J.M.Weston ジェイ・エム・ウェストン

『2004年11月。トラッドとエスプリの融合、J.M.Weston購入記』
〜 #598 Split Toe Classic Derby Double Sole 〜
(”Demi-chasse Double- semelle”)



(中東のパリ、ベイルート〜)

かつては「中東のパリ」と呼ばれたレバノンの首都ベイルート。

15年の長きにわたる内戦も1989年に終了して早、15年が経過する。かつての深い傷跡も最近の都市再開発により急速に癒えつつある。海岸沿いでは大規模埋め立て工事も続く。1991年訪問時には瓦礫の街並みであった中心部も、今やレストランやブランドショップ等で復活を遂げつつある。本当に平和とは有難いものだ。


そんなベイルートBEIRUT/BEYROUTHへ2004年11月中旬、久々に立ち寄る。世界遺産のバールベックやら観光の目玉は色々あるが、最近、靴熱再燃の「ちょい枯れオヤジ」の目的は、約一年前にオープンした憧れのJ.M.Weston直営店訪問の一点に絞られる。「中東のパリ」で、フレンチ・トラッドの雄、J.M.Westonを訪問出来るのであれば相手に不足?は無かろう。ドバイにも2005年4月にはSAKS FIFTH AVENUE内に進出するらしいが(⇒計画よりも半年は遅れている模様)、中東の「直営店」としては当面、このベイルート店のみである(⇒右写真)。
やはり直営店でないとサイズ・モデル・在庫展開も不安に感じる。







(靴と万年筆は最大の難関〜)

時計同様、靴と万年筆も大好きオヤジであるが、時計と異なり靴と万年筆は万人が誰でも楽しめる、という訳には行かない。靴はサイズが自分の足型に合わないと、どんなに素晴らしいデザインの靴でも使い物にはならない。万年筆であれば、その人の筆圧と好みのペン先の太さ、インクの滑らかさと手にした時のバランスが合わないと、宝の持ち腐れとなる。靴であれば、置き場所、保管場所も決して無視できない深刻な問題ともなる。一番良いのはこうしたモノには興味を持たず深入りしないことである。しかし、ひとたび、その魅力の世界に入り込むと後は「悦楽と失望のラビリンス」に迷い込むこととなるのだ。

「靴好きオヤジ」としては毎度ながら、どんなに時間をかけようとも、中々自分にフィットする靴を見つけることは至難である。いくら欲しいデザインであろうとも、履いた後で深い満足感を持続できる靴は中々あるものではない。何も、自分の足型が特殊である訳ではないのだが、本当に靴選びは難しい。授業料も相当払った記憶がある。しかし、それでも「悦楽と失望」は未だに繰り返している気がする。だからこそ、こちらも毎回、真剣になる。靴選びは自分との戦いかもしれない。それが本当に楽しいのだよ。




(J.M.Westonの良さ、とは?)

時計と同様に靴に何を求めるのかで、その選択肢は大きく変わるはずである。
値段(予算)、革の材質・なめし程度、ブランド、デザイン、等等、好みの要因は種々あろう。しかし最終的に決め手となるのはサイズ=フィットするか堂か、である。最低限の条件、即ち、『念入りな靴の手入れと清潔さを保ち、そして流行にとらわれないデザインであり、自分の足を痛めない履き易い靴』であれば、それは素晴らしい靴であると言えよう。逆にその条件を満たさなければ、例えジョン・ロブJOHN LOBBであろうが、オーベルシーAUBERCYを履こうが破綻が生じるのは自明である。

J.M.Westonの良さは、ワイズ・バリエーションの豊富さにある。
デザインはその生い立ち上、アメリカン・トラッド路線をフレンチスタイルで洗練・昇華させたものであり、TRAD好みの「靴好きオヤジ」としては問題は何も無い。ダブルソールやらトリプルソールまで揃える意地も見せる。しかし、それ以上にモデル毎に5種類のワイズ展開を持たせる企業姿勢に共感する。こうした4mmピッチのサイズと5種類のワイズ展開は他ブランドではそうそうお目にはかかれまい。「既製品のビスポーク」とも言える所以だ。J.M.Westonの真骨頂はまさにここにある、と感じている。



(ベイルート直営店にて〜)

