SCOTCH GRAIN    スコッチグレイン

SCOTCH GRAIN GILLIE-INFINITY Ref.3788BL(26cm/3E)
Colour: Black, Round-shaped Toe




ギリーシューズは本来、『異端のドレスシューズ』である。
しかし、ストレートWing-Tipとの融合で極めて上品で『正統派の靴』に仕上がっているのがINFINITYだ。
国産、輸入品含めて非常に少ないギリーシューズであるが、
今回もスコッチグレイン銀座直営店で狙い撃ちの購入に至る。(2009/07/04)



(唯一無二の異端デザインがギリーの魅力〜)

まず街中でギリーシューズを履いている人を見たことがない。
筆者が知る限り現時点において、国産ではこのスコッチグレイン(3色)とREGALシェトランドフォックス(2色)の2モデルしか存在しない。いずれも本格靴であるが、そうでないとこのデザインの消化は容易ではなかろう。安価な靴に導入するデザインとは対極にあるのがギリーである。輸入靴でも非常に種類が少ない。代表的で良い出来栄えがスペイン製YANKOにあったが、今では既に廃盤となったのが惜しまれる。

ギリーとはアイルランドやスコットランドで生まれたゲール・ケルト文化における靴の種類で、ハトメ部分に最大の特徴がある。もともと狩猟用から舞踏用シューズに派生した靴らしいが、このデザインを一躍有名にしたのは歴代の英国王室の洒落者達であろう。今でもスコットランドの民族衣装に身をまとったバグパイプ奏者の足元はギリーで固められる場合が多いが、そうしたギリーには舌革(タン)が無く、靴紐が長く足首に巻かれているのが特徴である。


(⇒右写真: こちらがギリーシューズの『顔』となるアイレット部分〜)

ご覧のようにタンは通常靴同様に存在する。さもなければ、余りにデザインが浮いてしまい、普段履きには向かない。タンを付けることでかろうじてドレスシューズの範疇に留まる事が出来るのだ。

アイレット用のベロは4つ。これ以下ではカジュアル度合いが増し、これ以上ではギリーの味が薄れてしまう。靴紐は網掛け式以外は似合わない。革色は黒が正統だが、スコッチグレインでは薄茶とバーガンディも揃える。黒と茶系の2色揃えてギリー三昧するのも粋なものだ。

Wing-Tipのフルブローグと相まって、ギリーという個性的でアクの強い意匠も実際には左程目立たない。あくまでデザイン上のアクセントとして『秘めた愉悦に浸る自己満足用の靴』、というのが『靴オヤジ』の解釈である。






(3Eのワイズには統一基準が存在しない〜)

肝心の履き心地だが、結論から言えばすこぶる宜しい。
先に紹介したImperial 2 と同サイズながら同じ3E幅でもこちらの方がゆとりを感じるのが面白い。何故ならこのギリーInfinityの3Eの方が細身と言われているのだが全体的なゆったり感、適度なルース感を感じるのはこちらである。
靴のワイズにはDとかEとか特に日本では幅広甲高用の4Eまで存在するが、ワイズについての厳密なサイズ基準が存在する訳ではない。曰ばメーカーの『自主規制』に委ねられているのが実情だが、逆に言えばこの超難解な『3次元デザインの靴製品』には数値だけの規制を設けても無意味かも知れない。しかし、ユーザーにとっては基準がないことで常に自身の感覚に頼らざるを得ない。長さとワイズと靴全体のデザインバランスの調和がサイズ選びの鍵となる。

(⇒右写真: このアングルが他人から見た全体図となる〜)

トゥ部分のメダリオンとストレートキャップはオーソドックスそのものであり、デザイン上の冒険もチャレンジも無い。
しかし、ハトメ部分になると途端にゴチャゴチャした『崩れて見えるデザイン』に違和感と注目が集まるのではなかろうか。
『私、靴にはコダワッテマス』を暗黙に主張する記号ともなる。
まさに『洒落者』という言葉が似合うのがギリーシューズの真骨頂だろう。





(←左写真: ”エッグラウンド”と呼ばれる典型的なラウンド・トゥーだが極めてトラッドな仕上がり〜)


革は国産カーフだが、色艶柔らかさには『上質さ』を十分感じる。
この靴は仮にギリーでなくとも、内羽根式のWing-Tipとして十分に存在感のあるモデルと成り得る。逆に言えば、『オーソドックスでトラッドな内羽根式Wing-Tipにギリーで意匠チェンジを施した靴』、である。

ところでギリーシューズは外羽根式か内羽根式のどちらに属するのだろう。筆者の回答は後者の内羽根式である。理由はギリー部分以外が全て内羽根式のデザインと構造になっているからだ。但し、靴紐だけはクロス掛けが似合う。この点だけが外羽根式にも似通った点と言える。

それにしても、全体バランスはスコッチグレインの個性と意匠そのもの。
いい顔しているなぁ〜





(内側のパンチングレザーに良心設計を見る〜)

昨今、内側の甲周りに革ではなく繊維素材を利用する靴も多い。チャーチも最近では革を使用しないモデルが多いが、スコッチグレインは革(恐らくピッグスキンか馬革製)にコダワリを見せる。特に、パンチング処理までして革を使うところが職人工房的なコダワリを感じる。パンチングのメリットは、革の伸びを抑えること、そして通気性の2点だろう。
こうした細部パーツからそのメーカーの姿勢や丁寧度合いをも垣間見ることが出来るのだ。時計で言えば『地板にペルラージュが細かくスタンピング加工された仕上げ』、とでも例えよう。

我が生涯で5足目のスコッチグレインであるが、内、4足がこのギリーやスェード靴含めてWing-Tip系である。この20年でスコッチグレインのラスト(木型)にも全体傾向としては『細身』に移行していると感じている。
時代やデザインの流れではあるが、そんな中にもスコッチグレインらしいラストの特徴を十分感じることが出来るのはメーカーとしてDNAを大切にしている表れだろう。

今回のギリーシューズは、普段履き出来る個性派Wing-Tipとして活用の頻度が高まる期待を抱かせる良靴である。(2009/07/04)


(スコッチ・グレイン関連Web)
スコッチ・グレインのImperial-2はこちら
スコッチ・グレインのInfinity(ギリー、黒カーフ)はこちら

スコッチ・グレインのInfinity(ギリー、濃茶カーフ)はこちら
スコッチ・グレインの『15年モノ黒スエード
製Wing-Tip』はこちら
スコッチ・グレインのPrestige(ダブル・ストレート、黒カーフ)はこちら


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