売時期: 2009年 9月




(ロンジンからの注目モデルについてのショート・インプレッション〜)

⇒右写真は”レジェンド・ミッションWWW”と愛機PATEKアクアノートを並べたもの。こちらも2009年新作だ。1945年当時の英空軍用パイロット・ウォッチの完全復刻版である。懐かしいコブラ針や軍隊納入用としての証であるブルードアローマークがシック。38.5mmのケース径に全体的に引き締まったアラビア数字を配置し、6時位置にはデイト表示まで持つ。極めて『時計オヤジ』の好みにあるWWWであるが、所有するSINNと全体的な雰囲気がカブル。共に軍用時計であるので当然なのだが、ストイックな雰囲気を兼ね備えたモデル。
更に言えば、ショパールLUC196ともカブル文字盤デザインである。










(⇒右写真:こちらは2007年に復刻デビューしたレジェンド・ダイバー〜)

こちらも42mm径の復刻モデル。2時位置の竜頭でインナーベゼルをセットする。300m防水にETA自動巻きベースであり、可也タフそうな印象を与える。
独特の短針デザインにやや黄色味がかった内側のINDEX表示やナイロンベルトがレトロな雰囲気で一杯。

こうした名作・復刻モデルを堂々とリリースしてくるロンジンの戦略には拍手喝采である。復刻モデルと命名する以上、余計なデザイン変更はすべきでない。ヘタに手を加えないで、リメイクすることに我慢が出来るか。メーカーとしての自信と度量が問われる尺度となるのが”復刻版”である。



(ロンジンの復刻モデル戦略について〜)

ロンジンは自らを”ETAブラザーズ”(注:参考文献参照)と称するように、SWATCHグループの丁度真ん中に位置する大衆モデル&メゾンである。量産機ETAムーヴメントを駆使したモデル展開は、1990年にハイエック傘下になって以来、上手く成功していると言えるだろう。
こうした過去の名作・名品を復刻モデルとしてリリースする戦略には筆者は従来より大賛成、である。
少なくも中身はETAと言えども立派な”最新鋭ムーヴメント”であるから、その信頼性はゆるぎないし、超レアで複雑なマニュファクチュール機械よりも遥かに実用的で安心感もある。

一方で、こうした話題になると必ず登場するのが『過去の名作のリメイクは脳がない』というもの。
この議論は哲学の違いなので噛み合わないのであるが、『時計オヤジ』は勿論、リメイク賛成派である。
リメイクといえども現代の工作技術で作り出す時計は過去の作品・製品とは異次元にあるからだ。仮にそうでなくとも、リメイクは良い。時代を超えて、アンティークな名品が現代に蘇るのは時計ファンとして単純に嬉しい。逆にリメイクによるデメリットは考えられない。投機筋でもない限り、リメイク登場で損をする理由は見当たらない。

技術革新は必要だが、現代における『新素材開発』は各メゾンの技術力の誇示でもあり、メゾンおよびグループ企業の囲い込みを意味する。差別化複雑難解な脱進機の開発などは、上市前のR&D段階でもっともっと熟成させるべきだ。むやみやたらに新製品と称して市場をかき回すことは再考願いたい。少なくとも”老舗”を名乗るメゾンであれば、懐の深い戦略で我々ユーザーを楽しませて欲しいものだ。

どの社会、産業界においても進歩と革新がなければ生存競争から脱落する。
しかし腕時計には単なる工業製品を超えた、文化財的遺産が潜むことも事実。純粋なる文化財や工芸伝統であれば、その技術や存在の維持継承が最大の課題であり、『守りが攻め』の姿勢となる。腕時計においても、守りのみでは成立しないのは分かるが、モデルによってはリメイクという表現によって過去の遺産の継承を行うことは寧ろ立派な価値があると言えよう。
復刻モデルのみならず、現代を含む過去の技術や伝統を駆使した腕時計・ムーヴメントの生産には大きな意義と重要性があると考える。

逆説的なアンチテーゼを込めて、少なくも『時計オヤジ』の2010年の目標は『挑戦的な現状維持』と宣言したい。(2010/01/10)


参考文献)日本版クロノス第26号31頁〜ロンジン社長インタビュー。


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