前置きが長くなったが、「靴好きオヤジ」の最大の関心モデルは、
#677 Hunt derby/Le chasse (ノルウィージャン製法、トリプルソール、ヒール&トゥ金具補強等、超頑固靴!)
#590 Classic wing tip/Bout golf fleuri(トリプルソール、ヒール&トゥ金具補強)
#598 Split toe double sole/Double semelle(ダブルソール、トゥ金具補強、写真右下)、
である。

一方、ラバーソールの代表モデルである、
#641 Golf oxford/Le golf
#696 Split toe on ridgeway/Semelle en gomme
はどうしても、カジュアル専用となるので今回はパス。もっとも、#677Hunt derbyもカジュアル専用であり、スーツ姿には似合わぬが。

しかし直営店であれ、ワイズ展開に十分な在庫確保が保障されているとは限らない。地元フランスであれば別であろうが、このベイルート店ではワイズはD、Eの2種類のみ。#677Huntは在庫無し。色とサイズも欠けているモデルもあったが、ここはおおらかになろうではないか。因みに今年7月に訪問したオープン直後の香港の直営店では#677Huntもあったが、価格はどうやら日本店並みであった(日本国内店はまだ訪問するチャンスが無いのであるが)。





さて、最終的に#598ダブルソールに絞る。
Golfのカジュアルさを少々洗練させたデザインで、黒色であればスーツにも似合う。しかし基本の黒色は残念ながら在庫無し。よってライト・ブラウンを選択する。J.M.Westonカラーでもあるライト・ブラウンだがこの際、サイズが合えば、色は二の次。
で、そのサイズ比較は以下となった。因みに最近のREGALであれば、既製品の26.0cmEEを選択する筆者である。

UK7/D (7/とは7.5の意味)=US8D 長さ◎、ワイズ△で全体にタイト。
UK8D=US8.5D 長さ△、ワイズ◎ (つま先が余り、長さで若干大き過ぎる) 
UK7/E=US8E 長さ◎、ワイズ◎でJUST-FIT。(これに決定)

もしワイズ展開がなければ、UK7/Dか、UK8Dの二者択一となり、キツメを選ぶか、ワイズ優先で大き目(長め)を選ぶかになってしまう。これでは、恐らく「悦楽と失望」の繰り返しになることは間違いない。しかし今回はUK7/Eのお蔭で、ピッタシカンカンである。お決まりの良靴らしく、足を入れた瞬間、靴の中の空気がプシュッと抜ける。靴内部のライニングもオールレザーであり、スムースな脱ぎ履きが出来る。甲部分の3本シームや、靴紐と言えども編み込み式のもので、見た目にも高級感が漂う。因みに片足の重量は576グラム。可也重い方だ。シューキーパーを入れると886グラムにもなる。経験上、片足500グラム前後の重さが振り子の原理で疲れも少ない。使用上での重さは微塵も感じない。

J.M.Westonは、キツメを選んで足に慣らすのがよろしいと良く言われるが、筆者の経験上、JUST-FITする靴は最初から何の痛みも抵抗もないのである(マッケイであれば尚更)。店員の助言もさることながら、最終的には自分の「眼力と感触」に頼るしかないところが靴選びの難しさでもある。冬山登山と同様に、無理と分れば頂上を前にして諦める勇気も必要である。靴も同様に、どんなにデザインが良くとも自分の足に合わなければ無理をしないことだ。この判断が実は非常に難しいのではあるが・・・。


さて、コーヒーを頂きながらかれこれ一時間、たっぷりと時間をかけて試し履きを重ねた結果、”UK7/E”を選択した。(左写真、テスト三昧する靴好きオヤジ)
今回は図々しくも#641ゴルフと、#696U-TIPラバーソール、そしてシングルモンクの#531Monk strap/Peausserie unieも試させて頂く。結論としては、モデル毎にラストも異なるので、同じサイズで全てOKとはならない。#531シングルモンクであれば、ベルト穴が一つの為、UK8Dでもモンクストラップが締まらなかった・・・。
#180ローファーに至っては、店員曰く、『必ずワンサイズ小さい物を薦めます』そうだ。本当だろうか?根拠は何だろう?筆者の場合、足や指を一時的でも痛める靴は『却下』である。最後の最後は、あくまで自分のFIT感と信念で選ぶしかなかろう。

今回は、スペアとしてレース編み式靴紐を黒・茶色と仕入れた。また専用のシューキーパーやら(下、写真)、Saphir社製のJ.M.Weston純正クリーム(ミンクオイル入り)も購入する。新旧のカタログも、どうぞ持って行って下さいと言わんばかりに数冊頂き、更にはシューズ袋までも2ペア無料で頂いた。こういうところが中東の店らしく、大味で好ましい。






(新世代デザインを導入し、チャレンジ精神を見せる老舗フレンチ・トラッド〜)

近年、J.M.Westonのデザイナーとしてミッシェル・ペリーMichel Perryが加わったことで、Trad+Esplitの味付けに更にメリハリがついてきたと感じる。

2001年末、スイスGeneveのrue de la Croix d'Or で通り過ぎたJ.M.Weston。2002年巴里でParabootと比較して躊躇したJ.M.Weston。そして、今年香港でHunt実物を履き、今回ようやくベイルートにて#598の購入に至る。思えば、ここまで慎重で長いような道程でも合ったが、この靴、これから先、軽く20年は持ちそうである。と言うことは間違いなく、「靴好きオヤジ」と残る生涯を共にする訳で、とことん付き合ってゆくつもりだ。

因みに#598靴本体の価格は本国同様、455Euro。
フランス本国で買った方がTax Refundを考えれば安いかもしれない。

最後に、J.M.Westonのカタログ(仏英文)にある靴のケアに関する説明を以下、要約する(「靴オヤジ」による和訳・抜粋):


(光沢技術について〜)

ぬるま湯で布を湿らせ、靴全体から古いクリームを拭き取る。綿布に栄養クリームを塗り、革全体に塗りこむ。シーム(縫い目)に注意しつつ、軽く円を描くようにして磨きこむ。約30分経過後、磨き上げが乾燥してから余分なクリームは柔らかいブラシで落とし、再度綿布や専用グローブで磨き上げる。ピカピカになるまで、上記を繰り返す。その際、必ず数滴の水を使うこと。完了後、24時間は履かずに保管する。ピカピカになるまでとにかく磨くこと。初回の磨きこみは約30分かかるが、次回からは短時間で済むことになる。
ヌバックやスェードには、クリープブラシを利用して泥や埃を落とす。爬虫類などの特殊革については爬虫類革専用の無色クリームと、年1〜2回は少量のビーズワックスの使用を勧める。J.M.Westonのケア製品は、自然素材のみから作られ、特にビーズワックスは革に栄養を与え、品質を保つ効果がある。



(修理サービスについて〜)

日常のメインテナンスと磨きに加えて、J.M.Westonでは靴のreweltingとreconditioningを行っている。直営店で受け取られた靴は仏本国のLimogesへ送られる。特注工房では様様なサービスを提供する。例えば、スチールトゥの交換、ハンドメイド製ヒールの交換、その他の完璧なる修理である。ウェルト製法のお陰でJ.M.Westonの靴は分解可能であり、古い部材を交換できる(主にソールの底革)。アッパー素材はオリジナルの状態が保たれる。
修理後の靴は新品同様に生き返るが、中敷は持ち主の足型そのままで保存されるので新品以上に履き易くなるはずである。単純なソール交換やこうした修理は3〜4回は可能である。但し、この種の修理は一部のゴム底使用モデルには適用不可。理由は、通気性が損なわれているので革素材が良い状態でなくなっている可能性ある為。



尚、J.M.Westonの製造過程に興味ある方は、現地取材レポートがある「Men's Ex特別編集 最高級靴読本 Vol.2」(世界文化社)を参照されたし。



(JMW関連ページ)
⇒『J.M.Weston購入記@ベイルート』はこちら
⇒『2005年11月。我が心の故郷、ジュネーヴ再訪』はこちら
⇒『2012年2月、ドバイモールで#607Oxfordを買う』はこちら
⇒『2012年3月、2足目・#598黒のSplit-Toe Classic Derbyを買う』はこちら
⇒『2013年1月、#641Golf Derby 購入記』はこちら

⇒ 靴のページに戻る

※掲載の写真・文章等の全てのコンテンツの無断転載・無断複写を禁じます。
※特に金銭絡みのオークション説明等への
リンク貼りは遠慮下さい。

TOPに戻る